第76話 決戦
「ジャス〜、明かり頂戴〜!」
「ジャス〜、この馬どうなの〜?」
「ジャス子〜、この騎手………」
「じゃ子〜、………」
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完全にディッドにロックオンされたな。そしてディッドの質問に嬉々として己が知識を供与する。更に聞き手となり、感嘆し、称賛するデカブツ…………
マグの言う所の化学変化って奴かな?そうやって生み出された凶悪な兵器を今までたくさん見てきた気がする。今、正に禍々しい空気が三人を取り囲みながら、抑止力を失わせ暴走へと誘い始めていた。
「じゃ子はドコに賭けんの?」
「えっと……わたしはギャンブルとか絶対勝てないんです……だから観てるだけで十分楽しめますから……」
さっき俺に話してたな。競馬が大好きで自分の予想にも自信が有るだろうに、それで得をしたことが無いなんて自己肯定感が揺らいでもしょうがないだろう。それでも競馬を愛し、自分なりのアプローチで競馬と向き合っていく。それがジャスの出した答えだった。
…のだが、ここに悪魔が降臨してしまった………
「ふふ〜ん、大丈夫だよ!じゃ子は奇跡の石って知ってる?」
おい!バカディッド、この大衆の中でその事を話すんじゃない。
「!知ってますよ!競馬を色々調べてると伝説のギャンブラーと呼ばれる方々が必ずその存在を語るのですが………ふふ、そういう夢物語みたいなのってロマンですよね!」
有名なんだ奇跡の石。俺は全然知らなかったし、今だに興味もなければ信じてもない。何だろうな…奇跡の石といい、怪しい宝剣といい、世には欲しくてたまらない人がいるだろうに何故に俺の元にあるのだろうか?トラブルしか呼び込まない気しかしないんだけど………
「コレって何か分かるかな〜?」
懐から毎日狂ったように磨いているテッカテカに光った石を覗かせる。
「え、………えっ?………ええ!……まさかコレって……いや、そんな………でも、確かに本で読んだ特徴と一致して………」
激しく動揺しているな。心の奥深くにはやはりそういう血が流れてるのか………
「でね、実はもう一個アルが持ってるよ。」
「…………………へ?」
ジャスは思考が止まったようだ。幻が畳み掛けて来たんだもんな、仕方ないか。しょうがなく嫌々磨かされている俺の方の石も取り出す。
「本物……ですか? えええぇぇ……しかも二つも………でも、まさか……皆さんが嘘をつくなんて思えませんし……」
確かに何故か俺なんかが一つ持ってることが一番怪しい点ではあるけどな。ただ、この石の存在感が本物であることの証明になっているようだ。
「だからさぁ〜、今日はいっちょ勝負してみない〜?」
悪魔がじわじわとにじり寄ってきた。
「いや、でもわたしにはその御利益は無いと思いますし………」
まあ、そうだよな。基本的に持ち主に効果は現れるだろうし。…?でも石が持ち主を認識する事ってできるのかな?
「コッチはじゃ子の事信頼してるし、もう仲間だと思ってるよ。それにじゃ子の予想と一緒のを買えばコッチが買ったのと同じ事だよね?アルも一緒の買うから二重の奇跡が来るってことだよ。」
ちょっと待て。さり気なく俺まで巻き込んできやがった。ジャスの落とし所に俺を使うんじゃない。
「そうですよ!ジャスさんの知識や経験は本物です!それを目に見える形で証明する絶好の機会だと思います!怖がってちゃ駄目です!今あなたを信頼している者がここにいるんです!自信を持って一緒に戦いましょう!」
ペラペラペラペラ薄っぺらい事喋ってんじゃねえよデカブツが!人畜無害な顔しながら、なにお前も闇の世界に勧誘してんだよ!心の底からそう思ってけしかけてるのが一番タチ悪いんだよ!
