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第102話『Carry your movement into the void(夢幻に届けた演舞)』 B Part

『我はレヴァーラの意識を情報(データ)化した存在──我を(能力)(うば)い取ったマーダは此処には()らぬ』


 ルシア・ロットレンに『初めての男は甘美(かんび)であったか?』と心の声で(あお)り、次は自分を()したと(おぼ)しきルヴァエルに連れ添った様な体で出現。


 サイガン・ロットレンに真実を明かしたレヴァーラ・ガン・イルッゾ。

 ()()ルヴァエルを如何(いか)にも(かつ)ての現人神(レヴァーラ神)に足らしめんとするべく、Install(入力)された情報が(あふ)(こぼ)れたのが今の彼女という経緯(いきさつ)


 ──『300年前、()()()()()()が身体と意識の乗っ取りを計ったが故、我の望みも混ざり合った。この島を『Adon(アド)-North(ノス)』に押し上げ、象徴(しょうちょう)である軍事都市(フォルテザ)も造ろうと画策(かくさく)した……』


 外界では未だに続く戦いの喧騒(けんそう)の最中、過去を振り返る意識だけの女性──。

 自らを神に()えた新たな神国(アドノス島)(きず)こうとした者。初めの内はマーダだけが抱いた夢であった。


 然しレヴァーラを名乗るマーダの事をファウナ・デル・フォレスタがこよなく愛を()がして、気がつけば『私達の夢』に()()を果たした。


 人の意思とは移ろうもの(なり)──。

 自分を現人神(あらひとがみ)と成す()()。マーダと元来の持ち主であったレヴァーラの意思が何時(いつ)何処(どこ)で混ざり合ったのか、明確に線引き出来るものではない。


 彼女の意識も(からだ)とて全てをマーダから完璧に奪い去られた後、レヴァーラは一度死去に堕ちた。

 白髪の爺(サイガン)嘲笑(ちょうしょう)自嘲(じちょう)を交えながら話す今のレヴァーラは、生きていた頃の彼女の意識を情報化した()()()()()()


「ではルヴァエルが操る()()()()()、『暗転(ヴァンシオネ)』や生きた人間を爆弾に変えるアレも同じ理屈だな?」


 戦場の監視(かんし)をドゥーウェンに(あず)けてでも目前(見えぬ)に居る意識だけの相手から聞き出したたかったサイガンの本音。


 ──『ククッ……聞かずとも知れた事を敢えて聞き出す辺り、如何(いか)にも上に諂う(へつらう)()()らしき物の見方だな』


 凍結の惰眠(コールドスリープ)に落ちる以前はシステムエンジニア──一介(いっかい)のサラリーマンに過ぎなかった老人(サイガン)の過去を(あさ)るレヴァーラ。相手が欲しがる正答をはぐらかす遊びに(きょう)じた。


 ──『フフッ……我と嘗て争った事がある芸術と爆発を()き違えた男『ディスラド』。奴の異能を情報(データ)化、あの小娘(ルヴァエル)に移植したのだ。()()()()()()であろう?』


 人間の意識や能力をただ数値化する迄ならまだしも、()()()()するのは本来なら逸脱(いつだつ)している話だ。


 されどこのレヴァーラこそ、まさしく『造作もない事』の象徴──。

 最初の人工知性『IRIS(アイリス)』を以て動いていたマーダの意識を彼女(レヴァ)に移した最初の事例。サイガンを師匠と(あざむ)いた女性、リディーナ()()がサラリッとやってのけたのだから。


 ──『リディーナめ、Meteonella(メテオネラ)の設計だけでなく、その手の知識もあの連中(ルヴァエル等)に渡したのであろうよ。恐ろしき強欲だよ』


 何とも執拗(しつよう)な話、姿を持たぬ意識だけのレヴァーラ。此処迄、自身を含めた世界そのものを(あざけ)た態度で()べていた。──がっ、声音(こわね)から溢れる様相がこの後、急変し始める。


 ──『ローダ・ロットレンと云ったかあの男……消されぬよう努々(ゆめゆめ)気をつける事だ』


「何ぃ!? そ、それは一体?」


 レヴァーラからサイガンに届いた説得力に満ちた発言。この世界軸に誕生した新人類の(いしづえ)の身を案ずる、憂い(心配)と女性の愁い(哀しみ)(こぼ)れた。


 不意を打たれた形のサイガン、これ迄の会話は先々を読んだ上で成していた。されど完全に想像の枠組みを超えられ狼狽(うろた)えにしゃがれた声を震わす。


 ──『これだから()()を自ら名乗る者は考え方が薄いのだ。RavinGray(ラビィングレイ)……あんな物は所詮(しょせん)玩具(偽物)()()を起動する為。我の意識(生体キー)は此処に在る』


「ま、まさか!?」


 扉の候補者を狙い撃つAI兵器RavinGray(ラビィングレイ)()()──。『ソレは300年前に消えた()』過去の情報だけを真実と仮定した老人の頭の固さが露呈(ろてい)


 300年もの長き(とき)、意識のみとはいえ超越(ちょうえつ)した美女との会話に(うつつ)を抜かす場合ではなかったと思い知る。現実へと己の意識を戻す為、戦場を投影(とうえい)したモニタに視線を移した。


 最も機体の破損(はそん)(いちじる)しいルヴァエルの()()金色の人型兵器(ルシアとヒビキの機体)に機械の目線(カメラ)を向けた状態で静止。


 ──い、いけない! ルヴァエルがやる気だッ!


