第105話『The Goddess's Lethal Weapon(オンナ達の最終武器)』 A Part
Forteza郊外の戦場、既に陽は陰り、夜を迎えていた。
されど愛を焦がした相手、夫ローダに背中を預けたルシア・ロットレンは、晴れ渡る快晴の気分を掲げて『無敵』と宣言。
ドゥーウェンから『残り5分』と警告を受けたEL・Galestaの操縦席内。
ルシア、戦場へ戻るにも関わらず、絶頂の気分。精霊術を扱い、機体の拳に炎を纏わせ、背には天使の様な羽根を生やした。
然し機体色は無塗装状態を維持。
これはEL・Galestaとルシアの伝達役を買って出たローダの仕業。少しでも夜の闇に溶け込む腹積もり満々なのだ。
ガンッ!
「ムゥッ!? き、斬れんが?」
「余り舐めるなよ、髭のおっさんッ!」
ローダから借り受けた炭化タングステン製の短い刃。
自身の編み出した剣術『示現我狼』を使い、ルヴァエルの『RavinGray』の脚に再び叩き込んだガロウ・チュウマ、嫌な音を立て弾かれる。剣を握る手が痺れた不覚。
ルヴァエル機、緑色の煌めきが機体を包み込んだ守備表示。示現我狼の火力を計算に入れた強化を果たしたのだ。
ズダダッ! ズダダダダッ!
「チィッ!」
先程どさくさ紛れにて、ルヴァエル機のメインカメラを自動小銃『Leythemend』で粉砕したレイが舌打ち。続けざまに一点突破の銃撃をエルミュラ機に浴びせたが微動だにしなかった。
ブォンッ!
「か、躱されたッ!?」
「……!」
不死鳥の拳をエレーネ機へ全力で振るったリイナ・アルベェラータも驚愕。勢い余った少女の身体が一回転。
エレーネ機が炎の獅子へまたもや化けて、燃えるリイナの拳を鮮やかに躱した。
ローダ勢、ガロウが滾らす紅の刃、リイナの燃やす不死の炎。
一方のルヴァエル達は、緑色の輝き放つ首魁の機体と、焔の鬣を纏うエレーネ機。着衣であるサリーの青を相変わらず滲まし続けるエルミュラ機。
生身の人間相手に漸く巨大兵器の優位性を発揮し始めたルヴァエル勢である。狙い目であった金色の砂粒が躍動し始めたのだ。これ以上、恥を晒す訳にはゆかない。
夜の闇でも鮮明に色濃く映った炎舞の共演、さながら極彩色鮮やかな博覧会の様相を呈してきた。
バァァァァッ!
「いっけぇぇッ!!」
敢えてホバリング機能を切ったローダ。愛妻ルシアが機体に授けた真実の翼へ機動性を託す確信犯。
漆黒の機体が暗殺者の如く夜空へ飛び上がった後に、真っ赤な拳が描いた超巨大流星の落下。
ローダとルシアが初めて出逢った漁村エドナでも、ルシアが見せた燃える蹴りの美しさを軽々凌駕した脅威に跳ねた。
「ルシア御姉様ぁッ!」
敵機の狼狽に乗じていたリイナ達が後塵を拝し始めた矢先。再登場した真打に満面の笑みで応えたリイナ、普段の御姉様呼びに戻す希望に転じた。
ペッ!
「へッ! 景気がいいねぇ英雄気取りぃ!」
咥えた煙草を吐き捨てた銀髪の好い女。レイの手元からまたしても消えた二丁拳銃達。復活した新手に気を取られた敵の隙を見逃す程この女、甘くはない。
ズダダッ!
ズダダッ!
