第110話『Reboot(再起動)』 B Part
自らを動かす人工知性と戦闘服に仕込んだIRIS入りの金属。これらを同調させ、自分の能力を底上げする『閃光』を実現させたレヴァーラ・ガン・イルッゾ。
彼女に似せた存在ルヴァエルがレヴァーラから掠め取った『閃光』その煌めきを夜空に散りばめる流星と化した。
それに呼応したと思しき獣と機械の狭間に位置する雄叫び、地下から湧き上がる異端。
ルヴァエルとて人間と機械の中間的な存在。似た者同士と云えた。
「い、いかん! 彼女は『Meteonella』を目覚めさせるつもりだ!」
Forteza市の上空を流れるルヴァエルを見上げて戦慄が駆け抜けたサイガン・ロットレン。彼らしき冷静さが完全に形を潜めた。
「Meteonella? 確か300年前にファウナ神とレヴァーラが操ったとされる巨大兵器。ですがファウナ神が自らの魔道で破壊したのでは?」
師サイガンが聞き及んでいた情報をそのまま台詞に乗せるドゥーウェンの無能ぶり。だが物事に絶対などないのだ。
「私もそう思っておった! だがのう、先程我々の前に姿を現した意識だけのレヴァーラは確かに言っておった『我が生体認証』だとな! Meteonellaを目覚めさせる鍵だと!」
尤もこの白髪の老人さえも、自らが調査した情報を信じて疑わなかった。
護りの女神──ファウナ・デル・フォレスタは、Meteonellaの力を後世に残すつもりはなかった。
これは想像で補える内容、強過ぎる力の火種を自分の手で消し去る。最も効率の良き話だ。
されどMeteonellaを操ったとされるもう独り、レヴァーラ当人の模倣が老人に注意を促したのだ。
「それにだ。Meteonellaの量産機『RavinGray』と『Ravinero』が余りにもチープなのだ。アレでは欠陥品。あの鬼才『リディーナ』の仕事とは到底思えん!」
ドゴゴゴゴォォッ……!
「地震!?」
「愚か者! こんな馬鹿けた範囲の直下型地震があってたまるものか! 亮一ッ! 此処はもう駄目だ! 今直ぐ逃げるぞッ!」
Meteonellaと思しき遠吠えが地面から轟き、次はいよいよ目覚めを確信させる地面の揺れ。
吉野亮一にノートPCと最低限の機材を持って、この場を逃れる様に叫んだ嗄れ声。冷凍睡眠を用いて350年以上も生きてる者共とは思えぬ素早さ、脱兎に転じた。
「じ、地面が裂けますッ!」
「チィッ! いよいよ御披露目か!」
EL・Galestaの格納庫であった場所。取り敢えずそこを上から眺められる地上の高さまで逃れたサイガンとドゥーウェン。拾ったEL97式に見た夢が一挙に消し飛ぶ。
染めた金髪を脅威で揺らしたドゥーウェン、女性の悲鳴に似た高い驚嘆の叫び。割けた地表からパラパラと崩れる地表の音を転がし黒豹の悪魔が徐々にその姿を露わにし始める。
サイガン・ロットレンは、この状況を絶対くい止めると決めていた。なれども成し得なかった。「いっそこの老いぼれの目に焼き付けてくれようぞ!」皺で押し潰された目を見開く睨みを効かせた。
パチンッ!