 白のローダ機がまたしてもホバリング全開。

 自分の過呼吸をブースト圧に用いた他を圧倒する速度域にてルヴァエル機とルシア母娘の機体の間に割って入る。ローダ機の関節部が限界を超える悲鳴を上げた。


「「──『暗転(ヴァンシオネ)』!!」」


 ルヴァエルとローダ、少女と青年の叫びが折り重なり、同時に能力を発した蒼い大きな(ルヴァエルの)瞳と、一見素朴(そぼく)を描いたが(ごと)青年(ローダ)の細目。

 ルヴァエルが受け継いだ事象反転の異能、ルヴァエル自身がこれを扱うのは必然。

 然しローダからも異端と云える同じ事象が同刻に発せられた。

 

 ──えッ!?


 突然自分の異能を真似された驚異(きょうい)に魂が揺れたルヴァエル。


 ──と、届いてくれッ!!


 一方、敵の異能に等しき異能を用いて無効化を狙ったローダの一発勝負──『やれるか?』の思い。

 以前、その身に()みたルヴァエルの暗転(ヴァンシオネ)。創造力を形に変えるローダ、過去の記憶を元手に果たして手繰(たぐ)り寄せきれるか。


 秒にも満たぬ時の短さで結果が知れるもの──何事も起きはしなかった。

 自機の状態が(かんば)しくないルヴァエル、暗転(ヴァンシオネ)の反転を使ってルシア母娘のEL・Galesta(エル・ガレスタ)との入れ替えを望んだのか。


「ふぅ……し、(しの)いで」


 ──『如何(いかん)! まだ終わってはおらぬぞッ!』


 ローダの創造力が勝ったかに思えた暗転(ヴァンシオネ)対決。

 サイガンが安堵(あんど)に胸を()で下ろす言葉を吐こうとした瞬間。

 レヴァーラからの言葉足らずな意思が飛んだ。(はば)む警告を生じて老人に釘を刺した。


 ドクンッ──!


「あ、嗚呼ぁ……!」

「えっ? ひ、ヒビキ?」


 金色(こんじき)EL・Galesta(エル・ガレスタ)、前後複座式になっている操縦席(コックピット)内。

 心の壁を生まれる以前から取り払っていた新人類、ヒビキ・ロットレン。

 眼鏡の下、母親(ゆず)りの輝く翠眼(すいがん)瞳孔(どうこう)喪失(そうしつ)した白目に転じて声も失い始める。


 後部座席に座った娘ヒビキの変化に尋常(じんじょう)ならざる危険を感じた母ルシア。完全に血の気が()せた。


 バチンッ!


『ククッ……(かか)ったぁ!』


 散々な反抗を受け続けていたルヴァエル、再び無線機の宛先を全域に切り替えた最上級の勝利宣言。事象反転の暗転(ヴァンシオネ)は、なんと(おとり)

 妻をこよなく愛し、娘を必ず護り抜くであろう素朴(普通)英雄(ヒーロー)意識(動き)を引き出したのだ。


「……ンぐッ!」


 断末魔(だんまつま)はおろか呼吸さえ困難にされたヒビキ。自分の喉元(のどもと)を苦しみと共に両手で押さえ、息を飲んだ言葉が最後。


 パァンッ!

 風船が割れた様な巫山戯(ふざけ)た爆発。ヒビキの身体だけが可憐に()()、機体はおろか後部座席も完璧な形で残った。


 ピッ!


「えッ……」


 娘の呆気(あっけ)なさ過ぎた最期の一部始終を震えた瞳で追ったルシア。

 右頬(みぎほお)、泣きぼくろの下、(わず)かに付着した愛娘(ヒビキ)血痕(遺産)。目前の地獄絵、状況を飲み込めず悲鳴処か驚きの声すら飲み込んだ。

 

 ポタリッ……! ポタポタポタポタポタッ……!

 ルシア・ロットレン、意志より先に涙腺(感覚)が哀しみを知り、勝手に降った涙雨が彼女の膝上(ひざうえ)を濡らし始めた。


 シュゥゥゥーッ……


「なっ!?」


 操り人形の糸が突然切れた感じの金色のEL・Galesta(エル・ガレスタ)(燃料)を枯らした様に膝から(くず)れ落ちた不自然にも程ある停止。墨色(カーボン)に帰した異常にローダが気づいた。


「ひ、ヒビキぃ!? い、嫌ァァァッ!!」


 同じ機体に騎乗していたルシア以外、ヒビキの死を誰も気づかない最悪。

 口の中に広がった涙の塩味、(ようや)く感情を爆発させた母ルシア。肩辺りで切った金髪を幾度(いくど)も振りながら、折角(せっかく)手にした祝福が掌から零れ落ちた現状を強く強く否定した。

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