第100話『Freedom and justice descending(舞い降りる自由と正義)』 A Part
不死鳥の翼を用いてアドノス島の上空に飛び上がったリイナ・アルベェラータと、彼女の手を握ったガロウ・チュウマ。
──は、速か! じゃっどん速すぐっど!
即、振り落とされると理解したガロウ。誠に僭越ながらも、燃えるリイナの背中と腰の辺りに跨り直した。
──むぅ?
仕方ない事柄とはいえ、馬にされた形のリイナ。流石に頬を膨らませ剥れた。
小父さんを載せて空を飛ぶ屈辱感。
どうせ乗せるのなら、地元ラファンに置いてきた彼氏候補のロイド。或いは不死鳥の力を継がせてくれた可愛さあり余る恩人、年下のジオーネを乗せた遊覧飛行を愉しみたい本音。
「リイナ、海ん上ば飛べ! 海面スレスレば行けば必ず間に合う!」
「……? わ、判りました」
然もあろうことか飛び方すら指南されたリイナ。されど生真面目な彼女は、飛行機の様に斜行を始めるとエドナ村付近の海上へ進路を変えた。
そしてアドノス島を浮かべた地中海の上を飛ぶ。
目指すFortezaは、旧シチリアと旧イタリア本土の境目、メッシーナ海峡の真下に在る。海路を北東に真っ直ぐ進めば届くのだ。
ガロウは顔の肉が引き千切れそうなリイナの飛行速度を肌感覚を以て知り、絶対にローダ達の戦線に間に合う──がっ、このまま高い上空を飛んで行けば、敵に気取られると未然に悟った。
従って低空飛行、然も邪魔のない海上を行く様にリイナへ指示を送った次第。
地中海の蒼を割いた白の波飛沫を上げ、一直線に進むリイナの単独飛行。白い飛沫が不死鳥の炎に染まる艶やかさ。
「こ、こいは美しかぁ! まるで錦江湾の上ば飛んどるッ!」
年甲斐もなく少女の背中で独り燥いだ華の無き中年男。地元──神籠る島に残した愛しき妻『ほうずき』と子供達へ、ふと想いを馳せた。
──き、きんこわん!?
聞き取れなかった不死鳥姿のリイナ、小父さんの喧騒加減に、思わず銀髪の首を捻ってしまった。
◇◇
──レイ、これがお前が貫くと決めた正義か。
自動小銃に刻まれた名称──『Leythemend』をEL・Galestaのカメラに捉え、最大望遠にて態々読み取ったローダ・ロットレンの馳せた想い。
レコンキスタの言葉にて法を云い表すLey。
母国からアドノスに渡った彼女は、エメリアの名を捨て、揺るがぬ正義を求めた。
然し揺るがぬ魂を自分ではなく、圧倒的な強さを誇った黒騎士マーダに求め、彼の配下ヴァロウズに籍を置く妥協の道を選んだ。
けれどもベランドナやロイドとの争いを通じ、ローダの意識と対峙──『私が法』自由な正義を貫くと自分に誓いを立てたレイ。
彼女がローダに得意の空間転移で寄越す焦がれた筈の自動小銃。レイの固い決意を自ずと知れた英雄気取りの男。一瞬目を閉じて感謝の思いを心で告げた。
「レイ! 近くで笑って観ているのだろう。お前の正義、有難く借りる!」
ローダ、戦線に居ながら実に心地良き気分。真実の自由と正義を愛するレイが自分達の存在を認めてくれる歓喜に胸が溢れた。
そのままEL・Galestaの掌の上に置かれた矮小な銃に創造力の意識を集中。EL・Galestaの大きさでも引き金を引ける巨大な小銃に大化けを果たした。
『ろ、ローダ! そ、その銃もしやッ!?』
管制室に閉じこもるサイガン・ロットレン。
巨大化した見覚えしかない銃を視界に捉え、魂が躍動した。何しろLeythemendは、この老人が設計製作を担当。当時マーダに仕えていたレイに渡した物だ。
『嗚呼、必ず使いこなして見せる!』
ズダダッ!
