第101話『Intervener(介入者)』 B Part
『喰らえぇぇッ! 示現我狼──『櫻華』ァッ!』
示現流──。
二ノ太刀は不要、一撃必殺を信条とする剣術。そんな必殺の剣にガロウ・チュウマの滾る魂を乗せた『示現我狼』
最上段、俗に云う『蜻蛉の構え』から全身をバネの如くしならせ、最下段まで一気呵成に振り下ろす、まさしく示現流を体現した最強の刃。
ガロウの出身地、鹿児島の活火山。桜島の噴火を『華』になぞらえた真っ赤な刃が全高約5mの兵器『RavinGray』に向けて降り掛かった。
出身国『桜陽』──陽いずる東洋の国。
国花のソメイヨシノと、我が祖国こそ全ての生命の源である太陽を抱えた国。旧日本からアドノスに命ひとつだけを頼りに渡った中馬我朗。
時代は既に22世紀から300年後──侍はおろか騎士道とて本来なら不要な世界軸。
剣に頼るなど今の時世、気勢を進むべき道を履き違えた古臭い祖国。
早々に見切りをつけたガロウ。Yシャツとチノパン、西洋文化の出で立ち。されど時代錯誤と斬り捨て出来なかった剣の道。
不死鳥の翼を生やした少女、リイナ・アルベェラータの背中に跨り空を飛んだ。
自身の剣術を真似た後輩、ローダ・ロットレンに炭化タングステン製の剣を『一振り寄越せ』と叫んだ。
そして今、味方は約12mの人型兵器EL・Galestaに搭乗。敵達も2本の腕と3本の脚を巧みに操る高さ5mを超えたAI兵器RavinGray。洒落にもならぬ景色。
一見笑い話にもならない漢の花道──ガロウ・チュウマは、文字面通りの真剣そのものであった。険しき道程を自ら進み、全身全霊で賭けたのだ。
炎の獅子に転じたエレーネ機の前脚、鋭き爪が振り落とされる軌跡を見切ったガロウの真剣な眼差し。
猫がうざったい蠅を果たして叩き落とせるものか──?
否、大は小を兼ねない。さらに加えると、RavinGrayはローダを最も狙うAI機。一介の剣士相手によもや遅れを取る様な想定を、組み込んではいなかったのだ。
後はエレーネ機が吹き飛ばした砂塵と風の流れにその身を乗せたガロウ。
まんまとエレーネ機の上空を取れた嘲笑。笑顔がそのまま気合の雄叫びを上げる口の開きへと繋がった。
ガッシャァァンッ!
「き、斬られたぁ!?」
操縦席内の異常通知が騒がしく鳴り響く。エレーネの驚きを呼び覚ました。
獅子の右前脚に見舞ったガロウの燃ゆる剣先。炎Vs炎、単純明快な力比べ。見事、一振りにて斬り裂き、ただの巨大な黒猫に戻してみせた。
「カーマ・アゾンダ……ソーマに溺れ堕落したインドラに告ぐ。神の裁きを混沌の弓矢に変えよ──『混沌の矢尻』」
エレーネの姉を名乗ったエルミュラ・フィス・スケイル。
再び酒に泥酔し切ったインドラ神の弓矢を打ち込む詠唱術を唱和。水と電撃を螺旋状に渦を巻かせた光の攻勢を、生身の人間に撃ち込んだ非情。
「ハァァァッ!!」
未だ宙から自由落下の途中、無防備なガロウとエルミュラ機の放った混沌の矢尻の間に割って入った不死鳥の炎を全身に刻んだリイナの気合一閃。
ビッシィィッ!
