第99話『Pioneer the future(切り拓け未来)』 A Part
バルタバザルのルヴァエル率いる黒猫の様な兵器『RavinGray』3機小隊。
迎え討つのはローダ・ロットレンと、新妻ルシア。そして産まれ立てで在りながらも、16歳の見た目と精神を宿した異端児ヒビキ。3人が操る人型兵器『EL・Galesta』のやはり3機。
未だ何れの機体にも傷ひとつ付かない云わば鍔迫り合いを始めたばかり。
然し数こそ一致しているのが、ローダ側最後の黒い機体はAI稼働。
対するRavinGrayとて、扉の候補者を狩る行動性こそAI制御だが、異能を機体に表現出来る意味で数えるのならば、ローダ側のAI機は戦力として数えるには役不足が否めなかった。
「うーん……やはり準備不足。此方が圧倒的に不利ですよ。AI機もローダさん達の援護に回しますか?」
モニタにて戦況を確認しながら直向きにキーボードを叩き続けるドゥーウェンの器用さ。手の動きだけならば彼こそAI駆動の単純操作に与する人型アンドロイドを思わせる。
金色のルシア&ヒビキ機は青に染まったエルミュラ機を先に狙った。
インドラ神を堕としめた妖しきエルミュラの詠唱術。他にも術が在って当然と踏んだルシア。
詠唱の暇こそ弱点、ならばと狙ったのだが炎の獅子に化けたエレーネ機に行く手を阻まれた。そしてルヴァエル機も間違いなく肉弾戦に特化した機体。2機の壁は厚いと、ドゥーウェンには思えた次第。
「馬鹿者、それではFortezaが、がら空きになるぞ。今暫くはローダ達を信じるしかあるまい。処で住民達の避難は完全に終わっておろうな?」
あくまで世界の先端を往来するForteza市の安堵を優先するサイガン・ロットレンの嗄れ声。『今暫く』とは打開策の準備がある様な匂わせ。
「それは問題ありませんよ先生。前回の様にルヴァエルの力で爆弾にされないよう、厳重に警戒してます」
前回は試作機『RaviNero』1機と、搭乗者であるルヴァエル独りに煮え湯を飲まされたドゥーウェン。
特にFortezaの火事場見物客を見惚れされた挙句、生きた爆弾に変えた異能。加えてあらゆる状況を逆転させた『暗転』と、英雄ローダを戦死扱いにされたのは思い出すのも腹立たしい。
「ヒビキ、あの緑色に光る黒猫から何か感じ取れる?」
一方、金色に底上げしたルシア&ヒビキ機。母ルシアが後部座席に居る娘ヒビキに、ルヴァエルの印象を聞いてみる。
何しろルシアは先の戦闘に於いてルヴァエルの中に住まう感じの黒い女性から、自身の恋愛模様を散々煽られたのだ。
ルヴァエルとはその見た目と行動から、同じ黒い結い髪の女性レヴァーラ・ガン・イルッゾの系譜。ルシアを『初めての男は甘美であったか?』と煽った意識も恐らく同様だ。
そんな危い存在相手に家のヒビキが干渉していまいかルシアは正直な気持ち、かなり不安視していた。
「ママ……それなんだけどさ。僕、凄く不思議なんだよね。何にも感じ取れないんだよ……まるで心──いや、違うかな……魂がまるで見つからない感じなの」
ヒビキ、僅かに身震いした返事。以前からルヴァエルの存在は聞かされていた。それに前回の戦闘時にも母ルシアの感覚を通して見知っていたのだ。
父ローダもルヴァエルに感じた他人とは異なる奇妙な肌感覚を語っていた。
「え……?」
ヒビキの言葉に緑色の瞳を瞠目させたルシア。
魂がない──?
それではまるでルヴァエル自体がAI式の人型アンドロイド。それも彼女自らが『眷属』だと主張するレヴァーラを模した機械を連想させる。
されど実際に触れて戦ったルシアに取ってのルヴァエルとは、ただの機械はおろか人間にも思えなかった。ハイエルフをベースに造られたルシアにしてみれば、身の毛もよだつ同族嫌悪を感じたのだ。
ガシンッ!
