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12、帰還の扉?

 ◆帰還の扉



 ── 地球へ帰る方法を模索したリコとキョウカたちは、世界樹の下で創成女神から、代償を伴うが「扉」を開くと言われ、再度世界樹の下へきた ──






 満月の夜、世界樹ユグドラジルの下は神秘的な銀色の光に包まれている。


 月明かりが巨大な樹木の葉を照らし、葉が微かに揺れ、地面には複雑な影のレース模様が織りなされていた。空気には微かなマナの振動が漂い、まるでこの夜だけの特別な瞬間を祝福しているかのように力が満ちあふれている。


 月明かりが世界樹の根元に集まった四人の人影を長く引き、地面に静かなドラマを描いているかのよう。


 オーデンは重厚な鎧姿で立っていた。赤い髪が月明かりに照らされ、炎のように輝いている。彼の金色の瞳はリコに注がれ、その中には言葉にできない複雑な感情が渦巻いていたが。


 オーデンの隣でリコは、静かに息を整えて立っていた。茶色の髪がそよ風に揺れ、普段は明るい茶色の瞳に、今夜だけは深い覚悟の色が宿っていた。彼女の胸には、オーデンから贈られた因果応報の護符が温かく光を放っていた。小さな銀のペンダントは、まるで別れを予感しているかのように微かに脈打っていた。


 ツカサは少し離れたところに立っていた。彼女の銀髪は月明かりを反射して輝き、紅の瞳は今夜だけ普段以上に深く神秘的に見えた。


 そしてキョウカ。彼女は世界樹の前に立ち、黒い瞳を大きく見開いていた。その目には、期待、不安、そして何か隠された決意のようなものが混ざり合っていた。彼女の手はわずかに震え、間に合わせで作らせた制服に似せた、セーラーカラーの襟とプリーツスカートの裾が夜風に翻っていた。彼女の黒髪は闇に溶け込み、表情は月明かりに浮かび上がっていた。


「これで……本当に帰れるんですね」


 キョウカの声はわずかに震えていた。彼女の手は長い黒髪を整える仕草を繰り返していた。リコはその様子を見て、優しく微笑んだ。


「ええ、もうすぐです。創成女神様が約束してくれた通り、満月の夜に扉が開きます」


 オーデンがリコの横に一歩近づいた。彼の金の瞳には複雑な感情が渦巻いていた。


「本当は……帰りたいのではないのか?」


 皇帝の問いかけに、リコは一瞬言葉を失った。彼女は胸の内を探った。この世界での日々 —— ツカサとの出会い、オーデンとの会話、帝国の人々との交流。すべてが彼女の心に深く刻まれていた。


「……私は、ここに残ることを選びました」


 リコの声は静かだが確信に満ちていた。彼女はオーデンを見つめ、そっと微笑んだ。


「でも、キョウカさんには選択の自由があります。彼女が望むなら、元の世界に帰る権利がある」






(準備はできていますか?)


 その時、空気が震えた。世界樹の前に、光が現れた。


 創成女神の声が空中に響いた。金髪が月光に輝く女神の姿が、世界樹の前に優雅に現れた。


(時が来ました)


 創成女神の声は優しく、どこか悲しげに響いた。


(さあ神代業子よ、貴方の「返却」のスキルを使う時です)


 その言葉で、リコはすべてを理解した。


 彼女は心の中でステータス画面を開いた。そこには確かに「返却」のスキルが表示されていた ── 自分が持つ聖女に関わるすべての力を、世界樹に戻すスキル。この力を使えば、聖女の力の循環をリセットできる。しかし、一度使えば二度と取り戻せない、究極の選択。


 リコは祈った。その祈りは世界樹に響き渡り、創成女神にも届いた。


(創成女神様! 聖樹ユグドラジルに、私は私の力を全てお返しします!)