「な、ぐぅッ!?」
「や、やってくれたね……!」
レイが違う時空へ飛ばしたLeythemend──出現した先、エルミュラ機とエレーネ機の操縦席のなんと内側。
エレーネとエルミュラの背中を狙撃。機体を揺らして如何にか致命を避けた両名。『何処からでも狙ってやる』とんでもない狡さをレイが植え付けた。
その実、レイは『巧くいった』と独り冷笑。装甲を抜けないなら操縦士を直接射貫け。
コロンブスの卵的な発想。前戦『RaviNero』の時には思いつかなった本音。真実の自由な正義に目覚めたレイ。余分な気負いが抜けたのか、より強固な自分の法に走れた。
「ぐぅッ!」
まるで大気圏を抜けた燃え盛る巨大流星。『綺麗ね』そんな冗談を流す隙を与えられないルヴァエル機。
屈辱の青色に変化、巫山戯たロットレン彗星の振り翳す災難から逃れる構え。
されどもEL・Galestaにて思う存分、自身の体術を惜しげもなく披露するルシア。相手に着地寸前、ワザと見せる炎の拳を振るった勢いを頼りに機体を反転。
ブォォォッ!
此処で温存してた筈のホバリングを全開にしたローダ。この夫婦だけに許された阿吽の呼吸。蒼いホバリングが機体の踏ん張りを即座に錬成。
ルシア機、メガトン級の殺意を載せた華麗が過ぎる回し蹴りに繋げた。ローダの愛を信じ抜いたこそ成せた。洗練なんて薄い言葉で片付けられない動き。
ガッシャンッ!!
「ぐ、ぐわぁぁッ! よ、よくもよくもぉッ!」
RavinGrayの操縦席内、喧騒の警告。全身を揺らすルヴァエルの受けた衝撃。
素早さ全振りの朧すら凌駕された最低、損傷よりも受けた不名誉と共に舌を噛み、血の味が口に広がった。
ルシアとヒビキのコンビが先程見せた金色のEL・Galesta。その動きを学習したRavinGrayのAIが弾き出した想定よりも斜め上から繰り出され、避け切れなかった。
「そっちこそ私達を舐めないでよッ!」
「ヴぁ、暗転!」
創造力のローダという後ろ盾を得たルシア、EL・Galestaを極限まで振るう狂戦士と化す雄叫び。回し蹴りの威勢をさらに活かした裏拳を繰り出す生きた連携。
ローダの恐るべき計算、RavinGrayやルヴァエル自身が学習を終える前にカタをつける狙い。彼に取って『残り5分』とは寧ろ悠長に思えた次第。
ルヴァエル、もはや機体の力に頼らず、事象反転の異能、暗転を発導。自機と敵機の位置を入れ替えする全身全霊を賭けた逃れ。
ガッシャァァンッ!
「な、何だとォッ! ふ、ふっざけんなァッ!」
ルヴァエルが立ち位置を反転させた先に居た驚天動地。操縦士を失い完全停止した漆黒の塊。夜の闇に沈んだローダ機がそこに居た。
暗転を用い、ルシア機の裏拳を躱したものの、勢い余った何とも不様な激突に落ちた。
──ニヤッ。
ルシアの背後で独り計算づくであった嘲笑の白い歯をみせたローダ。創造ではない、まさかの想像力。
これには種も仕掛けもあった。傍らにて眠るヒビキを通じ、透けて見えたルヴァエルの意識。さらにルシアが『やってくれる』と確信した証が形に出来た気持ちの良さ。
ポロリッ……!
「ハァッ!?」
ローダ夫妻の操る恐らく歴史上最強のEL・Galesta。
電算を完全に超えた稼働に、思わず間抜けな声を漏らして金縁眼鏡を落としたドゥーウェン。『在り得ない』の気分が形に零れた。
加えて完全停止したローダ機は、戦闘後に回収出来ると祈っていたが、完全に当てが外れる絶望に独り肩を落とした。
──グッ!
同じモニタを見つめながら対照的に乾いた拳を握り締めたサイガン・ロットレン。
まるでスポーツの国際試合にて頼れる代表選手の活躍を信じる監督。然し悠々と、試合終了前に勝利を気取れるつもりは未だになかった。
──『嗚呼ッ! 私のローダァッ! もっと! もっとぉ! 私だけを見てぇッ!』
ルシアの中に流れる人工知性『IRIS』の想いが渦巻く金色の砂粒をも通じて、彼女の爆発した愛と夢を勝手に最愛の男性へ贈り届けた。