ブンッ!
『お前、邪魔……』
「くっ!」
不意に激突音が戦場に木霊し、空気さえも揺らした──。
白いEL・Galestaの手に握られた即席の炭化タングステン製の剣を滾らせ振るったローダ機に、エレーネ機の燃ゆる獅子が牙を剥き襲い掛かった音信。
ルヴァエル勢は何しろ全部が怪しい存在の吹き溜まり。
思考に割くべき時間が自ずと伸びる。さりとてローダ機とエレーネ機のぶつかり合いが此処は、命を散らす争いの場である事を各位に再認識させた。
◇◇
漁村エドナからルヴァエル達の襲撃を眺めていたResistanceのリーダー格、髭面のガロウ・チュウマと、姓名の違うルシアを『ルシア御姉様』と慕うリイナ・アルベェラータの両人。
『今から歩いて行った処でどうにもならん』
一度はガロウの振り下ろした言葉の剣に従ったリイナであった。
ザッ……。
然しリイナ、その小さな足で海の砂が混じる地面を踏み鳴らす。
たった15歳の少女が鳴らした足音に壮年期の剣士、ガロウが思わず引き摺られた反応。
普段の職業は保育士兼修道女のリイナ、およそ戦に縁遠い少女が漂わせた戦慄。
「わ、私やっぱりFortezaに行きます! 例え戦いには間に合わなくても!」
リイナの地中海を思わす蒼い瞳が完全燃焼に燃え盛る青に転じた凛々しさと、力漲る言葉を小さな唇から紡いだ。『戦いには間に合わない』不思議な想いを言葉に乗せた。
「行くってどげんすっとよ!?」
15歳の少女の若さに気圧された形の中年男性。やはり言い方の微妙な雰囲気から察するしかない解せぬ台詞を吐いた。
「ヴァーミリオン・ルーナ!」
ヴァシュゥゥッ!
リイナ、拳を握り締めた両腕をほぼ直角まで持ち上げる。そしてガロウには全く不明瞭な言葉を気合と共に天へぶつけた。
彼女の周囲に潜んでいた火の精霊──焔の鳥達が一斉に目覚め、取り巻き始める歓迎。
「な、ないだぁ……?」
完全に圧されたガロウの一驚。細い瞼を見開くと、燃ゆる修道女の一挙手一投足を決して見逃すまい──瞬き忘れた視線を送る。
「紅のウィータ。賢者の石がその真の姿を現す──炎の翼、鋼の爪!」
リイナを取り巻く炎の渦がさらに激しさを増し、あっという間に立ち昇る。ガロウの様な東洋の血を引く者に取って、これはまさしく長い大蛇の様な形をした天へ飛翔する神の竜だ。
「今こそ羽ばたけ不死の孔雀!」
キッシャァァ!!
竜かと思いきやリイナの背中に突如降臨したのは火の鳥。周囲の者達の鼓膜を破りかねない凄まじき咆哮。
「……!」
声を完全に喪失したガロウ茫然。絵本か、はたまた絵巻物を現実に直視している違和感に心がのたうつ。
──すぅぅぅぅ……。
間もなく不死鳥召喚の儀は達せられる。されどリイナ、此処で一拍置いた。女子の膨らんだ胸をさらに大きくさせる深呼吸。その胸中へ、とある少年の面影を吸い込む。
不死鳥を祀ったエドル神殿──12だった少年と共に合唱した詠唱の終局に願いを馳せた。
「さぁ我がリイナ・アルベェラータの声に応えよッ! ──『不死鳥』ッ!!」
不死鳥の使い手リイナ・アルベェラータ、自身へ火の鳥を紡いでくれたジオーネの魂を、まるで不死に散らしたかの如き詠唱術を遂に終えた。
「うぉッ!?」
最早発狂するしか芸のないガロウ。
焔に転じた少女が撒いた火の粉。例えこの火に当たろうが火傷はしないのだ。なれど自分の魂さえ火種にしていそうなリイナの炎を、理屈無用で熱いと感じた。




