第105話『The Goddess's Lethal Weapon(オンナ達の最終武器)』 B Part
──『嗚呼ッ! 私のローダァッ! もっと! もっとぉ! 私だけを見てぇッ!』
戦場のド真ん中で、夫ローダへの愛を叫んだルシア・ロットレン。
──『る、ルシア!?』
妻ルシアから突然届いた愛の告白に戸惑いが隠せない夫ローダ。
本来なら戦場に傾倒すべき意識を奪われた愛の捕縛に暫くの間、囚われるのを余儀なくされた。
さらに戦場のみならず、ルシアの父であるサイガン・ロットレンが指揮を執るForteza市街地をも覆い尽くした金色の砂粒。
ルシアが届けたい彼だけに留まらなかった情愛の叫び。星々が渦巻く銀河の様に一粒づつの輝きへ伝達してゆくどよめきを生んだ。
ルシア自身は全く知らぬ漏れて零れた乙女の初心。
まるで心の鎖紐解かれた様子が、Fortezaの地下シェルターにて避難を余儀なくされる民草にさえも送り届けられた。
Forteza市民に取ってRottlen家は最早、おらが街の象徴。
何しろローダとルシアの結婚式典では、街を上げて祝福の鐘を鳴らし、普段は資源の無駄遣いを止めた街が一晩中お祭りムード一色、朝まで祝福を騒ぎ続けた。
未だ若過ぎる新妻の愛を聞きつけ、未だ戦乱の緊張状態であったにも関わらず、緩んだ笑みを浮かべた気の早い平和に皆が興じた。
SNSを通じて『Lucia Lottoren Grande Coro d'Amore※』が広がる波紋を呼んだ。※ルシア・ロットレン愛の大合唱(イタリア語)
──『お、御姉様ぁッ!?』
敬愛するルシア御姉様から、リイナ・アルベェラータにも届けられた告白。不死の炎を燃やし、戦いに集中してた気分が一転。彼女の乙女心も大いにくすぐる。
リイナ、まるで自分が愛の告白を受けた仕草。顔のみならず、全身を駆け巡る鼓動と、壮大な愛情の熱が少女の心持ちを真っ赤に染め上げた。
──『な、なんじゃあ!?』
初老とはいえ普段あまり老人台詞を使わぬサイガン。突如飛び込んだ娘の恥ずべき好意。年甲斐もなく言葉を濁す。誰にも届かぬ無駄な誤魔化しを誘った。
渦中の人──ルシア・ロットレンは、それでなくとも人間にしとくのが惜しまれる美貌と身体。
さらにあの女神、ファウナ・デル・フォレスタと肩を並べると噂される強さから『戦の乙女』の異名が定着しつつあった。
そして誰しも女性に求めがちな優しさの両天秤を兼ね備えており結果、性別を問わぬ根強い人気を誇っていた。
男性なら誰もが羨む女。一目見た瞬間、相手を虜にする女性の品格。
今回の一件にて、英雄ローダに対するうら若き乙女の一途な想いが伝承の域まで達する事になる。
然も愛を叫んだ容姿がさらなる価値を付ける可能性。桜陽の巫女を想像させる服装へ衣替えした。
#ルシア巫女と、縁結びの力が本人の知らぬ処で付与されるかも知れない。
てんこ盛りが過ぎる域まで届いたルシアの女性品質。
ルシア的には見知らぬ者からも、大いに冷やかされる羽目に陥る後日談。黒歴史に塗りつぶしたい大事件へ転がる事になるのだ。
これだけ切り取ってみても、金色の砂粒≒星の屑があらゆる人類達に流れている事が容易に想像出来る事態であった。
然もこれが引き金に至り、とあるモノを呼び覚ます事柄に繋がってゆくのだ。無論、ルシア自身はおろか、それはまだ誰もこの時点では知覚してはいなかった。
「ん? んんんッ……!?」
外の争いに依る喧騒に留まらず、ママの噂を人々が一斉に大合唱し始めた意識の渦が大量に飛び込み、叩き起こされた心の壁を持たぬヒビキ。
加えて目覚めてみれば心密かに『可愛い』とさえ思っているパッパの膝上にて、自分は寝ていたのを知った。
生まれながらに16歳の品格を持つヒビキ。リイナ同様、彼女も羞恥心が溢れて収まり切れずに零れ落ちた。
「め、眼鏡。僕の眼鏡は何処?」
