7、ムーン王国の災い?
orz 構成上短め... 手抜きともいう…
◆ムーン王国の災い
── リコとツカサが帝国に逃げ込んで数ヶ月が経っていた ──
一方、ムーン王国では異変が起きていた。
聖女の力を使える者であるリコたちを蔑ろにし、偽りの聖女を祭り上げたことへの天罰か、十の災いが王国を襲ったのだ。それはまさに神の怒りのように。
最初に川の水が一夜にして毒に変わり、清流は濁った紫色に染まった。銀色に輝いていた魚たちは白い腹を浮かべて次々と死に絶えた。水を飲んだ家畜も苦しみながら倒れた。人々は渇きに苦しんだが、井戸を掘っても湧き出るのは黒く濁った水ばかり。毒水を口にすることはできなかった。
次に現れたのは、肌が爛れたような毒蛙の大群が川から這い上がった。小さな体からは猛毒の粘液が滴り、地面を埋め尽くすほどの数が王国中に広がった。触れた草木は枯れ、踏んだ者たちは足を腐らせた。見る者に恐怖以上のものを植え付けた。
第三の災いは人食い蟻の大群である。赤い甲殻を持つ巨大な人食い蟻は静かに巣から溢れ出し、しかし確実に領土を侵食していった。逃げ遅れた農民や家畜は骨まで残さず貪り食い尽くされた。城壁すら齧り崩すその顎の力に、兵士たちも為す術がなかった。
第四は毒熊蜂の襲来。拳ほどの大きさの蜂の大群が太陽を覆い隠すほどの数で襲い、鋭い針で人々を襲った。刺された者は激痛の末、三日と持たずに呼吸が止まり、次々と命を落としていった。
第五に疫病を持った鼠が発生し、黒死病のような病気が街を死の静寂で包み蔓延した。
第六に毒蚊が人と家畜を刺し、生き残った者たちも膿んだ腫れ物を生じさせ苦しんだ。医術も魔法もこれらの病には無力でしかなかった。
天変地異はさらに続く。
第七の災いは天からの怒りである。稲妻が空を裂き、雷鳴が大地を震わせた。そして人の頭ほどの大きさの雹が降り注ぎ、せっかく育った畑の作物をすべて粉砕した。冬の食料は失われた。
第八にその後を埋めるように現れたイナゴの大群が全土を覆った。雲のような群れが残った作物までも食い尽くし、緑はすべて茶色に変わり、飢餓が目前に迫っることとなった。
第九は三日三晩の真っ暗闇が王国を支配した。皆既日食が異常に長く続き、太陽も月も星の光が完全に遮られた。魔法の光さえ消え、人々は絶望の中で時を数えるようになった。
そして絶望的な闇の中で、第十の災い ── 全ての長子が怪死した。王太子フライア・ムーンも例外ではなかった。ある朝、寝室で冷たくなっているのが発見された。傷一つなく、ただ命の灯が消えていたのだ。王国中の家庭で同じ悲劇が繰り広げられ、嘆きと絶叫が国中に響き渡るようになった。
王宮ではサトリヌス王が憔悴しきっていた。玉座の間は重い沈黙に包まれ、窓の外にはまだ毒蛙の鳴き声が響いている。
「なぜ……なぜ我が国にこんな災いが……」
王はうつむき、金色の髪は数日で白みがかった。
召喚士テュルズは蒼い髪をかきむしりながら報告した。彼の目には深い後悔の色が浮かんでいた。
「陛下、どうやら……どうやらあの時、私たちが追い出した者を蔑ろにしたことが原因のようです……」
「あの醜い女が? あれは聖女ではなかったはずではないのか!」
サトリヌス王は顔を上げたが、その目には確信がない。
「いえ……どうやら私たちにはそう見えなかっただけで、真の聖女は彼女だった可能性があったのかもと……創成女神の教えを無視した代償かもしれません」
王は机を拳で叩いた。
「ならばどうすればいい!どうすればこの災いを止められる!」
テュルズは俯いた。
「彼女はもう……サンディ帝国に逃れました。そしてどうやら獅子皇帝オーデンの庇護下にあるようです。彼女を追い出した私たちが、今さら助けを求めることなど……」
その時、宮廷の扉が勢いよく開いた。一人の神官が血相を変えて駆け込んできた。
「陛下! 街で暴動が起きています! 人々が……人々がキョウカ様を、偽りの聖女だと叫びながら宮殿に向かってきてます!」
*****
一方、王宮の奥深く、かつては豪華に飾られていた一室で、キョウカは震えていた。
