第76話「母の肉」
古樹の巨大な胎内、その日々は重く、湿り気を帯びてゆっくりと過ぎ去っていった。
ダイアンヤとミッコは片時も離れず、レグルスの看病を続けていた。マグマの『ドラゴの子』は意識を取り戻してはいたが、その肉体が支払った代償は大きかった。沼地で彼らを襲った怪物との死闘、そこで行使したドラゴの魔力は、あまりにも残酷なトリビュートを要求していたのだ。戦いの最中、レグルスは自身の生命力の備蓄を、安全限界を遥かに超えて使い果たしてしまっていた。
だが、肉体の衰弱ごときでは、彼の胸に燃える決意を消し去ることはできない。
(止まるわけにはいかない……!)
手足に鉛のような痛みと倦怠感がのしかかるのを無視し、彼は毎日の鍛錬を強行し、無理やりにでも回復を促そうとしていた。その過程で、彼はこの地の住人たちの奇妙な治療にも黙って耐えた。『樹液の子』たちの長く細い指が、粘着質で奇妙な液体や天然の軟膏を彼の肌に塗りたくる。それは森そのものから抽出された、沈黙の医療だった。
ヌチャ……ヌチャ……
レグルスが目覚めてから四日目。ついに待ち人は来た。
ザワザワ……
古樹の枝そのものを編んで作られた荘厳なアーチが、主の意志に従う葉擦れの音と共にそびえ立つ村の入り口。その生きた門の下に、三人はついに友の姿を認めた。
先に足を踏み入れたのは森の戦士たちだった。彼らは祝うことも騒ぐこともなく、淡々と行進してくる。『樹液の子』たちにとって、この帰還は単なる任務の遂行、論理的な帰結に過ぎないのだ。
だが、そのすぐ後ろに続く人間の姿は、彼らの冷徹さとは対照的だった。
金色のショートヘアの少女が、若い職人の肩に全体重を預け、足を引きずるようにして歩いてくる。テセウキの額に巻かれたバンダナは泥と汗で汚れきっていた。
村の境界を越えた瞬間、二人は深い疲労の色を滲ませながらも、力のない笑みを浮かべた。
「戻ったぜ……」
掠れた声が、二人の喉から同時に漏れた。
反応は劇的だった。長い白髪をポニーテールに束ねた魔導士と、黒髪の小柄な狩人は、衝動を抑えきれなかった。
「うわあああーん!!」
「姉ちゃん!テセウキ!」
ドタドタドタッ!
安堵の泣き声と叫びが、地面代わりの巨大な枝に響き渡る。ダイアンヤとミッコは駆け寄り、感情のままに二人を抱きしめた。顔を触り、肩を確かめ、彼らが現実にそこにいるという確かな感触を求めて。
少し後方、村のアーチの近くで、『ドラゴの子』はその光景を見守っていた。戻りつつある自身の力で体を支え、レグルスは穏やかな笑みを浮かべた。
だが、真の衝撃は古樹の樹皮の下で待っていた。
内部の空気は劇的に変化していた。マナの奔流が空気を飽和させ、濃密に振動し、超常現象にはうってつけの環境を作り出していた。そのエネルギー濃度は不可能を可能にした。『天騎士団』の魂の欠片は、ついに妹のオーラという避難所を離れ、ミッカのスペクトル外で独自の形――視覚的かつ物理的な実体――を紡ぐことを許されたのだ。
ボワァン……
ダイアンヤ、ミッコ、レグルスの三人は凍りついた。
ピタリ。
信じられないという思いが、物理的な衝撃となって彼らを打つ。目は限界まで見開かれ、その出現物に釘付けになり、肺から空気が逃げていく。中断された動作のまま腕は宙を泳ぎ、目の前の光景を処理しきれずに硬直した。
彼らの前に立っていたのは、ミッカが成長し、より栄光に満ちた姿になったかのような女性だった。長い金髪が『天騎士団』の聖なる鎧の上に流れ落ち、その顔には自然と畏敬の念を抱かせるような王者の気品が漂っている。
