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路地裏の亡霊たち  作者: Nova
第1章:Set Fire to the City

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学校は今

 エミリアは紅茶を一口飲んだ。アインはいてもいいと言ってくれたが、外堀を埋めてしまったような気がして少しだけ申し訳なかった。エミリアにしたら、エレにしろリンドウにしろ、自分のために居場所を作ってくれるのは嬉しい気持ちもあるのだが、アインにしたら唐突な話ではないのだろうか、とエミリアは思案した。

「……あの、私も家の中のことは手伝いますから……。」エミリアはアインに対して、おずおずと提案した。

「……気にしないでください。大したことではありません。」アインは顔を少し伏せたままで返答した。

「そうかもしれませんが、エレさんたちだってまだ未成年ですし。私、お料理もお洗濯も一通りのことはできますから!」エミリアはアインがいない間のことを考え、彼を安心させようと思って再びファイティングポーズをとる。


「……。」アインは返答に困っているのか、腕組みをして顎に手を当てたまま黙り込んでしまった。

「……甘えときなさいよあんた。ほとんど家に居ないんだし。そのぐらい甘えたところで、悪いことなんか起きやしないわ。」ジーナは気だるげにため息をついて、アインに向かってひらひらと手を振った。

「……はい、分かりました。よろしくお願いします。」アインは僅かに頷いた。

「よろしくお願いします!」エミリアはほっとして大きくニコリと笑ったが、アインはまた何かを思案するように俯いてしまった。

「……あ、あの、そういえば!なんですが。」ジーナもアインも話さなくなってしまったため、エミリアは思い切って口を開いた。

「ん?」エミリアの声に、ジーナが反応し、アインもまた顔を向ける。


「エレちゃんたちって、学校はどうしてるんでしょうか。」エミリアは、心の奥に引っかかっていた教育の事情をそれとなく振ってみる。

 昨日の昼、エレやディウたちにも普段の話を聞いてみたのだが、それとなく流されてしまってあまり聞くことができなかったからだ。エミリアとしては、アインを通して何か確証の得られることが聞き出せないかと期待していた。

 しかし、エミリアの質問を耳にした瞬間、ジーナは険しい顔をしたまま口に手を当てて押し黙り、アインもまたほぼ同じような姿勢で固まってしまった。自分が何かしたのではないかと不安になっているエミリアをよそに、アインが重たそうに口を開いた。

「……すみません。そこまで、気が回りませんでした。……俺もろくに行ったことがなくて。」アインが聞き取れるか聞き取れないかぐらいのかすれた声で返答する。


「……え?」エミリアは思わず聞き返していた。

「この街の学校がどうなっているのかを、俺は今まで気にしたことがなかったんです……。」アインが軽く手を握りしめながらつぶやいた。

「……。」エミリアは、これまで知っていた常識とはあまりにかけ離れた返答に、思わず言葉を失ってしまい、どう返していいのかわからなくなった。

 エレたちは未成年ではあるが10代後半ぐらいに見える。通常であればハイスクールぐらいの年齢のはずだ、とエミリアは考えていた。しかし彼らの口から学校や勉学を想起させるような言葉が出てこないので、エミリアは薄々嫌な予感を抱いていた。


「……学校、行ったことないんですか?」それは決して誰かを責めるために発された言葉ではなかったが、エミリアの一言に対し、アインの口が固く引き締められたことに、エミリアは気づいた。

「……すみません。あの、そういうつもりではなかったんです……。」エミリアは小さく謝った。

「分かっています。気にしないでください。……すみません。」アインもまた、いつものような淡々とした口調ではなく、どこかたどたどしいような口ぶりでエミリアに謝る。

 二人の間に、どこか重苦しい沈黙が流れている。エミリアの意図したことではなかったものの、どうしようかと悩んでいると、ジーナの声が割って入った。


「……制度については私も聞いたことがないわ……。でも建物についてなら?何か情報が残ってないかしら。」ジーナはタブレット型端末を叩いて、何かを調べ始めた。

「ちっ、ダメね。アクセスできないわ。……ちょっとアイン、あんたの権限でやってみてくれない?」ジーナがアインに端末を手渡す。

 アインは端末を受け取ると、無言で作業を始めた。ジーナは頬杖をつきながら、そっぽを向いて黙り込んでいる。

「……ありました。えっと……しかし、これは……。」アインは何かを言い淀んでいるようだ。

「何かあった?」ジーナが続きを促すと、アインは何度か口を開いたり閉じたりしたのち、言葉を続けた。

「……閉鎖、されています。……もう10年ほど前から……。」アインは再び口を固く引き結んだ。

「それは、どういう……。」エミリアは今聞いた言葉をどう受け止めて良いか分からなかった。

 学校が、閉鎖している。通常の都市部であれば、一つの学校が廃校になったとしても、他の学校が生きているので大した問題にはならないだろう。しかし地方での統廃合ではなく、ある程度人口のある都市部で起きるだろうか、とエミリアは怪訝そうな顔をした。

「統廃合では、ないのですよね?この街に、他の学校などは?」

「ありません。学校は、今閉鎖されているものが一つだけ。他の施設はありません。」エミリアの問いに対して、アインが事実を繰り返す。

「……なるほど。困りましたね。」エミリアは、自分の配属先がもはや存在しないことに対して狼狽えていた。


 しかし同時に、こうなってしまった以上次の手を考えなければ、という思考も存在している。まだ教師としての本分を成せていないのだからという思いが、エミリアの中ではどんな事実よりも大きく見えた。

「その場所は、どこですか?」エミリアは現状を苦しいものだと理解しつつも、このままでは終われないとも思っている。

「……オールドサウスです。……行くんですか?」アインがやや躊躇うように、端末を差し出した。

 エミリアが端末に表示されている位置情報を覗き込むと、確かにそこには「オールドサウス」というエリア名が記載されている。そのエリアの場所を見て、エミリアは驚いた。

「……あ、ここ!ずっとグレーアウトになっていて閲覧できなかったところですよ?」大きな声を出して、エミリアは端末を指差した。


「グレーアウト?……それ、なんのことよ?」いまいちピンと来ていないジーナに対して、エミリアは自分の端末でエリアマップを表示してみせた。

「ここですよ、ここ!ここが、ずっとグレー表示になっていて、閲覧できなくなってるんです。」

「あら、ほんと。……でもこれ、私の管轄じゃないからなんでなのかは分からないわね……。まぁそのあたり、ITセクション絡みだと思うけど。」ジーナは冷静な様子で告げた。

「そうなんですか?」エミリアは不思議そうにジーナを伺う。

「ええ、そうね。おそらくだけど、エリア情報の更新に関しては一定以上の権限がいるはずなのよ……。もし仮にITセクションの管轄だったとしても、一般の局員が触っているとは思えないし。……ほら組織って、ある程度のグレーゾーンは、どこにでもあるものでしょう?」ジーナは気だるげにそう言った。


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