第74話「ドラゴの共鳴 」第二部
ジリジリ……
正午の太陽が、容赦なく大地を罰していた。
無慈悲な光線が荒涼とした風景の岩肌を焼き、世界を病的な黄色と黄土色に染め上げていく。熱は物理的な実体を持って空気を揺らめかせ、地平線の彼方を歪めていた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……
不気味な静寂を破るのは、行軍の足音だ。枯れ木のような、青白い木々の間を進む軍事大隊。その歪んだ根は、とうの昔に不毛の地から水分を盗む術を学んでいた。
数百の兵。光を吸い込むような鉛色の重装鎧。彼らが運ぶのは武器だけではない。戦争のインフラそのものだ。隊列の後方には小型の貨物船が浮かび、**ブゥゥゥン……**という低く一定の唸り声を上げていた。重力に逆らい、不規則な地面から半メートルほど浮遊させる魔法技術だ。
その最後尾に、ただそこに在るだけで行軍のリズムを支配する男がいた。
浅黒い肌。その猛禽類を思わせる金色の瞳が、油断なく地形をさらっていた。兵士と同じ灰色の鎧を纏っているが、肩には重厚で王者の風格を漂わせる深紅のマントが掛かり、砂埃にその裾を引いていた。熱風がヒュオオッと吹き付けても、長く黒い髪は微動だにしない。
大隊は一つの巨大な生物のように動き、ブーツが岩を打つ音が催眠的なリズムを刻む。
「我が君……」
ピタリ。
行軍のリズムを切り裂くように、背後から女性の声が響いた。
男が足を止める。命令など一言も発していないにもかかわらず、一秒後には大隊全体が静止した。彼はゆっくりと、計算された動きで肩越しに振り返る。
声をかけた女は、金属の軍団の中で異彩を放っていた。重たいプレートではなく、動きやすさを重視した強化レザーを着用し、胴体の急所のみを小さな金属板で守っている。若く、その年齢には不釣り合いな真剣さを湛えた顔立ち。汗ばんだ首筋で、オレンジ色の長いポニーテールが揺れていた。
「なんだ、トルネード」
男の声は深く、聞く者の胸郭を震わせるような響きを持っていた。
指揮官の金色の視線は彼女から外れ、空の彼方、目に見えない一点へと注がれた。トルネードもまた主人の視線を追い、強烈な日差しに目を細める。
「この反応は……」
彼女は呟いた。地獄のような暑さだというのに、腕の皮膚が粟立つのを感じる。空気が突然重くなり、口の中に鉄の味が広がるような感覚。
(間違いない……)
「ああ」
男は肯定し、金色の瞳孔を収縮させた。
「『アルマ・ソレル』……あの女、まだ息をしていたか」
◇
世界の別の片隅では、砂こそが唯一の法だった。
ゴオオオオオオッ……
無限の砂漠が全方位に広がり、巨大な砂丘が黄金の山脈のように聳え立っていた。空は広大で無慈悲。風が唸り声を上げ、触れるものすべてを削り取る砂のカーテンを巻き上げている。
だが、その手つかずの自然を冒涜するかのように、金属の異物が鎮座していた。
未来的な軍艦の構造を持つ巨大基地。それは砂丘の上に座礁した鋼鉄の獣のようだった。その影に隠れるようにして、小さな金属製のテントが構造物の周りを衛星のように取り囲んでいる。
艦内では空調が効き、外の灼熱地獄とは対照的な、臨床的な冷気を保っていた。無機質な会議室で、科学者たちがホログラムと地図に身を乗り出し、『古の世界』の現在位置と謎に関する理論を説明している。
そのすべての中央、黒鋼の玉座に、彼女は座っていた。
部屋の光を吸収するような、艶やかな黒の鎧。厳格な美しさを備えた顔は、黒いガントレットに包まれた手で頬杖をついている。その表情は致死的なほどの退屈に染まり、科学者たちをまるで取るに足らない羽虫であるかのように眺めていた。
血のように赤い髪が滝のように肩に掛かり、背中を覆う黒いマントと混じり合う。
ガタンッ!
