第101話『Intervener(介入者)』 A Part
不死鳥の翼を羽ばたかせFortezaの激しき戦闘にリイナ・アルベェラータと、少女の背に乗った小父さん、ガロウ・チュウマが強制介入を果たす少し前──。
「見えたが! そいにしても先ん尖ったまこち意味ん判らん建物じゃっど!」
旧イタリア本土と旧シチリア島が挟んだメッシーナ海峡付近の海上を飛ばしに飛ばしたリイナの翼。
リイナ当人が考えていたより余程早くForteza市のシンボル、市長を気取ったドゥーウェンの住処を視界に捉えたガロウ達。
「よ、良くは知りませんけどネットワーク用の中継塔を兼ねているとか……」
海面スレスレを飛ぶリイナ達。風と波切る喧騒の最中──。
現在こそ外出中だがドゥーウェンと共にあのビルを現住所にしている友人、ハイエルフの女性ベランドナから聞いた話を飛びながらリイナは語ってみせた。
「ねっとわぁくぅ!? ないば言っちょっかちったあ判らん!」
「……」
ガロウ小父さんの全く解せぬ言語を聞き及び、真顔で白けたリイナの蒼い瞳。
背中に乗せた小父さんが何を言っているのか、全く以て意味不明だが、それだけは解せた。
ズガガッ! ズガガッ!
「こ、今度は一体何です? ──えッ!?」
「な、ないだぁ!?」
リイナ、背に乗せたやたらと煩い中年オヤジの次は、小さな耳の鼓膜をつんざく轟音に思わず不服な顔を露わにする。音の鳴り響いた方を横目に見やった。
リイナと同じくアドノス側の陸地へ視線を流したガロウも思わず啞然。
何しろ12mの巨人が拳銃を飛ばして、ルヴァエル達が空から飛来するのに乗っていた巨躯過ぎる黒猫を撃っていたのだ。
リイナ、そしてガロウ共々、アニメはおろか特撮も知見がなかった。EL・Galestaと、RavinGrayの争い。自分達の目を疑う必然を生んだ。
「り、リイナ! 此処からは出来るだけで良か! 高く飛ぶんじゃ! こんまま低く近づいたら潰さるっど!」
「は、はい!」
低く飛べと指示してきた次は逆に『高く飛べ』完全にガロウ小父さんの乗り物に転じたリイナの侘しさ。されどもガロウの指摘は、確かに的を得ていた。
「うぉぉッ!?」
「キャァァッ!?」
急上昇するリイナ。飛行機も裸足で逃げ出す速度を肌で感じたガロウ。
まさしく決死の気分、振り落とされまいと、15歳の少女の身体に所構わずしがみついた小父さん。リイナに取って完全なセクシャルハラスメントと化した。
こんなドタバタ劇を経たガロウ・チュウマ。
ローダ・ロットレンの駆る白いEL・Galestaの肩の上。落ちれば死亡確定の危険地帯、『お前の黒い刃を寄越せ』と叫ぶ。敵味方双方を動転の無言に落とした。
ガロウは、元々出陣する気がなかった故に帯刀をしていなかった。
然も以前にヴァロウズNo3の剣士トレノとの斬り合いにて脇差を折られた。
桜陽の刀、鍛冶師の伝統技術を受け継ぐ者は極僅か。折られた代わりの刀を異国アドノスにて打てる者を求めた処で埒が明かなかった。
『おい後輩、お前が二本も帯刀している炭化タングステンの剣。どちらかを剣術の先輩である俺に渡せ』
ガロウ小父さん──。
リイナに対するセクハラ行為に及んだ舌の根乾かぬ内。次は鼻息荒くローダにパワハラを強要したのだ。
バシュッ!