だが、その伝説的な人物は今、目に見えて居心地悪そうに身を縮こまらせていた。英雄的な威厳など微塵もない。
「お前らも、そのうち慣れるさ……」
テセウキが乾いた声で言った。そこには何の驚きもなかった。
ミッカの体重を肩で支えたまま、職人は石化した三人の友人の横を通り過ぎ、彼らを『天騎士団』の顕現と二人きり(正確には四人だが)に残した。
「こ、こんにちは……」
アルマが呟いた。手を挙げて挨拶しようとしたが、その動作は途中で力尽きた。圧倒的な恥じらいが彼女を飲み込んだのだ。
三人は瞬きすらしなかった。ただ凝視し、固まっている。
ジィィィィィ……
アルマは視線を逸らした。その霊体状の顔が、激しく赤らんでいく。
「あ、あの……そんなに見ないでくれませんか?その……とても恥ずかしいので……」
◇
休息がようやく訪れ、旅の緊張を溶かしていった。
ミッカとテセウキには集中的な治療が施された。『樹液の子』たちの薬草治療と、ダイアンヤの回復魔法が組み合わされる。丸二日間、彼らの世界は静寂と治癒だけに集約された。
原住民たちの対応は、彼ら自身の戦士たちへの冷淡さを反映していた。祝いも、宴も、歌もない。人間たちは屋根と食料、そして薬を与えられたが、そこに栄光は存在しなかった。ミッカとテセウキにとって、その飾り気のなさはむしろ心地よかった。彼らはこの任務の本質を理解していた。これは仕事であり、切実な必要性であり、英雄的な空想とは無縁のものだ。
実体化が可能になった今、アルマは自分が導き手としての威厳ある態度で、若者たちを導くことになるだろうと想像していた。
だが現実は、大きく異なっていた。
「ミッカちゃんに瓜二つじゃない!」
キラキラ!
ダイアンヤが興奮して叫び、霊体の周りを衛星のようにグルグルと回りながら、その細部を観察する。
「ねぇねぇ、アルマ姉ちゃん!ラムザ兄ちゃんが話してたあの話、本当なの?」
ミッコは生ける伝説を前にした子供のようだった。古代の物語や『天騎士団』の輝かしい武勲について、質問の雨を降らせる。
一方、レグルスは伝説など無視して、技術に焦点を絞っていた。
「アルマさん、あんたにずっと聞きたかった。『雷鳴』の領域についてだ……。俺のマグマの制御を高めるために、その力の流れを理解する必要があるんだ」
アルマは好奇心のハリケーンの中心に囚われてしまった。肉体を持たず、筋肉疲労とは無縁のはずの彼女だったが、精神が削られていくのを感じていた。この種の注目は、彼女にとってあまりに過酷だった。
寝台に横たわりながら、ミッカはその光景を眺めていた。右腕は植物性の包帯で巻かれている。最初から彼らの世話をしてくれていた『樹液の子』が、彼女の肌に再び輝く軟膏を塗る間、少女は心底安らいだ様子で、くぐもった笑い声を漏らした。
その隣で、すべての騒ぎに無関心なテセウキは、葉のマットレスの上で泥のように眠り、ようやく絶対的な休息に身を委ねていた。
スゥ……スゥ……
◇ ◇ ◇
『樹液の子』たちの好奇の目から離れた、古樹の巨大な天蓋の上の隔離された場所。そこでは空気が振動していた。
ユラユラ……
少年の体から目に見えるほどの熱波が発散され、周囲の風景を歪ませている。木材なら炭化しかねないほどの高温を、彼の鋼のような意志だけが押し留めていた。
「ハァ……ハァ……ッ」
レグルスが喘ぐ。胸が不規則に上下し、必死に酸素を求めている。薄い麻のシャツは汗で肌に張り付き、暗色のベストはこの目もくらむような高度に吹き荒れる冷たい風に激しく煽られていた。
バタバタバタッ!
