第74話 思い
週末だ。至って平和だ。バカ二人は朝からハイテンションで意気揚々と出ていった。
俺は優雅にランチを食べている。研究の手伝いに来て貰った一般市民に危害が及ばないように監視をしていたのだが、マッドサイエンティストは時間の概念が乏しいらしく、一般的な常識に準拠するように休憩を促した。
「ありがとうございます!本当にご馳走になってもよろしいんですか?」
マグは外食に行かないで研究を継続すると言って着いて来なかった。放っておくと倒れるまで集中しそうなので、簡単に食べれるものを買っていってやろうと思っている。
いや、身近で魔法を見れる状況を作ってくれた事に感謝して見返りでやってるわけじゃないよ。本当に心配してやってるんだよ、間違いなく。
「気にしないでいいよ。ちょっと臨時収入があって各々やりたいことやってるしね。俺はこういうまったりとしたのがリフレッシュするのに必要なんだよ。」
ジャスはマグに言われて魔法を使いっぱなしだった。本人は平気だと言っていたが、やはりそれなりに気力を消費してるのだろう、傍目にも疲れが見え始めていた。そこはやはり常識を持った俺が監視している以上、しっかりケアをしなければならない所だった。
たくさん魔法を見せてくれたお返しって事じゃないからな。そんな単純な人間じゃないよ、俺は。
結構お高いランチだったが今の俺にはなんの問題もない額だ。なんだろう?ここ数日間強制的に磨かされた御石様のご利益なのかな? ありがとう奇跡、そしてこれからも宜しくお願いします。
「今日は午後はもう大丈夫って言われましたけど、アルゼさんは何か用事はあるんでしょうか?」
「いや、マグに昼飯渡した後は特に用事は無いけど?」
「それじゃあ、この街を散歩とかご一緒にどうでしょうか?観光とまではいかないですけど、わたしが色々案内しますから!」
普通だ………最高に普通だ!そうだよ、俺はこういうので良いんだよ!街に着いても、やれギャンブルだ研究やらで観光のかの字もない旅を続けてきた。まあ、アイツ等と一緒に観光したって何も面白くは無いんだけどな。感動を共感するとか全く想像できんし。冒険者なのに武器屋ですらまともに見ようとしないんだよな………
「本当!?ありがとう!!俺の仲間は余りそういう事に興味が無いからね、色々案内してもらえると嬉しいよ!!」
そういう訳で、マグにお土産のサンドイッチを渡し終わった後にガイド付きでの観光が始まるのだった。
「うお〜、なんだコレ!?凄いな!!」
建物の装飾、カラフルなステンドグラス、万遍なく描かれた天井画、何とも立派な寺院に感動を隠せなかった。
「ふふ、そんなに喜んで貰えるなんてとても嬉しいです!王都の方にはもっと格式高い寺院があるらしいのでちょっと心配でした。アルゼさん達は国中巡ってる様なんで、この街じゃ物足りないかもと思ってたので………」
えっ、そうなんだ?確かに王都ではでかいカジノや王宮とか普通じゃあまり行かない所に行ったけど………うぅ、駄目だ、嫌な思い出とか胃に穴が開くようなストレスしか思い出せない………周りを見て楽しむ余裕なんてあったもんじゃなかったな。その他三人にはそこら辺の趣きを嗜む雰囲気はまるでゼロだったしな。共感してもらう相手がいないと虚しくなってしまうもんだよ。
「いやいや、ウチの奴らはあんな感じで、こういった所には縁がないんだよね。一緒に観て話し合ってくれる人がいてくれると本当に楽しいよ!」
ここまででも露店でこの地方のアクセサリーを買ってみたり、屋台のスイーツなんか食べてみたり、王国直属の特殊部隊員とは到底思えない程のはしゃぎ様であった。
いいだろ?別に。俺はオマケの成り行きで御大層な肩書が付いてるだけなんだからな。辞めていいなら今直ぐ辞めてもいいんだよ。
「でも、すいません。何から何まで頂いてしまって………マグさんから報酬を頂いてるのでわたしの方がアルゼさんにご馳走したかったのですけど…………」
・・・・アイツ等に聞かせてぇ!!
共有資産どころか俺のヘソクリ、あまつさえ武器防具まで金に変え遊興費に投じようとするクズっぷり。賭けに勝っていいもの食っても、その後必ず飢える日々。そのくせ最後にゃ何かと頼る、解決できる訳もないのに。クズを抑えられなかった自責の念で夜も眠れず胃痛に苦しむ。
………はぁ
「いいんだよ、俺達は何時何処でどうなるかも分からないから、必要な時にちゃんとしてあげたいことをしときたいんだよ。変に後悔したくないしね。」
そう伝えた後にジャスの顔が青くなっていった………
「そんな………そんな事言わないで下さい………折角知り合えたのに………そんなに過酷なお仕事なんですか?………皆さん穏やかな方々なので、そんな危険な感じだとは思ってもなかったもので………」
「いやいや!そんなに心配するほどじゃないよ!一応冒険……?をしてる様なものだから、心構えみたいなものだよ。油断しないための自分への戒めにね!」
危ない危ない、要らぬ心配を掛けてしまった。大体カネなんて身内に強奪された挙句、ギャンブルですって無くなるのが基本だからって意味なんだけどな。命の危険なんてそうそう無かった
………か?
え〜と、龍、ドラゴン。でかいスライム、大サソリ。火責め水責め、崖登り降り。そういや賊に刺されたりもしたっけ…………
駄目だ!メチャメチャ命の危険があり過ぎる!………俺だけが!!
この事はバレない様に注意しないといけないな。
「それなら……良かったです。そうですよね!わたしも普通に暮らしてても油断したら人とぶつかっちゃうかも知れませんもんね!?……ふふ!!」
よし、誤魔化せた。今日は楽しむんだからな。これ以上は余計な事言わないぞ。
広場でうたた寝したり、マッサージを受けてみたり、疲労回復も考えてあげてるぞ。なんせ魔法を使いっ放しだったからな。俺の理解を越える疲れが有るに違いないんだからな。
疲れも取りつつ、夕飯の時間になっていた。一日中連れ回したのだがなかなかこの娘はタフなんだな。
「そういえば最初に会ったのってこの位の時間だったけど、何をするところだったの?」
食事をしながら何の気なしに聞いてみた。
「ええっと、お恥ずかしいのですけど………競馬場の方へ………です……」
………え?
…………ええっ!
えええええええええええええぇぇぇ




