第3話 出会いと家族
島にやってきて、最初の一夜が明けた。
慣れない畳の匂いと、庭で鳴るししおどしの音。
東京の喧騒とは無縁の静寂の中で、僕は不思議な夢を見た。
一面のハルジオンに囲まれた、白い世界。
そこにいたのは、名前すら忘れてしまったという、透き通るような銀髪の少女。
彼女が最後に残した「また会いましょう」という言葉が、今も耳の奥に残っている。
けれど、目を開ければそこは現実の四月。
夢の余韻を振り払うように冷たい水で顔を洗う。
今日は、昨日やっとの思いで約束を取り付けた、ミカちゃんとの島巡りの日だ。
夢の中の彼女と、現実で僕を待っているミカちゃん。
二人の少女の影が重なり合うような、そんな奇妙な感覚を抱えたまま、僕の根大島二日目が始まる。
四月二日、今日生まれた人は遅生まれの最前列である。
僕は三月十日生まれで、早生まれの中の早生まれに分類される。
そんなことより、今日はミカちゃんに根大島を案内してもらう約束の日だ。
外は晴れていて、四月にも関わらず二十七度と夏のような暑さだ。
上半身裸になりたい思いがあるが、小学生にそんな姿を見せたら逮捕案件だ。
自分はもう法律上成人なので、本当に逮捕案件なのです。
「髪がボサってる……アイロン、まだ荷物が届いてなくて無いんだった」
仕方なく僕はクシを借りて、簡易的に髪を整えた。今ある服の中で、薄めで綺麗なシャツを選び、ボタンを留めて襟を整える。
なんてったってミカちゃんとデートなのだから。
……いや、この言い方は些か犯罪臭がするのではないか。
「ごめん、待たせてミカちゃ……」
僕は玄関で待っていたミカちゃんを見て、口をポカーンとした。
そこにいたのは、お気に入りの白いワンピースを着たミカちゃんだ。
髪型は昨日とは違い下ろしていて、麦わら帽子を被っていた。その服装と髪型は、いつか似たものを見たような気がした。
「……なんですか。変ですか」
黙り込んでしまった僕を不審に思ったのか、ミカちゃんが不安そうに裾をつまんだ。
「変じゃない! とても似合ってるなと思って! 昨日のツインテールと違って、今日は下ろしてるからいつもより大人っぽいな」
「いつもよりって……出会ったの、昨日ですよね」
冷静に突っ込まれてしまった。しかし、出会った直後より普通に話せるようになっているのが、僕自身とても嬉しい。
昨日は、僕と視線が合うなり驚いて逃げていたものだ。
「別に、可愛く見せるとかじゃなくて……お母さんが、外に行くならちゃんとした格好で行きなさいって……」
僕はラブコメを多少見ているから分かる。
最初の発言がミカちゃんの本音だという……というのは僕の妄想だ。
すっかり僕は、ミカちゃんの虜になっているんだと思う。
「それじゃあミカ先生! 今日は一日、お願いします!」
「みゃっ!? 先生て……変なこと言わずに行きますよ……」
僕の言葉に困惑しながらも、彼女は顔をそっぽに向けながら手を差し伸べた。
「ほら……迷子になると困るので、手を繋いでください……」
差し出された、小さな、白くて細い手。
二十七度の熱気の中で、その手だけがひどく儚く、触れたら消えてしまいそうに見えた。
僕は一瞬、躊躇う。
自分がこの手を握ることは、彼女の平穏をかき乱すことになるんじゃないか。
そんな根拠のない不安が胸をよぎった。
「別に、嫌ならいいですよ……」
俯いたまま、ミカちゃんが声を震わせる。
「……まさかな。迷子にならないよう、ミカ先生と手を繋ぎます」
僕は意を決して、その小さな手を包み込んだ。
伝わってきたのは、外気よりもずっと確かな、生きている人間の体温。
人の温もりを感じるのは、一体いつぶりだろうか。
「……行きますよ」
戸を開けると、強い日差しが僕らを照らした。
まるでスポットライトのような、この島なりの歓迎だろうか。
本土の住宅街は日陰が多かったため、この強烈な光に慣れず、目が薄目になってしまう。
