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ドラゴの子  作者: わる
第一幕 - 第十環:『樹液の子ら』
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第77話「環の遷移」第二部

 巨木の太い枝の間、葉と樹皮の複雑な絡まりの中に、虚ろな仮面たちが潜んでいた。木に目はなかったが、その意志は明らかだった。彼らは見ていた。その静寂な監視の中に、一行は別れの気配を感じ取った。樹液の子らからの、声なき幸運の祈りを。


 先遣隊が使用したのと同じ出口に、数十体の彼らが立っていた。小枝のように細い腕、節くれだった長い指、森そのものを身に纏った体。彼らはゆっくりと手を振り、生ける彫像として旅立ちを見送った。


 ミッカとダイアンヤは振り返り、手を挙げて応えた。手首に巻かれた大樹からの贈り物――樹皮の籠手と蔓の腕輪――が、作り手たちの別れを認識するかのように微かに震えた。協定は結ばれ、新たな同盟の重みを肩に、カイウナの子供たちは旅を再開した。


 道は空中に浮かぶ回廊。数日前に先遣隊が通ったのと同じルートだ。彼らは樹海の大天蓋キャノピー、生命が残酷なスケールで展開される別世界を横断していた。


 頭上では、苔むした毛皮を持つ豹が、樹皮に完璧にカモフラージュして音もなく跳躍した。


 ガブッ!


 陽の光を擬態しようとしたクローム色の鱗を持つトカゲが、一瞬で仕留められる。さらに先では、疾風のような影が空を切り裂いた。四枚の皮膜の翼を持つ猛禽類が、目がくらむような急降下を見せる。


 バサッ!


 その鉤爪が六本腕の猿を鷲掴みにした。猿は一度だけ悲鳴を上げた。


 ギャアア――ッ!


 その声は空の彼方へ消え、唐突に途切れた。


 一日中、彼らは歩き続けた。太陽が天頂を越え、木々の上に伸びる影で時を刻む。


 エネルギーを持て余したミッコは、行軍をアクロバットの練習に変えていた。隙あらば巨木の枝の縁まで駆け寄り、危険な体勢でぶら下がっては奈落を覗き込む。


「うおっ!」


 遥か下では、死の沼が大樹の根元を腐敗の輪のように取り囲み、その向こうには樹海の無限の梢が広がっていた。


 一方、レグルスは敗北そのものの姿だった。


 マグマのドラゴの子は足を引きずり、背を丸め、一歩進むごとに凄まじい労力を要していた。


 ズルッ……ズルッ……


「顔を上げなさいよ、レグルス!」


 ダイアンヤが叱咤した。


 ポカッ!


