第42話 主人公
破戒的だな、人として。
…俺がばあちゃんに教わったやっちゃいけない戒めをことごとく塗りつぶしてく、真っ黒に。…そういう輩には近づくんじゃありません。母ちゃんが良く注意してくれたな、心配してくれてたんだな。…行動を共にする者によってお前の価値は変わる、良い友人を大事にするんだぞ。父ちゃんが人への敬意を持つことの大切さを解いてくれた。
…何この女、終わってる……
結果で言うと、共に行動する事を強いられた。俺の意思は関係無い、あくまでも自分本位で極めてワガママだ。
「アル、コッチは連れて行くことに決めたからね。準備なんか適当でいいから早くいくよ。」
「えっ?あの、なんで?どうして!?」
こんな感じで有無を言わずに連行された。そして当てのない旅路が始まったのだった
まず、出会いから不運だった。俺は街から街への護衛する仕事が終わり、また元の街へ戻る所だった。しばらく進んだ辺りで街道から外れた先に人の気配がしたのだが、遠目では三対一で囲まれている様子で難癖をつけられている感じだった。
(おいおい、卑怯じゃ無いのか?女相手に三人がかりかよ…手助けしたほうが良いかな?)
あれ位のチンピラだったら何とかなるか、と足を向けた瞬間。
「ぐへっ…」「ごふっ…」「がはっ…」
蹴り、パンチ、裏拳と瞬く間に食らわしていた。各々一発で伸びてしまったようだった。で、その場でしゃがみ込むと、起き上がった手には財布らしき小袋が3つ握られていた。
(あれ?物取り?身ぐるみ剥いてんのか?)
なんかヤバイ、関わってはいけない…あの女からは禍々しすぎる雰囲気が醸し出されている。
よし、気付かれてない…と思う…ので静かに踵を返し足早に先を急ぐ。君子危うきに近づかず、そんな言葉が頭をよぎる。
「迷惑料だ。粉かけてきたのはアイツラの方なんだよ。」
「ぬああああああぁぁ!なに?だれ?あれ?なんだ?」
振り返った時にはまだ50mは離れてる森の中にいたはず……いやいや、感覚的には1秒も経ってないぞ!?音……全然してない、急に耳元に言葉が現れた……しかも俺の考えてること全て見通して来た。
「コッチは普通に相手をしてあしらったのだがな。勝手に盛り上がって腕を掴んできたので少し懲らしめてやったのだよ。」
違う、怖いのはそこじゃない。なんでその後に一瞬で俺を捕捉しに来たかだ。
「いや〜、そうですよね。女の人に三人で寄ってたかって囲むなんて、男として最低ですよね。迷惑料どころか身ぐるみ剥いでも文句言われないと思いますよ。ハイ。」
もう自分の保身で一杯だ。得体が知れなさ過ぎる、何とか話をはぐらかして解放して貰おうと必死に会話を合わせる。
「そんなに緊張するな。この先の街まで行くのだろ?道案内してくれないか?幸い料金は今手に入ったしな。」
あ、それもう使うんだ。全く罪悪感無しに自分の物としてない?
「えぇ…いやぁ…」
「問題などあるわけ無いよな?」
「…ハイ。」
負けました。
「コッチはディッドと言う。しがない冒険者ってトコロだな。」
「俺はアルゼです。」
「よろしくな。まあ、変なモノが出てきたら任せてくれ。運動しないと鈍ってしまうからな。街に着くまでの間だからそんなに気負わなくていいぞ。」
取り敢えず襲われる心配は無いだろうと安堵する。確かにこの先いくつか道が枝分かれするので、少なからず案内人がいた方がいい。
でもな、先導するのが案内人だよな?分かれ道で俺が正しい道を進もうと思ったのだが……
「向こうの方がちょっと気になるな。アルゼ、少しだったら行っても大丈夫だよな?」
拒否できないよ、俺怖いもん。しかもさ、その後も何回もそんな事繰り返す訳で、気付いたら完全に道を見失うことになっていた。
「悪いな、コッチに付き合って貰ったばかりに変なトコに迷い込んでしまったようだな。」
そうは言っているが悪びれる様子もない。
「今日はここら辺でキャンプして明るくなったら道を戻りましょう。」
お願いだからこれ以上奥に行かないで欲しい。本気で帰れなくなりそうな気配がしていた。
いや、してた気配はそれだけでは無かった。
向かい合ったディッドの後方から薄っすらと影が近づいてくる。
(熊だ………デカい………)
「ふふふ、いいね。相手にとって不足ないな。アルゼは下がってな。」
俺はビビって言葉も声になっていない。だが、ディッドは俺の様子を読み取ったのか、振り向きもせず状況を把握し士気を上げた。
「くっ、やるな。」
ディッドが押されている。先手を取ったのは熊の方だった。600kgは下らない大きさの身体からは信じられない速度で攻撃が繰り出されていた。
(連続で来る!左の岩を盾にしてこっち側に逃げられるか?)