「お前らやりたくない人に無理やり賭けさせようとするんじゃない!悪かったね、ジャス。気にしなくてい………」
「分かりました。アルゼさんも味方になってくれるなんて、こんなに心強いことはないです!わたしは誰よりも競馬が好きな自信があります。だからこそ、やはり皆に認められる結果を出したい気持ちもありました。今日皆さんと一緒ならきっと大丈夫な気がします!お願いします!わたしと一緒に戦って下さい!!」
ああ、火ぃ着けちゃったよ………確かに気持ちは分かるけど、やってることは趣味で遊びだからな。本気になっても良いけど生活に支障を与えるのは勘弁してくれよ………
「もちろんだよ。ね、アル。じゃ子のフォローをちゃんとお願いするからね。」
これから正直興味があまり無い時間を過ごす事になると憂鬱になってきた。周りの熱気にやられ喉が渇いてきたので、取り敢えず買っておいた飲み物で喉を潤すことにした。
「おぉい、兄ちゃん!それ儂の飲みもんじゃよ!」
隣りにいたいかにも賭け事が大好きそうな爺さんのしゃがれた声が聞こえた。
「あっ、すいません。まちがえひゃいまふぃた。あたりゃふぃいのかってかえしまひゅ………」
酒だった。
しかも超強え。
「おお〜!じゃす〜かったかぁ~!すごいぞ〜、どんどんいくぞぉ〜!!」
一気に回った酔いの中で自分の行動が制御できなくなっているようだ。ノリノリで指示を出して馬券を買っているような気がした。途切れ途切れの意識中で考える間もなく記憶は闇へと失われていった………
「うげぇ……気持ち悪………ここは……宿の部屋……?」
競馬場にいた筈だったのだが記憶が飛んでる最中に部屋に戻って来ていた。全員戻ってきているようだな、レースは全部終わったのだろう。あれ?ジャスもいる。けど状態がおかしい………バカコンビもいるのだが、皆一様に魂が抜けたかのように白く呆けている。
まさか、な。いやいや………依頼が終わって帰ってきたばっかしだよ?報酬受け取って幾らかも経ってないんだぞ。
「何があったんだ?捕まるようなことはしてないよな?」
恐る恐る確認をしてみる事にした。目を覚ました俺に三人が気付いたのだが、綺麗な三角形を描くように位置取り平伏した。
いわゆる土下座である。
背筋が凍り、身が固まり黙り込んだ。そんな中ジャスが静かに口を開いた。
「すいません、最初はとても調子良かったんです。本当なんです。」
何だろう、そのくだりはバカの専売特許でジャスから聞くとは思いもしなかった。
「アルゼさんもどんどん後押ししてくれてレースも勝ち続けていたんです。」
酔った俺は随分ノリノリだったらしい。全く記憶がない。怖い。
「それで最終レースはみんなで力を合わせて大勝負を仕掛けようとなったんですけど………」
裏で糸引いてたのが誰だかハッキリ分かったな。頭イカれた奴じゃないと仲間全員の資産をブッ込むなんてできないだろう?なあ、そこでうつ向いて黙ってるリーダーみたいなお前さんよぉ。
「で、どれくらいスッたんだ?」
もう慣れたからとっとと結果を知りたいんだよ。状況なんて変わりようがないんだからな。ジャスに嫌な役回してる場合じゃないだろ?リーダーさん?
「全部。」
「は?」
「だから、コッチとラッキーとアルとまぐ夫、あとオマケでじゃ子の分。」
ああ、確かに全部だな。
「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ?????」
なんだよソレ?何言ってるんだか理解できないよ。でもさ、何で全部使っちゃうんだよ?あんなに金あったのにもう働かなきゃいけない訳?一週間も休んでないよ?俺。
「最後はアルもノリノリで、チマチマやってないでドカンと一発勝負かけてやれ!って言うからさ。そこまでアルに言われたらみんなやるっきゃ無い!ってなって………こうなっちゃった。」
え?何?俺のせい?
いや、だからオマエ等二人がかりなら余裕で俺なんか抑えられただろ?負けて苦しむのは結局俺だけなんだからな!その上責任まで押し付けやがった。マジで悪魔の所業だなコイツ。
これ以上ここで何かを言っても状況は変わらないだろうし、ジャスも責任を感じて真っ青になったり真っ白になったりとぶっ倒れそうになっているので解放してあげないと可哀想になってきた。
「大丈夫だよ、ジャス。最後のレースまでは勝ち続けてたんだろ?きっと欲にかられると良いことにならないから自制するように、って戒めだったんじゃないかな?俺達に後ろめたく思わなくていいよ。またすぐ任務で動くだろうしね。」
取り敢えず一般市民に余計な心労を掛けてる場合ではないだろう。ジャスは解放してあげなくちゃな。
何度も頭を下げてジャスは帰って行った。外まで見送って部屋に帰ってきたのだが、そこにはリラックスしている面々しかいなかった。
「アレだよね〜、アルがあんなにイケイケになるなんてね〜。今度から無理矢理飲ませちゃおうかな〜。」
なにもう話は終わった感出してんだ?バカディット。
「無理矢理は良くないですよ、ディッドさん。食事の時にさり気なく度数の高いのをつけて貰うか、お菓子にいっぱい使って貰うとかで自然に酔ってもらえうようにするとか………」
お前も随分と悪巧みをするようになったな?デカ団子。
駄目だ、全く懲りてないな。分かってたけど。生活のためにマグに頼んで任務を催促してもらわなきゃな。自ら使い倒されにいってるよ、俺達って………
でも、俺達は今まで色々な所へ行ったり、色々な相手と戦ったりと想像していた以上に沢山の事をこなして来たのは事実だ。そんな事を思い出してしみじみと感じたことを口に出していた。
そして、振り出しに戻る。と




