第99話『Pioneer the future(切り拓け未来)』 B Part
全世界の中心地、Fortezaに於ける激しさを増した戦闘の裏側。
静かな漁村エドナにて熱き焔を纏う銀髪を流した少女が居た。
不死鳥の使い手、リイナ・アルベェラータである。
召喚し終えた不死鳥を自らの躰に取り込んでゆくリイナの肉体強化。
修道女姿の背中に燃ゆる翼が生え、その頬にも赤の刻印が刻まれてゆく変身。火の粉処か炎を散らした焔の化身。
「……!」
その様子、口を広げ唖然と見つめ続けた示現我狼の使い手ガロウ・チュウマ。腰が抜け、情けなく後退りしながらも、見逃すつもりは微塵もなかった。
「これで空を飛べる。私、Fortezaに行って来ます!」
ヴァサッ……。
子供達の世話を焼く優しみ滲んだリイナから一変──火を背負った雄々しき姿。今にも炎の翼を広げ、空へ飛び込む勢い。
「ま、待てぇリイナ! 飛べるんやったらおいも連れてけぇッ!」
「え……?」
既にリイナの両脚が砂多きエドナの地を僅かだが離れた中途。
起き上がったガロウが燃える少女に向かって吼えた願い。これ迄はローダ達の結婚式以外、『このエドナは俺が護る』を体現し続けていたガロウからの意外な頼み事。
「ガロウさん? 此処は護らなくても良いんですか?」
「頼んど! あげな敵ば相手においも斬り合いがしたかッ!」
火の手を上げる少女が聞き及んだ予想外の一言。
桜陽名──『中馬我郎』自分より二回りは歳が若そうな少女に向け必死の訴え。理屈じゃない『強い奴と戦いたい』宣言。
示現流の剣を赤く滾らせるガロウの剣気──示現我狼。
リイナの様に自らの身体を発火させる訳ではないが、熱い侍魂なら誰にも負けない、負けられないのだ。
「こん村には他にも護る奴ば居る! おいも気張りたか!」
ガロウ、幾許かの漢泣きを帯びた決死の懇願──。
弟分ローダには示現我狼を模倣され、Resistanceの後輩ルシアは、風の巫女だの女傑とか随分と名を挙げた。自分だけすっかり置いて行かれた侘しさ。
その上、とりあえずのご近所さん。リイナからも御留守番を押し付けられては、我慢の限界をとうに過ぎると感じたのだ。
──うぅん、これは、まいったなぁ……。
リイナは実の処、大好きなルシア御姉様の手助けが出来るかどうかはこの際、二の次であった。
Fortezaの地下にて氷結の眠りに落ちている、ジオーネ・エドル・カスードの様子を見に行きたかった本音。
ルシアの命の器にて未だ意識だけの存在であったヒビキ・ロットレン。
彼女の身体を不死鳥の力を借りて錬成したリイナ。あの刻、不死鳥の炎が揺らぎ、巧くヒビキの身体を維持出来ないと、弱音の涙が零れそうだった。
然し寝ている筈のジオーネが力を底上げしてくれた。リイナはあの時に受けた感覚を確かめに行きたかったのだ。但し今回の戦乱がリイナに取っての火種と化したのも本当の処。
「判りました、だけど間に合わなくても文句は言わないって絶対に約束して下さいね!」
少し宙に浮き両腕を組んだリイナ。仲間内の最年少、かつ最小のリイナが髭面の中年男を見下す形。
炎の翼が砂を撒き散らして、真下のガロウを直撃した喜劇を生んだ。
「おぉ! わ、判っちょる! あいがとさげもす!」
泣きながら丁寧に頭を何度も下げたガロウ。リイナに本気の感謝を伝えるド天然のお笑い種。伸ばしてくれたリイナの手を握る。『これ燃えんとか?』素朴な疑問を吐露。リイナ共々、アドノス島の空へと舞い上がった。
◇◇
一方、Forteza郊外にて異能を機体に表現出来るルヴァエル達相手に、苦戦の様相を呈してきたローダ一家。
「……!」
「えっ!? な、何? 何なの!」
狼狽える気分をEL・Galestaの操作中枢に伝達してしまったローダとルシア。
巨大な人型兵器が首を振り、不意に闇へ転じた空を見上げた。まるで劇場の灯りがカツンッと落ちた様子。
『アムダ・ギャルバベルズ……ヨニに取り憑かれし宇宙神シヴァ、種子に成り損ねた屑達を苗床共に降らせよ──『堕落の流星』』
ヒンドゥーの神々を捻じ曲げた禁断の神聖術士。エルミュラ・フィス・スケイルの次なる罪。
自分達の無線を敵側に乗っ取られている──?