 彼女の声には揺るぎない決意が込められていた。


(そしてもう二度と、異世界から無理やり召喚される少女がいなくなるようにお願いします。 次に聖女が必要になった時は、この世界から、心根の優れた者が自らの意思で選ばれますように……)


 リコの身体全体が輝き、自分の内に存在した何かが抜け出て、やがて光となって世界樹へ向かっていった。その祈りと光毎、世界樹に響き渡り、木々の葉が一斉にざわめいた。


 創成女神はうなずくと、世界樹に向かって手を差し伸べた。


 世界樹が応えた。


 最初は微かな振動から始まり、次第に樹木全体が柔らかな光を放ち始めた。その光は銀色で、月明かりと調和しながら次第に強くなり、世界樹の根元の一点に集中していった。


 ゆっくりと光は渦を巻き始め、回転する光の渦の中心に「扉」が形作られていった。


「扉」の向こう側には、まるで窓のように、向こう側の風景がちらついている ——


 懐かしい風景が見える。高層ビル群、信号の光、夜の街を走る車のヘッドライト ──


 地球の、日本の夜景だった。


 地球側の扉の先には、空色の髪の少女のような姿の地球側の神様が待っていた。


 リコは胸が締め付けられるのを感じた。


 帰りたいと思っていた故郷が、今、目の前に開かれようとしている。しかし同時に、この世界で築いてきたものすべてを手放すことになるのだ。


「これが……帰還の扉……」


 キョウカが呟いた。彼女の声には、震えるような期待が込められていた。


 リコは一歩踏み出し、キョウカの肩に優しく手を置いた。その手の温もりは、最後の別れの挨拶でもあった。


「さあ、行ってちょうだい」


 リコは微笑んだが、その笑みの端には悲しみが滲んでいた。


「元の世界で、幸せに暮らしてね。友達に会って、家族に会って……普通の女子高生としての生活を取り戻してね」


 彼女はキョウカを優しく背中から押した。その動きは、妹を見送る姉のようでもあった。


「そして……もし可能なら」


 リコの声がわずかに震えた。


「この世界でのことは、いい夢だったと思って忘れたほうがいいわ。苦しいこと、悲しいこともあったけれど……出会えたことには感謝してると……」


 キョウカは振り返った。彼女の黒い瞳には、月明かりに照らされた涙が光っていた。


「リコさん……」


 彼女の声も震えていた。


「ありがとうございます。本当に……私をここまで連れてきてくれて、扉を開いてくれて……」


 キョウカは一歩、光の扉に向かって歩み出した。その足取りは重く、ためらいがちだった。彼女はもう一度振り返り、三人を見つめた —— オーデン、リコ、そしてツカサ。


「さようなら……」


 彼女はそう言って、再び扉の方に向き直った。


 その時だ。


 キョウカの背中で、何かが変わった。肩の力が抜け、ためらいが消え、代わりに何か決然としたものが宿った。彼女はゆっくりと振り返ると —— その表情は一変していた。


 優しさや感謝の色は消え、代わりに何か歪んだ、計算ずくの決意のようなものが浮かんだ。彼女の目つきが鋭くなり、口元が狡猾に引きつった。


「でもごめんなさい、リコさん」


 彼女の氷のように冷たい声が、夜の空気を切り裂いた。


「バカなリコさん」


 次の瞬間、彼女は素早く動いた。まるで豹のように、リコの傍に飛び出し、両手で彼女の肩を強く押した。 


「え……?」


 リコは理解する間もなく、バランスを崩し前に倒れかかった。彼女の目は大きく見開かれ、驚きと混乱が映っていた。


 キョウカは突然、逆に、リコを「扉」に向かって強く押し出していたのだ。


「ざまあみろ!」


 キョウカの声は高らかに響き渡り、これまでの弱々しさは微塵もなかった。彼女の目には狂気じみた輝きが宿っていた。


「元の世界へ行くのは貴方よ! 貴方を異世界から追い出せば、私が次代の聖女の力を引き継いでラブラブ逆ハーレム生活ができるのよ! 私がこの世界のヒロインになれるのよ!」


 彼女の目は狂気じみて輝いていた。長い間隠し続けてきた本心が、今、一気に噴き出していた。


「私は最初から地球になんか帰りたくなかった! ただの女子高生なんてつまらないもの! ここで聖女になって、王子様たちにちやほやされたいのよ!」


 彼女は再びリコに突進し、今度は腕を掴んで光の扉の方へと引きずり始めた。


 リコはバランスを崩し、光の渦の方へと倒れていった。彼女の茶色の髪が空中で乱れ、驚きと悲しみが入り混じった表情が一瞬浮かんだ。


「キョウカさん!」


 ツカサの叫び声が響いた。


「キョウカ殿! 何をするか!」


 オーデンの怒声が響いた。皇帝は護身用の聖剣に手をかけ、一歩踏み出そうとした。彼は瞬間的にリコを救おうと焦って手を伸ばしたが、キョウカの行動があまりに突然で、一瞬遅れてしまった。


