第55話 所得物
「は?」
床に尻もちを着いた状態でディッドを見上げる。理解が追い付かず呆然と見上げる。
「何言ってんだよ、お前が然るべき使い手だろ?この剣に見合う腕持ってるのは俺達の中じゃお前しかいないんだけど?」
当然だよな。腕が立つ人間に伝説の聖剣なんて勇者まっしぐらコースじゃないか。俺は絶対認めないけど。
「だって、コッチの得物は刀じゃん。それにカルテット柱もあるしね。これ以上は要らないよ。」
おいおい、俺の腕に抱えられてる聖剣さんが狼狽えてる様な気がするんだけど………竹槍以下とかさぁ……罰が当たんじゃないか?
「どっちにしろ俺だってショートソードしか使えないんだけど。こんな立派なロングソード扱える訳無いだろ?」
俺の腕の中からもそうだそうだと同意の声が聞こえるような気がする。
「アルなら大丈夫だよ。何の問題もないよ」
駄目だ、負けるな俺!扱えない以上にこんな不釣り合いな剣持ってたら色々目立って狙われちまうだろ?聖剣さんも俺を応援してくれている(多分)。聖剣さんの尊厳の為にも俺は屈する事があってはいけないんだよ。
「あのなぁ、どう見ても世界に何本と無い宝刀だぞ。そんなそこら辺の竹藪から切り出した槍なんかとっとと捨て…………」
お、おう。出たな仲間に向けちゃいけない殺気。ゴメンナサイ聖剣さん、竹槍に存在価値で勝たせる事ができませんでした。ビックリしたでしょ。これ以上話を続けようとすると聖剣さんの命も危ないと思われます。
「使ってればそのうち慣れるよ。勿体ないから自分で持ってちゃんと使うんだよ。」
畜生、俺が帯刀することも義務付けてきやがった。俺にとっちゃ重量オーバーなんだよこの剣。聖剣さんも我に返ったのか自分の扱いに納得してない様子で、さっきまでの神々しい気が怒りで禍々しい黒いオーラに変質しやがった。ディッドのせいで聖剣が魔剣になっちゃたよ。八つ当たりで俺が呪われそうなんだけど。
「アルさん!メチャメチャ格好いいです!似合ってます!重い?大丈夫です!これから私と一緒にその聖剣をブンブン振り回せるように鍛錬しましょう!安心して下さい、ずっと一緒にトレーニングに付き合います!アルさんのお役に立てるの凄い嬉しいです!!」
いい加減にしろデカブツ。どさくさに紛れて筋トレ仲間を増やそうとすんじゃない!リハビリの時といい、隙あらば俺を筋肉団子にしようとすんじゃないよ。
「だははは!アルも諦めてレベルアップ真面目に考えた方が良さそうだな。きっとディッドは暫くしたらアルがその剣を振り回すのが見たくて無茶難題ふっかけてくるぞ。その時の為に観念してラックトレーナーに指導して貰いなよ。だはははは!」
おいコラ変態、なに楽しんでんだよ?トレーナーって言われた嬉しさMAXで筋肉がはち切れそうになってるデカブツが誕生してんじゃねえか! うおっ、全身ビクンビクン脈動し始めた。気持ち悪っ。
おまえら勝手に盛り上がってるけど、俺の手の中で邪悪なオーラがどんどん増幅していってるの感じないの?ねえ、俺のせいじゃないんだよ。逆恨みするのは勘弁してくれないかな。ディッドが持たない以上デカブツや変態に渡したら投げられるだけだよ。そんなの嫌でしょ聖剣さん。とりあえず大事に抱えて行くからそのオーラを収めてくれないかなぁ…………
「それじゃ、戦利品もゲットしたし表出ようか。」
お前にゲットされなかった戦利品さんが拗ねてるけどどうすんのさ。あと、俺も余計な重りが増えたと思ってるのは聖剣には秘密にしとく。バレたら呪いの邪剣に変化してしまいそうだしな。
「それじゃあ、遺跡から出て報告するか。またしばらく時間かかると思うから修行でもして待っててくれよ。」
マグ、そのうち必ずぶっ飛ばす。煽り散らかしてんじゃねえよ。
今回は筋肉バカから逃げる事ができなかった。ニッコニコの肉団子の地獄のシゴキが始まったのだった。
「ラッキー、ヒマだから次コッチの番ね。アル、準備いい?行っくよ〜♪」
俺はあの世に逝きそうなんだけど。筋肉痛通り越して痙攣が治まる気配がない。明らかにオーバーワークだろ?トレーナー失格だぞデカブツ。この後の鬼の追い打ちどう凌げばいいんだよ。死ぬのか?俺死ぬのかなあ………
「はっ!?」
おかしいな、今確かに清らかな川を越えたと思ったんだけどな。
「ああ、アル。目が覚めたか。今王国から報告が来たぞ。遺跡の討伐無事完了だ。それに聖剣も晴れてアルの物になったからな。まあ、手放す時は王国に返還するって形になるけどな。」
俺はここ数日間、身内二人に寄って集って殺されかけた気がするんだけど………きっとすぐ返還して差し上げます………多分。
「で、この後は何をやらされるんだ?」
何でもいいからこの地獄から早く脱出させて欲しい。今なら悪魔とタイマン張れって言われても余裕で受けて立つからな。
「次の任務は…………まだ決めかねてる様だな。とりあえず最寄りの街に向かって指令を待てってさ。
ひと月位はかかるかも知れないらしいぞ。」
………そうだな、良い休息時間だな。本来なら。
地獄の合宿の再開のベルが頭の中に鳴り響いた。




