第36話 レイクサイド
「う〜ん、気持ちいいねぇ。将来的にはこんな穏やかな風景の中で余生を暮らしたいね。」
俺の正面には、波立つことなく静かにたゆたう湖面。晴れ渡り遠くまで見渡せる透き通った空気。碧々と生い茂る森が広がっている。
歳を取った俺の隣には生涯の伴侶がいて、子どもや孫なんかに囲まれたりしてね………
「へぇ、この風景がいいの?いい趣味してるね、気が合うかもね。」
悪いがお前の見てる風景は俺の背中側だ。そして絶対に振り向きたくない。大鷲、大猿、大サンショウウオ、大タガメ……ここは栄養が豊富なんだろう、みんな大きく育ってるな。人間の大きさを遥かに越えたサイズの生物の亡骸が山になっている。片付けるのも面倒くさいのか、竹の柱が4本何かを串刺しにしたまま亡骸の上に刺さっている。
地獄絵図だな、趣味も気も合わないよ、お前とは。
ここ数日、この湖の湖畔でキャンプを続けていた。任務の内容が現地の状況と一致しなくて確認が必要になったからだ。王国との連絡にはある程度の時間がかかるので、暫くここに足止めされている。
暇を持て余したバカが狩った生き物を餌にして色々なのを引き寄せていた。早くしないとここら辺の生き物が絶滅するんじゃないか?と心配になってきた。
「マグ、どうなの?調査もしてるっぽいけど何か分かったのか?」
出発前に貰っていた資料と伝書鳥で送られてきた新しく受け取った資料を見比べつつ悩んでいる。伝書鳩とは違う鳥だった。
「任務完了だね。」
「えっ?」
任務に何かの間違いがあったのだろうか?でも完了って言ったな。
「あのスライムが地下水流を堰き止めていたから地上の川の流れがおかしくなってたらしい。自分達が洞窟で倒した時から少し経った後と川が正常に戻った頃を照らし合わせたら、状況的にそれで間違いない。ってことで、任務完了だってさ。」
うーん、上手くいったって事でいいのかな……まあこれで後は帰るだけだし、俺は万々歳だけどな。
「で、この後はどうすんの?」
「続けて任務に当たるんだけど……遺跡に巣食ってる魔物の討伐らしいね。近くの街や街道で被害が出てるらしいから、できれば徹底討伐をして貰いたいってさ。」
やはり休ましては貰えないんだな。それよか王国ってそんなに手が足りてないのか?俺達の任務ってそんなに特殊か?
………特殊かもな、行く所行く所デカい生き物しかいないような気がする。きっと分かってて任務出してきてんな。それじゃあ次も………まさか…ね。
「なになに?遺跡!魔物!ヤバイね、楽しそうだよね。もっと手応えのあるのが良いな。ここら辺はもう大したのいないしね。」
初っ端で大スライム倒しちゃったからな。それ以上のインパクトは無いだろうよ。
「そうですね、この数日栄養とトレーニング時間が理想的に取れたので調子が良いんです。ちょっと私自身を試してみたいですね。」
なんでお前も乗り気なんだよデカブツめ。この頃抑えが効かないほどバトルマニアになってきたよな。マグの兵器で気が大きくなってるんじゃないよ、と言いたい。
「いいよ、早く行こうぜ。街に比較的近くなんだろ?俺はちゃんとした宿で休ませてくれれば文句ないからな。マグ、道案内よろしく。」
「了解だよ。あの大河を渡った先の方だから、渡し船に乗らなくてはいけないんだよね。そこまでの道順とかも記載されてるから心配しなくてもいいよ。」
王国の指示役は優秀だな。いや、心を許してはいけない。きっとなんか裏があるはずだ。ゴブリン辺りをチマチマやっつける任務とかにしてくれないかな………無理だよな、コイツラの破壊力じゃ……
俺も何かしら特技を持たないといけないんだろうか……見当つかないけど。
コイツラと旅をしてると食い物には困らないんだよな。肉って感じの獣は、ディッドのヤバイ雰囲気に逃げるか襲ってくるかのどっちかになる。襲ってくるのは大体大きい奴だから、結構な量の肉が手に入ってくる。果物とかはラッキーが何か投げれば落とせるし、マグは爆弾で魚を気絶させて浮かばせたり、とやりたい放題狩り放題だ。任務中のの支給は余りない。
まあ、研究所出る時に全員分の防具一式プレゼントされたし、俺はちょっと良い武器まで用意して貰ってるからいいんだけどね。ほとんど使ってないけど。
「あと少し行くと渡し船がある村に着きそうだよ。アル君頑張ってね。」
マグは結構体力ありやがる。痛みと一緒に疲れも感じない体になってんじゃないのか?前のに比べたら今の鎧は全然軽いはずなのだが、俺が一番移動が鈍いんだよな。
「ディッド、一つだけ言っとくけど、竹槍あるだろ?」
「カルテット柱ね。」
即訂正するんじゃないよ。大事なのはそこじゃない。
「約束して欲しいんだけど、人間相手には絶対に使わないでくれ。」
過去ヒトガタを突き刺したのを思い出す。手足が長い細身の猿だったのだが、シルエットは人間に近かった。その断末魔を目の前で見せつけられたのだった。
「うん、分かったよ。人相手じゃ使う必要も無いだろうしね。」
お前の腰の立派な刀は竹槍以下なのかよ。価値観が違いすぎる。でも、想像はしてたんだよな。人が住んでいる場所が近い以上しょうがないんだろうな。
「盗賊だ。気を付けろ。」
森の奥に武装している人間達の姿を俺の目は捉えていた。