「と、止めたッ!? そ、そんなの決して在り得ないわ!」
不死鳥の炎を燃え上がらせたリイナ、掌を広げてなんとインドラ神の矢を相殺してみせた。
エルミュラ、目前にて繰り広げられた奇跡に、両腕の腕輪同士をぶつけた驚愕の仕草を返した。
敵味方双方、巨大兵器以外に介入を赦さぬ戦いに思えた戦場。生身の剣士と、火の鳥を纏った少女の二人が、大いに揺らしたのだ。
「や、やりおった!?」
管制室のモニタ越しに戦況を見つめていたサイガン・ロットレン、舌を巻く思い。
ガロウの振るった示現我狼と、RavinGrayの躰を借りて撃ち放ったエルミュラの神聖術を掌ひとつだけで止めた不死鳥リイナの異端ぶり。
改めてこの争いの中心に立っているのは機械に非ずと思い知らされる老人。中身が巨大兵器を確実に凌駕していた。
──『ククッ……だから我は賢しいと云ったのだ。生き過ぎた爺』
またしてもサイガンの魂を直に揺らした姿の見えない女性の意思。先程は『我を造りし爺』と言い放った。続けて『生き過ぎた』と嘲て罵る。
サイガン・ロットレンは、およそ50年と、さらに加えて300年もの歴史を氷結の眠りにて超えた科学を用いた転生者。
この老人が2回目の惰眠を貪る以前、人工知性『IRIS』を組み込んだ最初の人造人間、マーダはあくまでも性別は男性を載せた人型アンドロイド。
依って女性を造ったのは娘と称したルシア・ロットレンしか知らない白髪の老人。
されども形を持たない意思、何処かで見知っている常識の枠組みにて測れない不可思議な感覚に囚われたサイガン。
「お前が……お前さんか。マーダが最初に堕とした女性、レヴァーラ・ガン・イルッゾ。私が言った処で皮肉にしか聞こえんだろうが何とも不憫な存在だ」
小皺の刻まれた眉間を乾いた指で摘まんだサイガン翁の憂鬱。
EL・Galestaの再構成にあたり、過去の情報を収集していた老人が浮かべた憐れみ。護りの女神と未だに称え祀られた存在、ファウナ・デル・フォレスタの影に隠れた黒の女性。
人から人へ、己の意識を乗り移らせる異能。我が息子と云って然るべき存在、マーダから逆に意識と躰毎、乗っ取られた女性の意思を『不憫』と憐れんだのだ。
「お前は実に憐れと云う言葉が相応しいただの踊り子。自身の生まれ変わりを強く望んだ結果、手に入れた願望。最初の人工知性を押し付けられ、進化の道を閉ざされたマーダに取って、お前の異能は喉から手が伸びるものだった……」
レヴァーラ・ガン・イルッゾ──。
イタリアの属領に過ぎなかったシチリア島を、愛焦がれたファウナと共に世界の中心に押し上げた、云わば現人神の親。
そんな表舞台から姿を消した真実の理由。マーダと壮絶な意識の奪い合いを繰り広げた成れの果て。遂に人が造りし者が、依り代側を凌駕して抑え込んだ。
──『我は貴様に取って憐みの象徴か。確かに楽だったとは言い難いな、だが300年前の争いには福音も在った。ただ踊り子で終れずに済んだ……それなりに有意義だったと云わせて貰おう』
少々自嘲を交えたレヴァーラと思しき意識の綻び。『Adon・North』にこの島を押し上げた自分の人生を『決して悪くはなかった』と綴った。
ギロリッ……!
「それじゃよレヴァーラ神。つまりお前さんは、己の人生に悔いを残してはおらぬのであろう? ならば何故今頃になって『眷属』を名乗る巫山戯た連中を此処に寄越した?」
サイガン翁、皺くちゃで潰れた目をカッと見開いた追求。
アドノス島の創始者の名を語るルヴァエルが連れ込んだと思しきレヴァーラの意思。『ルヴァエルとレヴァーラ、どちらが偽りなのか?』
伊達に350年以上も生きていない。言葉を以て豪語したサイガン翁。
アドノス島と最先端技術を独占した先進都市Forteza。
レヴァーラが敢えて険しき道を選択した夢の結晶。さらに彼女の人生が人々の繁栄を築いた先。産み落とした副産物とも云えた扉の候補者。
『ローダ・ロットレンとFortezaを消せ』
儚き夢に散り失せた気高き女性、レヴァーラ・ガン・イルッゾ。
身なりを似せただけのルヴァエル達に対して、自らを愚者に堕としめる俗物的な意志を残すとは──サイガンには到底思えなかったのだ。