 従兄弟の頭頂部に軽く、しかし容赦のない拳骨が落ちる。


「出発前に筋肉痛になるまでトレーニングするなって、あたし言ったわよね!?」


 ミッカはため息をつき、呆れながらも理解を示すような笑みを浮かべた。テセウキはただ笑って友人の背中を叩き、ペースを保つのを助けた。


 しかし、その疲労も、景色が変わった瞬間に蒸発した。


 天蓋の終わりは、解放のように訪れた。巨大な葉が後退し、数日間彼らを覆っていた緑の天井がついに開けた。


 フワァン……


 湿気を帯びた樹液の匂いは消え、空気は薄く、乾燥したものに変わった。巨大な枝は下に向かって傾斜し、樹上の世界と外の土地を繋ぐ天然の坂道となっていた。


 そして外には、植生を剥ぎ取られた第九環がその姿を現した。


 砂の山々と灰色の岩の峰が地平線を切り裂き、青空の下に荒涼とした残酷な風景が広がっていた。


「第九環……」


 ミッコが従兄弟たちの隣で足を止め、囁いた。初めてその光景を目にする三人の瞳に、畏敬の念が宿る。


「すごい……」


 風に髪をなびかせながら、ダイアンヤが呟く。


 この景色を知るベテラン、テセウキとミッカは止まらなかった。


「行くぞ。日が暮れる前に降りないと」


 テセウキがミッコの肩を叩き、トランス状態から引き戻す。


「境界の木に作られた前哨基地があるわ。そこで夜を明かせるはずよ」


 ミッカが補足し、足を速めた。


 一行は巨大な枝を下り始めた。それは大樹の頂と、眼下の木々――『母』に比べれば豆粒だが、それでも巨大な木々――の頂を繋ぐ橋だった。


「おい、ダイアンヤ」


 息を整えながら、レグルスが呼んだ。従姉はペースを落とさずに振り返る。


「お前、変なこと言ってただろ。前に俺がここまで登った時……第九環の山は白かった。今は黄色い岩の砂漠に見えるぞ」


「ああ、レグルス兄貴もそう言ってたな」


 ミッコが同意する。


「言ってた?」


 テセウキとミッカが声を揃え、顔に好奇心を浮かべた。


「それは、第九環が複数のバイオーム(生物群系)を持っているからよ」


 ダイアンヤは何でもないことのように答えた。その口調は、退屈なレポートを読み上げる学者のようだった。


「はあぁ?」


 困惑の唸り声が合唱する。


「そうよ」彼女は空想上の眼鏡をクイクイと直す仕草をした。「第十環、つまりこの樹海だけが唯一のバイオームで、かつ『固定的』なの」


「待てよ……」テセウキが眉をひそめる。「『固定的』ってどういう意味だ?」


 ダイアンヤは一瞬立ち止まり、グループの方を向いた。内なる教師の人格が主導権を握る。


「どうしてここが『環』と呼ばれているか、不思議に思わなかった?それは文字通りだからよ。回転するリングのように機能しているの。全部で十あるわ。第十環は固定されていて、島の周りを動かない。でも、他の環は……」


 彼女は手で円を描くジェスチャーをした。


「回っているのよ」


 レグルスは顎に手を当て、情報を処理した。


「つまり、他が動いてるなら……俺が見たあの白い山は、ただ……別の場所に回っていったってことか?」


「その通り」彼女は頷いた。「実を言うと、運が良かったわ。あの場所は『水晶のツンドラ』って呼ばれてるの。氷の砂漠と刃のような風……あたしは絶対に通りたくないわね」


 ミッカは前方の乾燥した山々、乾いた木々と鋭い岩が支配する風景を見つめた。


「今のバイオームの方が、乾燥してるけどずっと歓迎できそうね」


「そうなのよ、ミッカちゃん!あたしたちが見ているのは『岩の荒野』。山岳地帯で暑い場所よ。カイウナのビーチの気候に慣れてるあたしたちには、雪よりずっと適応しやすいはずだわ」


 彼女の声には心からの安堵が滲んでいた。


「それらが動くなら……」ミッコが低い声で計算するように呟いた。「敵対的な領域に入るより、キャンプしてバイオームが変わるのを待つ方が、戦略的にマシな場合もあるってことか」


「同感だ。有効な戦術だな」


 テセウキは少年の回転の速さに感心して頷いた。


「でも、他のバイオームが何か分かってるの?というか、全ての環にそういう変化があるの、アーニャちゃん?」ミッカが尋ねた。


「あたし、古い地図を第七環までしか勉強してないから、それ以降は出たとこ勝負ね……」ダイアンヤは少し肩を落として認めた。「でも、第八環には二つのバイオームがあるわ。第七環には四つ。そしてこれから入る第九環には、三つあるのよ、ミッカちゃん」


「で、三つ目は何なんだ?」レグルスが尋ねた。


「えっと……もしかして、その三つ目を待った方が良かったりして?」テセウキが期待を込めて提案した。


「あたしは遠慮したいわ……」


 魔導師の少女は視線を逸らし、嫌悪感も露わに顔をしかめた。


「三つ目は『大釜』よ。火山地帯で、溶岩の川が流れてて、とにかくとっても、とっっっても熱いの!死んでも行きたくないわ!」


 大釜……


 その単語はミッカの脳内で反響し、危険とは全く無縁の感覚を呼び覚ました。


 魔導師が地上の地獄を描写している間に、雷のドラゴの子は全く別のものを見ていた。溶けた岩のイメージは、巨大な鍋へと置き換わる。大地の天然の熱で煮込まれ、エキゾチックなモンスターの巨大な肉塊がホロホロになるまで煮込まれた、グツグツと沸き立つシチュー。


 ジュルリ……


 彼女は口の端から垂れそうになった涎をさりげなく拭った。


(食べ物の名前の場所……)


 ミッカは自分自身に呟いた。その瞳は唐突な空腹と、疑わしい論理で輝いていた。


(そこに行くべきかも!『大釜』って言うくらいだし、美味しいものが煮込まれてるに違いないわ!)


