第107話『Powered By "Gamble"(賭けた力と天性)』 A Part
ガシンッ! ドガッ! キャシャァンッ!
レヴァーラ・ガン・イルッゾから借りた力を、RavinGrayの機体に内包した人工知性を運ぶ金属と共鳴させながら閃光を具現化したルヴァエル。
相対するローダ・ロットレン一家の操るEL・Galesta。
ルシアの精霊術と格闘の技能、ローダの創造性がルシアの意思を形に成す。そして機体の操作系統へ余す処なく伝達果たしたヒビキの天性。
Forteza市の喉元まで迫った争いの音響。
サイガンとドゥーウェン──彼等が飛ばしたドローンからの中継を介すまでもなく、剥き出しと化した地下格納庫の脇に設置した管制室へ直に轟く。然も地下の底冷えが戦場の空気を匂わす錯覚に転じた。
少年時代に夢見た駆動兵器の激闘。現実化した処、ただ目を輝かせて要られぬ恐怖が肌感覚を通して二人の技術者、ドゥーウェンとサイガンを脅威へ誘う。
「見よ、97の背中を。風の翼が結晶化しておる。ローダの創造力は凄まじいな」
EL・Galesta──形式名『EL97式改』を97と略したサイガン・ロットレン。如何にも機械好きな形式呼び。
娘ルシアが風の精霊術で自らの機体に与えた『真なる自由の翼』
これを夫ローダが金色の砂粒を代償にして、さらに効率性能を高める兵器らしき赤みがかった折り畳める黄金の尖った翼に転化させた。
駆動系も既に97の限界を超えヒビ割れした箇所が多数。これもローダの創造が補填していた。技術を超越した不肖の息子、その能力を目の当たりにしたサイガン、思わず喉を鳴らした。
「レヴァーラ……昔のマーダだな。当時の自分の無力さを補うべく、リディーナに『AYAME』を多量に混ぜ込んだ戦闘服を造らせた。彼女自身に流れるAYAMEと同調させ、一定時間だが力を何倍にも増幅したそうだ」
白髪の老人、電子データにて辿った『閃光』の真相をさも懐かしき昔話の様に語り始めた。
「えっ? で、ではマーダの閃光とローダさんの持つ扉の力とは……!」
「左様、元を辿れば同じ力だ。それだけではないぞ……」
物事を結果だけで判断しがちなドゥーウェンこと吉野亮一とて流石に気づいた様子。
サイガン先生──自分に取って最初の生徒へ教鞭を振るい始める。
ガロウ・チュウマの滾る刃、レイの空間転移……あれらも同質。
全て自分達の身体に寝ていたAYAMEと自身の意志を融合。欲しい力を夢に描き、命を捨てる危険な橋を渡り終えた結果、後は地球上に積もった例の金色達が夢を形にするのだ。
「では扉の候補者と夢見の異能とは何か違う? ごく簡単な理屈だ──たったひとつの夢に賭けるか、世界の全てを受け容れ、それらを形に出来るか」
そう……冷凍の惰眠を経た350年以上を生きる老い過ぎたサイガンには『全ての受け皿』これが到底不可能だと土壇場でタカを括った。
「私はよく空を飛べる夢を見るのだ。然し同時に失敗の想像が必ず邪魔をした。飛びたい方へ無邪気に飛べた試しがないのだ」
自分の乏しき想像に苦笑を交えたサイガン。それ程に完璧な創造とは、困難を極める例え話だ。
「それにもし何もかも好きに出来る者が現れたら……欲深い人間のやる事だ。この星全体がその者に依って滅ぼされると恐怖し、鍵の娘を急造した。──ふふッ、よもや本当に扉を開拓するとはな」
サイガンが造った娘ルシアは、開くのでは可能性を閉じる存在にする想定であった。
ルシアは、素朴なローダに一目惚れの恋心を抱き、今なおローダの手助けに歓喜している。
「恐らく候補者独りでは、あの様な正義に傾く拓き方は出来なかった。他人を愛し、自身の存在意義を認めたからこそ、ああして失敗を恐れぬ創造が成せておる。何とも皮肉な話だ」