 しかし、キョウカはすでにリコを扉の縁まで引きずり込んでいた。光の渦がリコの衣装の裾を巻き込み、彼女を中へと引き込もうとしていた。


「もう遅いのよ! 彼女が消えれば、聖女の力は私に ——」


 しかし ──


 キョウカの言葉が途中で止まった。


 リコが「扉」に吸い込まれそうになったその瞬間、彼女の胸から暖かく強い光が輝いた。因果応報の護符が発動したのだ。オーデンから贈られたこの護符は、悪意の行為を跳ね返す加護を持っていた。


 同時に、もう一つの力が働いた。


 《リコ、動かないで!》


 ツカサの声がリコの頭の中に直接響いた。時間が、ほんの一瞬だけ止まったように感じた。いや、実際に止まったのだ。ツカサの聖女としての力で、時間の流れをほんの一瞬だけ凍結させたのだ。


 《聖女の力が移行すると思うなんて、彼女は根本的に誤解している》


 ツカサの声は驚くほど冷静で、確信に満ちていた。


 《でも、彼女の行為は許されない。リコ、貴方の「言霊を聴ける代理人」としての能力を使う時だよ》


 その言葉で、リコにはわかってしまった。


「創成女神様! 地球の神様! そして聖樹ユグドラジル! どうか地球と、そしてこの世界を守るために、2度と召喚による悲劇が起きないように、真の聖女様の力をお貸しください!」


 彼女の悲痛な叫びが辺り一帯に響き渡り、聖樹ユグドラジルに、数えきれない程の妖精たちだけでなく、下位の精霊から上級の精霊まで、全ての森羅万象を司るものたちが集った。


(承知していますよ)


 創成女神の優しいその声には、深い悲しみと、ある種の覚悟が込められていた。


(では、最後の調整を)


 時間の流れが再び動き出した。


 キョウカはまだリコを押し続けていたが、護符の光が爆発的に輝き、キョウカの手を跳ね返した。銀色の光がリコを包み、リコ自身の落下を止めた。しかし同時に、「扉」の座標が微妙にずれ始めていた —— 護符の力と「聖女」の全ての力が同時に発動した影響は空間に干渉し、予定されていた地球への道筋を乱していた。


 地球側の神様の姿は、徐々に見えなくなっていった。


 キョウカの手に飛び火した光は、彼女の全身を包み込んだ。


「な、なにこれ? どうなってるのよ!」


 キョウカが驚きの声を上げ慌てふためいた。まるで自分自身が「扉」に吸い込まれていくのだから。


 リコの背後に、銀髪の美しい姿が完全に現れた。ツカサだった。彼女の紅の瞳は深い悲しみに満ちていたが、同時に確かな決意も宿っていた。


 「残念だったね、キョウカさん」


 ツカサの声は優しかったが、その中には揺るぎない真実が込められていた。


 「聖女の力は、そんな簡単に奪えるものじゃないんだよ。ましてや、裏切りや悪意で手に入れられるものじゃない」


「カプチエーク?……あなたって……」


 キョウカの目が大きく見開かれた。彼女は初めて、ツカサの本当の姿を理解し始めた。


 ツカサは悲しげに微笑んだ。


 「どうやら今世では私が真の聖女だったらしいよ。妖精王でもあり、精霊となってしまった」


 彼女はリコを見つめながら言った。


 「そしてリコ、いえ、リコは私の代理人。彼女には『返却』のスキルがあったから。聖女の力を世界樹に全て返し、次に相応しい者に与えるためだけのスキルがね」


 リコはゆっくりと立ち上がった。護符の光に支えられ、彼女は倒れずに済んでいた。彼女の目には悲しみと決意が宿っていた。


「キョウカさん」


 リコの声は静かに響き渡る。


「あなたが望むなら、聖女の力はあげられないけど、元の世界に帰る方法なら ── 私たちは用意していました。正直に言ってくれれば、ちゃんと話し合えたのに」


「嘘つき!」


 キョウカが叫んだ。彼女の目には悔しさと怒りの涙と……そして、狂気の輝きが増していた。


「みんな私を騙しているのね! しかもカプチエークが真の聖女ですって? 私が聖女になるのよ! 私がこの世界で幸せになるの! 私がヒロインなのよ!」


 キョウカは再び突進しようとした。






 *****


orz ありゃん?返却使ったのに扉閉じれんかった…後編へ続く?

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