「じゃあまず……商店街に行きましょう」
小さな力に引っ張られ、僕はなすがままに連れて行かれた。身長差があり、僕は少し前傾姿勢になってしまう。
たぶん三十センチほど差があるんじゃないか。今はまずミカちゃんに委ねようと思った。
二十分ほど歩き、坂道を下ると、潮の香りが濃くなってきた。視界の先には、色褪せた看板や赤提灯が並ぶ小さな通りが見える。
商店街というには少し寂れているけれど、どこか懐かしい雰囲気の場所だ。
「ここです」
「おお、ノスタルジー」
そんな独り言がこぼれた。
商店街は人々に賑わっており、道中、何人かの島の人に話しかけられた。
「あらぁミカちゃん久しぶりねぇ、そのお兄さんは誰だい?」
「あ、僕、埼玉から来た浅葱アオイです。この島で一年過ごす予定です」
「あら本土からね。ここはみんな家族みたいなものだから、困ったら頼って頂戴ね!」
「あ、ありがとうございます。……あはは、なんか温かい場所ですね」
深々と頭を下げる僕を見て、ミカちゃんが少しだけ誇らしげに、でも落ち着かない様子でシャツの袖を引っ張った。
「――そこの怪しいヤツ! ミカちゃんに何してんだッッ! 覚悟!!」
再び歩き出そうとした瞬間、背後から大声を出す男子の声がした。
振り向くと、木刀を持った、半袖短パンで日焼けをした男子がいた。
「はっ!? 木刀! なんで!」
その男子は木刀を構え、僕の方へ走ってきた。そして大きくジャンプし、木刀を振りかざした。
「待ってください! この人は……!」
ミカちゃんの叫びが、遠く、泡のように消えていく。熱い衝撃と共に、僕の世界は急激な暗転に飲み込まれた。
『あの……大丈夫ですか?』
また、あの声が聞こえてきた。
遠くで鳴り響く、寄せては返す波の音と共に。
「僕は……確か……木刀で頭を打たれて……はっ! 君は!?」
ここに来る時から見ている、あの夢の世界にまた来てしまったようだ。
しかし、今までとは決定的に違うことがあった。
そこは先ほどまで歩いていた商店街だったが、すべてが新しく、白いフィルターがかかったように透き通っていた。
「君は一体、誰なんだ」
そう問うと、少女は一瞬の沈黙の後、静かに唇を動かした。
『分からない……何も覚えてない。自分の……名前すら』
透き通った声が、風に溶けるように消えていく。
その孤独が、僕の胸を締め付けた。
僕は彼女の正体を確かめようと顔を見上げた。
不可抗力で見えなかったその顔も、今は小さな、けれど形の良い唇まではっきりと見えた。
彼女は、寂しそうに微笑む。
『ねぇ。少し、この商店街を一緒にまわってほしい……な』
少女の手が、僕の袖をそっと引く。
誘われるがまま、僕たちは並んで歩き出した。
『そういえば、あなたの名前……まだ聞いてない』
「僕は、アオイ。……名前が分からないなら、今ここで考えるのはどうかな」
僕の提案に、彼女は目を見開いたようなトーンで答えた。
『私の……名前を?』
「ああ。君が自分を思い出すまでの、仮の名前でもいいから」
『そう……。付けて、欲しいな……』
僕は少し目を瞑り、熟考した。
この透き通った世界と、彼女の儚い美しさに合う音。
「……ハルナ」
ふと思いついたその言葉が、僕の唇からこぼれた。
『……ハルナ? 私の名前?』
「ああ。君が自分を思い出すまでの、仮の名前だ。……どうかな」
彼女は新しく手に入れたその名前を、慈しむように何度も口の中で繰り返した。
唇が「ハルナ」と動くたび、世界に色が灯っていくような錯覚に陥る。
『……うん。ハルナ。私、その名前……好き』
彼女はそう言って、僕の手をギュッと握りしめた。
僕たちはそのまま、静かな時間が流れる白い商店街を少しだけ歩いた。
けれど――。
「それで……っ……あ、頭が痛い……っ!」
突如、耐え難い痛みが僕を襲った。
