第110話『Reboot(再起動)』 A Part
弱冠12歳でありながら、不死鳥の詠唱を紐解くも、若過ぎる身体を酷使し続けたジオーネ・エドル・カスード。
リイナ・アルベェラータへ不死の炎を継いだ後、リイナの起こせる奇跡。生物の持ち得る細胞分裂の活性化を促す治癒の術──『生命之泉』
これに耐性を失う疲労困憊を負い、寿命を喪失したジオーネ少年。現在はForteza市の地下、凍結の睡眠を用いて細々と生き長らえていた。
バァァァァンッ!!
リイナ・アルベェラータの頬に刻まれていた焔の模様が姿を消した。
代わりにリイナの全身から噴き出たジオーネの忘れ形見、巨大な火の鳥を自由に舞わせ、自身や皆の周りを旋回させつつ眉間に激昂の皺を寄せた。
エルミュラ・フィス・スケイルの身勝手な神聖術『荼毘の烾灻』が火で錬成した5人分の棺桶を轟音と共に打ち消したのだ。
『人の命を何だと思ってぇッ! 絶対に赦さないッ!』
不死の炎を注ぎ込み如何にか繋いだガロウ・チュウマとトレノの命。他の仲間達の命さえも焼き殺そうとしたエルミュラ底辺の外道ぶりに、やり場のない怒りを吐いた。
エルミュラの非道なる行いに業腹を煮やしたのはリイナだけに非ず。
赤き短髪を生やす女戦士が姿を晦ます。
魔術も異能の焔も持たない女が己の体技頼りに滾らせた火の手。エルミュラとエレーネまで撒いて繋いだ火薬の如く瞬時に火花を散らした華麗な脚捌き。
ブンッ、ブンッ!
ガツンッ、ドゴンッ!
「ガルルッ! ガハッ!?」
此方も牙の隙間から本物の火を覗かす炎の獅子エレーネの牽制。
ヴァロウズ五番目の格闘家ティン・クェンの振るった左右。火すら斬り裂く拳が獅子の頬を左と右にと大いに揺らした。
「この争いの邪魔をするつもりなんてなかったさ。──だがなァッ! あんな事をされて怒らない奴はいねぇッ!」
あくまでも相棒トレノの付き人に徹する覚悟を決めていたティンが唾を散らす。
自身の格闘能力に絶対に信頼を寄せるティンの動体視力。エレーネの身体を燃やす炎の揺らめきを、敵の揺れ動く心の葛藤を匂わす揺らぎに変えた。
それでも不屈の姿勢を崩さないエレーネ。姉エルミュラを背に乗せ、翼をはためかせて、ティンの拳が届かぬ空へと間合いを広げた折れぬ信念。
「くッ!」
姉エルミュラ、憤りを美麗な顔に滲ませ不浄の左腕を天に翳す。
無駄骨に終った荼毘の烾灻、次なる詠唱術を繰り出す為の予備動作。色とりどりの腕輪を打ち鳴らそうとした矢先。
ズダダッ!
キャシャァンッ! カランッ……!
