第40話 あきらめる…の
「かなりの重症だよ。本気でだめかも分からない……………ぐっ。」
ディッドがマグの悲観的な言葉に手が出る。
「ディッドさん。辛いのは分かりますけど、マグさんもまだ回復できてないので、こらえて貰えませんか。」
「うん………ゴメン。」
「自分は大丈夫。アル君の方が辛いはずだからね。現状は血液が足りないのと、内臓の損壊が激しい事なんだ。検査した所、ディッド君とラック君の血液はアル君に適合してる。マーシーの機能で止血と輸血はできるからその点はクリアできる、のだけど…」
マグの説明が続いているのだが、続きの言葉を言い淀んでいた。
「自分のできる範囲はここまでなんだ。流石にこれ以上は専門外過ぎて為す術も無いんだよ。」
「冗談じゃないよ。アルはそんなに弱くないよ。何か必要ならすぐに探して持ってくるからさ。諦めたようなこと言わないでよ。」
「私も何でもします。いくらでも血液吸い出してもらって構いませんので、諦めずに治療を続けて下さい。」
皆が誰を責めることをできないこと、何もできないことを理解して黙り込む。時間が経つほど限界に近づいてることも含めて。
「マグ、王国の医療施設とかは使えないの?寝ないで走り続ければ何とかなりそうなトコはないの?こんな所でぼーっとしてないで早くアルに何かしてあげようよ。ねえ、アルがかわいそうだよ………」
ディッドは少しでも希望が無いかと喋り続ける。狂い出しそうなのを抑えるのに必死になっていた。
「確かにこのままじゃいけないんだけど、余り激しく移動させる事もできないんだ。いつ傷が広がるか分からない、命取りになりかねない。医療…研究所…は王都の傍にしか無いし………それ以上に移動時間が足りないんだ。二日も経ったら内臓は駄目になってしまうだろう。すまない、どうしたものか……」
マグもあらゆる方法を模索しているのだろう。今、一番可能性を示せるのは自分であることも分かっているし、現状が絶望的なことも分かっていた。
「ここにいてもしょうがないなら、とにかく大きな街とかに出ませんか?ゆっくりでも良いので、負担かけないように動きましょう。体も冷えないようにしなければダメですよね。自分が抱えて行きますので、持てない荷物を誰かお願いできませんか?」
皆必死だが、皆答えを出せず焦りが募るばかりだった。…………
戦闘が終わった頃、洞窟の中の者たちは何とか天井の穴によじ登ったラックバードがロープを垂らし引き上げていた。全員を引き上げた瞬間、ラックバードは猛ダッシュで様子を見に行ってしまった。
「うわ……何だあのスピード………人間とは思えない……あんな人いるんだ………」
研究員のタクは目の前の人間が瞬間的にいなくなるのを初めて体験した。しかも足場はガタガタの斜面で普通に歩くだけでも難儀している所でだった。
「皆さん、足元に気をつけて。ゆっくりで大丈夫なんで崖の下まで行きましょう。歩くのがきつい方は僕が手伝いますので遠慮なく言って下さい。」
あの人達ばかりに任せっぱなしでは申し訳ないので、こちらのことはなるべくこちらで対応して負担をさせないようにしなくては、と行動する。
「ぐえぇ…何だこれは……人間の、串刺し?竹で?どうやったらこんな事できるんだ?本物…だよな‥…やばすぎる。」
全員無事に平地に降りられ、特に目立った負傷者もいない事が確認できた。その後マグ達に近づいた時に見た死体もひどかった。首から上が完全に潰され人の形を成していなかったのだ。
「ひいぃ!わわわ……凄まじい…ですね………ええと、まだ生きてる賊が向こうにいるようなので、失神しているうちに拘束しておきます。」
タクは会話に入れる雰囲気ではないのを察し、残党がいないかを確認することにした。あの人達か動いてないという事は、賊はもういないのだろう。
タクが一人奔走をしていると、やや年配の研究者が声をかけてきた。
「タク君、あの方々はどうしたのかな?私になにか手伝えることがないかね?どの様な状況か分かるかい?」
「あぁ、えぇとですね。あちらのアルさんという方が交戦中に内臓までのダメージを負ったらしいのですが、何とか一命を取り留めてるだけで身体と意識の回復が見込めないそうなんです。」
「なるほどな。多少は力になれそうだから行ってくる。君は他の人にも手助けできそうな方がいないか話をして来てくれないかい?」
「分かりました。よろしくお願いします。」
…………「先程は助けていただいて申し訳ない、本当に助かった。タク君から話を少し聞いている。私にも彼の容態を確認させてもらっていいかね?」
年配の研究者が声をかけてきた。色々な機関からのかき集め集団と言っていたのをマグは思い出した。藁にも縋る思いで説明をする。
「…外傷と損壊した内臓の止血は終わりました。ただ、大量失血のショックで意識を無くした後、そのまま昏睡状態が続いています。内臓の機能が働いていないので、このままでは壊死する可能性が高く、生命の維持か困難になってます。」
「…確かにこのままでは確実に助からないだろう。道具も設備も全く間に合っていない。」
研究者の言葉にディッドの毛が逆立つ。ラックバードが慌てて間に入る。
「すいません、何でも手伝いますのでもっとしっかり診て貰えませんか?僅かでも可能があるのなら私の血でも内臓でも何でも使って下さい。」
研究員は誤解された事を感じ、慌てて取り繕った。
「私達の命の恩人なんだよ、君達は。全力で事に当たる事を誓おう。一つ、延命措置として私のすることを皆に認めて頂きたい」
この研究者は心底アルを助けたいと思ってる。ディッドはそう感じ緊張を少し緩めた。
「どんな措置をするのだ?頼む、アルを助けて欲しい。」
かしこまって答えを待つ。研究者の口から一言、処置の方法が語られる。
「魔法を使いたい。」