現実世界で木刀に打たれた衝撃が、夢の境界線を突き破ってきたのだろうか。
『大丈夫……?』
不安げに覗き込むハルナ。
視界が急速に白濁し、彼女の指先の感触が遠のいてい
く。
「ハルナ……多分、もう時間かも。また、いつか――」
伸ばした手は空を切り、真っ白な光がすべてを飲み込んでいった。
「……うぅ、あ」
「ん。起きたね、みんなを呼んでくるね」
目が覚めるとどこかの建物の中、誰かの部屋のベッドに横たわっていた。
隣には、見知らぬ女子が座っていた。
「あ、あと左向いて下見て」
その女子が指さす方を見てみた。
「サーセンしたぁぁぁぁ!!!! 後先考えず行動に移した俺に償いをさせてくだせぇぇ!!!」
そこにいたのは、木刀で僕の意識を失わせた男子だった。
深々と土下座をして謝っている。
「リョウタ、声が大きい。頭に響く」
「いてて、まぁ顔を上げてよ」
見ず知らずの男子に土下座をさせるのは流石に申し訳ないと思い、とりあえず座るよう言った。
「アオイさん! ……起きたんですね……良かったです……」
少年の背後から、ミカちゃんが顔を出した。
その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいて、僕が目覚めたことに心底安堵したのが伝わってくる。
「おや、起きましたか。すみませんね、リョウタが」
外へのドアから、眼鏡をかけた男子が入ってきた。
髪型はマッシュで、穏やかな表情をしている。
「あ、ボクは雲雀 湊です、よろしくお願いします。ピンク色の髪の子は宮代 梓。ボクらはこの島を守る防衛隊とでも思ってください」
「お、そうなんだ――」
「ちょっと!! リョウタ! あれほど後先考えずに木刀を抜刀するのはやめてって言ったじゃない!!」
部屋のドアが勢いよく開き、鋭い声が響き渡った。
現れたのは、透き通った緑色の瞳を怒りに燃え上がらせた女子だった。
ハーフアップの髪を揺らし、彼女は土下座するリョウタに詰め寄る。
「ヒィー!! レイナ様、サーセンしたぁぁ!!」
「あー、彼女は潮崎 澪菜です。防衛隊最強格で、彼女に勝てるものは……」
バコーーン!!!
ミナトの声を遮るかのように、ドアから大きな衝撃音が聞こえ、ドアが倒れた。
「ちょいと待てい!!! アタシを忘れるなよ皆の衆!!! アタシも最強格なんだから!!」
「オウノォォォー!!!!!!! テメェ! ドアを壊して入室するんじゃねぇぇぇ!! おっかぁに怒られるのは俺なんだぞ!!」
リョウタが絶叫する中、砂埃の向こうから現れたのは、オレンジ色のショートボブを揺らす少女だった。
彼女は薄い黄色の瞳を輝かせ、倒れたドアを踏み越えて堂々と胸を張る。
「あはは! 扉の一枚や二枚、アタシの登場演出としては安いもんさ! それより……」
彼女はベッドの上の僕を指さし、不敵に笑った。
「あんたがリョウタの【風雷斬】を受けたアオイくんかい? アタシは舞野 恵湊! この島で一番足が速くて、一番力が強くて、一番……とにかく最強のヒロインさ!」
「どうでもいいわよ……最強格とかなんだろうが」
呆れた顔で、レイナが言う。
「あー、アオイさん、驚かせてすみません」
ミナトが眼鏡の位置を直し、深く溜息をつく。
「おお! よく見たらミカちゃんもいるではないか!!! 久しぶり!」
「久しぶり……メグ姉」
ミカちゃんが少し気恥ずかしそうに、でも親しみを込めてそう呼んだ。
メグミは、倒れたドアのことなんて一秒で忘れたかのように、ミカちゃんの頭を豪快に撫で回す。
「なんだいミカちゃん、そんな湿っぽい顔して! アタシが来たからにはもう安心だよ。この王子様の看病も、アタシの超絶筋肉マッサージで一発さ!」
「逆効果だからやめてあげて。……アオイさん、死んじゃう」
アズサがポツリと的確なツッコミを入れる。
その横ではレイナが呆れたように腕を組み、リョウタは壊れたドアを絶望の表情で見つめていた。