戦闘中、さらに言わずもがな。戦場の只中にて操縦席ハッチを開けたローダ。俄かに信じられない奇行。
ルヴァエル勢、絶好の機会を茫然と見逃す本来在り得ない御巫山戯を呼んだ。
「ふぅ……これで良いか?」
ローダ、腰に差していた二刀の内、短い方を何とも億劫な気分を抱え、鞘毎ガロウ先輩に投げて寄越した。
「よっしゃァァッ! リイナッ!」
ローダから新たな脇差を受け留めたガロウ。可愛き乗り物を名前ひとつで気軽に呼んだ。
最早抗うのを諦めた不死鳥状態のリイナ、ご近所さんの呼び出しに応じて、再びに背に乗せてやると地上に降ろした。
シャッ!
漢の顔つきに至れたガロウ。最早返す気ゼロの気分で漆黒に沈んだ刃を鞘から一気に引き抜く。
「良かッ! ──示現我狼ん神髄ば見せちくるっぞ!」
黒い刃を破顔で満足げに見やったガロウ、瞬時を以て真っ赤に染め上げた。1500度以上、炭化タングステン製の刃がしなる温度まで一挙に引き上げた。
これまで散々、英雄ローダに模倣された俺の剣術。然もあろうことか熱せねば意味を為さない専用剣すら先をゆかれた。
ブンッ!
『俺様が本物を見せてやる。者共、覚悟しろ!』
紅色に滾る剣を振るい曲がらせたガロウの浮かべた嘲笑、剣先をRavinGrayの鼻先に向けた。
ガロウ・チュウマ──今、人生の絶頂期に立った気分に浸りゆく。
「ま、ママぁ!?」
「一度云い出したら聞かないからなぁ……あの人。ま、結構やるから多分大丈夫…うん!」
金色のEL・Galestaを操るルシア・ロットレンと娘のヒビキ。
髭面小父さんの戦う様は初見であるヒビキ。ママの座る操縦席の背もたれを大いに揺らした。
話を振られたルシア、Resistance時代の大先輩ガロウを一応褒め称えた仕草。『うん』と笑顔で頷き、ヒビキと自分自身に言い聞かせた。
「ど、如何するつもりだ! あの馬鹿は!?」
全高5mはゆうに超える巨大な黒猫達を相手取り、見下す嗤いを湛えた時代錯誤が甚だしき様子の侍。
サイガン・ロットレン、普段の冷静な仮面を失う狼狽えに堕ちた。
ゴォォォッ!
「やるからには私だって戦いますよ!!」
不死鳥の翼を広げたリイナ、業火の打ち鳴らす音を響かせながら、空から戦場の様子を窺う。彼女は何処かの侍と異なり、傍から見ても充分やれる雰囲気を漂わせた。
「チェァァァァッ!!」
ガロウ、これぞまさしく相手の魂を声で穿つ猿叫──。荒野を蹴って走りながら、真っ赤に滾る脇差の様な短き刃。両手で握り絞め、最上段に振り翳す。
「遊びでやってんじゃ……ない!」
漸く目覚めたルヴァエル勢──。
炎の獅子に自身の駆るRavinGrayを転身させたエレーネ。
普段から言葉少なめである彼女。走り来る気狂いを相手にキレた言葉を吐いた。
燃える矮小な剣──?
それ程までに燃えるゴミになりたいのなら、その夢を叶えてやる。此方も炎を帯びた鋭利な爪を生やした前脚を無遠慮に振り翳した。
ブォンッ! ズッシャァァッ!
「──ッ!? よ、避けた?」
燃え盛る火炎を帯びた前脚を巫山戯た剣士相手に振り下ろしたエレーネ機。前脚が風切る轟音と地面を割いた裂音。されど彼女の望む穢れた血飛沫は一滴とて流れなかった。
「喰らえぇぇッ! 示現我狼──『櫻華』ァッ!!」
武士道とは死ぬことと見つけたり──!
それは死にたがりの言葉では決してない。己を死人と成した先に活路を見出す侍の真骨頂。
エレーネ機が振り下ろした先に生じた爆発の気流に乗じたガロウ。これぞ死中に活、エレーネ機の太刀筋を見切って跳ぶ。己の剣術、最大火力の技を小細工無用で見舞った。




