第106話『Alchemist's Grudge(錬金の怨嗟)』 A Part
『Revara Gan Ilzzo Mode Stand By OK!』──。
ローダ・ロットレン一家が一度は死した娘ヒビキを揺り起こす為、知らぬ間に呼び込んだ金色の砂粒。人工知性『IRIS』を運んでいたナノマシン達の壊れた成れ果て。
その金色がルヴァエル達の駆る殺戮兵器『RavinGray』の探知機の活動を開始。彼女達三人はこの運命を狙い待ち焦がれていた。
Forteza市街地に本命を発見、遂に掘り当てた幸運。然し辿り着くには目前の仇達を蹴散らすまでいかなくとも、振り払う必然を要した。
これは、果たして幸か不幸か──?
ルヴァエル、求めていた夢を勝ち取るべく、最終手段と思しき存在に手を染めたのだ。
『ククッ、何ともだらしない様。もう我を呼ぶのか?』
ルヴァエル機の操縦席内に響いた音声。
つい先程まで白髪の老人、サイガン・ロットレンが聞き惚れていた意識だけの女性。レヴァーラ・ガン・イルッゾが自身の末裔を公言するルヴァエルの召喚を受け嘲笑を鼓膜に届けたのだ。
されど『もう呼ぶ』とは如何なる真意か。Sound Onlyに昇格果たしたレヴァーラ、『自身の出番が早過ぎやしないか?』と煽らずには、いられなかったらしい。
「煩いなぁッ! 僕だってまだ呼びたくなかったさッ! だけどもぅやるしかないだろッ! ──『閃光』!」
ルヴァエルが自分の真祖に文句を吐き散らす。続けざまに旧イタリア国の男性、『Enzo』を恨み言の〆に用いた叫び。
ブゥンッ!
「──ッ!」
「えッ? さ、避けられたのッ!?」
ルシア・ロットレンの精霊術と武闘を体現していたEL・Galesta。焔を燃やす人型兵器の拳が突然空を切った。
驚かずに要られぬローダとルシア。EL・Galestaを介して振るったルシアの拳、これまで百発百中であった。不意に手応えを失い、信じ難い様子で自機の拳を思わず見つめた。
緑・青・赤──ルヴァエルの異能を示した信号機の如き煌めき、出し惜しみゼロの同時多発。
全てが一色淡に機体から溢れ出し、ルヴァエル機を恒星と成した惑星の様な様子で一斉に取り巻き始める小惑星の群れ。
『ルヴァエルを徹底的に破壊しろ』
義理の父、サイガンから云われたローダの目つきが着実に変わった瞠目。
その目で見るのはこれが初。ルヴァエルが具現化した新しき力の在り様。
三重の光の群れに包まれたルヴァエル機が自分達の前から突如消え失せ、距離を取られた。その危険な結果が雄弁に若き二人の夫婦に物語る戒め。
「あ、アレ……はッ!」
有象無象な他人の意識がこぞって飛び込むヒビキの魂。
歯の根が合わない震えに転じた。新人類の礎である彼女とて『閃光』の力の在り様は定かではない。けれどもこの家族の内で力の本質、最も知れた様子を態度で示した。
ガタンッ!
『あ、アレは、もしや!』
──だ、だからルヴァエルは呼び戻したのか。彼女を!
