第108話『Chaos Behind the Stage(舞台袖の戦乱)』 A Part
『ガァァァァッ!』
ガロウ・チュウマが雄叫びを上げて、今にも爆砕寸前である敵の巨大兵器『RavinGray』から脱出せずに、そのままエレーネとエルミュラ・フィス・スケイルへ突貫を仕掛けた。
黒い炭化タングステン製の剣を1500度以上に滾らせられる剣豪ガロウ・チュウマ。彼がその力を巧みに扱い、壊れたRavinGrayをまるで振るったが如き絵を、周囲に映す。
空間転移の異能者レイの力を借り、自ら機械の中に出向いて散々斬り刻んで生んだ廃棄物。倒れる勢いに乗じたガロウの狂気を孕んだ突撃。
「ひ、ひぃぃッ!?」
燃ゆる獅子に化けたエレーネの背に跨るエルミュラの顔が着ているサリーの色と同様に青ざめ、両目を閉じて頭を庇ったが故に、美人が台無しにされた不覚。
脇に恐怖で掻かされた冷や汗と、RavinGrayの熱量も発汗を促す。後で正気に戻れる命が残れば、沁みた衣服を不快に思う時間が訪れるであろう。
焔の獅子は、何とも涼しげな顔。まるで『我関せず』な無表情を貫く。
両者共に機械に頼らぬ本来の力を振るおうとした矢先。途轍もない気狂いの形が落とされされようとしていた。
カキンッ! ズガガァァン!
当たれば必殺の剣とそれを否定する剣筋が交わり咲かせた火花。さらに地面に崩れ爆音を轟かせたRavinGrayの断末魔。
ガロウの故郷にて連日連夜、炎の華を咲かせ続ける桜の名前を冠した火山と、噴煙の中に入り混じりつつ、紅色の弾丸と化す火山弾を彷彿させた。
「ムゥッ!? と、止められたやとッ?」
「ふぅ……相変わらず殺気ばかりのあつかましい剣。それに黒くて短い刃だ」
ガロウ、いつの間にやらRavinGrayの中から飛び出していた。壮大な突貫劇は囮に過ぎなかったのだ。
崩れ逝く敵機と心中を図るかに思えた髭面の男が、再び赤く滾った示現我狼を情け無用でエルミュラの頭上に落とす寸前の処。
髪も着物とて黒づくめだが目と握る剣だけは青い剣士。小さな躰に不釣り合いな倭刀を脇から刺し出し、ガロウの赤と交わっていた。
然もガロウの剣術が赤に染めて伸ばした大剣の様な得物相手に一瞥を寄越す──『黒い脇差』と吐き捨てた。
剣の見た目も殺気を抑えた剣術自体がガロウと逆さである青い剣士。相手の剣の正体を即座に見抜く青に燃やした冷徹無比。
「な、ないでお前が此処におっとよ? (フォルデノ)王国で留守番じゃなかったとか?」
赤に染め大太刀に成長させた剣を用い、自分の剣を払った敵へと差したガロウの募る苛立ち。彼が故郷から連れ添った脇差を、漁村エドナに於ける一騎打ちにて折られる相打ちに終った相手だ。
「それは此方の台詞だ山猿。俺はマーダ様から好きに振る舞う権利を頂戴した。猿……貴様こそ、いつからあの村を出る権利を有したか」
両目だけ西欧出身である母親譲りの氷の様に冷たい視線をガロウへ絡めたヴァロウズ第三の剣士トレノ。桜陽の出身である侍を『猿』と罵倒する隣国の血が流れる敵意剥き出しの云い様。
ズダダッ!
次に違う者がガロウの足元に届けた不意撃ち。自動小銃が燻らす火薬の匂いがガロウの嗅覚を後から小突いた。
「おぃ髭面ッ! この俺様が手前をあの黒猫から出すと踏んでいたのか?」
Leythemendの使い手レイ。自身を女性に帰した自称『私』を思わず捨てたキレを寄越した。
「はんッ! ないも考えちおらんッ!」
ガロウは、体毛の濃い両腕を組み胸を張って鼻を鳴らす。
不死鳥の少女リイナがレイに向かって思わず申し訳なさげな苦笑を零さずにおられなかった。
「……!」
銀髪の下に覗かすレイの不服顔──。
何の考えも無しに自分の異能を、この髭面の漢を相手に引き出してしまった憂鬱。まるで『助けなんぞなくとも出られた』そんな文句を言われた気分を顰めた眉に滲ませた。
「ガァァルッ! 遊ぶな!」
ガシッィィン!
