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ドラゴの子  作者: わる
第一幕 - 第十環:『樹液の子ら』
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第73話「ドラゴの共鳴」第一部

「消えろ」


 氷のように冷たく、絶対的な『雷のドラゴの子』の声が、戦場の混沌を神の宣告のごとく切り裂いた。その口調に憎悪はなく、ただ現実の構造そのものを震わせるような、回避不能な決意だけがあった。


 その刹那、彼女の剣のオレンジ色の刃は単なる金属であることをやめ、天空の怒りを地上へと導く回路へと変貌した。少女の血管を流れるドラゴンの魔力が飽和し、切っ先は直視できぬほどの輝きを放つ。周囲の大気は重く淀み、観る者の髪を逆立てるほどの静電気が充満する。鼻孔を焦がすのは、死を告げる金属と雷の鋭い臭気。


 ボルトが剣を振り下ろした。


 その動きは復讐の光の残像となり、全ての力を一点に収束させた。ドォォォォォォン!!衝撃の瞬間、プラズマ化したエネルギーが即座に怪物を蒸発させた。抵抗も、残骸すらもなく、物質が無へと還元される完全なる消滅。


 だが、その膨大な余剰エネルギーは霧散しなかった。バリバリバリバリッ!!黄金の凶暴な雷光が『大樹』の上空を引き裂き、青空を何キロにもわたって照らす電気の網へと変えた。



 遥か遠く、カイウナの上空。『天騎士団』の小型偵察船が、音もなく空を滑っていた。片側には深い青を湛えた無限の海、もう片側には、島を取り囲む鬱蒼とした緑の森と、その先にそびえる巨大な螺旋山脈が広がっている。天に向かってありえない幾何学を描くその山々は、『彼方の地』と既知の世界を隔てる永遠の壁として機能していた。


 その定期便の指揮を執るセリーネ隊長は、青銅の手すりに手を置き、真剣な眼差しで外を眺めていた。だがその瞳には、長すぎる平和を見守る者特有の倦怠感が滲んでいる。しかし、その静寂は、『蒼天ソウテン』出身の若い兵士が震える指を水平線に向けたことで打ち砕かれた。


「た……隊長!北の方角を!」


 セリーネと他の乗組員たちが舷側に駆け寄る。彼らの顔に困惑が浮かび、次いで衝撃に見開かれた。螺旋山脈の頂のさらに向こう、雲を染め上げるのは、脈動する黄金の輝き。太陽そのものと競うかのような、強大な力の顕現だった。


「まさか……」副操縦士が言葉を詰まらせる。


「ライトニング様たちが……ついに敵を捉えたのね」セリーネが重々しく答えた。


 彼女はその現象を見つめながら、あの雷光が『天騎士団』を率いる兄のような存在、ラムザ・ソレルのものであると確信していた。期待と恐怖が入り混じった悪寒が背筋を走る。


「直ちに本部に伝令を!主戦場にて戦闘開始と伝えなさい!」


 彼女は踵を返し、薄れゆく光を見据えた。(反撃がここまで届くのも、時間の問題ね……)グォォォン……船が急旋回し、基地へと急ぐ中、セリーネはそう心の中で呟いた。



 熱など遠い記憶の彼方にある極寒の領域で、吹雪が盲目的な怒りをもって吹き荒れていた。ヒュゴォォォォォ!!世界は圧倒的な白と虚無に支配され、万年雪に覆われた山々の亡霊のような輪郭だけが、かろうじてそこにあることを主張していた。


 その凍てつく砂漠の中心で、赤みを帯びた魔法のドームが優しく脈動し、遠征隊を守っていた。その結界の内側では、外の白い死とは対照的に、乾燥した暖かい空気が保たれている。