「溶岩だぞ、ミッカ。溶けた石だ」


 テセウキは首を振り、ため息をついた。だがすぐに、隣の友人を見て意地悪な笑みを浮かべる。


「でも、レグルスの自然生息地ホームを見るのもいいかもな。コイツなら具材になるかもしれないし」


「あぁ!?黙れ、バカキ!」


 ドラゴの子が叫んだ。恥ずかしさか、あるいは沸騰する怒りか、その顔は真っ赤だった。


「バカ――何だと?お前いつからそんな――?」


 テセウキは憤慨して言葉を詰まらせ、金髪の少女の方へ勢いよく顔を向けた。


「ミッカ!!」


 雷のドラゴの子は、調子外れなメロディーを口笛で吹いていただけだった。


 ヒュウ……ヒュウ……♪


 彼女は存在しない雲をじっと見つめ、バーベキューのことを考えながら、完全な無実を装っていた。


 ドッ!


 グループは爆笑に包まれた。笑い声が木々の間の奈落に響き渡る。地獄を生き延びた後の、ほんの僅かな軽やかな瞬間。そしてこれは、真の旅の始まりに過ぎなかった。


◇ ◇ ◇


 天蓋の下層への降下は、風景に劇的な変化をもたらした。葉に濾過されていた陽の光は完全に消え、異質な輝きが点在する暗闇に取って代わられた。


 枝が幹から整然と伸びる大樹とは異なり、ここの自然建築は混沌としていた。巨木の枝が三次元の巣のように絡み合い、湿った太い木材が空中の迷宮を形成している。


 巨大な菌類や奇妙な形のキノコが樹皮にしがみつき、青、紫、ライムグリーンの幽霊のような生物発光バイオルミネッセンスを脈打たせていた。


「何も見えねぇ……」


 ミッコが太い枝の縁に身を乗り出して呟いた。彼の目は奈落を貫こうと、沼地や生ける塔の根を探していた。だが、暗黒だけが彼を見返していた。


「ここには光が届かないの」


 湿った静寂の中、ダイアンヤの声が僅かに反響した。彼女は冷たい藍色の光を放つキノコの表面に触れた。


「この層では、闇のエレメンタルが繁栄しているわ。彼らのマナの性質そのものが光を貪るの。松明を持ってきても、全てが絶対的な闇になるわ」


「エレメンタルの話はやめてくれ……」


 テセウキが肩をすくめた。


 ゾクッ!


 目に見えるほどの悪寒が彼の背筋を走る。最近の戦闘の記憶は、まだ彼の肌に生々しく残っていた。


「そうだな」レグルスが同情の眼差しで友人を見た。「お前ら、モロに遭遇したんだっけ?」


「頼むから。言わないでくれ」


 テセウキは一語一語を区切って繰り返した。まるでその言葉を口にすれば、怪物を呼び戻してしまうかのように。


「話題を変えた方が良さそうね……」


 緊張を感じ取ったダイアンヤが割って入った。疲れた笑みを浮かべ、彼女はもう一人の少女の方を向いた。


「基地まであとどのくらい、ミッカちゃん?あ……」


 言葉が喉に詰まった。


 ミッカの眼差しは、あの職人と同じくらい重く、陰鬱だった。戦いの記憶、彼女の上に浮かび、代償を求めたあの環のエレメンタルの姿が、二人の生存者をまだ呪縛していた。


「もう少し……」


 ミッカが答えた。


 その声は弱々しく、その場所の永遠の闇に消え入りそうだった。



 樹液の子らの前哨基地での夜は、短く、そして張り詰めていた。木の内部に刻まれた基地という比較的安全な場所でさえ、若者たちは交代で見張りを続け、神経を尖らせていた。


 ミシッ……ミシッ……


 木の軋む音が、まるで敵の足音のように響く。


 夜明けが訪れると、彼らは既に起きていた。一行は可能な限り早く出発した。天蓋の暗闇を背にするために。


 ザザッ……ザザッ……


 先遣隊が記したルートを辿ると、すぐに次の天然の橋が見つかった。道は上り坂になっており、窒息しそうな絡まりから彼らを外へと導く木製のスロープだった。


 ピカァァァ――ッ!


