第107話『Powered By "Gamble"(賭けた力と天性)』 B Part
『Fortezaをやらせはしないッ!』
「──ッ!」
言わずと知れたロットレン一家の大黒柱。
大車輪の活躍を見せるローダ・ロットレンがEL・Galestaで家族と戦地を巡る。金色の砂粒を創造に用いて機体の限界を伸ばす圧倒的な飛躍を遂げた。
扉の候補者、ローダが無線を通じて敵の少女に吼える。
格闘に精霊の力を二乗する妻ルシアと、世界の声を聞き届け自身の力に転換する娘ヒビキの肩を借りた三位一体。
一方、300年前に生を受けた黒い女神の能力『閃光』を無断借用しているルヴァエルと彼女の操るRavinGray。
ルヴァエル、ローダの扉を『人類が手に入れてはならぬ忌まわしき力』と斬って捨てた筈の者が、金色の砂粒と同質と云える星の屑を好きに扱う矛盾にて相対する。
頂上決戦を思わすローダ達とルヴァエルの一戦の陰影に堕ちる残された者同士の争い。
エルミュラ・フィス・スケイルとエレーネの搭乗するRavinGray。
全高約5m、後ろ脚だけで立てば、12mのEL・Galestaとかみ合う機動兵器に、生身の人間三名が相手取る。
「ハァァァッ!」
不死鳥の炎を己の躰に刻んだリイナ・アルベェラータ、まさしく焔の化身。
修道服姿の少女が尊敬の念を抱くルシアに習った体の燃える体術を振り翳し、全身を捻り炎の渦を纏いつつ夜空を舞う。豪快に2機もの巨大兵器にたったの独りで強襲を仕掛けた。
先祖伝来であった筈の不死鳥を強奪されたエルミュラ。炎身の少女に意識を囚われた歯軋り。異空間に消え失せた他の二人へ注力を出来ずにいた。
止むを得ない状況──。視認はおろか反応すら捉え切れない相手達だ。待ち構えるなど土台不可能な話。
ビィンビィンッ──!
エレーネとエルミュラ、操縦席内に鳴り響くけたたましき警告相手に互いの眉を顰めた。やはり無理もない、その警告が示す異常。機体の内側に『侵入者在り』の合図なのだ。
ズダダッ! ズダダッ!
エルミュラ、褐色の肌をピアスが揺らす。最早、親の小言よりも聞き入れたくない自動小銃が奏でる二連奏。
「チェェェァァッ!!」
エレーネとて、決して受け入れ難い猿叫。絶叫が彼女の聴覚を襲う。何れも回避不能の不条理。
発射時の反動を重力制御で喪失させたLeythemendを空間転移の異能を用いて好きに飛ばしていたレイ。
煙草を咥えた笑みを絶やさず、自分だけでなく他人であるガロウ・チュウマも共に異なる空間へ飛ばした異能の覚醒。
──外が硬い? だったらさぁ……中はどうなんだ? ふふッ……!
人同士の意識を疎通し合う金色の砂粒を介するまでもなきレイの狙い目。
レイの撃ち出す銃弾はおろか、炭化タングステン製の剣を滾らすガロウの示現我狼の威力すらも、RavinGrayの学習型AIが護り切れる硬さまで硬度を高めた。
然も操縦席以外の機体内部への侵入。だから決して避けようのない理不尽なのだ。
機械の内側でド派手に踊り狂うレイと二丁の自動小銃達。
「斬れんッ!? やったらさらに燃やすだけじゃッ!」
黒い刃、本来の持ち主ローダよりも黒を紅色に染め抜くガロウの我流剣。
確かに短い方の剣を借り受けたガロウ。
剣を振るいながら刀鍛冶を同時に決める異端が大太刀に進化をさせた。内側は脆い敵機に過剰な剣を振るい、情け無用で斬り裂いた。
ガガッ! ズガンッ! ズガンッ!
ガロウの剣術とレイの二丁拳銃が好きに暴れ狂ったエルミュラとエレーネの乗るRavinGray。連鎖する誘爆、もう止めようがない。機体を捨てたエレーネとエルミュラ、外へ脱出を図った。
グッ──!
「や、やりましたよあの三人!」
兵器を完璧に凌駕した味方の様子に、キーボードを叩く指の豆を巻き込み拳を握ったドゥーウェン。此方側の争いは完遂したに思えた。
「亮一……気が早いぞ」
外連味じみたドゥーウェンでなく、昔馴染みの名で注意を促すサイガン・ロットレン。白髪の老人、とうの昔に悟っていた。
黒猫の姿を模した機動兵器は、Fortezaへの強襲を掛けるための強化服に過ぎない現状を。
老人の想定は、瞬く間に具現化を果たす。
機体から飛び降りた少女エレーネ。長い金色の髪を炎の様に滾らす。細い全身に白布を巻き付けた姿。頭や肩の装飾も炎の獅子を呼びだす者に相応しき出で立ち。
「クォォォンッ!」
エレーネ、自由落下しながらその身を反らして人とは思えぬ雄叫び。途端に少女の全身が燃え盛り、何と彼女自身が炎の獅子に化けた。
然も背中に翼を生やし、落下が浮遊に転じる。そしてやはりRavinGrayから脱出した姉エルミュラをその背に乗せたのだ。
「なッ!?」
「ふぅ……」
着ている黒スーツの肩を着崩すかに思えたドゥーウェンの瞠目。
想定通りの溜息を零したサイガン、エレーネが自機を獅子へ転身させたのは彼女自身の異能。依って機体を捨てても体現可能だと読んでいた。
「見よ、あの二人を。やたらと乗り慣れておる。エルミュラの神を冒涜した術に機体が必要か? 寧ろこれからが本領発揮であろうな」
サイガン、姉妹と思しき両者を皺だらけの指で差した。
シャリィィィンッ!
「リイナ・アルベェラータッ! 我がスケイル家のパルメラが生んだ不死鳥ッ! この手に堕ちぬのならば、私の裁きを以て枯らすのみッ!」
蒼いサリーの袖口に重なる腕輪を鳴らして不死鳥リイナを名指ししたエルミュラの怒り。ヒンドゥーの力を引き出し、先祖が成した力を超える宣言を告げた。
シュバッ! ズダダッ!
「よぅ、色黒の姉ちゃん。余所見してっと、その綺麗な眉間に風穴が開くぜ、ククッ!」
エルミュラの妖艶を絵に描いた褐色の色艶を、敢えて時代錯誤の否定から入る煽りに使ったレイ。
旧スペイン領の白人、レイが自慢の銀髪を散らして、同じ銀髪仲間の可愛い嬢ちゃん。飛ばしたLeythemendでリイナを過大に援護する構え。
けれどもエレーネとて負けてはいない。レイの神出鬼没な銃弾、エレーネ自らを燃やした鬣の熱量がそれらを溶解させた。
「ガアァァァァッ!」
誰もが爆散するかに思えたRavinGrayの片割れ──。
不死鳥、炎の獅子、そして漢の滾る刃。
やたらと赤い力ばかりが折り重なる最中、破壊に焼け爛れた火が何と、地獄の番犬を彷彿させる遠吠えを上げた。
「おいに血ば流したんは、やっせんかったなッ!」
エルミュラの降らした血の雨が己の魂にさらなる薪を入れた叫び。自身の握る剣を燃やせるガロウ・チュウマの狂乱。未だ逃げずに中に居るのか?
燃えて崩れ落ちる寸前の巨大兵器を、まるで彼自身が振るい翳す狂気を孕ませた。