エレーネが火の粉の飛び散る牙を剥き、戦闘中に敵を差し置く会話に興じた無礼に飛び掛かる。
Forteza襲撃を『遊び』と称していたエレーネの逆鱗に触れた。されど炎の牙も振り上げた脚さえ敵に躱され地面に落ちた。
「ええと……トレノち言うたか? お前ばこん争いに肩入れすっとはおかしくなかか?」
エレーネの攻勢を涼し気な顔で避けたガロウが次に吐いた台詞。
天から観ていた剣神さえも唸らす闘争をトレノと演じたガロウの惚け。血で血を洗う剣を交えた相手を知らぬ道理がないのだ。
それでもガロウは、短い脇差を敢えて鞘に納刀。それで自身の肩を叩く。若い剣豪を揶揄する仕草を態々見せつけた。
「フッ! 確かにな……此奴等はアドノス島に攻め入る害虫。──だがな、数が合わない争いを見過ごす訳にはゆかぬ。ティン……邪魔立ては無用!」
剣を交えない無駄な間隙をガロウに作られ、然もそれに乗じたトレノの言い草。いつも通りトレノに付き従うヴァロウズNo5の女格闘家ティン・クェンに一喝を注いだ。
エレーネとエルミュラは、トレノに取ってもあくまで敵方。そしてガロウ達は、語るまでもなき宿敵。されど二対三、数の不利を言い訳に、トレノは乱入を決めた。
──トレノ……アンタ、素直じゃないねぇ。あの髭面を無視出来ねぇだけだろうに……。
ヤレヤレと筋肉質の肩を竦める無言でトレノの刺された杭に応じたティン・クェン、身体を背け相棒に見せられない苦笑いを投じた。
トレノに取ってのガロウとは、混じりっけ皆無な剣同士の立ち合いが出来る数少ない相手、普段は冷静な血が沸き躍る殺意を抑え切れないだけだとティンは知り抜いていた。
それに『邪魔立て無用』は彼女に取って余分が過ぎた。
ティン・クェンが一番やりたい敵──鍵の女に逃げられた形。同じ女性の格闘家として拳合わせ出来ない以上、この戦場に未練などなかった。
ビシィィッ!
「それに裏切り者を放ってはおけんッ!」
水が滴る濡れた己の剣でトレノが差した銀髪の拳銃使い。風切る音が劇画の書き文字の様に辺りに響いた。
ズダダッ!
キンッ! キンッ!
「アアンッ!? 誰が裏切り者だってんだ、この剣馬鹿野郎がッ! 俺様が法ッ! 元々従ったつもりなんかねぇんだよッ!」
裏切り者と罵られたレイが愛銃達を異なる空間に飛ばし、怒りの銃口をトレノに向けるも、一振りに映る異常な多段の剣筋を以て、全ての銃弾を斬られる。
元ヴァロウズ最下位と三番目の息もつかせぬ小競り合いの戦端が開かれた。
一方──この異能者同士の争いをモニタを通じて観戦を気取るドゥーウェンとサイガン・ロットレンの両者。
「ふふッ……! トレノさん。貴方がこの戦場に介入するとは!」
レイと同様、嘗てはマーダのNo2に座していたドゥーウェン。吉野亮一に被せた仮面で浴びせた嘲笑。
トレノとティン・クェン、そしてヴァロウズ7番目の大気の使い手、ザラレノ・ウィニゲスタ。
三つ巴の同士討ち──壮絶を極めた暇潰しの争いを止めた4番目の魔導士フォウ・クワットロ。
この命を張った敵同士の遊びをドゥーウェンは、映像情報を通じて、彼等彼女等の異能を分析し尽くしていたのだ。