突然、彼女の姿勢が変わった。
頬を支えていた手が落ちる。頭が乱暴に背面の壁へと向けられた。まるでその金属を、そして何リーグもの砂漠を見通すことができるかのように。
「へ、陛下……?」
科学者の一人がどもり、突然の緊張に声を震わせた。
「シルバー……」
彼女が呼んだ。声は滑らかだが、そこには暴力の予感が孕んでいた。深紅の瞳は虚空を見つめ、熱病のような激しさで輝いている。
「はっ、ここに」
影から一人の男が進み出た。『黒の騎士』に似た鎧を纏っているが、その黒い布地には、彼が属する王国の紋章が、まるで血の染みのようにマントの中央に描かれていた。
「感じぬか?」
彼女は流し目で彼を見た。
騎士は女王の視線を追い、意識を集中させる。部屋の中は完全な静寂に包まれた。
「……いいえ、我が君。私の感覚には何も」
「はぁ……」
唇から溜息が漏れ、それは瞬時に邪悪な笑みへと変わった。
「ふん、貴様らには遠すぎて感じ取れぬか……」
シルバーの目がわずかに見開かれ、その意味を理解した。
「まさか……ドラゴの魔法を感じておられるのですか?」
女の笑みが深まり、その美貌を恍惚とした狂気の仮面へと歪めていく。彼女には『匂い』が分かった。乾いた嵐の匂い。古代の力の匂いだ。
「ようやくじゃ……」
ギィィィィィ……!
ガントレットの爪が玉座のアームレストを引っ掻き、不快な金属音を立てた。
「ようやく、この世界の果てで……退屈しのぎができそうではないか!」
◇
ゴオオオオオオ……
灰色が、現実を貪り食っていた。
岩は石化した樹木のように聳え立ち、何百メートルもの高さを持つ自然の柱となって曇天の空へと伸びている。植物は硬く、鉱物的であり、生きとし生けるものは石と同化していた。
その死の谷を、軍団が行進していた。
ズシン、ズシン、ズシン……
数百体の巨大な人型。広い肩と頑強な胴体を持つ、黒い金属で鍛造された兵士たち。個々の兵士が殺戮兵器であり、その顔は五つの光点がブゥン、ブゥンと明滅する紫の光線を放つ巨大なマスクによって隠されている。頭上には平らで巨大な円盤が、防護板兼アンテナとして彼らを肩まで覆っていた。
彼らは完璧な同期で動く。静かなる金属の疫病。
部隊の先頭を浮遊する巨大な輸送機の上に、一人の男が彫像のように立っていた。
その鎧はロボット工学と黒魔術の傑作だった。冶金の隙間からは、機械の呼吸のように明滅するライラック色の光が漏れ出している。完全に閉ざされた兜にはバイザーがなく、ただ一本のネオンパープルの縦線が、金属の顔を引き裂くように走っていた。
その背後で、似たような鎧を纏った女が彼を観察していた。短く刈り込んだ灰色の髪と深く刻まれた皺が、彼女の高齢と幾多の戦場を潜り抜けた経験を物語っている。彼女の眼差しは遠く、単調な行軍の中に彷徨っていた。
「大気ニ……乱レヲ、感ジルカ?」
ザザッ……
男の声が響いた。金属的で合成された音声。だが、その抑揚には人間特有の傲慢さが滲んでいた。彼は背を向けたまま、その縦の視覚センサーを灰色の地平線に固定している。
「乱れ……ですか?」
女は問い返そうとしたが、言葉は喉で死んだ。
ゾクッ!!
猛烈な悪寒が背骨を駆け抜けた。寒さではない。それは捕食者を前にした生物が抱く、原始的な恐怖だった。彼女はバッと勢いよく振り返り、唇を震わせた。
「アルマ……」
「『アルマ・ソレル』……」
男はその名を復唱した。
次の瞬間、彼の『意志』が具現化した。
ガシャンッ!!
