第78話 霊の森
「ひいぃぃ〜〜〜!」
俺の倍近い体積がある筋肉の塊から、お化け屋敷で怯えてるチビっ子みたいな悲鳴が発せられている。
おいおいおいっ!デカブツふざけんな!俺を盾にするんじゃない!全然隠れてねえんだよ、そのうすらデカい図体は!ちょっと前までは随分と強気でいたのにな、滑稽だよ全く。
って、ちょっと待て、デカブツの異常な怖がり様に変に落ち着いてたけど………何なんだよこの大きさは!幽霊って元は人間って事だろ?生きてた頃に20m位だった人間がいるって事か!?見た感じはオーガやらトロールみたいな巨人族って感じじゃなくホント只の中年のおっさんみたいなんだが、超デカい。サイクロプスよかデカい。でも足は透けて無い。色々とおかしい所が目白押しなんだけど………
「あれ〜?なんだコイツ、ネオ黄柱が刺さんないよ?」
バカディッド!お前には様子見とか観察するとかそういう選択肢はないんかよ!何柱とか今は関係ねえだろ!絶対今ので俺達のこと気付かれたぞ!
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
そんな全く何も実らない事をしている間に、小さく低い唸り声を放ちながら半透明な巨体が俺達全員に覆い被さる様に倒れ込んできた。
「やばい!潰される!」
避けることは不可能な大きさであり、俺は何もできずに目を瞑り観念することしかできなかった。
…でも竹槍の攻撃はすり抜けてたよな?向こうだけ当たるってのもおかしくないか?
いつまで待っても衝撃が来ないのでゆっくりと瞼を開けてみる。
「おい!皆んな大丈夫か?俺は何のダメージもないみたいだけどやられた奴はいないか?」
なんとなく大丈夫な気がしてたので直撃を食らってしまったのだが、俺は思った通りに無傷であった。
「コッチもなんとも無いよ。痛くも痒くもないし面白くもないよ。」
攻撃がすり抜けたのが甚く不満だったらしい。その前に先走ってんじゃねえよ、オマエのせいでこうなってんだからな。
「自分の方も特に変わったことは無いようだな。触れた瞬間だけ少し体温を奪われたくらいしか変化は無かったぞ。」
変態にも特に効果はなかったようだな。何がしたかったんだ?この巨大幽霊は。
「さ………寒ひれす………震へがとまらなひです………あぁ、頭がくらくらひまふぅ〜〜〜」
あっ、一人だけなんかめちゃめちゃ言動がフニャフニャになってる。そういえば状態異常を起こさせるっとかって言ってたな、こういう事なのか。
?でもさ、ディッドは何喰らってでもピンピンしてて不思議じゃないし、マグは毒じゃなければ心配しなくていいだろう。でも何でラッキーはこうなってんだ?肉体的には一番強いし、滅多な事にはビクともしないと思ってたんだけど。
それ以上に何故俺は平気なんだろう?何の耐性も持ってないのを自負してる俺なんだけどな。
そんな中、爆発音が辺りに響き渡ってきた。
「案の定、爆破も炎も冷凍も駄目だな。ディッド、お得意の除霊とやらを見せてみろよ。」
マグがディッドを分かり易く挑発しだした。相変わらずのガキの喧嘩だな。
「はぁ?そんなに簡単にやっつけたらせっかくここまで来たのにもったいないよ。もっとあれが嫌がることできないの?なんか出してよ。」
除霊に関しては自信満々なんだな、しかもこのサイズ相手にも関係ないのか。しかし、除霊自体が眉唾なんだけどな。
あれ?デカい小動物が真っ青な顔をして紫色の唇をガタガタ言わしてるぞ。余り長引くと流石にマズイかもしれないな。
「モタモタしてるとラッキーがヤバそうだ。どうすれば異常から回復するかは分からないから、まず巨大幽霊を倒すことに集中する方とラッキーを治療する方で別れよう。」
俺とマグでラッキーを診て、ディッドに除霊を頑張って貰えば俺的に特に難しいことはしないで済むとの読みだった。
「さあ!いけ!やっちゃえ、アル!」
あれ?なんで俺を最前線に立たせるんだバカディッド!お前の力と竹槍でもダメージ与えられない相手だったんだぞ!?俺が何とかできるはず無いだろ!
巨大幽霊は正常な3人をゆっくりと一人づつ確認しながら攻撃対象の品定めをしている。結局、まず襲われるのは毎度の如く俺っぽいのはなんとなく分かった。
「ふざけんな!取り敢えず威嚇だけしてるから早く何とかする方法を見つけ出せよな!」
俺には不似合いだが、紛う事のない聖剣である……はずだ。構えて睨み付ければもしかしたら怯んでくれるかもしれない。気合で押し通れたら儲けもんだな。巨大幽霊が振り回した腕に剣の刃を当てる振りをした。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
あれ?ダメージ受けてんの?この剣、訳分からない………実体の無いもんまで切れるなんて御伽話でしか聞いたこと無いんだけど…………
だ・か・ら!
そんなモン俺に持たせてどうするんだよ!?今の俺はこの世で一番の宝の持ち腐れ野郎じゃないのか!?
お願いだからどこぞの高名な勇者さん、この剣奪い取りに来てくれないかなぁ………今ならとってもお買い得ですけど……
「おお〜、凄いよアル!相変わらず流石だねぇ〜。このままそのヌボーとしたでっかいの小間切れにするトコ見せてくれない?」
しまった!またやってしまったようだ……バカディッドが観戦モードに入ろうとしている。そうなるとまた俺一人でやらされる訳か!?
「ふざけんな!何から何まで俺だけにやらせんじゃねえ!ここはお前らの出番だろうが!早く何とかしろ!!」
「え〜、だって攻撃当たんないんじゃしょうがなくない?相手の攻撃はラッキー以外には関係ないし、攻撃はアルしか当たんないしね。」
「だからこの剣をお前が使えば何の問題も無いんじゃないのか? 貸してやるから早く取りに来いよ!!」
「ヤダ。その剣は生理的に受け付けない。近くに持ってきたらブッ飛ばすからね。」
ヤバイ………俺の手にある剣の纏う気が、光り輝く波動からドス黒く粘度を増した邪悪なオーラに変化した。不思議な事にこの状態になった方が俺は扱い易く感じてしまう。きっとバカディッドを見返してやりたい気持ちや腹立だしさが絶妙にシンクロしてしまうからだろう。
……全く嬉しくないんだけど。
俺一人が働くのが確定したって事だからな。




