第102話『Carry your movement into the void(夢幻に届けた演舞)』 A Part
バルタバザルからアドノス島のFortezaを堕とすべく来襲したルヴァエル勢。
エレーネの搭乗する黒猫の様な姿形をした巨大兵器『RavinGray』
生身の剣士、チュウマ・ガロウの剣術『示現我狼・櫻華』の一太刀を浴びた。
歪だが効率重視の5本脚を生やした黒猫の前脚2本──腕部を担う攻撃の要たる内の1本を持ってゆかれる、よもやな劣勢を強いられた。
『腕1本、無くしただけ……まだ遊べる』
エレーネ機より無線機を通じた『まだ遊べる』と強がりを演ずる呟き。エルミュラ機とルヴァエル機に届く。誰独りとして『大丈夫?』といった労りの応答を返さない。
エルミュラ・フィス・スケイルは、自身の機体を通じて放ったインドラ神の矢。不死鳥と一体化した生身の少女リイナ・アルベェラータにいとも容易く防がれてしまった。
レヴァーラ・ガン・イルッゾの眷属代表を豪語したルヴァエル。ローダ機の理不尽な発砲と、ルシア母娘の駆るEL・Galestaの拳を頭部に受けた最たる手負い。
ルヴァエル一派、三者三様──味方の心配をしていられるゆとりなど皆無であったのだ。
ギリィ……!
──こ、こんな筈じゃなかった! 然も不死鳥の後継者だなんて!
褐色の美肌を湛えた流麗な女性エルミュラ、苛立ちの歯軋りを顔に滲ます。
本来ならば3機ものRavinGrayにて自分達の異能を体現可能なルヴァエル勢が圧倒的に優位であった。
然しいざ戦端の蓋を開け放ってみれば、創造者ローダ・ロットレンに渡った発射時の反動を無くした自動小銃『Leythemend』
さらに巫山戯るにも程あると云いたい髭面の剣士ガロウの介入。
そして不死鳥の正統後継者、リイナにも邪魔に入られた途端、完全な劣勢に追いやられた。
エルミュラの心痛入り混じった憤激。彼女に取って不死鳥とは縁も所縁とてある存在。怒髪冠を衝いた気分を力に変えゆく。
「アムダ・ギャルバベルズッ! ヨニに取り憑かれし宇宙神シヴァッ! 種子に成り損ねた屑達を苗床共に降らせよ──ッ! 『堕落の流星』ゥッ!!」
詠唱のやり口が一転したエルミュラの神聖術。全方位に敢えて煽りを向けた術式の詠唱を無線に載せず、然も穏やかであった筈の台詞に、酷く角の尖った早口を以て投じる。
シヴァの命に至れなかった塵屑達を女性に限定で落とす術。明らかな怒気を吐き散らしながら発動。エルミュラの狙いは、無論決まっていた。
ギリィッ……!
──私の不死鳥! あんな小娘に掠め取られる位なら!
怒りに打ち震えたエルミュラの逆上、推して知るべし。
ヒンドゥーの神々を術に転化させた初代、パルメラ・ジオ・スケイル。なんと不死鳥をこの世界線に現界せしめたのも同じく彼女であった。
リイナに不死鳥を継がせた少年、ジオーネ・エドル・カスード。カスード家はスケイル家より不死鳥と、それを祀ったエドル神殿を継承した家系。
スケイル家が不死鳥を飼いならし続けていたのなら──。
エルミュラは、不死の炎とヒンドゥー教を表現出来る盤石を築けたに違いなかったと思い込む。
何の縁も持たぬ無関係な小娘が不死鳥を引き継ぎ、あろうことか自分の下した神々の裁きを邪魔したのだ。
「リイナッ! 危ないッ!」
「逃げてぇッ!」
これより恐らく巻き沿いの天罰を受けるであろう同じ女子であるルシアとヒビキの絶叫。再び闇に変わった絶望の虚空に木霊した。
ルシア母娘は巨大な鎧、EL・Galestaにその身を包んでいる。されどリイナは、不死鳥の護りこそあるが、直接その身に浴びる以外に道がないのだ。
バシュッ──!
ガスッ! ガスガスガスガスッ!!
