第97話『First Movement(第一楽章)』 B Part
地球の首都、Forteza市街の僅かに外にて繰り広げられる攻防戦。
護る側は22世紀初頭──全世界を混乱の巷へ堕とした人型兵器。EL・Galesta3機。
先ずローダ・ロットレンが駆る白の機体。
敵から奪い取った創造の魔法『重力解放』を唱えながらも、地上を這う動きを以て敵機達を威嚇。
操縦士が不在である3機目は、Forteza市の出入り口を封鎖。敵機が街へ飛び込むのを防ぐ構えだ。
精霊の力を借りた金色の機体──ルシア&ヒビキ機は、翼を広げた旋回飛行を続けていた。
ローダ機は、彼女達に取っての斥候の役目を担うつもりか。或いは金色の機体が流れ星の様に舞い降りる攻勢へ転じた処。後方支援に回る予定なのだろうか。
一方『Fortezaは我等が故郷』と領土権を主張するバルタバザルよりの使者達。
一度空に昇り詰めた後、3つの黒い流星群に成りすまし襲撃を始めた。姿形が黒猫を彷彿させた機体群。
扉の候補者を消し去る様に命令が書かれた『RavinGray』試作機に終った『RaviNero』と目的は同じであった。
その内の1機、金髪と蒼い目を湛えた少女エレーネが黒猫をなんと進化させ、炎の獅子に化けさせた。
機械仕掛けのRavinGray──黒い外装の上に炎の輪郭が載せられた形だ。
ローダ達の操るEL・Galestaと同様、敵機RavinGrayも搭乗者の異能を機体に再現出来る事実がこれにて確認された。
『ローダ機、獅子と距離を取るのだ。近距離戦なら敵の方が数段上手だぞ』
Forteza隊の指揮官、白髪のサイガン・ロットレンが無線を通じて激を飛ばす。
エレーネ機が早速見た目通りの呼び名、『獅子』を手に入れた。
RavinGrayは脚部が安定志向の3本。
その上、鋭い鍵爪を生やした前脚──2本の腕を扱えるのだ。然も本物と思しき炎を宿した。近接戦闘は此方の分が悪い。
『それからルヴァエル機は無論、残りの1機も何らかの異能を扱うと思えよ』
さらに味方機へ伝令したサイガン。エレーネ機以外は、未だ同じ黒色。
どちらがルヴァエル機なのかは、態々拡声器を通じて宣戦布告してきた機体側だと判断するより他ならない現状。されど自ずと直ぐに知れるであろう。
シャリィィィン……。
未だ黒いRavinGray中の1機、狭き操縦室内に神々しく響いた手甲を飾る腕輪が鳴らした音。
不浄の左手を使い、何やら印らしきものを宙に描いたエルミュラ・フィス・スケイル。神性の青と喪に服す白の腕輪同士を、不浄の上でぶつけ合った。
「カーマ・アゾンダ……ソーマに溺れ堕落したインドラに告ぐ。神の裁きを混沌の弓矢に変えよ──『混沌の矢尻』」
あくまでも操縦室内に於ける詠唱術。ローダ達には届かない妖しき調べ。
神に捧げる神聖術。エルミュラの美しさ極まる動きはまるで、神へ奉納する舞いに思えた。
されどエルミュラが唱えた途端、エルミュラ専用機と、他人でも識別な可能な青色にRavinGrayが転じた。
ガガガッガーンッ!
突如エルミュラ機に落ちた轟音、エルミュラと初戦であるローダ達には落雷に思えた光の一閃。己にわざと落とした裁きを思わす異様。
ブンッ……ズギュゥゥンッ!!
「──ッ!」
されど青に転じたエルミュラ機の背に生えていた余分な飾りに思えた2本が空を旋回するルシア母娘の操るEL・Galestaに向けられる。
さらなる変遷──2本の棘が放つ光の帯。青と白がDNAの様な渦を以て交わり、ルシア&ヒビキ機へ向けて注がれた審判。
精霊術に明るいルシア。緑の瞳が捉えたソレを刹那の表現が似合う僅かな間にて、『受けては駄目』と判断を下すと避けるのに徹した。
エルミュラ機の放った光の渦──青は水、白は雷撃の束だとルシアは認識した。
水分と絡まる電撃、決して並び立ってはならない組み合わせ。水は電気を程よく通す。青の散らした雷撃がルシア達を狙い撃ちにした。
まさしく紙一重、機体を僅かに反らして如何にか躱し切れた金色のEL・Galesta。
RavinGrayがどう足掻いても届かぬ上空を悠々飛んでいた敵機相手に『攻撃だけなら届く』と警告した体現。
「ソーマに溺れたインドラとな? まるで神を冒涜した詠唱ではないか?」
EL・Galestaの管制室に控えていたサイガン、結果よりもエルミュラが神へ投じた祈りに冷や汗。
実の処、エルミュラの詠唱を傾聴していた。ハッキングは三食の飯をより好きなドゥーウェンこと吉野亮一がRavinGrayの機体情報を分析、無線傍受を終えていたのだ。
カチャカチャ……。
「流石ルシアさん、今のは避けるのが唯一の選択肢でした」
ひたすらキーボードを叩き続けるドゥーウェンの状況分析。
幾ら精霊術に長けたルシアとはいえ、光速と同等に思えた攻撃。然も水と稲妻両方の特性を併せ持つ攻勢を受け切る手段はないと論じた。
「獅子が接近戦を担当して、青のサリーは遠距離砲か……。何とも巫山戯た連携だ」
普段から小皺の多い眉を顰め、皺を余分に増やしたサイガンの落胆。エルミュラ機を青のサリーと決めつける。然もエルミュラは、たったひとつだけ魔法を晒したに過ぎぬのだ。
パチンッ!
『バルタバザルから来た者共よ! 御前達の狙いは扉の候補者である俺ではないのか? それにルヴァエル! いつ迄爪を隠すつもりだ!』
ローダ機、これは身勝手なる命令違反──。白い機体の両腕を動かして自身へ誘う。
ルヴァエルの行いと同様、無線機のチャンネルを全方位に変えた煽りを加えた。『殺るべき相手は俺だろ? 女達を巻き込むな』ルシアを狙撃されたのが彼の逆鱗に触れたのだろうか。
『パッパ!? 無茶よ! 全部背負うのはもう止めて!』
これは愛娘ヒビキからの憤慨を呼んだ。
嘗て魔神ラウムが散らした金色の砂粒──それぞれに意識がある砂を浴び、意識の渦に飲み込まれた父親を救うため、ヒビキが意識の砂粒を請け持つ攻撃の分散を望んだ折の口論を思い出した。
パチンッ!
『やあ、忌まわしき扉の男。人間に持たせちゃ絶対駄目な力を拓いた奴が僕に指示を出すのかい? ククッ……良いだろう、ならば見せつけてあげるよ!』
『……! 嗚呼、やってみろ。俺もあの時と同じだと思われるのは心外だからな』
またもや無線機を拡声器に転じたルヴァエルの怒りと嘲笑の混ざる声音が戦場全体を揺らした。
ルヴァエルに真っ向から対峙したローダ。娘ヒビキの投じた心配に、敢えて無関心を装った態度で流した。