『ローダッ! 間もなく世界全ての異能者に取って、真の天敵が現れる! 今直ぐにそこから逃げるんじゃぁッ! それしか道はないッ!』
無線のスイッチを入れたサイガンの絶叫がローダ・ロットレン一家の駆るEL・Galestaの操縦席内に響き渡った。
サイガンから明白な警告を聞き及んだローダ達。普段頼もしき父親の混乱に、互いの視線を困惑の色と共に交し合う。そして妻ルシア、娘ヒビキと熱籠りの頷きを返した。
『義父さんッ! 俺達は逃げないッ! 今からそこへ向かうッ!』
義理の息子から届いた力強い宣言。その決意を匂わす声量、地表を開いて出現する巨大兵器の地響きすらも打ち消し、老人の魂を揺らす。
『な、何だとぉッ!? しょ、勝算が在るのか!』
まるでこの世の終わりを予見させる喧騒の最中、増々声を荒げる白髪の老人。
云う事を聞かない子供達への苛立ちと、ほんの僅かな希望の煌めきをみつけた想いに駆られた。
『お爺ちゃん! 全ての異能者って言ったでそ? パッパはその総てを超えなきゃならない! だからやれるよッ! 僕とママも一緒だから!』
新人類ヒビキが母親譲りの緑の瞳に滲ませる勇気。やはり勝ち負けまでは測れていない。されど扉を拓いた家族としての矜持を力強く響かせた。
『し、然し……す、済まん! お前達三人に総てを賭ける!』
反論しかけたサイガン、中途で押し黙り、暗い影を落とす。
自身の小賢しい作戦や知識など投げ打ち、歯軋りしながらも、自分の子供達と孫に何もかも預ける覚悟を固めた。
『ローダ・ロットレン! 目標を殲滅するッ!』
残り1機のEL・Galesta、ローダの創造力を頼りに機械の限界域を超える。
さらに妻ルシアが背に生やした翼を広げ、都会の夜空に飛び出す。争いの最中にありながら、夜空に昇る流れ星を描いた。
グゴゴゴゴッ!!
「あ、あわわ……! こ、これがMeteonella!」
バルタバザルから襲来した量産機RavinGrayを遥かに凌ぐ存在感。ドゥーウェン、ただただ圧倒され、黒スーツ姿を震わす。目に映る存在をただ叫ぶしか出来ない。
「こ奴! 電動ではない! 内燃機関で動いておる! 然しガソリンではない?」
石油燃料の全盛期を生きていたサイガン・ロットレン、Meteonellaの駆動音に懐かしさと恐怖が入り混じる感覚。
「額が開いています! う、上からルヴァエルがッ!」
またもや叫ぶドゥーウェン。機械相手に『額』とは何ともおかしき発言。
けれども的を得ていた。Meteonellaの頭部、ネコ科の動物を思わす猫額、開いた中に操縦席らしき存在が見えていた。
バシュンッ!
流星ルヴァエルが煌めきながらMeteonellaの操縦席に飛び込む地獄絵が知者達を嘲る。
「クククッ……アハハッ! つ、遂に辿り着いたぁッ! 閃光の時間もまだ残っているッ!」
ローダ達相手に辛酸を舐め続けたルヴァエルの高笑い。未だ全身を包む極彩色の輝き。生体認証のパネルに開いた掌を叩きつけた勝機。
フロントメインモニタに浮かび上がる『Reveala・Gun・Iluzzu.|…………Authorize《承認》』の文字。ルヴァエルが連れて来たレヴァーラの意識が起動を認めさせた。
嘲笑を固定したルヴァエルが自分の背後に存在するもうひとつの座席を見やる。一見無意味に映る前後の複座。ルヴァエルは前に座した必然。
「アァンッ……! つ、繋がった! レヴァーラ当人でさえ独りでは動かせなかった! だけど僕は違う! 護りの女神を指揮者に据える必要はない! 僕が総てを兼ねるのだから! さあMeteonella、動けえッ!」
人に造られし者、ルヴァエル、接続した恍惚に酔いしれ跳ねる少女の躰。彼女の他人と異なる人生──まさしく絶頂期を迎える。
ファウナ・デル・フォレスタは、嘗てこの機体を煌めく糸の魔道で自分の意識を繋ぎ、愛するレヴァーラの代わりと成した。
ルヴァエルは、その背筋全てを以てこの黒猫を接続出来る。Meteonellaの操作系から流れ込む電子の波をルヴァエルは、酒に溺れた様に堪能し始めた。
「聞こえているかい? IRISと運び屋AYAMEを産み落としたサイガン先生! 扉の候補者が呼び込んだ金色の砂粒がこのMeteonellaの反応を呼び覚ました! 何とも皮肉な話さ!」
Meteonellaの中枢である冷却不要の水素式ロータリーエンジン。意識が反発し合うIRIS入りの金属で組み立てた夢のユニット。
そして同じ金属があらゆる場所に埋め込まれているのがこのMeteonella。
これらが生物の如く金色の砂粒に依って同調する、一喜一憂を始めた。だからエレーネ機は、本命の黒猫を探し当てる事が出来たのだ。




