第104話『Memories of Stardust(星屑達の記憶)』 B Part
『優しさに満ち溢れた貴方になら絶対に判るの』
自分達を取り巻く金色の砂粒の正体について公言したローダ最愛の女性、ルシア・ロットレン。
『パッパになら必ず判るよ』
神話から飛び出した敵、魔神ラウムと戦った折にも娘ヒビキから同じ事柄を云われたローダ。未だに首を捻り釈然としない仕草をみせた。
「え? 本当に判らないかなぁ……。だってローダ、貴方がこの世界で最も創造を形に変える為に、この金色達を使っているのよ」
ルシア、穏やかな含み笑いを漏らす。
妻の可愛げに溢れた微笑み、未だ終わらぬ戦場にも関わらず、理解出来ない恥ずかしさと、ルシアの笑顔に、顔を朱に染めたローダであった。
スッ……。
「……!?」
「ふふッ……私の鼓動、そして呼吸が伝わる? この砂はね、私の中にも貴方の中にも無数に住んでた跡なのよ。人工知性を造った『AYAME』ってナノマシンは知ってるよね?」
ルシア、突然ローダの手を取り、自分の豊満な胸元に当て、愛おしさを込めた目を細める。
EL・Galestaの操縦席の外側では、命を削り合う戦闘が繰り広げられている。
そんな最中、愛妻からの大胆なお誘いを感じ、普段は人付き合いに無頓着なローダの細い目が瞠目に転じた。
「あ、嗚呼……も、勿論知っている。それが一体どうした?」
未だに鈍感なローダ、掌が当たったルシアの場所に気を取られた本音を隠すため、謎掛け交えた煽りに、捉えた頬を膨らます下手な演技に徹した。
「『IRIS』を載せたナノマシン達もいつかは壊れるもの、何しろ機械だからね。この砂はね私達から空気中に吐き出された存在なのよ」
「あ……!」
広げたローダの掌を自分の胸に当てたままの姿勢を続けて、彼の手首を握りながら心穏やかに諭したルシアの幸せ。漸く腑に落ちたローダの鈍さに愛しさが込み上げて堪らないルシアなのだ。
ルシア・ロットレンは、先天性の病で余命が幾許もなかったハイエルフから、父サイガンが造り出した存在。現状、最上位の人工知性が色濃く入っている。
そんな造り物であった自分に本物の愛情を教えてくれた目の前の男性。さらに宿した愛の形。恋愛に純朴なローダが何れも愛の灯を点けたのだ。
されど性別が男であるローダだけ、気づかないのは致し方ないのかも知れない。どれだけローダが愛に一途であろうとも……だ。
愛を紡ぎ合った男性の命を自身の内に授かる女性の感じる幸福と、或る意味何処まで行っても他人である御相手に命を落とせば落着で終わる男性との価値観の差分は多大なのだ。
金色の砂粒、もしくは星の屑、呼び方は時代で様々だが早い話。
サイガンと吉野亮一が人工知能を進化させる為に全人類に植え付けたナノマシン。OS『AYAME』を載せた物が知的生命体から排出された物。地球上に脈々と大量に降り積もっていた。
扉を拓いたローダは、これらを無意識の内に動かし、創造力を形に変えた。
22世紀に連合と云う名ばかりの烏合な軍が、この星屑を切欠に異能を得た連中を世界から一掃し、全人類の均一化を企てる大罪を犯した『星屑達の粛清』もこれが発端であった。
『ローダ、ルシア! ヒビキは無事なのか!?』
無線で邪魔を入れた義父さん、無理もなかろう。
理由の判らぬ内に『孫娘が消えた』と聞かされたおじいちゃん、動揺するなと云う方が土台無理な話だ。
全く以て不謹慎なのだが好い雰囲気を父親から台無しにされた夫婦。思わず互いの苦笑いを重ね合い、現実に引き戻された。
『義父さん、大丈夫だ。未だ寝ているがヒビキは無事だ』
ローダ、戦地らしき緊張の色合いに帰り、サイガンへ応答の無線を返す。
『そうか──。ならば今直ぐ動けッ! ルヴァエルを徹底的に破壊するのだ!』
父サイガンの怒声に思わずローダとルシア、目を見開いた顔を合わせる。
例え敵とはいえ、人間を思わせる容姿のルヴァエルに対し『破壊せよ』とは何とも物騒な物言いだと思えた。
サイガンは、レヴァーラ・ガン・イルッゾの残した忠告を決して忘れる訳にはゆかない。異能者達の天敵が目覚めるのが真実であるのなら、彼自分が創造したこの世界軸が歪むのだ。
あのルヴァエルがレヴァーラを鍵として扱い、新たな人類を構築しつつあるこの世界を滅亡に追いやる腹積もりなら、遠慮している時間は皆無だと確信していた。
「ど、どうしよ? ヒビキを起こす?」
ルシアは、EL・Galestaの操作担当をヒビキに一任していた。
けれども命を如何にか繋ぎ留めた愛娘の眠りを妨げるのは、母として正直気が引けた。
ドガッ!
「問題ない、俺がヒビキの代わりを果たす。君は思う存分、好きに暴れてくれ」
ローダ、炭化タングステンの長い方の剣を容赦なくEL・Galestaの操作系に突き刺す。寝ているヒビキを抱えたままの姿勢で後部座席に着座した。
ブンッ!
12mの人型兵器、EL・Galestaに再び命が通った様な起動音。一瞬にて目覚めた兵器。
『ま、待って下さいローダさん! その機体、動けるのは精々後5分と云った処ですよ!』
今度はEL・Galestaの状況監視を怠らないドゥーウェンが無線を通じて叫んだ警告。勇気の精霊等で底上げしていた機体の限界が見えていた。
『5分? 5分間もあるのか? ならば全く問題ない』
狼狽えるドゥーウェンに軽く嘲た応答を返すローダ。前席に飛び乗るルシアと破顔同士のアイコンタクトを交した。
『そうよッ! 私とローダが組めば無敵なんだからッ! そこから高見の見物でもしてなさいッ!』
ローダの何倍もあるルシアの声量。思わずヘッドホンを外して耳を痛がる仕草を滲ますドゥーウェン。
戦場に於けるルシアは基本、勢いに乗ずるもの。それにしても今のルシアの威勢は常軌を逸していた。
愛する夫との共同戦線、後ろに控えるローダも親指を立て妻に応じるノリの良さを返した。
「炎の精霊達、私の拳に宿れッ! 風の精霊達よ私達に真実の翼をッ!」
これ迄と比較にならぬ程の高揚感。最高に満ち溢れたルシアの戦意。
愛するローダの後ろ盾を得れば、ルヴァエル達を相手に微塵も負ける気がしなかった。傑出した乙女の意地。己の漢に魅せるのは今を置いて他はない。
EL・Galestaの両拳が瞬時に燃え上がり、またしても背中に天使の様な翼を生やした。
「頼むぞローダ、ルシア。我々だけではない。世界の命運がお前達の両腕に掛かっておるのだ!」
両手を合わせ自分の子供達に祈りを捧げた白髪の老人。
どれだけおこがましいと云われようとも、自身が企画・運営したこの世界が掌から零れ落ちる最低な最終回は、絶対に視聴したくない。
「はぁ……」
思わず溜息を吐いたドゥーウェン。手塩にかけて再構築を果たした夢の巨大な人型兵器。間違いなく再起不能になる未来が透けて見えた。