「いやはや、この魔法は実に助かる……」案内人のスプリガンが、自身の太い腕を抱きながら言った。「ここがこんなにポカポカだなんて、想像もつかねぇな」


「ええ、本当に。生き返る心地です」天騎士のヴォラが、安堵の溜息とともに同意する。


「火と周囲の湿気を混ぜ合わせ、一定の熱の障壁を作り出す古代魔法か……」長い黒髪の騎士ザレンが、いつもの教師のような口調で解説を加えた。


「これがないとキツかったよねぇ……」紫髪の騎士ピピンが、見えない盾に当たって死んでいく雪片を眺めながら呟く。(コイツ、それしか言わないな……)


 少し前方を歩く緑髪の騎士ライラは、奥歯を噛み締めていた。他の誰も気付いていないようだが、彼女はこの結界を維持するために相当な労力を払っているのだ。その手はドームと同じ深紅色に輝いている。胸の内で苛立ちが沸騰した。


「……だったら、自分たちでやればいいじゃない」彼女は小声で毒づいた。自分たちが凍死せずに済んでいるのは誰のおかげだと思っているのか。


 数メートル後方、アメタッボ家の従者が作り出した別の赤い球体の中で、歩みが止まった。ルシアが不意に足を止め、その穏やかで公的な表情を曇らせて振り返る。


「ユウダイ様?」


 『ドラゴの子』は動かなかった。ドームを通過して心地よいそよ風に変わった寒風が、ドラゴの騎士のマントを叩く。スノウの疲れた瞳は、彼らが来た道――『第十環』の方角に釘付けになっていた。


「敵を見つけたのですか?」彼は吹雪の唸りに消えそうな声で呟いた。「……いや、違う。この波動……『アルマ』の魔法か……」


 彼の目が危険なほど細められる。


「あの駄々っ子が……」


「何かございましたか、ユウダイ様?」ルシアが近づく。


 前方では、騎士たちと案内人のスプリガンも足を止め、心配そうにリーダーの静止を見守っていた。ユウダイは深く息を吐き、その白い息は守られた空間の中ですぐに消えていった。


「いや、何でもないよ、ルシア。行こう」


 ザッ、ザッ……彼は振り返り、踏み固められた雪を踏みしめながらルシアの横を通り過ぎた。


「はい。ユウダイ様」ルシアは短く一礼して彼に続き、一行は再び未知への行軍を再開した。



 彼らの前方には、論理を拒絶するような巨大な滝が、神々が織り上げた水のカーテンのごとく左右に無限に広がっていた。深く凍てつくような大湖が、その記念碑的な滝と、ブリザードの遠征隊がいる場所を隔てる唯一の障壁となっていた。


 彼らは『樹海』を支配する巨木の一つ、その巨大な枝の上に陣取っていた。そこからの眺めは目が眩むようだ。滝は無限に向かって上昇し、雲の間に消えている。背景には不毛の山々の頂が切り取られ、その斜面は死んだ岩の灰色と混じり合った鈍い黄色を晒していた。眼下では、沼の黒く淀んだ水がゆっくりと流れ、世界の頂上から落ちる水の永遠の運命に合流するように、虚空へと崩れ落ちていく。


「ここが境界か?」ブリザードの声は冷静だったが、決して緩むことのない警戒心を孕んでいた。その氷のような瞳が、深淵から立ち上る湿った霧を探索する。


「はい」案内人であり、ダイアンヤの母であるラファが、リーダーの隣に立ちながら言った。「ここが正確な境界線。『第十環』と『第九環』の境目です」


「わかった。全員、備えろ。私のあられで『第九環』への道を舗装する」


「あまり無理をなさらぬよう、ブリザード様」ラファが慎重に近づく。「大地を踏むまでの道のりは長く、相当な消耗を強いられます」


「承知している」短い返答。ブリザードは腕を上げ、指先にはすでに固い足場を形成するための霜が集まり始めていた。


 しかし、最初の氷の結晶が実体化する直前、衝撃が彼女の体を貫いた。バチッ!!背骨に直接響くような電流の脈動。本能的な警告が、彼女の全神経を振動させた。


 ブリザードは**バッ!**と振り返り、その顔は戦闘の仮面を被ったように硬直した。


「ブリザード様!?」遠征隊の声が響く。一糸乱れぬ動きで騎士たちが剣を抜き、**ジャキンッ!**と金属音を立ててラファとユウダイの医師の周りに防御陣形を敷いた。


「この魔力……ドラゴの性質……」ブリザードは呟き、水平線の見えない一点を見据えた。ラファ、医師、そして騎士たちは困惑した視線を交わす。彼らには湿った風しか感じられない。