レグルスは両腕を前に突き出した。掌を開き、指を曲げ、まるで空気そのものを粘土のように捏ねるような仕草。彼は目を閉じ、呼吸を鎮めようと意識を集中する。
(熱を加え……温度を下げ……流動性を維持しつつ凝固させない……)
呪文のように自分に言い聞かせる。
答えは彼自身の本質から返ってきた。両の手のひらの上で、マグマが芽吹く。溶解した岩石の滴が毛穴から滲み出し、両手の間の空間の中心へと浮遊し、まるで極小の灼熱の惑星系のように、見えない核の周りを公転し始めた。
ドロリ……
ゆっくりと、滴が融合する。球体が形を成し、鮮烈な赤橙色に輝き、休火山のような熱エネルギーで脈動する。その質量は密度が高く、粘り気を帯びて蠢き、創造主の精神的な命令に従う。
燃える球体が変異を始めた。それは引き伸ばされ、圧縮され、球形に戻る前に複雑な幾何学的形状をとる。レグルスの手が震える。ドラゴの魔法に対する絶対的な制御を維持しようとする負荷で、腱が悲鳴を上げていた。
ギリギリギリ……
だが、限界は唐突に訪れた。
「くっ……!」
レグルスが一瞬の隙を見せ、息を吐いた瞬間。
ジュッ……パキン。
球体は即座に黒ずみ、死んだ岩となって固形化し、地面に触れる前に灰となって崩れ去った。
ザララ……
『ドラゴの子』はその場に膝をついた。汗が顔を伝い落ち、彼の魔法が生んだ見えない煤と混ざり合う。
「もう……一回……」
歯を食いしばり、疲弊しきった体に鞭打って立ち上がろうとする。
「気をつけないと、下に落ちちまうぞ、アニキ」
不意にかけられた声に、レグルスは肩越しに振り返った。村へと続く自然の坂道のような太い枝の上から、ミッコが屈託のない笑みで彼を見下ろしていた。
「ミッコ……」
レグルスは荒い息をつき、再び額を膝の方へと落とした。
「何の……用だ……?」
「アネキが呼んでる」
少年は親指で背後を、古樹の方向を指した。
「もう時間だってさ」
◇ ◇ ◇
一行は古樹の深淵へと案内され、木材の核に隠された円形の広間へと辿り着いた。
その場所の構造は自然の円形劇場を思わせ、湾曲した壁が観客席の役割を果たしていた。そこの暗闇の中で、『樹液の子』たちが崇敬の沈黙を守りながら見つめている。すべての注目の的は部屋の中央にあった。そこには一本の奇妙な根が地面から生え、ねじれて不規則な形を描きながら、聖なる柱のように天井へと伸びていた。
その中央の根のあらゆる末端から、奇妙な枝分かれが生じていた。そこから樹液が流れているのだが、滴り落ちることはない。液体は分離して浮遊し、内側からの光で脈動する深緑色の小さな球体を形成し、周囲の木部を照らしていた。
フワ……フワ……
それらの滴は、まるでその根自体がミニチュアの太陽系における太陽であるかのように、完璧な軌道を描いてゆっくりと回転していた。
輝く根と静まり返った観衆の間で、小さな遠征隊は驚嘆の眼差しでその光景を見つめていた。
「キエテ・コラ……」
『樹液の子』の女家長の声が広間に響いた。それは葉が風に引きずられるような、乾いた、擦れるような音だった。
「ミッカ、ダイアンヤちゃん」
アルマが若者たちの間に実体化した。その半透明の体は薄暗がりの中で柔らかく発光している。
「彼女がお前たち二人に、近くへ寄るように言っているわ」
『ドラゴの子』と魔導士は、生唾を飲み込んだ。
ゴクリ。
二人は互いに視線を交わし、勇気を分け合うように頷くと、女家長の方へと歩みを進めた。
男たち――狩人、職人、そして『ドラゴの子』――は後方に下がり、アルマの霊的な存在に守られながら、仲間たちが進むのを見守った。
「ソレデ、アマギ、オ・ゾナ・テ・オ……」
