第75話 夜戦再び
「アア、ケイバネ。ソウソウ、ウチニモスキナノガイルンデス。ハハハ・・・」
あれ?なんか上手く言葉が発することができない。衝撃が強すぎて自分の頭が制御不能に陥っているようだ。
「あっ、違うんです!お金を賭ける訳ではないんです!あの、ええと、その……ですね、レースの予想するのが……好きなんです………それに、どんなに予想が当たっていても、お金を賭けた途端に一切当たることが無いんです………だから自分一人の趣味にしておこうとしていたんです。だけど、アルゼさんには隠さずに伝えたいな、って思ったんですけど………
やはり変ですよね?………すいません、忘れて下さい………」
………はっ! 駄目だ!このままではいかん!
「いやいやいや、ゴメンゴメン。想像してなかったからちょっとビックリしただけだよ。ちょっと俺の仲間が熱狂してる姿を思い浮かべて変な受け答えになっちゃたよ………ははは、」
上手く誤魔化せるとは到底思えないけど、何とかこの空気を元に戻さないと………
「ここの競馬場は本当に立派だよな。前に来た時はゴタゴタしててちゃんと見てなかったけど、競技としての舞台は素晴らしいよね。………そうだ!良ければ競馬場の中を案内して貰えないかな?ジャスだったらこの街の文化財としての競馬の見どころとか教えてくれそうだしね。」
こういう時は相手の好きなものを褒めるに限る。これは身内の理不尽な八つ当たりから逃れる為に、奇跡の石を褒め称え、難を逃れた出来事に由来しているのだ。
「!はい!もちろん喜んでさせて頂きます!さすがアルゼさんです!競馬をギャンブルじゃなく文化と言って頂けるなんて………どうしてもお金が絡んでくると不健全なイメージしかないので………でも、一つ一つのレースにたくさんのドラマがあるんです!勝つまでの苦労とか、負けてもなお上を目指すとか………あっ!…すいません、興奮しすぎですよね………ああ、恥ずかしいです………」
熱いな、なんかどっかのデカブツみたいな語りだったな。まあ、アイツは所持金全部使い切って後で真っ青になる駄目肉団子だけどな。
「恥ずかしくなんて無いから大丈夫だよ。俺もジャスの魔法を見せて貰った時、テンション高くなって舞い上がってたもんな。俺の方がよっぽど恥ずかしいよ。今日ナイターがあるなら何なら今からでも向かってみる?」
そういえばバカや変態が白い目してたっけ。俺はそんな風に見られても全く何も感じないし、夢中になるのに忙しくてアイツ等の相手する暇も無かったしな。
「ええ!良いんですか!?あの、もし興味無かったらちゃんと言って下さいね。わたしはいつでも来れるのでお気遣いしなくて大丈夫ですから。」
まあ俺はギャンブルが嫌いな訳じゃなくて、計画性のない奴や辞めドコロを見失ってドツボにハマっていくどうしようもない奴が大嫌いなだけだ。沈むのなら勝手に沈んでくれ。頼むから道連れだけは勘弁して欲しいもんだ。
誰とは言わないけどな。
早々に食事を切り上げ競馬場に向かうことにした。だって、誘った瞬間にソワソワが収まる感じが無くなっていたんだよ。散歩に行く前のワンコみたいになってしまっていたからね。
レストランを出たら脇目も振らず目的地に向かうこととなったのは言うまでもない。
「この競馬場も建物自身が歴史のある建築物なんです。至る所に競走馬がモチーフになった装飾がなされているのですけど、その時代時代の実力馬を高名な芸術家が作品にして飾られているんです。」
レース場に向かうまでの間に銅像や絵画、彫刻、ガラス細工等色々な作品が展示されていた。どれもこれも確かに素晴らしい作品だった。俺は造詣が深い訳ではないが、今にも動き出しそうに思える迫力に感嘆が止まらないでいる。
「いやぁ、来て良かったよ!こんなに色んな見どころがあるなんて思ってみなかったよ。嬉しい誤算って奴だな。」
ジャスは競馬場を網羅しているようで一つ一つ丁寧に解説してくれようとする。が、やはりレース場の状況が気になるらしくチラチラと歓声の方に目がいっていた。
「やっぱり向こうが気になるようだね。それじゃ、レースを先に見に行こうか。」
「ええ、あ、すいません。気になってるのバレちゃいましたか?………でも、そう言って貰えて嬉しいです!」
うむ、分かりやすい上にとっても素直だ。好感しかないぞ。
観客席の向こうに広がる芝のレース場が目に入った瞬間、眼がキラキラと輝いていた。幾度となく足を運んでいるだろうに、本当に競馬という競技が大好きなんだろうと分かる。人波を掻き分け良く観える場所を目指しどんどんと進んでいく、俺の手を握りながら………
「あぁっ!すいません、すいません。はぐれたらいけないと思ってつい………えっと、あの、ごごごご迷惑でしたよね……すいません、少し落ち着きます………うううぅ…」
なんか想像以上のあっぷあっぷ感を醸し出してきたぞ、この娘。この入れ込み方はなんとなく親近感が湧いてくるんだよな。
悪い方向で。
「良かった!いい場所取れました!ここからならしっかり良い所が観るコトができますよ!」
鼻息荒くご満悦なジャスがいた。確かに見通しが良くゴール瞬間もハッキリ見えそうな場所だった。
「ん?」
「あれ?」
「ああ!」
なんか見たことある人間が隣にいた。そうだよな、一番いい場所をコイツ等が見逃すこと無いはずだもんな。
「来たよラッキー!!奇跡が奇跡を呼んでダブルミラクルだよぉ!!!行ける!今日は行けるよぉ!!!!」
「ハイ!こんな日が来るとは思いませんでした!!まさかアルさんと共にこの素晴らしいドラマを共感できるなんて!感激で胸がはち切れそうです!!!」
駄目だ。もう悲惨な未来しか頭に浮かばなくなっていた。