「このシグネチャー(波長)……『アルマ』……」



 猛吹雪からの避難所となっている洞窟の中で、スノウのグループは小さな焚き火のパチパチという音だけが響く沈黙の中で休息していた。スノウは寒さが最も厳しい入り口の岩壁に寄りかかっていた。手を差し出し、風と共に舞い込む厚い雪片を受け止めながら、自分の意志に従って踊る微細な結晶を、催眠術にかかったかのように見つめていた。


 不意に、彼の目が見開かれた。食事の準備をする仲間たちの他愛ない会話を無視し、彼は掌から視線を外した。


 その視線は特定の方角――遠く離れた場所にいる他のリーダーたちが今まさに睨んでいるのと同じ方角――へと突き刺さる。『第十環』へ。


「本当に来たんですね……」彼は虚空に向かって囁き、外で風がヒュオオオオと唸る中、憂いを帯びた微笑を浮かべた。


「あの子たちを頼みますよ、アルマ……」



 その砂漠において、熱は物理的な実体を持っていた。ジリジリ……灰色に乾いた岩肌は、空から降り注ぐ炎を照り返しているようだ。ファイアのグループは狭い谷を進み、熱疲労から数秒でも逃れるため、岩の裂け目の影に身を寄せるようにして歩いていた。


 ファイアは無感動に歩いていた。唯一残された瞳が正確に動き、気圧の微細な変化を捉える。顔を向けることも、歩調を乱すこともなく、彼はあの力の爆発の遠い残響を感じ取った。


 日差しでひび割れた唇に、微かだが、獰猛な誇りに満ちた笑みが浮かんだ。



 ねじれ、干からびた幹が並ぶ森。植生が焦熱の暑さを生き抜くために適応した場所。草は青白く色褪せていたが、それでも生きることを主張していた。木々が根を張れぬ場所では、灰色で不毛な山々が風景を支配している。


 ライトニングのグループは完璧な隊列で行軍していた。金属のブーツが乾いた大地を踏む音が、鈍く響く。


 突然、大騎士の目が見開かれた。彼もまた、他の者たちと同じ脈動を感じていた。だが、驚きや誇りの代わりに、その表情に浮かんだ恐怖は、瞬く間に沸騰するような怒りへと塗り替えられた。


「ライトニング様?」騎士の一人が、リーダーのオーラの急激な変化に気づいて尋ねた。


「あの……クソガキが……」彼は歯ぎしりしながら唸った。


「クソガキ?」


 ライトニングはガバッと突然きびすを返した。砂埃を巻き上げるほどの大股で、怒りに任せて来た道を戻り始める。


「教育してやる……ミッカ!アルマ!!あんな無防備に力を晒して、何を考えているんだ!?」


 慌てふためいた四人の騎士たちが彼に飛びつき、腕や肩にしがみついた。だが、ドラゴの子の馬鹿力によって、彼らは数メートルも引きずられた。ライトニングのブーツが地面に深い溝を刻む。ズザザザザッ!


「ラ、ライトニング様!お待ちください!正気に戻ってください!」


 案内人とユウダイの医師は、伝説の戦士が見せる癇癪かんしゃくとも言える激情に、反応すらできずに立ち尽くしていた。


「ミッカァァァァァァ!!!!!」ライトニングの絶叫が乾いた森に木霊し、枝に隠れていた珍しい鳥たちがバサバサッと逃げ出した。

おはようございます、こんにちは、こんばんは、わるです!


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


もし物語を楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価をいただけますと幸いです。皆様の応援が執筆の大きな励みになります。


またねー!! ヾ( ̄▽ ̄) Bye~Bye~

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