第97話『First Movement(第一楽章)』 A Part
22世紀──300年前から摘まんだ遺産。連合国軍特殊空挺部隊所属であった人型兵器『EL・Galesta』
それをを3機格納していたForteza市の地下。
金色を煌めかせたルシア・ロットレンと娘ヒビキを乗せた機体が無遠慮に天井のハッチを破る茶目っ気。風の精霊達を搔き集め、背中に生やした翼を広げ空へ舞い踊る。
続いて純白に染め上げたローダ機が繰り返す深呼吸を過給と称し、2倍近い馬力を得て大飛翔を果たした。
最後、3機目の無人機。本来なら融通の利かない自動操縦。
然し先に飛び出した金色と、次に跳ねた白が素晴らしき手本を示した結果、自己学習機能を存分に発揮。
意外なキレの良さを以て、ルヴァエル達の操る5本脚の黒猫『RavinGray』の前に立ちはだかった。
格納庫の役目を終え、ただの廃墟へ転じた場所に置いてきぼりを喰らったサイガン・ロットレンと、弟子のドゥーウェン。茫然自失の表情、3機の様子を声なく見上げていた。
「と、飛びおった……! 然も色まで塗り変えて」
我が娘ルシアとヒビキの連携、天使の如きEL・Galestaに声を失う初老の男。
ガランッ!
「──ッ!」
砕けた天井の一部が剥がれ落ち、サイガン翁の目と鼻の先へ轟音と共連れにて落下。老人の驚異をさらった。
まるで人類史上初の飛行機を拝んだ様な魂の震え。
蒸気機関、内燃機関、飛行機、ジェット機、ロケット……。この目に映る技術革新の歴史を捲った気分とは、こうしたものかと思えた。
普段、モニタ上の映像と情報ばかりを頼るサイガンとドゥーウェン。12mもの巨人兵器が悠々と空を自由に旋回飛行する様子、これは理屈を超えた衝撃なのだ。
「そして奴等がリディーナの残した遺産……」
如何にか損壊を免れた管制室のモニタ越し、敵機『RavinGray』に改めて意識を移した白髪の老人。
彼の弟子、吉野亮一は既にせわしなくキーボードを叩いて敵機と味方、双方の力を情報へすり替え、戦力差を推し量っている最中。
若さ故の切り替えが成せる早さか、或いは思考さえ回らぬ中、必死に手を動かしているだけかも知れない。
「先生! 何をボサッとしてるんですか! リディーナに見せつけてやるんじゃなかったのですか! 私達の本気を!」
普段穏やかなドゥーウェンから珍しく叱咤されたサイガン、思わず苦笑いを浮かべる。既に死したであろう嘗ての弟子、自分達は未だに生きている結果を残すと決めた。
「ふぅ……了解した。──ドゥーウェン、無線を此方へ寄越せ」
サイガン翁、一度だけ深い溜息を零した後、猫背であった胸を張り、気合を入れ直した。部隊の隊長よろしくといった体で無線機を要求した。
『良いか? お前達に取ってこれが初の人型に依る戦闘だ。例え操縦桿を使わなくとも無理はするな。敵機も全て此方と同様に、異能や魔術の類を使うとそう思え』
嗄れ声でも引き締まった態度を以て、自分の子供や孫へ伝令を始めたサイガン隊長。ルヴァエルが嘲笑しながら宣戦布告したのだ、これは必然といえよう。
『地上での移動にはホバリングを使え。オートバランスを捨てて浮かぶのに特化した機体だ。尤も異能や魔法に依るものなら別の話だ』
EL97式は2足歩行の呪縛を敢えて無視した人型兵器。一方敵側の脚部3本は安定性重視。従ってホバリングの回頭性を存分に活かすべきだとサイガンは熱を振るう。
『出来るだけ1機づつ動け、動作した分を電力へ回生させる仕組みがある。バッテリー残量が危険水域の時は此方から指示を出す』
これは Lydina Customのみに赦された真骨頂。21世紀頃のレーシングカーの技術を転用し、稼働時間を大幅に向上させた。
最大出力を稼働させるのは出来る限り1機に限定。他は回生時間に充てろと熱く解説。
『兎も角気を引き締めるのだ。Fortezaは必ず護れ! そしてお前達の命は、この私が必ず保障するから安心せい──以上!』
ローダ達に激を飛ばし切ったサイガン。
世界最上位のFortezaを護り抜けば決して折れない正義を口上出来るのだ。されど無線の最後に父親の穏やかさを滲ます。老人は何も手を下せないが必ず背中を護ると強調した。
パチンッ。
『ローダ、了解した』
如何にもローダらしい抑揚の薄い声を義理の父親へ返す。されど彼はこの父を愚直に信じていた。
パチンッ。
『ルシア、りょぉぉかぁぁい!』
『お爺ちゃん? なんだか今日格好いい?』
サイガンの造った娘ルシアが大口を開けた実に巫山戯た返事。
その後ろで孫のヒビキが茶化す褒め言葉を無線に乗せて贈り飛ばした。
「……!」
「ぷッ!」
サイガンの背後からドゥーウェンの吹き笑いが降り注ぐ。
実際に頼り甲斐が在り、洗練された大人の漢気に溢れていた。
だがそれでも可愛らしい娘と孫には敵わない。恐らく彼女達は父を指して『可愛い』と笑っているに違いなかろう。されどサイガン、お陰で肩の力がスッと抜けた。
ボゥッ!
「き、機体が燃えておる?」
戦場で得られた家族からの温かみ──一瞬にして消し飛ぶ。
RavinGrayの内の1機が発破して真っ赤に燃ゆる。ネコ科を思わす姿形から発せられた激しき炎の揺らぎ、紅色の鬣を泳がすネコ科最強の巨大な獅子へ転じたのだ。
「遊ぶ……!」
ポツリッと呟いたエレーネ。操縦席の中に潜む彼女の金髪も火の様に揺れていた。
火球と成りて白いEL・Galesta目掛け、真っ先に襲い来る。文字通りの火蓋が切って落とされた。
ガシンッガシンッガシンッ……!
炎の獅子に化けたエレーネの駆るRavinGrayが三本の脚と全身をしなやかに伸ばし、街の外に広がる荒野を駆ける。ホバリングで浮く小細工を嘲笑う動き。
魔神ラウムと戦いで拓いた異能、ローダの過呼吸──己の心肺機能を超えた過給圧を扱う事で通常時よりも強く成れた。
然し即座に扱う異能の相性が最悪だと知れたローダ。
舞い散る火の粉にRavinGrayの駆動系を円滑化する油が混入していた。このまま吸気を続ければ最悪、爆散もあり得ると理解した。
ローダは人間であり、彼の乗るEL・Galestaとて内燃機関を積んではいない。
だがローダの異能は創造力。『駄目だ』自身がアラートを感じた瞬間、想像は底辺へと砕け散るのだ。
ビュッ! ビュッビュッ!
ガッ! ガッガッ!
「……氷の矢?」
虚ろに転じたローダ機との間合いを詰めたエレーネ機の襲撃の前に、杭を刺した氷結の刃。思わず唇を噛み、空を見上げたエレーネ。
ルシア母娘が駆るEL・Galestaから放たれた水の精霊、凝固させ敵の目前へ叩き落としたのだ。
武器は再生に至れなかったEL・Galesta。
丸腰の兵器が撃った狡い変わり種。金色の天使が下した裁きの鉄槌──ローダを護った息もつかせぬ戦いの連鎖が始まった。




