第39話 焦り
俺がやらなきゃいけない事。目の前の奴だけは仕留めないといけない。俺も一対一の時くらいは足手まといにはなりたくないんだよ。背中は任しちゃったからな、ありがとよ。頼りになるんだよ、こういう時はな。
力を振り絞り剣を押し込んで突き刺す。
やったな、手応えがあった。良いダメージ与えたんだけど、な………食らってもいたよ………いてぇ………血、凄え出てる……
「 。」
ディッドは一瞬で俺の所まで到達してから無言で相手を殴り潰し続けている。意識はとっくに無くなっている相手を。
だからさ、人間相手に惨たらしいことやめてくれよ。怒ってくれるのは分かったからさ。
遠ざかる意識の端で、殴打している弾ける音が何回も何回も響いていた。…………
ディッド達は崖の下で閉じ込められた時、意図的に攻撃された事を爆発音がしたことで判断できた。幸いマグのランタンを持っていたので洞窟内の視界は確保できていた。
だが、崩れた崖は簡単に掘り進めるような代物ではなく、闇雲に動くだけでは埒が明かない様子だった。
「怪我人はいませんか?全員無事か人数の確認もお願いします。」
ラックバードが声を掛けると研究員のタクが答える。
「僕はみんなを把握してるので、明かりをくれれば確認します。」
明かりは一つしか無いのでディッドはまだ次の行動に移れない。もどかしく待つ間に、耳を澄ませ外の様子を確認しようとする。音は全く聞こえない。もしくは戦闘はまだ始まってないということか、どちらにしても早く脱出方法を見つけなければならない。
「完全に油断してました。あれだけの人数をやられたのにこんなにすぐ報復に来るなんて……」
実際、20人近い輩を掃討していた。この様な場所でそれ以上が潜伏してるとは考えにくく、残党がいたにせよ返り討ちを恐れ襲撃は躊躇うであろうと高を括っていた。ラックバードの言葉にディッドは奥歯を軋ませる。
「やられた…ね。明かり返してもらったら奥の方を調べに行くよ。入口掘ってる時間はないからね。どっちみちウチ等がどうにかしないといけなさそうだから、みんなは此処で大人しくしていて貰うよ。タク、確認は終わったのか?」
ディッドは口早に指示を出す。敵の人数も分からない状況なので一分一秒を惜しむ。
「全員の安全確認しました。怪我人もいません。」
「OK、行くよラッキー。壁が薄そうなトコや光が漏れてるトコが無いか見落とさないようにね。」
…アル、待っててよ。時間稼いでくれればいいんだからね。…
二人で慎重にできる限りの早足で辺りを調べる。洞窟内は音が反響し、天井の高さも奥に行くにつれ高くなっていく。すんなりと抜け出せる場所ではないのは明確だった。
「ディッドさん、ちょっと止まって下さい。なんか…こう…風の流れが………明かりを一度覆って貰えますか?」
周囲に完全な闇が齎された。ラックバードは集中し目を慣らしている。
「あそこ…の所に微かに光が漏れています。ちょっとすいません…っ」
ラックバードが常備している石塊を投げ付ける。パラパラと音を立て30cm位の穴が空き外の光が差し込んできた。
「ラッキー、コッチのこと投げて。」
「よし、どうにかして天井に辿り着かないと……って、えぇ?人が通れる大きさじゃないですよ!もう少し穴を広げますから待って下さい!」
「いいから早く。」
ディッドは有無を言わさずラックバードを威圧する。外からは衝撃音が小さく聞こえてきた。選択の余地は無かった。
「全力だよ。コッチの体壊す勢いでよろしくね。」
やるからには本気でないと意味はない。ラックバードも同じ気持ちだった。いくらディッドとは言え自分の全力で壁に叩きつけられたら無事では済まないだろう。必ず中心を通さなければならないプレッシャーが激しく伸し掛かる。
(これは賭けではない、勝負なんだ!)
強く自分に言い聞かせる。必ず勝たなければならない勝負だと。
「どうかお願いします。………ふんっっ!!」
この勝負はラックバードが勝つ事となった。
…ドコだ、ドコにいる?…
身体に物凄い衝撃を感じる。今まで感じたことのない感覚ににラックバードの潜在能力の高さを実感していた。が、そんなのは分かりきっている。今はしなくてはならない事がある。
武器は先に投げて貰った。投げ慣れてるからだろう、憂慮すること無く天井の穴を越えていった。同じ軌跡を辿りディッドの身体が打ち付けられる。全身を擦り付けながらも、崖の上に這い出る事ができた。武器の飛んで行った方向を確認する。
…いた…
弓矢を構える人間の形があった。考えてる時間は無いと、空から落ちてくる竹槍を掴み取り相手に飛びかかる。
相手が人だろうが何だろうが関係無い。ただ行動不能にする為に脳天から串刺しにする。地面から立ったまま固定され長い影を伸ばしている。
その延長線上に組み合う者たちが見えた。
…間に合った、よかった。知ってるよ、アルはやる時はやるもんね……
二人が重なり倒れ込む。
相打ちだった。
ディッドはそれからの記憶は余りはっきりしていない。ただ現実を揉み潰すように倒れている敵を殴り潰し続けていた。




