第98話『La dignità delle creature(創造物の品格)』 A Part
バルタバザルからFortezaの奪還と、忌まわしき扉の候補者の存在を掻き消すべく現れたルヴァエル達と、彼女達を乗せた5本脚の異端な黒猫『RavinGray』
扉の正候補者ローダ・ロットレンが『俺を狙えルヴァエル』堂々と彼女達を煽動。同時に『俺の女達に手を出すな』と釘を刺した争いに於ける導入部。
「ママ! パッパが危ない!」
金色のEL・Galesta。後部座席に収まった愛娘ヒビキの涙声。前席の背もたれを激しく揺らして、眼鏡を曇らす必死の訴えを呼び込んだ。
「ヒビキ、大丈夫だから落ち着いて……ね?」
母ルシア、落ち着き払った穏やかなる低音の調べにて娘をあやす。まるで何もかも知り尽くしたが如き仕草。
「だ、だけどぉ!」
心の壁を取り払ったヒビキが父ローダの言動を危険視しているのだ。その直感、或る意味絶対だと云えた。
ブツンッ!
ルシア、外界へやり取りが漏れぬ様に無線機のスイッチを念の為に切った。母娘水入らずの会話を決め込む。
「ヒビキ、あの人とはとっくに心が通じ合っているのよ。貴女にも判るでそ」
静かな笑顔を絶やさぬ母の言動。ヒビキの口癖である『でそ』を態々使った優しみ。
「あ……!」
ヒビキ、膨らみ始めた胸元を押さえた発見──。
ローダ、ルシア、ヒビキに等しく流れている血の繋がり。されどルシアが伝えたいのは別の話。
ローダとルシアが出逢ってまだ幼き時分、恋人に成り切れてなかった頃。
新人類ヒビキを孕む初夜の以前から、ルシアはローダの本音を稀に聞いた覚えが在る。
恐らくローダの方とて同じくルシアの洩らした心根を何故か知っていた。
「ね、判ったでそ。貴女のパッパが何処かへ勝手に旅立つ事はないの。さっきのローダがルヴァエルに切った啖呵は演技なのよ」
ルシア自身、大きな胸に手を充て温かみ溢れた拠り所を探し当てた幸せ色した心地良さに浸り往く。
その正体は、先程ヒビキが危険視した過去の出来事に通じていた。
神話から飛び出した魔神ラウムが大量に散らした金色の砂粒。それぞれが意識を持った不可思議なる存在の中にその答えが眠っていた。母の語りにヒビキも自ら知れた。
同時に──金色の砂粒こそ現在の世界軸を象る危うさを秘めていた裏の顔も理解した。
故に魔人ラウムは扉の正候補者──世界の命運を預けるべき男の力を秤にかけた次第。そのラウムが一応満足して消えたのだ。
「ふぅ……とは言え危なっかしいのに違いはないからね。だから私達がパッパの背中を護るのよヒビキ」
「う、うん! 僕も頑張る!」
ローダの愛妻ルシアも夫の無鉄砲ぶりには今なお正直辟易していた。溜息と笑顔を同刻に零しながら娘を諭す。
眼鏡を取り、Yシャツの袖で涙を拭ったヒビキに笑顔が戻った。『でもママ、その真似は恥ずいからやめて?』泣き笑いながら文句を返した。
パチンッ!
