第98話『La dignità delle creature(創造物の品格)』 B Part
バルタバザル──レヴァーラ・ガン・イルッゾを模したが如きルヴァエルと、さらに300年前にエルドラ・フィス・スケイルを殺害した兵器を量産化した『RavinGray』。何れも創られた者共。
迎え討つローダ・ロットレンとその家族、妻ルシアと娘のヒビキ。
ローダは扉の候補者という存在価値のみを強く押された元々形だけの英雄。
その妻ルシアは余命幾許もなかったハイエルフを元に、サイガン・ロットレンが創った精霊術士。
二人の間に生まれたヒビキ。ルシアの胎内から意識を取り出し、それに見合った姿形へ定着させた、やはり創られし君。
そしてローダ達が搭乗している人型兵器『EL・Galesta』は、最早言わずもがな。
創造物同士、似た者同士の意地を賭けた勝負の行方。
着ている衣服と同じ白に生まれ変わったローダ機。ルヴァエル機が動き出す前、果敢に仕掛けた。
一見迂闊に思えたその動き。だが己の異能に溺れるルヴァエルの朧の能力を引き出し、先制されるのを防いだ。
『ローダ? 成程、ただの無謀ではなかったのだな。流石、戦い慣れしておる』
瞬間、管制室のサイガン・ロットレンは、不肖の息子の身勝手をそこにみた気分であった。されどローダの本意を直ぐに察した。
夫の作った間隙を縫った形──。
空を旋回飛行していた金色のEL・Galestaが地上へ向かい、青に染まったRavinGray──エルミュラ・フィス・スケイルの背中を取る。
ローダとルシア、予行演習をし続けた様な見事な連携を、サイガンと傍らのドゥーウェンも観戦。両者共に舌を巻く思いだ。
「ハァァッ!」
ルシア&ヒビキ機、先程自分達が地面に突き刺した氷の刃を拾い上げると右腕に氷着させ、本物の剣の様にエルミュラ機へ叩き込む。
機体の腰を捩る動きを以て、精霊術『戦乙女』の底上げを体現。兵器の自重を載せた攻撃。
さらにこの類稀なるルシア機の洗練された動きを支えているのが娘ヒビキ。EL・Galestaの操作中枢へ母親の意思を繋げ伝える大事な裏方。
『本命でもエレーネ機でもなく、敢えて参謀を先に狙うかルシアよ』
戦略が全身の行動に滲み出たルシア&ヒビキ機の鮮やかなる攻め。余分な指示は無用だと思えたサイガン。ドゥーウェンのデータ収集に己も注力した。
ルシアは誰に指示された訳でもなくエルミュラ機を狙った。万能機と思しき術を扱う相手を最初に落とす。実に理に適ったやり口。
空から落ちる重力を加えた攻撃手段を敢えて用いなかった。
派手に降りればエルミュラ機に気取られ、またもやインドラの矢を捻じ曲げたが如き、青と白を混ぜた『混沌の矢尻』に今度こそ打ち落とされかも知れなかった。
「あのルシアさんが拳じゃなく剣!?」
随分希少なものが観れると息巻くドゥーウェン。
ルシアの父、サイガンはさほど驚かない。手刀に氷の刃を継ぎ足した形。云わば武闘家の延長線にある戦いぶり。
それよりも我が娘の意外な慎重度合いに『ほぅ』と白髭を撫でる。初めて相まみえるエルミュラ、直接手を下さぬ巧みさを称えた。
ガツンッ!