椅子を蹴って立ち上がった白髪の老人。
EL・Galestaの知識を得るために覗いた22世紀初頭の情報。繋がり往く運命にあった護りの女神とレヴァーラが共に築いた伝説。
僅かな文字情報でしか得られなかった力の再現。歓談していた黒い意識の女性が扱ったとされる脅威の能力。
金色の砂粒──意志を残した微細な粒子をこの世界軸にて初めて好きに操ったとされる異能。その名がまさしく閃光。サイガン、ルヴァエルの発言こそ聞けずとも、状況から即座に察した。
「そ、そんな! ルヴァエルの機体は既に伝達能力を失っていたのにぃッ!」
ドゥーウェンも驚異の様子に震える。
彼の大好きな電算機の分析を頼るまでもなく、ルヴァエルのRavinGrayは、伝達系がズタズタに裂けていた。それにも関わらず、再稼働を始めたのだ。
「な、ないをやっちょっとよッ! なぁッ!」
「し、知るかァッ! 私に聞くな! し、知らないッ! 本当にぃッ!」
ガロウ・チュウマ、髭面の口を多大に開いて偶然近くに居た銀髪の二丁拳銃使い、レイ相手に唾を飛ばして詰め寄る無礼。まるで罪人に向け供述を求める様。
声だけは負けじと張った元ヴァロウズNo10のレイ。
レヴァーラの力を引き継ぎ、350年以上の歴史を生き長らえているマーダ。そのマーダに僅かの間だが仕えていた彼女。
そんな敵の渦中に居たレイでさえ『私は何も知らない!』と、耳を塞いで強く首を振る、関わりのない態度を示す虚しさに堕ちた。
「い、一体何が始まるの……?」
他の仲間と同様に心を奪い尽くされたリイナ・アルベェラータ。少女の魂を燃やした戦いの火種が揺らぎかけた。
修道女姿の少女が極彩色に輝く装い新たな巨大猫を見上げる様子。神の御使いが下す審判を黙って待つしかない憐れな子羊を連想させた。
「ふッ! ふふッ! ……フフフッ!」
エレーネ機の捉えた反応を『死ぬ気で追え』と、身勝手をルヴァエルへ投じたヒンドゥーの神聖術士、エルミュラ・フィス・スケイルの肩が揺れる。自分達が首領に据えた者の覚醒に嗤いが転げ落ちた。
「……」
対して何も発せぬエレーネ。『アレは偽りの顕現』例え虚構であろうとも目的の為なら無駄口は抑え、遂行の筋道だけを求めた黙秘に徹した。
ヴァンッ……!
「ウガァァァッ!」
殆ど火を喪失していたルヴァエルのRavinGray。
明らかに自動操縦を逸した生き物が如き雄叫び。
Fortezaの英雄達が具現化を果たした希望の光。
不吉の象徴として不遇の扱いを受ける黒猫が、現人神の御使いとしての制裁を運び、金色の望みを吹き消すかに思えた。
「せ、先生……! こ、これを!」
「ムッ! な、成程。やってくれたなリディーナよ」
新たに目覚めたルヴァエルの黒猫。分析を継続していたドゥーウェン、師と仰ぐサイガンに見せた驚愕に失った色彩。
嘗ての弟子であったリディーナの遺産を苦虫噛み潰す態度で称えるしかないサイガン。『これで部品が揃った』と確認する仕草を見せた。
レヴァーラ・ガン・イルッゾの閃光を体現したRavinGrayの全身。
あくまで兵器だが体組織と云って差し支えない。ローダ達が召喚した金色の流砂と同じ物がこの機械には多量に埋め込まれていた。
300年前、真実のレヴァーラが生きていた時代には星の屑と呼称された物質を好きに操った閃光。使い手の真祖レヴァーラの情報を取り込んだルヴァエル。
人の生み出した異能を電算にて掠め取った形──。
意識だけの黒い女神から『他人の異能を情報化して移植、造作もない事であろう?』と煽られた老人。自らが築いた力の形の物悲しさに、乾いた唇をきつく噛み締めずにはいられなかった。
ギリぃッ! 歯を食い縛った扉の青年。
「……負けない! 決してッ!」
一方、300年後の現代。金色の砂粒を己の創造力にて自在にしつつある扉の候補者ローダ・ロットレン。
同質──いや、同門対決と読み替え出来る仇の出現。造り物の力を蹴散らす覚悟を決めた。
「扉を拓いた俺を支えてくれる皆に必ず応えるッ!」
ローダが思いを声に載せる──。
自分を信じ、愛を注いだルシア。二人の間の生まれた真実の愛であるヒビキ。
元の理由を辿れば、好きに扉を扱える自分の身勝手を律する為にルシアを造った義父サイガン。
加えて此処に渡って以来、自分を支えてくれた仲間達──全て本物の精神。情報を積み上げた偽りなんかに負ける訳にはゆかないのだ。