無償の愛を注いでくれる相手が居ればこそ、扉の守護者も代償を求める邪気を放棄出来た。
計算と想定の枠組みを抜け出せない老人が想定外の道へと導いたのが、夢を現実化出来るLoader。
そして正義も悪にも与しない孤独に輝く明けの明星──ルシアが男を愛の旅路へ導いた結実、扉の異能を世界に響かせた娘ヒビキがこれを常識に確定させた。
「で、では私達の造ったマーダも既に……!」
扉の力の原点──『閃光』
この世界軸にて最初に具現化を果たしたマーダことレヴァーラも既に拓いていた帰結に漸く気づいたドゥーウェン。驚きに声を荒げた。
「限りなく近しいと云った処か。奴も未だに愚かな独善者であれば実弟の域には達せぬのだ……」
されど語り部サイガンは、既に知り抜いていたが故に語尾を濁らす。
マーダとて300年前にレヴァーラの意識と混じりながら、護りの女神へ知らぬ間に愛を焦がした。現在のマーダ──ルイス・ファルムーンとて同じ事、フォウ・クワットロとの愛を支えに生きている事を。
「こ、この戦い……勝てますよねローダさん達が?」
サイガンを心の師と仰ぐただの旧日本人、吉野亮一に帰した男が先生に尋ねる心配の種。
扉の能力の試作品、閃光。殆ど完璧に昇華した本物達に敵うとは思えなかった。
「そればかりは判らぬ。ルヴァエル……奴は現在の戦いに固執しておらなんだ。少なくとも私にはそう思える」
「……!?」
一回り以上歳の離れた弟子から問い質され、首を横に振った白髪の老人。
過熱したルヴァエル機とロットレン機の闘争を目の当たりにして、前哨戦の扱いに落とした師の発言に亮一は、眉を顰めた。
さて……余りにも白熱したルヴァエルVsロットレン一家の闘争に、周囲の関心が持ってゆかれた。
されどエルミュラ・フィス・スケイルが降らす血の雨を浴びる、残された者共の戦いとて未だに継続していた。
「リイナぁッ! もうよかど! 傘は要らんッ!」
不死鳥の炎を燃やすリイナ・アルベェラータ。少女を盾にしていた生身を晒すガロウ・チュウマが突然吼えた。
「え? で、ですが……?」
「要らんもんは要らん! お前は残った敵ば全力で止めんかッ! おいはおいん血ば燃やすだけじゃッ!」
ガロウとレイ、自分達の上で戸惑う長い銀髪を垂らした少女を一喝したガロウの身勝手。
未だ15歳でありながら漁村エドナにて保育士に従事しているリイナ。まるで云う事を聞かない幼児を相手にしている気分に心の中で頭を抱える。
それでなくともガロウの剣術『示現我狼』は、防御力を高めたRavinGray相手に阻まれていた。
「この髭面の言う通りだよ可愛い御嬢ちゃん。私達は此奴等が(ルヴァエルの)加勢に行けないように止めるッ!」
空から降り注ぐ血の雨地獄に度肝を抜かれていた二丁拳銃の使い手、レイもガロウの我儘に同意を示す。
然もレイ、声と金色の流砂だけをその場に残留させガロウ共々、完全に行方を晦ました。
「あ、あれ!? は、はいッ!」
持ち主を失った傘、一体誰に応答したのか自分でも解せぬリイナ。
自身に刻んだ不死の炎を再び戦線復帰の狼煙が如く滾らせ、兎も角エレーネ機とエルミュラ機を狙い澄まして飛んだ。
「ガロウさんとレイの反応が消えたッ!?」
ロットレン一家のEL・Galestaに気を取られていたドゥーウェン。ガロウとレイの反応消失に俄然沸きたつ。
──こ、これじゃあッ!
同じくレイとガロウの消えた行方に色めき立った老人の魂。
レイの夢とは本来、空間転移を扱い自動小銃を敵の目前に突き付ける狙撃手殺し。
なれど例えひとつの異能であろうとも術者の過大解釈が明確であれば、理屈を超越した派生が可能なのだ。