「……あの、みんな。助けてくれてありがとう」
「なんでアンタが謝るのよ。元はといえば、このバカが悪いんだから!」
レイナはそう言い、リョウタの頭を一発ぶった。
「うぅ……すいやせんした。ところで、あんたはなんでミカちゃんと手を繋いで歩いてたんだ?」
僕は、この島に来た理由から、今日ミカちゃんと島を巡る約束をしたことまで、すべてを話した。
「……なるほどね。本土から浪人生活をしに、この根大島へ……」
僕の話を聞き終えたミナトが、深く頷いた。
部屋には、壊れたドアから吹き込む潮風と、リョウタの反省の溜息が混じり合っている。
「なんだ! 訳ありの受験生だったのか! それならそうと早く言ってくれれば、俺だって【風雷斬】の峰打ちくらいで勘弁してやったものを!」
「抜刀した時点でアウトよ、このバカ」
レイナの冷ややかな一言に、リョウタが再び縮こまる。
一方でメグミは、僕の事情を知ってさらに目を輝かせていた。
「となるとアオイくんはアタシ達のセンパイなのか! あはは! あんまりセンパイという質には見えないや!」
「ということはあれか、アオイさんは勉強上手いのか!?」
リョウタが身を乗り出し、必死な目で僕に迫る。
勉強が「上手い」という表現もどうかと思うが、そもそも勉強ができればここにはいないはずだ。
だがその切実な瞳に、僕は少し気圧されてしまった。
「なんか、さん付けは慣れないな。タメでいいよ、みんな」
「あ、ボクはさん付けでいいでしょうか? そっちの方が喋りやすいので。そうだ、勉強ができるということは数学と物理には精通していますか?」
ミナトが眼鏡をクイクイさせながら、勉強の話に食らいつく。
「ごめんね、僕は文系で理系はあんまり……。英語なら、理系の大学に行くとしても使うでしょ。英語なら……」
「わーお! アオイっちは英語得意なのか! それはピッグな排球だ!」
もうメグミからは「っち」呼ばわりのようだ。
それよりも、ピッグな排球とは……?
「何言ってるの、メグミ……」
「あれ! 大きい頭の良さ!」
「もしかして、ビッグとIQのこと言ってるのか?」
「おお! それだアオイっち! アイスカウンター!」
アイスカウンター……ナイスアンサーか……!?
「もうメグミったら! アオイが困ってるわよ!」
昨日の三人きりの状況から、一気に賑やかな雰囲気になった。
まだ受験生の自覚がなかった、高校生の頃を思い出す。
ふとミカちゃんの様子を見ると、彼女はまだ黙り気味だった。
「じゃあ僕は、ミカちゃんに島を案内してもらうよ。看病ありがとう」
「そっかー、じゃあ別日に俺が改めて島の案内してやるぜ!」
リョウタが親指を立て、白い歯を見せる。
脳震盪を起こさせた張本人とは思えない爽やかさだ。
みんなに別れを告げた。
建物(三雲家)を出ると、潮風が僕らの火照った顔をなでていった。
それからの時間は、まるで万華鏡を覗いているようだった。
「ここ、波の音が一番綺麗なんです」と少しだけ得意げに笑った砂浜。
階段を上る僕を後ろから追い越し、「お祈り、ちゃんとしてくださいね」とたしなめられた古い神社。
定食屋では、ミカちゃんが「これ、美味しいですよ」と自分の小皿から刺身を分けてくれた。
歩くたびに彼女の帽子が揺れ、そのたびに僕の知らないミカちゃんを一つずつ知れた気がした。
繋いだ手から伝わる体温は、午後の陽射しよりもずっと僕を熱くさせていた。
「ここが最後です」
日がもうそろそろ沈みそうな時、最後に案内されたのは、島の一番高い場所にある展望台だった。
そこから見える景色に、僕は思わず息を呑んだ。
空は濃いオレンジから紫へと溶け出し、その境界線が海に反射して、世界全体が柔らかな光に包まれている。
昼間の暑さも今は心地よい微風に変わり、汗ばんだシャツを優しく冷やしてくれた。
「……綺麗だ」
月並みな言葉しか出てこなかった。