「し、しまった!」
「ふんッ……腕自体を吹き飛ばさなかっただけ有難く思うこったな!」
エルミュラの直上に出現した自動小銃がその腕輪を数本撃ち落とす。
狼狽せざるを得ないエルミュラ、色を失う絶望感。
Leythemendを好きに飛ばしたレイの冷笑が冴え渡る。敵の腕輪だけを敢えて狙い撃った行為。
「──こ、これは流石に勝敗が決したかも知れませんね」
ドローンから届く争いの図式を観たドゥーウェンが味方の圧倒的な優位性を言葉に乗せた。
「あくまでこの場に於ける戦いはな。然し彼女達は、大層贅沢な撒き餌に過ぎんぞ」
気の早い吉野亮一の気楽さに釘を刺すサイガン・ロットレン先生。余りに鮮烈な争いであったが故に仕方がない。
エルミュラ達の味方を名乗り出たトレノが倒れ、怒りに満ちた不死の鳥を飛ばすリイナ。己の体術を好きに奮えるティン・クェン。
加えて神出鬼没なるレイの自動小銃達。この三者を相手取るのが容易ではないのは、火を見るより明らかではあった。
されどForteza市周辺にて未だに互いの満身創痍な機体同士をぶつけ合うロットレン一家のEL・Galestaと、隠し玉であった『閃光』の輝きを煌めかせた本気のルヴァエルに依る闘争こそが正義を示す本命なのだ。
「と、処で何故レイは、敵を背後から直接狙い撃ちをしないのでしょうか?」
ドゥーウェンの口から漏れ出た愚門を聞き及んだサイガンの呆れた眉間、皺数をさらに増やした。
確かに殺ろうと思えば何時でも殺れた。RavinGrayの操縦席内へ己の小銃を空間転移させた時も条件は整っていた。
「はぁ……そんな事も判らんのか? 今のレイに取ってそれは彼女の法に反する行いなのだよ」
悪の首魁と云えるマーダから離別、自分の好きに正義の形を体現すると決めたレイ。
敵の背後に銃を飛ばして致命傷を狙うやり口、レイ自身の認める正義とは呼べなくなった。『殺らないのではない。出来なくなった』サイガンは、面倒そうに白髪を掻きながら断定した。
◇◇
「リイナちゃん達の方、どうやら決着がつきそうよ」
いつ爆散しても不思議ではないローダ・ロットレン達を乗せたEL・Galesta。機体の至る場所からひしめき漏れる悲鳴にも似た喧噪の最中。
まだ生まれて数か月だが16歳の容姿を持つ新人類──ヒビキが15に成ったばかりのリイナを『ちゃん付け』友達の善戦を肌で知れた発言。
「嗚呼、此方も早く終わらせないとな」
創造性を具現化出来るローダ、娘ヒビキへの冷静な受け答え。ドゥーウェンから『もって5分』と注意された機体の各部を彼の創造力が補った結果、とうに時間経過を終えていた。
バァンッ!
ルヴァエルがレヴァーラから借りたとっておきの力『閃光』で扱うRavinGray。異体な三本脚で不意に地面を蹴り、今宵の月を背景に出来る位置まで天高く舞い上がった。
バシュッ!
「えっ? な、何アレ?」
瞬間、重なった月の輝きに目が眩んだローダとヒビキがその目に手を翳す。
されど瞳孔の大きさを猫の様に自由に操れるルシア。自らの翠眼を疑う。
彼女の湛えた緑色の瞳だけが、此方も爆装寸前であるRavinGray。その中から何かが飛び出た一瞬を捕捉出来た。
ルヴァエル、なんと自機を捨てる脱出を宙で図っていた。
重力に引かれる自由落下が始まる必然、緑、青、赤。極彩色の輝きを撒き散らしながら、夜空を彩る流れ星へと転じた。
ウォォォォォォォォンッ!!
「な、何だ今のは!?」
地面のさらに下から突然轟く咆哮。生物の叫びに、重なる排気音の如き機械の吐いた声が入り混じる。さらに空気を震わす雄叫びが地響きも同刻に運んだ。
此方はローダ達が出撃の折、無遠慮にもハッチを破砕しながら飛び出したEL・Galestaを格納していた地下倉庫であった場所。
その下に潜んでいたさらなる空洞──そんな物が在るとは知らなかったサイガン翁とドゥーウェンが一挙に色を失い狼狽える。
「地下、熱源反応ッ! お、大きいッ!」
普段から冷静な顔立ちを装うドゥーウェンの声音が震える。
彼が再構築した人型兵器EL97式改。
それと争う歪な黒猫RavinGray。
その何れも嘲笑う黒い影が余りにも巨躯過ぎた。然も熱を発しながら蠢く反応。
だから発見した金髪の学者も、そしてその学者をこれ迄導いてきた白髪の老人とて、声を失う。
地獄の窯が開いた様な感覚に汗を滲ませる男達の上。夜天を潤す極彩色の星屑を降り注ぐ堕天使。慌てる二人の視界に映り込んだ。