軍団全体が停止した。数百の金属のブーツが、千分の一秒の狂いもなく同時に止まる。統一された動きで、軍団は回れ右をし、エネルギーの波が放射された方向を向いた。
「な、何をするつもりですか?」
女が尋ねた。その声には焦燥が滲んでいる。
「アルマは死んだはず!彼女は海に消えたのです。彼女であるはずがない!」
「周波数ハ、ラムザ・ソレルノ発スルモノトハ異ナル。『天騎士団』団長ノ生存ハ、統計的ニモ不可能ダ」
彼の声は冷徹で分析的だった。現実を、解かれるべき数式として扱っている。
「残ル論理的変数ハ二ツ。第一ニ、アルマ・ソレルノ生存。第二ニ、彼女ガ子孫ヲ残シタ可能性。年代記ヲ考慮スレバ、ソノ個体ノ年齢ハ約十歳ト推測サレル」
キュイィィン……
閉ざされた兜の奥から、くぐもった歪な笑い声が響いた。それは金属がねじれる音に似ていた。
「変数ナド無関係ダ……方程式ノ解ハ変ワラナイ」
鎧の紫の光が強さを増す。
「雷ト嵐ノ『ドラゴの魔法』ヲ抽出シ、同化スル。……造作モナイ作業ダ」
女は沈黙した。その顔は欲求不満と古き怒りが入り混じり、歪んでいる。軍団は再び行進を始めた。今や、近づきつつある嵐の方角へ向かって。
◇
そこから数キロメートル離れた場所。軍隊の行進からも、帝国の貪欲さからも遠く離れ、世界は息を潜めているようだった。
そこは、不自然なほど静謐な平原だった。そよ風は焼くことも切ることもなく、ただ低い草を撫で、孤独の記念碑のように建てられた石造りの小屋の壁を優しく叩いていた。
その質素な住居の前で、ある人影が微動だにせず立っていた。
彼は、コントラストのシルエットだった。灰色と紫の色調で鍛造されたその鎧は、忘れ去られた時代の遺物のようで、防御力と儀式的な優雅さを兼ね備えている。顔は奇妙な兜によって完全に隠されていた。その表面には数十の小さな穴が左右対称に穿たれており、その奥から緑色の光が**ボゥ……ボゥ……**と柔らかく脈動している。まるで闇を覗く生物発光の昆虫の目のように。
長く、穢れのない白髪が、風のなすがままに狂ったように舞っていた。彼の硬直した姿勢の中で、唯一カオスな要素だった。
彼は征服者のようには行進しない。金属の軍団を指揮することもない。彼はただそこに存在していた。世界の果ての、孤独な番人として。
だが、彼の注意は、王や将軍たちの目を惹きつけたのと同じ一点に囚われていた。兜がゆっくりと、現実を引き裂くそのエネルギーの反応の方角へと向けられる。
「ようやく来おったか……アルマ……」
彼の声は金属に遮られ、くぐもっていたが、そこには楽しげで、それでいて危険な響きがあった。老獪な響きだ。
「それとも……」
彼はわずかに小首を傾げた。兜の緑の光点が、より強く瞬く。
「……ついに、妹に命を吹き込みおったかの?」
カカッ……
乾いた低い笑い声が漏れ、平原の広大さにすぐに吸い込まれていった。
「興味深いのう……」
彼は風に向かって呟いた。まるで、世界そのものに秘密を打ち明けるかのように。
「お主の研究は……今度は何を創り出したのやら」
◇
「……ミッカ」
その声は掠れ、郷愁と混乱を帯びていた。まるで指の間から零れ落ちていく夢を必死に掴もうとするかのように。
ガバッ!
レグルスは勢いよく、編まれた葉のベッドで上半身を起こした。
胸が激しいリズムで上下し、冷たい汗が額を伝い、周囲の自然な湿気と混じり合う。まだ焦点の定まらない瞳は、顔の前に広げた自分の掌に釘付けになっていた。彼は自分の皮膚の皺を見つめていた。まるでそこに、目覚めが奪い去った幻の温もりを探すかのように。
『古の樹』の生きた内部をくり抜いて作られた部屋は、甘い樹液と古い木の香りに満ちていた。日光が樹皮に彫られた窓から差し込み、部屋を琥珀色の心地よい薄明かりで満たしている。
「ミッカ〜♡」
二つ目の声が、狭い空間に響いた。そこに郷愁など欠片もなく、あるのは極上の嘲笑だけだった。
「あ?」
『ドラゴの子』の瞳がゆっくりと動き、侮蔑の発生源を見つけて細められた。
湾曲した木の壁に寄りかかり、ミッコが大げさな真面目腐った表情を浮かべていた。彼はレグルスのポーズを苛立つほど正確に模倣していた。体を傾け、顔の前に手を掲げ、そして「悲劇の二枚目」を作ろうとするグロテスクな試み。
「おーおー、俺様がお目覚めになって最初に出る言葉が、好きな女の名前かよ?」
「愛だねぇ、従兄弟殿?」
反対側から女の声がした。ダイアンヤがミッコの近くに座り、足を組んでリラックスしている。高い位置でポニーテールにした長い白髪が、小首を傾げると同時に軽く揺れた。その瞳には悪戯っぽく危険な輝きがあり、唇は皮肉な笑みで歪んでいる。
「男ってのは単純だねぇ。目が開くか開かないかのうちに、心臓が叫んじまうんだから」
カァァァッ……!!
レグルスの顔が瞬時に沸騰し、冷や汗が恥辱の波へと変わった。目覚めの厳粛な雰囲気は、二人の堪えきれない笑い声によって粉々に砕け散った。
「あぁもう、テメェら地獄へ落ちろッ!!」
彼は怒鳴り、ベッドの葉を鷲掴みにして二人の方へ投げつけた。
おはようございます、こんにちは、こんばんは、わるです!
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