知った事ではない。寧ろ聴かせてやれと言わんばかりの不敵な笑みを交えた詠唱。文字通り暗転した空から黒光りする何かを盛大に降らせた。
ズガガッ! ズガガァァンッ!
「キャァァッ!」
「な、何なのコレぇッ!?」
ヒビキの悲鳴と、現状の理解がおぼつかないルシアの叫び。
ルシア母娘の操る金色のEL・Galesta、全身に地雷を設置されてた様な連鎖の爆発が急襲。何故かこの機体のみ、敵機と合わせて初。屈辱の初弾をその身に浴びた。
『だ、大丈夫か? ルシア、ヒビキ!』
『へ、平気……装甲が破損しただけ。まだやれるよ』
自機よりも他機の心配を優先するローダ、無線機を通じた妻と娘への安否確認。
此方のEL・Galestaは、所詮拾い物を元手に、動ける様に直した或る意味粗悪品。各関節部の装甲が未だ虚弱なのだ。それでもなお、妻ルシアは『やれる』と豪語した。
「何とも罪深き術! 『ヨニに憑かれた』とはシヴァ神と神妃の愛を明らかに愚弄しておる。アレは本当にバルタバザルにて民達の信頼を得ておるのか!?」
モニタを通じてルシア機の被害状況の確認と、エルミュラ機が落とした新たな術を見て、肝を冷やしたサイガン。眉間を指で摘まんでエルミュラの思想を糾弾した。
堕落の流星──。
シヴァの種に至れなかった者を女性限定に降らせた狂気の術式。
「エルミュラは、エルドラの妻であったパルメラの子孫に間違いないのだ。だが神々に対する捉え方がまるでなっておらん! ……300年とは、こうも人の思考を破綻させるものなのか……!」
EL・Galestaの調査をするべく、様々な文献を片っ端に漁ったサイガンの憤慨。
嘗ては、パルメラもヒンドゥー教の神々を具現化する異能の術士であった。されど神々を平然と堕とし込むエルミュラの考えに苛立ちを隠せない、隠すつもりがなかった。
「やはり我が娘ルシアの狙い目は正しかった。ルヴァエル一派を暗躍させたのは、絶対にあの女だよ」
弱り切った初老の歯を折らんばかりに食い縛ったサイガンの怒り。
されど未だに当方の黒い機体──AI機は足を引っ張る。時間の無い最中、最善こそ尽くしたが、不出来な物を子供達に寄越した自分自身に最も立腹していた。
「せ、せめてローダ機にも飛び道具を用意出来れば……!」
床に乾いた視線を落とすサイガンの失意。
敵機に近寄らなくても威嚇発砲で構わないのだ。エルミュラが詠唱術に集中出来ぬ意識の乱れを生じさせたかった。
ヴンッ……! カツンッ!
「……! こ、これは拳銃?」
不意に降って湧いた拳銃がローダ機の指先に当たる。
ローダ、ソレを如何にか落とさず掌にすくえた。無論、人間用の自動小銃。されど見覚えのある懐かしさが込み上げる形。発射時の反動を忘れた世界唯一の拳銃。
──『英雄気取り野郎、私の銃を貸してやる。好きに使え』
聞き覚えのある棘ある女の声──拾った自動小銃が発した残存思念。
特に『英雄気取り』の件。触れただけで物に乗り移った意識を拾えるローダの扉。銀髪を湛えた二丁拳銃の女性の絵柄がローダの脳裏に浮かんだ。




