11、絵本「召喚された聖女のお伽噺」より抜粋
orz 今度は過去歴史話で短く手抜き?…
◆絵本「召喚された聖女のお伽噺」より抜粋
── 歴史は繰り返すと言うが、聖女の力の継承について、人々は誤解を重ねてきた ──
ある時代、優しい心を持つ聖女ヒナノが病に倒れた。聖女には親友のミズハがいた。ミズハも召喚者ではあったが、特別な力は持たず、医療と薬草の知識で人々を助けていた。ヒナノは自らの寿命が短いことを悟り、最期の力を振り絞ってミズハに「譲渡」を行った。
人々は
「聖女が死んで力が移った」
と噂したが、真実は友情による自発的な贈り物だった。
またある時代、悲劇が起こった。
聖女キリアが異世界人に襲われ、命を奪われた。その時、近くにいた別の転移者であるカナタに聖女の力が宿ったと噂された。しかし実際は、キリアの怨念が、復讐を果たしてくれる者であるカナタに力を託しただけだったのだ。
つまり、聖女が死んだからといって、単に一緒に召喚されたというだけで、力が自動的に移るわけではないのだ。
また、ある時代、ムーン王国に召喚された二人の女性。
女性は特別な能力を持っていた。
「言霊を聴ける代理人」
という職業で、普通の人間には聞こえない精霊や妖精の声、真の聖女の言葉を理解できる。聖女のステータスには「返却」という特殊スキルが記されていた。
人々が思い込む「譲渡」とは、確かに聖女の力を次代に託すためのスキル。しかし女性の持つ「返却」とは、聖女に関わる全ての力を、その源である世界樹に戻すためだけのものだった。
「たとえ譲渡ができたとしても」
女性は思った。
「恩を仇で返すような相手に、どうして力を譲ることなどできるだろうか」
実は、女性のそばには、もう一人の「聖女」がいた。正確には、精霊であり真の聖女である存在 —— 世界樹によって選ばれた存在である。
聖女はかつては地球で暮らす普通の人間だ。
しかし不慮の事故により、気が付けば、創成女神と地球側の管理人から声をかけられていた。
(地球に再度生き還らせることは叶わないが、もしも異世界に転生してくれるなら、新しい身体と人生を贈らせてあげよう。ただし、代わりに召喚される地球人を守り、救ってあげてほしい)
と。
地球で過ごした親しい人々との別れは辛かったが、彼女は承諾した。世界樹の傍で精霊として転生し、真の聖女となった。
ムーン王国が再び強引な召喚儀式を行おうとする魔力を感じた時、聖女は王国へと急いだ。
そして召喚された女性が「返却」のスキルを持ち、しかも聖女の代理人である能力があることを知り、女性を守るためにそばに憑き、助言を始めたのである。
女性がムーン王国で召喚された時、時間が止まり、ステータスが改竄されたように見えた奇跡 —— あれは聖女の仕業だった。女性だけが、精霊となった聖女の声を聞き、その存在を感知できたからだ。他の者にはその姿を見ることができず、声も聞くことができないのだから。しかし、聖女は意識操作を行って、女性が疑問に思わないようにしていた。
「帝国以外の国では、私の姿を隠しておくからね」
聖女は女性にそう説明して常に彼女の傍を付かず離れず居続けたのだ。
女性は当初、聖女を生きている人間の聖女だと思い込んでいた。だから、ムーン王国を離れ、他の国々を旅する中で、周りの人々が聖女のことをまるで存在しないかのように扱う違和感に気づきながらも、深く疑問に思わなかった。
聖女にとっても、精霊となった今、女性を通してしか姿を見せることができず、声を届けることができないのは寂しいことだったから。ただ一つ、聖樹ユグドラジルの立つサンディ帝国内だけは例外だ。そこにはマナが満ちてあふれており、聖女は自由に姿を現すことができ、声を響かせることができたのだから。
ある日、聖女は女性を連れて世界樹の元を訪れた。創成女神と地球側の管理人もそこに現れた。
地球側の管理人は、空色の髪に銀の瞳、額に一本の銀の角を持つ、12歳前後の美少年のように見える女性だ。年齢は見た目とは関係ない、悠久の存在である。
異世界側の管理人である創成女神は、金髪に紫の瞳の20歳前後の女性で、世界を創造した母なる存在でもある。
「話し合わなければならないことがあるんだ」
聖女が口を開いた。
「この世界と地球を繋ぐ「扉」について」
真実が明かされた。
地球から異世界へ誰かを召喚するには、その人の親しい人10人分の生命力が必要だという。両親、兄弟、友人、恋人 —— 親しければ親しいほど、その命の灯火が犠牲となる。しかしこの世界では、たった10人分の魔力で済むのに。
「それは不公平だわ」
女性が声を震わせた。
創成女神が頷いた。
(だから私たちは決めた。今回、女性が地球に帰還した後、二度と「扉」を開けないと)
地球側の管理人も続いた。
(二つの世界を繋ぐには莫大なエネルギーが必要だ。その代償は大きすぎる。何度も扉を作ることは、両方の世界のバランスを危うくする)