 陽の光が再び彼らの顔を照らし、それと共に、希望が再燃した。


 彼らの目の前には、堂々と、そして孤独に、もう一本の大樹がそびえ立っていた。かつてミッカとテセウキが大狩人と対峙した場所であり、第十環の境界を示す天然の要塞だ。


 そしてその向こうには、新天地の約束があった。


 地平線を捉えた少年たちの顔に、興奮した笑みが戻る。岩の荒野の砂の峰や奇岩群はすぐそこ、あと少しで手が届きそうな場所にあった。その乾いた風景は、森の永遠の湿気に比べれば、魅力的な招待状のように見えた。


 ミッコはいつもの癖で、縁まで走った。


 タタタッ!


 彼は眼下を覗き込み、嫌な予感を裏付けた。あの大樹もまた、その根元に死の輪を持っていたのだ。城の堀のように巨木の幹を取り囲む、黒く淀んだ沼の水。


「第九環まで直行できるような橋はなさそうだね……」


 ミッコが言った。その声色は、すでに悪い知らせを予感していた。


 ダイアンヤは空想上の眼鏡をクイクイと直し、ガイドとしての姿勢をとった。


「木の老婆オババの指示によると、この大樹を一番下まで降りなきゃいけないの。で、下に着いたら沼の帯を渡って、そこから数時間歩いて環の境界へ向かうわ」


「どうやって降りるんだ?」


 レグルスが尋ねた。目がくらむような高さを覗き込み、彼の声は僅かに震えていた。


 ヒュオォォ……


 風が奈落で口笛を吹く。


「俺が別の大樹を降りた時は、中に彫られたデカい階段があったけどな」


 テセウキが努めて楽観的に答えた。


「そう、あの大樹にはね……」ミッカは腕を組み、首を振った。「これにはないでしょ、テセウキ君?」


「たまにはポジティブにいこうぜ?」彼は抗議し、両手を上げて降参のポーズをとった。


「何かあったら、レグルスが降ろしてくれるわよ」


 ダイアンヤが何気なく提案した。まるで公園の散歩でも提案するかのように肩をすくめる。


 ピキリ。


 ドラゴの子は凍りついた。


 彼は目の前の大樹を見た。そして、眼下の奈落を見た。彼の脳が猛烈な勢いで計算を始める。常軌を逸した高さ、プラットフォームやエレベーターを作るのに必要なマグマの量、五人の人間を支えて数百……いや、数千メートルを降りるための肉体への負荷。


(無理だ……死ぬ……)


 彼は青ざめた。


 サァァァ……


 顔から血の気が引いていく。


「ぜっっったいに嫌だぞ!!」


 彼は叫び、縁から一歩後ずさった。


「お前、あんなにトレーニングしてただろ?」テセウキが一歩前に出て、親指を立て、からかうようにウインクした。「努力の結晶を見せてくれよ、レグルス!」


「そのための努力じゃねぇよ!!」


 レグルスの絶叫が響き渡った。


 バサッ!バサッ!


 近くの枝で休んでいたトカゲたちが、その声に驚いて逃げ出した。


 ワハハハハ!


 若者たちは爆笑した。笑い合い、軽口を叩きながら、一行は行軍を再開した。世界の頂を繋ぐ空への架け橋、巨大なスロープを登る彼らの足音が、木々にこだました。


 目の前では、近づくにつれてより巨大に、より威圧的に、次の大樹が待ち構えていた。それは境界の静かなる守護者であり、新たな試練を――そしてレグルスにとっては不運なことに、とてつもなく長い下り坂を――約束していた。

おはようございます、こんにちは、こんばんは、わるです!


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


もし物語を楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価をいただけますと幸いです。皆様の応援が執筆の大きな励みになります。


またねー!! ヾ( ̄▽ ̄) Bye~Bye~

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