俺はどうにもできず祈ることしかできなかった。が、ディッドは俺が思った様に攻撃を避けてくれた。なかなか気が合うのか?俺達。
(危ねえ、けど今俺が気を引けば死角ができる。分かってくれるか祈るだけだな。)
咄嗟に俺は体を前に出し声をあげ注意を引く。大熊が俺を見て口を開け吠える。剥き出しの歯からは涎が垂れていた。
ああ、駄目だ…これは喰われちゃうな。
そう思った瞬間、その大熊の心臓には深々と刀が刺さっていた。そうあって欲しいと思った通りにディッドが動いていた。
「凄え…………!」
(…確か熊は直ぐには死なないでしばらく大暴れするはず。そこにいたら潰される!)
恐怖や緊張で俺の言葉や心情がぐちゃぐちゃになっている。そんな気持ちを他所にディッドは安全圏まで一気に離れていた。
大熊の最期の抵抗も虚しく空を切り、やがて静かに地面に伏せた。ディッドは熊が事切れたのを確認し一言呟いた。
「熊鍋。」
もっと良い締めのセリフ無いのかよ!!
その後もディッドの行動は特に変わらなかった。あっちフラフラこっちフラフラと、目的地に着くのに通常の三倍ほどはかかっていた。
とにかくもうすぐ解放される、その一心で気を紛らわしていた。
「よし着いた!ありがとう、アル。で、報酬倍にしてあげるからあと少し付き合ってくれる?」
強制ってやつだな。不本意だが首を縦に振る。そして俺の賭場デビューがやってきた。
これまた強制的に種銭だと渡されたのだが、これ俺の報酬だろ?無理やり賭けさせんじゃねえよ?この金で美味いもん食ってゆっくりベッドで寝たいんだけど?早く賭けろって睨むんじゃないよ。拒否できないんだからさ……
「う〜、ヤバイ…コッチの軍資金が………でも、後少しで風が吹いてきそうなんだよね……アル、どれ位 おかね 残ってる?」
ああ、狙ってきたな。だが俺はもうすぐ別れられると気が大きくなっていた。強制されすぎて頭がショートしてたのだろう。
「いい加減にしろ!これは俺の報酬なんだろ?俺の好きなことに使わせろ!ここに来るまでも色々面倒見てやっただろ?お前はここで楽しんでるかも知れないけどな、俺は全然楽しくないんだよ、早く宿屋で寝たいんだよ!少しくらい俺の事も考えろ!俺は出る!」
恐ろしい……言いたいこと言ってしまった。ただでは済まないだろうな。早足で逃げるようにこの場から去ろうとする。お願いです、声掛けないで下さい。このまま上手くいきますように………
「アル!待ちなよ。」
終わった。
「ゴメンゴメン、そうだよね、疲れてるよね。報酬は……増やせなかったけどまだ残ってるよね?それで許してくれる?」
??肩透かしを食らった。なんか気味が悪い。
「ああ、問題ない。俺もいい体験できたしな。まあ、また何か縁があったらその時はよろしくな。」
精一杯カッコつけてみた、足ガクガクしてるけど。
「それじゃ、気をつけてね。ここまでありがとうね。」
急にしおらしくなったな。だが俺には全く響かないけどな。俺とは違う世界の人間と一緒にいるだけでどんなに危ない事か……今回の件で骨身に染みて分かったよ。分不相当には顔を突っ込んじゃいけないってことがな。さあ、宿探して健やかに眠ろう。
爽やかな朝だ。でもな、今日から清々しいって思わなくなるんだよな。宿屋を出ると立ってたんだよ。
悪魔が、俺を連れ去るために………