世界樹が深い声を響かせた。
(世界樹である私の力と、真の聖女の力をもってしても、開けられる扉は一人分だけ。一度開けた扉は二度と使えない。もう一方の世界から誰かを召喚することも、誰かを帰すこともできなくなる)
四人 —— いや、精霊や妖精たちも含め、多くの存在が話し合った。異世界召喚の知識と方法を永遠に封印すること。聖女や勇者の器は、この世界で生まれ育ち、性格も心根も相応しい者にだけ与えること。
「帝国史召喚の記録」と言う書物の中にも、その厳しい制約の内容は追加されることになった。
女性の前に選択肢が提示された。地球に帰るか、この世界に残るか。
「帰りたい」
女性は涙を浮かべた。
「家族に会いたい。でも……ここで出会った人々も大切だわ」
聖女が優しく微笑んだ。
「どちらを選んでもいいんだよ。ただ覚えておいて。もし帰還を選ぶなら、それが最後の「扉」になる。二度とこの世界には戻れなくなるんだよ」
女性は考えた。地球での生活、異世界での冒険。そして最も大切なこと —— これ以上、無辜の命が召喚の犠牲にならないようにすること。
「帰ります」
女性は決意を固めた。
「でもその前に、私の持つ力を全て「返却」します」
女性は「返却」のスキルを発動した。
聖女に関わる全ての能力が、光の粒子となって世界樹へと還っていく。過剰な力、歪なチート能力 —— それらは元の場所に戻されるべきものだから。
「これで、二度と異世界から無理やり力を奪う必要はなくなったのね」
女性は呟いた。
「この世界には、この世界の法則で生まれる聖女がいればいいのだものね」
女性が最後の扉を通って地球へ帰還した日、世界樹の下で小さな儀式が行われた。
創成女神、地球側の管理人、聖女、そして多くの精霊や妖精たちが集まった。
(やっと……これで終わるわね)
創成女神が宣言した。
(二つの世界を無理に繋ぐ扉は、もう二度と開かない)
地球側の管理人がうなずいた。
「代償の大きすぎる魔法は、封印されるべきだ」
聖女は世界樹に手を当てた。
「次に聖女が必要になるときは、この世界で生まれ育った者の中から、世界樹自らが選ぶようにしよう」
妖精たちが囁き交わした。
『もう誰も、無理やり連れてこられない』
『もう誰も、帰りたくても帰れない悲しみに泣かなくていい』
そして時は流れ、ムーン王国とサンディ帝国には新たな伝説が生まれた。
「かつて異世界から来た二人の女性がいた。一人は力を返し、一人は精霊として残った。聖女たちの選択が、無謀な召喚の時代に終止符を打った」
さて、もう一人。召喚に巻きこまれた少女はどうなったのかって?
少女は結局、聖女の力を得ることはなかった。しかし、自分の誤りに気づき、普通の召喚者としてこの世界で生きる道を選んだという。
真の聖女である精霊は、今も世界樹の傍にいて、時折、精霊や妖精たちと語らう。女性のことは決して忘れない。あの短い時間に共に過ごした、声の通じる唯一の友人を。
そして二つの世界は、それぞれの道を歩み始めた。無理に交わることなく、しかし互いの存在を心のどこかで感じながら ——
これが、召喚された聖女たちの、お伽噺なのである。
*****
三日間、リコとツカサはキョウカの帰還準備を手伝った。彼女が元の世界で混乱しないように、この世界の記憶を整理する方法を教え、別れの贈り物として、この世界の小さな記念品などを準備した。
キョウカはというと、最初のうちは興奮して落ち着きがなかったが、次第に複雑な表情を見せるようになっていた。時折、リコを見つめる彼女の目には、何か言いようのない感情が浮かんでいた。
「キョウカさん、大丈夫ですか?」
三日目の朝、リコが客間を訪ねると、キョウカはぼんやりと外を見つめていた。
「あ、リコさん……ええ、大丈夫です。ただ……ちょっと複雑で」
キョウカはうつむき、自分の手のひらを見つめた。
「私が帰って、リコさんが残る……それで本当にいいんですか? リコさんだって、地球に帰りたいって思う時があるんじゃ……」
リコはそっとキョウカの隣に座った。
「正直に言うと、迷いはありました。でもね、キョウカさん。私はここでやるべきことがあるんです。聖女の代理人としての役割、亜人と人間の架け橋になること……それに」
彼女は少し照れくさそうに笑った。
「ここには、私を必要としてくれる人たちがいますから」
キョウカは何も言わず、ただうなずいた。しかし彼女の目には、リコには理解できない何かが光っていた。
*****
ツキナ=月那
ヒナノ=火菜乃
ミズハ=水羽
キリア=木莉愛
カナタ=金太
orz く、苦しい…それとこのお伽噺は、風刺として後の聖人たちのために残され記録されたので、当初予定したラストではないです。このお伽噺自体も組み込む予定だったので、やっとここまで来たかって感無量。