「……!」
『エルミュラに手を出すな……』
ローダ機に詰め寄っていた炎の獅子に転じたエレーネ機が割って入る体当たり。小さく呟いたルシアへの文句。
「速い!」
獅子よりも狩猟豹を彷彿させたエレーネ機の駿足。サイガンが細い目を見開き思わず呆けた。
『ルシア、何でも良い。焦がした物を此方に放ってくれないか?』
愛しき夫からの無線を用いた直通回線。然し『焦がした物』と金髪を傾け訝しげに思ったルシア。
「炎の精霊達よ! 私の拳に宿れ!」
いとも容易くEL・Galestaの右拳を燃やしたルシア。地面に見つけた廃材を燃ゆる拳、手加減を以て叩く。全力で殴れば間違いなく砕け散った。
『これでOK?』
夫ローダに言われるがまま、燃えてくすんだ廃材を軽く放って寄越したルシア機。即時、振り向ざまの勢いそのままに、ルヴァエル機へ叩き込む裏拳。
ルヴァエル機、次は緑色の硬質さを扱い、RavinGrayの特徴的な前脚2本でこれを封じた。
『流石俺の見込んだルシア……〇▽◇るぞ』
『──ッ!?』
ローダ機、突如無線を通じたお遊びを愛する妻へ捧げた。
聞き取り辛いローダの囁き、愛する者にだけ届いた辱め。新妻の頬も紅色の滾りに転じた。
瞬間、無駄に怯んだルシアを他所に、ローダは妻の拵えたブツを目掛けホバリングで移動、素早く拾い上げた。そんなガラクタ、一体どうするつもりなのか。
「……!」
ルシアが炭にしてくれた廃材をEL・Galestaの手で握るローダ、創造力に仕事をさせる全集中。
ブンッ!
『な、なんじゃとぉ!?』
ローダの行為をモニタ越しに見つめ、間抜けな声を出したサイガンの仰天。
すっかりローダ自身の得物に定着した炭化タングステンの剣へと姿を変えたのだ。
炭化さえしてれば、後は己の創造性にて形に出来ると信じたローダの真骨頂。武器までは再構築出来なかった。『無ければ創ればいい』
『示現我狼──『櫻打』!』
炭化タングステン鋼──決して曲がらぬ刃。無線機ONのまま、伝え抜く宣言。
ガロウ・チュウマから拝借した一撃必殺の示現流と刃を赤く滾らせ、しならせる御業。
早速引き出しを開けたローダ機。剣の柄を握った拳を振るい、緑色の異能に胡坐を掻いたルヴァエル機に目掛け、堂々叩き込んだ。
ヴァンッ!
『ムッ!?』
『あ、あれれ?』
あからさまな違和感を抱いたローダ機と、彼の動きを目で追っていたルシア機。
櫻打に全く感じなかった手応え、自身の機体の拳を覗き込んだローダ機の疑問符。
ルシア機とて、夫の駆る今の機体の動きなら『必ず当たる』と信じていた。
何れの思いも裏切られた。然もルヴァエル機が何者も避けられる朧に転化を果たした瞬間が追えなかった。
パチンッ!
『へぇ……やってくれたねぇローダ先輩』
『……』
ルヴァエル、またもや無線機の意味を問われる全方位に向ける回線を開いた。声に響かす舌舐め擦り。
煽られたローダ、黙り込む返し方。
彼は未だに他人との接触が苦手な人間──。けれども好い漢は黙せず背中を以て語れを表現している様な雰囲気。近頃、纏い始めていた。
「……成程、今のがルヴァエルの赤か」
戦場を駆ける者共が視覚に捉え切れなかった秘密──老兵サイガン・ロットレン。『しかとこの目で焼きつけた』宣言。血の滾る気分で思わず身を乗り出す。
ルヴァエル、最後の色艶を解き明かす千載一遇を、遂に得られた自信に溢れたサイガン。小皺だらけの目を見開く。
エンジニアと戦略家──二足の草鞋を履く老人の血が騒ぎ始めた。
「確かに捉えたな亮一!」
ドゥーウェンを昔馴染みの名前で吐き捨てるサイガン。
モニタリングにさらなる注意を注いだ。されど『捉えたな』とは片腹痛い。自分の手柄が如き自信の漲る様は一体何だったのか。
カチャカチャ……。
「勿論です先生! 此処からは私の領分です!」
相変わらずキーボードを軽やかに叩き続けるドゥーウェン。
なれど、その冴えた指先。1990年代のテクノミュージックをこよなく愛した彼が奏でたグランドピアノの調律を思い起こした。