彼女は……桜川鏡華は、ただの女子高生だったからだ。異世界召喚の物語や乙女ゲームに憧れ、この世界に来た時、自分が特別な存在だと信じ込んだ。能力値を改竈し、聖女として振る舞い、王子たちのちやほやを受ける日々 ── それはまるで夢のようだったのだから。
しかし今、その夢は悪夢に変わった。
窓の外から聞こえる怒号。
『偽りの聖女!』
『災いをもたらした!』
『王太子殿下を返せ!』
キョウカはベッドの隅にうずくまり、制服のスカートをぎゅっと握りしめた。彼女には本当の聖女の力などなかった。ただの女子高生が、ゲームの知識だけでこの世界で特別扱いを受けただけなのだから。
最初は楽しかった。王太子フライアの優しい笑顔、召喚士テュルズの丁寧な指導、サトリヌス王の寵愛 ── すべてが彼女を「特別」だと錯覚させた。
でも、あのクニコとかいうブサメンの女がいないと気付いた時から、何かがおかしくなった。
茶髪のクニコ。彼女は本当に地味で、キョウカのように華やかではなかった。でも、何かが違った。キョウカは直感で感じた。彼女こそが本当に特別な存在なのだと。
だからこそあの時、彼女はそっと近くにいた下級神官らしき人に密告したのだ。
「あの女、何だか怪しいんです。私の聖女の力が警告を発している気がします……」
そのせいかどうかはどうでもいい。だってクニコは実際に追い出されたのだから。キョウカはほっとした。これで自分が唯一の聖女でいられる。でも、そのせいなのか全てが崩れ始めた。
「私のせいじゃない……」
キョウカは小さく呟いた。
「私はただ巻き込まれただけなんだ……」
突然、扉がノックされた。侍女の声が震えていた。
『キョウカ様、急いでください。民衆が宮殿に押し寄せています。陛下がお守りしますと仰っていますが……』
キョウカは立ち上がった。鏡に映る自分は、まだ十七歳の女子高生の顔だった。黒髪黒目、日本のどこにでもいる普通の女の子。特別な力など何もない。
逃げよう!
彼女は心に決めた。
*****
混乱に乗じて。災害のどさくさに紛れて。彼女はこっそりと部屋を抜け出し、裏口へと向かった。廊下では兵士たちが慌ただしく行き来し、外の怒号はますます大きくなっていた。
『あの女を出せ!』
『偽聖女に天罰を!』
キョウカは震える手で小さな袋を握りしめた。中には宝石や金貨が少し ── 王子たちからもらった贈り物だ。これでしばらくは生き延びられる。どこか遠くへ。サンディ帝国へ? いや、あの女がいる。でも、もう後戻りはできない。
彼女は暗い通路を抜け、ついに宮殿の外に出た。外は混乱の極みのようだ。人々は宮殿に向かって石を投げ、叫び声が響き渡る。その隙に、キョウカは影に身を潜め、街の外れへと走り出していた。
後ろから聞こえるのは、ますます激しくなる暴動の声と ── そして、何かが崩れ落ちる音だけ。
彼女は振り返らずに走った。
涙が頬を伝うが、拭う余裕もない。
ただ走る。
この国から逃げるんだ。
自分が招いたかもしれない災いから、自分を責める人々から、冷たくなったフライア王子の顔から ── すべてから逃げてしまえば楽になるはずだからと。
夜の闇が深まる中、キョウカはムーン王国の国境を越え、未知の森へと消えていった。
彼女の後には、十の災いに苦しむ王国と、真の聖女を求める人々の叫びだけが残された。
*****
そして遠く離れたサンディ帝国では、世界樹ユグドラジルの下で、ツカサが突然目を見開いた。
「どうしたの?」
隣にいたリコが心配そうに尋ねた。
ツカサは胸に手を当て、遠くを見つめた。
「何か……遠くで、たくさんの悲しみの声が聞こえたような気がして」
ユグドラジルの葉がサラサラと音を立て、金色の光が二人を包んだ。まるで、何かが始まろうとしているかのように。
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orz 参考資料、入れるの忘れておりました~すみません。
思い付いたのは、映画の「十戒」からなのですが、
旧約聖書、モーセの章、十の災い、というのが大元にあるそうなのですね。
ただ、自分的には宗教的なこととは無関係に参考にしただけなので、歴史的な資料とか、文献程度に情報提示しておきます。