女家長は言葉を続けた。
彼女は輝く根に向かい、少女たちに背を向けていた。彼女を覆う大きな木の葉のマントは緑の滝のように流れ落ち、そのフードは自然そのもので作られているようだった。古びた木の杖が彼女の傍らにあり、彼女がついに振り返ったとき、その同族の他の者と変わらぬ虚ろな仮面が少女たちを見据えた。
「我らが種と、汝らが種は、同じ肉を分かち合わぬ」
アルマが同時通訳を始めた。彼女の声は、クリーチャーの囁きに重なるように響く。
「お前たちは我らを精霊と呼ぶ。それは、我らの肉が、お前たちが『マナ』と呼ぶもので織られているからだ。幾久しい時を経て、我らが民とお前たちの民との関係は、契約によって築かれてきた。聖なる絆によって」
女家長は空いている手を伸ばした。その腕は小枝のように細く、長い指は枯れ木を思わせた。
「その手を」
躊躇いながらも、ミッカとダイアンヤは手を差し出した。
「そう、我らが民は始まりより、汝らが民と契約を結んできた」とクリーチャーは続けた。「硬き鱗、狩人、そして竜の末裔への命の癒し。しかし、その本質に驚きを携える者たちがいる」
女家長は古びた杖を掲げた。その仕草に従い、中央の根を周回していた樹液が軌道を変え、杖の周りを回り始めた。
ヒュン……
「魂を理解する者たちには、常に魅了があった。汝らが『アルカナ』と呼ぶ者たちだ」
ダイアンヤが驚きに目を見開く。アルマもまた、訳しながら呆然としているようだった。
「我らは母の肉より生まれたり。そして母に対し、我らはすべての願いを叶える」
深緑色の小さな樹液の球体が激しく輝き始め、鮮やかなライトグリーンへと変化した。
カッ!
それらは収束し、融合して一つの完全な球体となり、ふわりと漂って二人の少女の間で静止した。
本能的に、すでに差し出されていたミッカとダイアンヤの手が、その球体を受け取るために合わさった。
「母の意志は、その妹の解放に対する感謝である」
アルマの翻訳には厳粛な重みが宿っていた。ミッカとダイアンヤは衝撃を受けながら耳を傾けた。
「古樹の血より、古樹の肉より。この贈り物は、汝らが民が『精霊魔法』と呼ぶものなり」
ピカーッ!!
球体は最後にもう一度、目がくらむほどの輝きを放ち、二人の肌に触れた瞬間に光を失った。
どろりとした粘度の高い液体は滴り落ちず、吸い込まれていった。
ダイアンヤの左手から、木が芽吹き始めた。生きた蔦のような細くしなやかな根が皮膚から現れ、優雅に指と手首に巻き付き、命の鼓動を刻む。
スルスル……
「『木の葉の笛』は、我らが母より我らが種へ与えられた恩寵」
同時に、ミッカの右手では、より硬質な変化が起きていた。樹液が硬化し、強固な樹皮の層となって掌と甲を覆い、前腕の始まりまで広がっていく。
ガチガチ……
彼女は魅入られたように手を掲げ、自分の体の一部のように見えるその自然の籠手を見つめた。
「母の血は、常に敬意と称賛をもって使われるべし」
ミッカは変質した掌を開いた。今や彼女の肌を覆う樹皮そのものの内側から、樹液――古樹の純粋な血――が滲み出るのを彼女は見た。
「これが我らの支払いである。ドラゴの末裔よ、アルカナの啓蒙者よ」
おはようございます、こんにちは、こんばんは、わるです!
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
もし物語を楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価をいただけますと幸いです。皆様の応援が執筆の大きな励みになります。
またねー!! ヾ( ̄▽ ̄) Bye~Bye~