「え!?」
自ら燃やした不死鳥の炎に照らされたリイナ、不意に自分へ覆い被さった別の黒い影が自身の影絵を隠したのに驚き、蒼の瞳を以て見上げた。
漆黒のEL・Galesta、搭乗者不在のAI機がホバリングを噴かした移動。
勝手に動き出してリイナの身を隠すと、盾の代わりと化したのだ。
性別など持たぬ兵器に降り注いだ冤罪と不当な審判。裁きの降り積もりが混迷を抱いたのか、僅かに消沈した。
「これ以上は、やらせん!」
愛妻と愛娘を乗せた金色のEL・Galestaの上、浮遊しながら割って入った白いローダ機。
忘れた頃の『重力解放』を機体にて再現。
エルミュラの黒を落とす裁きは男を必ず避ける。ローダ、間一髪にて如何にか防ぎ切った。
ドッサ……!
「ふぅ……AI機よ、漸く動いてくれたか」
リイナの息災を確認出来た管制室に籠り切りのサイガン・ロットレン。溜息を吐きながら椅子の背もたれに深く腰掛ける。
後生大事な仲間を護ってくれたAI機、これが初の活躍。
或る意味良き出番に恵まれた。これ迄、ずっと参戦させずに学習をさせ続けた効果が淵際で実った形。
──『全く……300年ぶりに嗤えぬ冗談を見せられている気分だな。EL97式改と、Meteonellaの出来損ないに依る争いとは』
一息ついた老人の魂に直接語り続ける震えた女性の声色。
EL97式改──EL・Galesta "Type Lydina Model"と、巨大な黒猫の元祖『Meteonella』の設計思想を継いだ量産機。
何れも嘗てのレヴァーラ・ガン・イルッゾを影から支えたリディーナの息が掛かった機体群。
味方の同士討ちを思わす戦闘、現人神の真祖と恐れられた彼女とて、見えぬ意識から流石に色を失い掛けた。
──『貴様……さっきは、我相手に『眷属を何故寄越した?』と抜かしたな。ククッ……知れた事。我とて望んでなどおらぬ。こんな馬鹿げた見世物。もうとっくに気づいておろう?』
意識だけのレヴァーラ・ガン・イルッゾが老人相手に寄越した冷笑。
ルヴァエル一派に襲撃させたのは自分ではないと吐露した。
──『この意識、貴様等が好きに扱える情報……所詮はDATAに過ぎん。我の魂はおろか意志すら此処には居ない………………実に哀しきものだな』
壊れ果てて灯りを逸した格納庫の片隅から零れたレヴァーラの侘しさ。影に沈んだ意志が初めて覗かす本音を遂に明かした黒い女神。
──『全ては我を支えてくれていたリディーナの仕業……ククッ、あの女。我をファウナに取られたのが余程腹に据えかねていたらしい』
レヴァーラはファウナと出逢う以前──。
実に堅実、そして自分だけに誠意を傾け接してくれたリディーナを信頼していた。心赦せる数少ない、親しき友人であった。
されどレヴァーラ、17歳のファウナ・デル・フォレスタから心を奪われ、初めて自分本位でない幸せに満ち足りたのだ。
──『やはり我は道化だな……フフッ』
心赦せる友だと信じていた者。死した自分の意識を──権力を、好きに使われた物悲しさにレヴァーラは胸内を漏らす。
「リディーナの代わり……私から貴女に頭を下げたい。確かに他人が勝手に引き擦り出した情報なのかも知れん。然し貴女は混じり気のない女性、決して道化ではない。自分の意志で優雅に踊れる存在だ」
格納庫だった物陰に向かい丁重に白髪頭を下げたサイガン。
レヴァーラ・ガン・イルッゾは、サイガンの息子マーダと己の意識と躰を取り合いながら最期まで抗った気高き女性。
今、この場に於いて罪の元凶に寂しさを語ったレヴァーラは、余分が失せ、ただ純粋無垢に未来へ紡ぐのを望む女に過ぎない。
サイガン・ロットレン、暗闇の中に見える想い。
笑顔を湛えた夢を乗せ、最後まで躍り明かした踊り子の情熱を思い描いた。




