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第63話 心

 なんかさ、一対一だと変に慌てなくなったな。怖くない訳じゃないけど、変に肝が座ったというか諦めて吹っ切れただけなのか………

 以前よりか確実に落ち着いて見えるだろうけど実際はちゃんとドキドキしてるけどな。一流の装備に守られてるのもデカいけどね。あんだけ鷲掴みにされたのに怪我一つ負ってないし。




 鷲掴みして鎧着込んだ人間を余裕でこんな所まで飛んで運ぶってヤバすぎないか?ポンポン俺でキャッチボールするバカ共に慣れすぎておかしくなってた。そうだよ、ドラゴンだよ!?なんか急に凄く怖くなってきた………俺一人でどうすりゃいいんだよ!?武器はある、デカブツが相変わらずのコントロールで投げ込んできたからな。まあ聖剣殿もビックリしただろうな。そんな扱いをされるとは露にも思ってなかっただろうに………だが、俺には一丁前すぎるんだよなこの剣。振り回して扱うなんて夢のまた夢、性能におんぶに抱っこで身を守る盾としか使えないんだよ。


「何だよコイツ……硬えっていうか………完全に金属じゃねえかよ!この身体………」

 ドラゴンとしてはそんなに大きくない種類なのだろうが、体高は俺の倍近くはありそうだし翼を広げると更に大きくなる。全身の鱗は銀色に光っており、光の反射で輪郭が虹色に輝いている。鱗や爪が剣と衝突すると甲高い金属音が岩山に響いてゆく。


(あいつら早くしろよ……このままじゃ持たないぞ、俺は!)

 とは思っても、空を運ばれて来たのであいつ等と言えどそうそう簡単に駆けつけられる事はないのは分かってる。何とかこの場を一人で切り抜けなければならないのは明確だった。所々で遠くから石やら爆弾やらがドラゴンに命中しているのだが、一向に介していない。少しくらい動揺とかしてくれないかね………標的をあっちに変えてくれてもいいんだよ?俺なんて可食部分も肉質も大したもんじゃないんだからさ。


「ん?」

 余計なことを考えつつもドラゴンの攻撃を何とかいなしていく。ちょっとでも気を抜けば鎧を貫通してダメージを喰らってしまいそうだ。今俺がやっていることと言ったら相手の攻撃に合わせてカウンターで剣を当てつつ勢いを逸らすことくらいしかできなかったのだけど………ドラゴンの脚に何度か剣が当たっていたのだが、その辺りの鱗の艶が心なしかくすんでいる様な気がする。ウチの聖剣殿は………まるで意に介してないようだ。刃先が曇ることもなく、寧ろ研ぎ澄まされて怪しい光を放ち始めてるような気がする。出処が出処だから俺が勝手に格別だと思ってるだけかも知れないしな。でも、なんかこの剣俺の扱いにイライラしてるような意思をぶつけてきてる気がすんだよな………


(あーっ、もう…いい加減にしろ!)

 次から次へと襲いかかるドラゴンの猛攻に俺の集中力も限界に近づいてきた。無駄だと分かってるが、この状況を少しでも変えたくて時折剣を振り降ろす攻撃を織り交ぜて見ることにした。


(多少なりとも警戒して攻撃の手を休めてくれればいいんだけどな。)

 力いっぱい振りかざすのは技術的にも筋力的にもとてもじゃないが不可能なので、鋭利な剃刀で肉を切る様にただ刃先の鋭さだけに頼った一振りを繰り出した。


「ギャギャッ?」

 あれ?動揺してる?ドラゴンの脚の鱗に一筋亀裂が入ってるよにも見えるな。刃毀れしないだけでも異常なのにましてやね………


 今度はちょっと踏み込んで力を乗せ斬りつけてみる。…………マジかよ………鱗が真っ二つに切れたんだけど………鉄を切れる剣なんて与太話でしか聞いたこと無いよ、やはり常識から外れた何かを秘めてやがるな。




 て、やっぱ俺が持つレベルじゃねえよこの剣!然るべき達人が持つ代物じゃねえかよ!怖い!斬れ味良すぎる……ちょっとでもミスったら自分の腕ぐらい落としちゃいそうな気がする。正に諸刃の剣じゃねえか。俺にとっちゃ呪いの剣に匹敵するんじゃのないのか?あのデカブツ躊躇なく俺に向かって投げつけてきたけど、一歩間違えれば……俺、真っ二つになってたかも……そういや地面にグッサリ綺麗に刺さってたっけ、よく引っこ抜けたな俺……火事場のクソ力って奴だな。こんな所でも俺の紙一重の人生が露呈してしまっている………今まだ何とか生きてるよ、俺。


「うおおおおるぁぁぁぁ!」

 気合だ。気合で乗り切るんだ。ドラゴンだって所詮は畜生だ。でかい声で威嚇すりゃあビビんだろ。確かに鱗は切れてるんだが致命傷にはほど遠いい。結局俺の力ではこれ位が限界なのだろう、斬れ味イコール殺傷能力ではないってことなんだな。それじゃあ突きなんてどうだろうか?鱗の隙間にうまく滑り込まないかと狙いを定めて剣を伸ばす。


「クソッ、ダメか……速すぎんだろ!」

 悪態を声に出す。そうでもしないとドラゴンの威圧に飲み込まれてしまいそうだった。


(チクショウ、俺にもっとスピードがあれば………)

 自分の非力さを嘆いている場合ではないのだが才能がないのはしょうがないだろう。


(人の手を借りなくても倒せるかも知れないのに…………)








 剣を突き出し構えた俺の前にドラゴンが迫り串刺しとなって絶命をした。その鱗を纏った生物の亡骸の影には、飛び蹴りから着地をした俺のよく知った嫌味な顔があった。









「お前……武器は?」

「持ってきてないよ。必要ないと思ったから。」

 





 結果とは別に何をする為にここに来たんだよ、コイツは………



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