けれど、その隣で西日に照らされるミカちゃんは、景色以上に綺麗だった。
麦わら帽子の影で、彼女が少しだけ伏せがちな目を僕に向け、ポツリと独り言のように呟いた。
「……アオイさん、今日は楽しかったですか……?」
「うん、もちろん。リョウタくんに殴られた時はどうなるかと思ったけど、おかげで面白いヤツらと会えたし、何よりミカちゃんの色んな表情が見れたから。だから今日は……案内してくれてありがとう!」
僕が正直な気持ちを伝えると、ミカちゃんは少し意外そうに目を見開いたあと、慌てて視線を海の方へ戻した。
「みゃっ……そうですか。案内した甲斐がありました。あ……別に、可愛く見せたかったとかじゃなくて、案内役として案内しただけ、ですから」
また「お母さんに言われたから」というフィルターをかけようとしている。
でも、夕陽に照らされた彼女の耳が、真っ赤に染まっているのを僕は見逃さなかった。
「……アオイさん。わたしはアオイさんと、これからどう接したほうがいい……ですか?」
ミカちゃんは自分の左手を胸に当て、僕のシャツの袖を右手で小さく、でも確かに引っ張った。
「家族みたいに接してくれたら嬉しいな。言いづらいけど……僕がお兄ちゃんで、ミカちゃんが妹みたいな……?」
「みゃみゃっ!?」
ミカちゃんが、今日一番の変な声を上げた。
あまりの驚きに、シャツを引っ張っていた手が一瞬泳ぎ、慌てて真っ赤な頬を押さえる。
「あ、いや、もちろん嫌ならいいんだけど。昨日会ったばかりだし、いきなり厚かましかったかな……」
あまりに激しい反応に、僕は少し気後れして頭を掻いた。
十八歳の浪人生が小学生の女の子に向かって「お兄ちゃんで」なんて、冷静に考えれば不審者一歩手前かもしれない。
ましてや、血の繋がっていない女の子にそんなことを言うのは。
「い、嫌とかじゃないです……! ただ、その……アオイさんは変な人だなって……」
彼女は麦わら帽子をグイッと深く被り直し、顔を隠すように俯いた。
でも、帽子の隙間から見える耳は、夕日よりも鮮やかな赤色に染まっている。
「……わかりました。島のみんなも家族みたいなものですし。わたしだけ仲間外れなのは……ちょっと、嫌ですから」
ミカちゃんは、僕のシャツの袖を、さっきよりもギュッと強く握りしめた。
「……じゃあ、お兄ちゃん。今日一日の案内、お疲れ様でした。妹のわたしが……お家まで、ちゃんと連れて帰ってあげます」
彼女は僕との身長差を埋めるように少し背伸びをして、暗くなり始めた階段を一歩先へと踏み出した。
さっきまでの固い表情じゃない。
どこか誇らしげで、でも少しだけ甘えるような足取りだ。
「ほら、帰りますよ、お兄ちゃん!」
振り返った彼女の瞳には、一番星が反射してキラリと輝いていた。
その輝きを見て、端っこに少しだけ色が塗られていた心のキャンバスの中心に、一気に鮮やかな色が塗られたような感覚がした。
この時、本格的にここに来てよかった、提案してくれたお母さんに心から感謝したい、そんな気持ちに満たされた。
僕は「はいはい、ミカ先生」と苦笑いしながら、その小さな背中を追いかけた。
四月二日。
早生まれの僕にとって、新しい世界がようやく呼吸を始めたような、そんな一日の終わりだった。
第3話、いかがでしたでしょうか。
現実世界では賑やかな仲間が増えましたが、一方で夢の中の少女に「ハルナ」という名前がつきました。
それよりも思った事が1つ。
ミカちゃんが尊すぎる!!
書いてる本人が書いてる最中ずっとそう思ってました!
アオイくんが虜になるのも理解できます、ちなみにアオイくんを犯罪者に仕立てるつもりはありませんからね!!!
これからのアオイくんとミカちゃんの関係がどうなるか楽しみです、執筆者本人ですが。
これからの根大島での生活を乞うご期待を!!
おやすみなさい!夢で逢えたら!