狭苦しい操縦席内で、落とした眼鏡を探す様子に全力を費やす恥じらいに転化した。
「ヒビキ、済まん。起こしてしまったな……」
父であり夫でもあるローダ。普段から割と愛娘の面前にて愛妻と愛情の繋がりを見せていた彼ですら、この状況は流石にバツが悪いと感じた。
「い、良いよ……だってもぅ慣れた。パッパとママの愛情って、世界公認だからさ」
漸く眼鏡を見つけたふりをした仕草のヒビキ。とんでもない羞恥に繋げた。
「ちょ、ちょっと待てよッ!?」
ローダ、幾ら何でも『世界は云い過ぎだ』と娘を全力で改心させたかった。然し世界中の意識を総ざらい出来る娘に言われては、増々以て言い訳のしようがないとも思えた。
こんなやり取りをしている間も『残り5分』に世界の命運とやらを賭け、全力で挑んでいるルシア。
──『ローダぁ! 格好良い私だけを見てぇッ!』
孤軍奮闘と共に心の声が流れて落ちるルシア、未だに続く愛の告白。
「や、やるかヒビキ……!」
「う、うん……!」
ローダとヒビキ、本来の持ち場に戻り、集中する事で現実と向き合う逃げに徹する決意を固めた。
それにしてもEL・Galesta、都合3機を全稼働させるよりも、妻ルシアを筆頭に団結したロットレン一家がたった1機で攻める方が結果的に良好であった。
「な、何なんだよコレはッ!?」
何やら少々不憫に思えて来たルヴァエル陣営。
特にルシアの武闘を体現したEL・Galestaを独りで相手するルヴァエルのRavinGray。
AIがルシア機の動きを学習する以前の問題。
既にルヴァエル機の損傷は甚大。然もルシアから漏れ出る聞くのも恥ずい心の声は、ルヴァエル達にもすべからく伝達していた。
ルヴァエル、機体の性能を全放棄。
緑色・青色・赤色と、異能『暗転』をフルに活かした生存。それすら時間の問題に思えるが他に打つ手が残っているのか?
「全く冗談じゃないわ! 何なのよあの女ぁッ!」
此方も理不尽に反論したい褐色の美女、エルミュラ・フィス・スケイル24歳。
脂の乗った女性。男性経験は実に豊富、両の指で数え切れない程。なれど真実の愛へ進展した恋愛はなんと0%。
何しろバルタバザルにてルヴァエルを推し立てた復讐劇の手伝いに奔走し続けた幸薄かった彼女の人生。
敵の女の恋愛癖が大暴発した結果、窮地に追いやられている現状に怒気を荒げる必然に失墜。
不死鳥の拳を振るうリイナと、気を抜く暇を全然与えぬレイの空間転移に依る狙撃に、彼女得意の詠唱時間が封じられていたのだ。
『……みつけた黒猫。えと……え? Forteza市街地?』
独り、敵の女総大将の告白に全く以て興味を示さないエレーネ。
ブレない呟きで怪しき無線を仲間達に知らせた。自分達が現在乗っている兵器も黒猫を模した存在。捜し当てた黒猫とは彼女達に一体何をもたらすのか。
実に薄気味悪いのはエレーネが頼りにしている探知機、金色の砂粒達をローダ等が導き出した後に使用可に至れた事実だ。
『な、何ですってぇッ! 街のド真ん中に隠すとか意味不明だわ! ルヴァ! 此処は私達に任せて今直ぐ向かいなさいッ!』
エルミュラ、またもや自分達の首魁に、酷く慌てた早口で命令を下した。
「い、行けと云われた処で……」
ルヴァエルの辟易──。
目前には愛を叫んだ獣、ルシア機の猛攻が自分を捉えて離さない。何の援護もなくアレを抜くのは、例え彼女とて至難の業だ。
バァンッ!
窮鼠に咬まれた黒猫、操作系のパネルを拳で叩いたルヴァエル。冗談の極みに思える不自然なボタンが出現した。
「ええぃ! これだけは絶対温存したかったのにぃッ!」
パァンッ! 隠しボタンそのものを平手で弾いたルヴァエルの憤り。ルヴァエル機のパネル表記に現れた狂気の沙汰。
『Revara Gun Ilzzo Mode Stand By OK!』
ルヴァエル勢、奥の手らしき分が起動を開始。果たして黒猫が愛の鼠を噛み殺すのか?




