第62話 更に上へ
「さあ、行きますよぉ!準備はいいですか?アルさん!」
良い訳無いだろ。何をどうすれば俺がこの状況を望んでると勘違いできる………なんか俺を投げることに喜びを感じてないか?このデカブツ。
「ちょっ、まっ、………て、……あああああああぁぁぁ……」
この前の奇跡の石を取りに行く時は崖をロープで引っ張り上げられたんだっけな。でも今度は更にレベルアップを果たしてくれました。何と登りにおいてもキャッチボールが始まりましたとさ。
やめてくれ。オマエ等俺をショック死させたいのか?
ここの崖はさぁ、前の垂直の崖とはまた違うんだよな。カモシカが蹴り上がって行くようなゴツゴツの岩肌を晒しているんだよ。
見上げて意識が飛びそうになった時の事を思い出していた………
「自分はマーシーの機能で登って行く事ができるから気にしなくていいぞ。多少は時間がかかるけど後から着いてくからな。ただ、自分一人しか運べないから……アルは………大丈夫か?」
ダメに決まってるだろ。だから麓で待ってるよと言いかけたのだが、それもダメに決まっていた。
「アルは安心して良いよ。コッチとラッキーで連れてってあげるからね。」
いや、頼んでないから。
「そうですよ。私達はアルさんを運ぶこと慣れてきましたからね。」
俺は慣れた覚えなど無い。
ロープで引き上げようなものなら俺の身体は岩に打ち付けられズタボロになってしまうだろう。咄嗟に想像したのは拒否反応が激しい方法だったのだが、俺が瞬時に頭に浮かんだ事をコイツらが考え付かないとは思えない。これから始まるゲームにウキウキを隠せない最悪な笑顔の二人が目の前に立ち塞がっていた。
「早い!早いから!!もっとゆっく……りぃぃぃ!!」
叫べば叫ぶほど二人のテンションが上がって行く。人間がカモシカ並みの速度で岩山登るんじゃないよ……俺を投げ、岩を駆け上がり、また俺をキャッチする。落ちたら確実にお陀仏な高さの景色が目まぐるしく展開されていた。
「おしっ。ラッキー、レベルアップ!付いてこれるかなぁ?」
「何を仰る!まだまだ全然序の口ですよ!」
何を仰るのはおまえ等だ。完全に俺をボール扱いしやがった。俺、鎧着たままなんだけど………
その後も何度も行ったり来たりさせられた。イヤイヤ、流石に早すぎる………いつミスをするか分から……………なっ!?
「あっ、しまった。」
バカディッドの声が響いた。なんつった?今。命を預かる者が吐いちゃいけない言葉じゃ無いのか?一発、即、ジ・エンドなんだよ俺。
「ああっ!駄目です!!アルさぁぁぁん!」
終わった。
落ちるまでに意識が飛んでくれれば良いな。そうすれば痛み無く逝く事ができるだろ?物として星になる人間の最後の願いをどうか聞いてもらえますか?神様……………
「クソディッド!いい加減な事してんじゃねえよ!全くどうしようも無いな、アホが。」
マグの罵倒が飛ぶ。と、機械の砲身が俺に狙いを定めている。そうか、いっその事俺を楽にしてくれるのか………ありがとよ、その心意気来世に持っていくよ。
炸裂音と共に放たれた弾丸が俺を射抜く。が、弾丸?が俺を拘束する。ワイヤーで機械に繋がれた俺は弧を描いて宙吊りになった。
「ゴメンゴメン〜。アルぅ〜生きてる〜?」
ゴメンで済まそうとするその脳ミソを疑うわ!マジで人生諦めたぞ!それよかまだまだ危機真っ最中なんだけど、空中でぷらっぷら揺れてるのメチャメチャ怖いよ!?早く引き上げてくれないと嫌なんだけど。
「あ。」
「「「あっ。」」」
目の前に大きな影がよぎったと思った瞬間、俺の体が宙に舞った。鋭くて凶悪な鉤爪が俺の肩から腕にかけて鷲掴みにしている。鎧を着てて良かったなと心底思った。が、その爪を離されたら俺は奈落の底へと落ちることになる。必死に足首を掴み成すがままに運ばされていると、少し離れた岩山の台地に放り投げられた。
「龍………いや、ドラゴンか………」
鎧が掴みづらかったのだろう。巣に持ち帰る前に俺に止めを刺しに来たな。そんなに大きくはないがドラゴンの特徴はありありとしている。辺りを見渡し武器になりそうな物を探してみるが石ころが転がってるだけだった。
「うおっ!」
ノーモーションでいきなり攻撃を仕掛けてくる。小さめでもちゃんとドラゴンだな。生態系のトップに君臨するだけはある強力な攻撃を繰り出してくる。マジにギリギリで避けるので精一杯だった。
何度か攻撃を避けているとプライドに触ったのか、雄叫びを上げ本気にモードに入りやがった。これ以上は避けてるばかりじゃジリ貧になってしまう。
溜息をついた俺の傍らに空から剣が降り注ぐ。とっても価値が有る物だと思うんだけどこんな扱いで良いのかな?きっと凄い怒ってるんだろうなと雰囲気でハッキリと分かるんだけど………まあ、諦めてくれ。力を借りるよ、聖剣さん。