ルシア、切った無線のスイッチを再び入れる。
『ルシア? 無線を切っていたが何かあったのか?』
いの一番、サイガン隊長より早々の疑問が無線を通してルシア&ヒビキ機に飛び込む。
『言えなぁぁい。女の子同士のひ・み・つ!』
『ごめんねお爺ちゃん、僕からもちょっと言えないかな……。あ、悪巧みじゃないから安心してね』
ルシアママ、ヒビキと初の共同戦線。戦場とはいえ娘と心を通わす行為が余程楽しいのか、ノリの軽さがやたらと目立つ。
申し合わせた言い草のヒビキも揃って口を閉ざした。
『な、何じゃ!? ま、まあ作戦に支障を出さない様に頼むぞ』
小学生の頃合い、友達であった彩芽以外に女性との交際を知らぬサイガン。これには閉口以外の選択肢が思いつかずに念のため釘だけ刺した。
『来るぞ!』
妻と娘の楽し気な気分に水を差す形になってしまった夫ローダからの無線を通じた圧。
遂に本命、ルヴァエル機の放つ異能。緑色の煌めきが渦巻き、彼女の操るRavinGrayを取り巻いて往く。
「これがローダ達はおろかルイスやフォウ、それにあのレイすら独りで相手取ったルヴァエルの力か……」
無線に依る連絡に在らず。狂気を感じたサイガンの独り言。
試作機『RaviNero』を破壊した後、機体から降りた生身のルヴァエル独りを相手に酷い苦戦を強いられた異能を改めて垣間見た。
当時サイガンは、フォルデノ王国を支配していたルイスの元に身を寄せていたが故に直にルヴァエルの異能を拝むのはこれが初。
「一見ただの緑色の輝き、だが生身のルヴァエル相手にローダ達の力がまるで通じなかった。然も青と、僅かであったが赤にも転じた。信号機みたいな巫山戯っぷり。アレを機体に転用するか」
ボールペンの裏側にて背中を掻いたサイガンの憂鬱。3つの能力とその実、未だ理解し切れていない各色の本質。頭痛を覚えたサイガン、首と肩を無駄に回した。
「あ、アレが『閃光』の輝き。レヴァーラ・ガン・イルッゾが使ったと云われる力!」
キーボードを叩き続けるドゥーウェンも冷や汗を帯びた震え声──。
師匠サイガンがEL・Galestaの活用を調査した際、偶然見つけた『閃光』と書いて旧イタリア男性の名前に用いられたエンツォと読ませる力。
嘗てレヴァーラが己の中に潜む人工知性と、戦闘服の中に人工知性を固めて埋め込んだ意識との同調に成功。己が本来持つ体力・知力を数倍へと押し上げた。
「うむ、だがおかしいのだ。本家の閃光状態は精々持って5分と云った処。アヤツの緑色は持続時間が長過ぎるのだ。閃光に近しい紛い物……」
ルヴァエルの緑色を偽物と言葉で断定したサイガンだが実の処、もうひとつ言ってない可能性を頭の中だけに隠し持つ。
──レヴァーラの場合、肉体はごく一般的な女性。故に肉体の方が悲鳴を上げた。ルヴァエルのまるで機械的な躰の場合、持続時間が数倍になるのではあるまいか?
考慮を放棄したいサイガン。されど機械と生き物の中間を思わすルヴァエルの見た目的にも納得せざるを得ないのだ。
ヴァァァン……!
『さあ殺ろうか、ローダ先輩。そして鍵のルシア先輩』
相も変わらず無線を全方位に発するルヴァエル機のお遊び。扉の候補者のみならず、それを拓いた鍵の女も忘れずに煽る。
拡声器のハウリングか、はたまたルヴァエルの異能とRavinGrayの共鳴なのか。耳をつんざく音が戦場を支配した。
「受けろ──『輝く真空の刃』!」
ローダ機、娘ヒビキの心配を具現化したかの如き危険な匂い発した突貫、機体のホバリングを全開。
初対戦にてマーダから模倣した魔法の力『輝く真空の刃』を此処で発動。
丸腰のローダ機だが機体の手刀に光を纏わせ、本気の片鱗を見せ始めたルヴァエル機が襲い来る前に此方から仕掛けた。
ブゥンッ!
先手を打たれたルヴァエル機。なれど斬られる前に緑色の光が青に転じる。
着実に当たるタイミングを以て振り下ろしたローダ機の青白く煌めいた手刀がすり抜けた。ルヴァエル機、惜しみなく見せた次なる色の変遷。朧月夜を連想させる淡い青の力だ。
難なくローダの攻勢を躱したルヴァエル機の圧倒的に思えた力の差。なれどローダはこれを狙って熟した。
ルヴァエル機からまんまと青を引き出せた間を利用した金色のEL・Galestaが空中から飛び出す。ルシア達が次の獲物を狙う時間を稼いだ。