白いEL・Galestaの指で引き金を引いたローダ機の牽制射撃。連射にしとくには惜し過ぎた、聴く者の耳をつんざく轟音。味方の皆が耳に手を充て塞ぎ、その衝撃に備えた。
身長12mの人型が撃った銃。射撃時の反動がもしあったとするなら、撃ったローダ機の方が吹き飛ぶ大惨事を招きかねないのだ。
口径──?
Leythemendは、名機コルト・ガバメントに似せた自動小銃。EL・Galestaに合わせると、およそ80mm──戦車の大砲級と云えよう。
そんな些細な話が吹き飛ぶ程の大穴がエルミュラの駆るRavinGrayの足元に続々と開いた。
『くぅッ!?』
3本の脚で地面に立つRavinGray。エルミュラの青に染まった機体が踏ん張れる地面を失い傾き始めた。
ルヴァエル一派に湧いた新たな戦慄。ローダ機に嫌でも注意を向ける歪な黒猫達。
『──!』
『無い、銃が消えた?』
緑色の輝きが渦巻くルヴァエル機と、赤い獅子に化けたエレーネ機。
メインカメラに映ったローダ機の違和感に即時気づいた。ずっと冷笑を続けていたルヴァエルと、小声を以て相手を小馬鹿にし続けていたエレーネの驚異を漸く引き当てる。
特にルヴァエルの恐怖を初めて引き擦り出す。彼女はレイ当人の操る通常サイズのLeythemendと一戦を交えた経験値が在る。
あの時は、同じ場所に矢を打ち込む継矢を彷彿させた。然しそれはレイが扱うからこそ成せた御業。銃の威力自体は、彼女に取って脅威に当たらなかった。
ルヴァエル、胸の谷間を流れ落ちた不快極まる汗と焦燥。少女に似せた存在──敗北の経験が皆無。その言葉自体を感情から消し去っていた。
ガンッ! ズガガッ!!
『ぐわぁぁッ!?』
ローダ機──いや、操縦者ローダ・ロットレンの創造性。レイの空間転移、全力を以て扱い模倣。巨大な自動小銃が突如、ルヴァエル機の頭上に出現。直接、銃弾の雨霰を浴びせかけたのだ。
ルヴァエル機の放つ緑色の輝き──防御と攻撃。最も効率的な色合いがRavinGrayの原型色、黒にくすむ。遂にルヴァエル機の頭部付近にヒビを叩き込んだ。
そしてまたしても消失したローダの操るLeythemend。
──よくもよくもよくもこの僕に恐怖の味を与えたな!
何とした事か、歯の根すら合わないルヴァエル。
敵の攻撃を避けるだけなら、予め青に転じて出現を待てば良いだけに思える周囲──そう簡単な話では済まされない理由が存在した。
『計器類、反応なし……』
ボソリッと呟くエレーネ機。敵の武器は、空間を無視しながら訪れる無法者。AIや計器の類に頼り切った戦い方は意味を失う。
ズガガッ! ズガガッ!
『これ以上好きにはァッ!』
ブゥンッ!
搭乗者、ルヴァエルの絶叫。瞬間──赤色に染まったルヴァエル機。ルヴァエル以外、秒に満たない時間が止まった状態を作り出す。ローダの放った次弾を如何にか避けたルヴァエル機。
ガツンッ!!
『ぐはァァッ!? な、何故?』
一見、時が止まったかに思えた最中。
Leythemendの銃弾を避けた先に待ち受けていた、ルシア母娘の乗るEL・Galestaの拳が唸りを上げ、破損したルヴァエル機の側頭部を殴り飛ばした。
「い、一体何がどうなっているんですか!?」
急にルヴァエル機が圧倒的に押され始めたのを見て、味方の優位性を受け留めきれないドゥーウェン。余分な懐疑を呼び込む。
「遂に見抜いたかローダよ、ルヴァエルが放つ色の本質を。──亮一、アレはな、膨大な情報を組み込んだ、ただの反応。緑、青、そして赤。その何れも計算から生まれた動きに過ぎんのだ」
戦場を完璧に支配していたルヴァエルの突然なる瓦解──。
機械の反応を黙殺したローダの空間転移と、銃器に取って最大の弱点である発射時の反動を重力制御にて消失させたLeythemend。ルヴァエルに取って相性劣悪の組合せ。
サイガン・ロットレン、己が造った武器の狂気に漸く気づき、声音が震えた。




