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第8話 『Everyday Happiness(日常過ぎる幸せ) 』B Part

 意識せずにいられぬ同居人(ローダ)へ初めての朝食を施した(ほどこした)ルシア・ロットレン。

 ローダからの不器用な感謝の()穢れ(けがれ)た男の妄想癖(もうそうへき)を偶然にも自ら洗い流した事流れ(ことながれ)


 悪い虫寄り(視線絡み)付く感触、純なルシアには届かず(やわ)らかな温かみだけが伝わる怪我の功名(結果オーライ)


 何気ない日常のまだ初日。

 これからも等しく積み重ね続ける? 幸せを受け止める自分(ルシア)の器、瞬く(またたく)間に溢れ(あふれ)やしまいか?


 女性とは運命の出会いに崇高(すうこう)な夢物語を描く。今は……今暫く(しばらく)は御相手の唾や汗(汚物さえ)さえ、純水(純粋)の涙に挿げ(すげ)替え、笑顔で受け容れられるもの。


「うぅーん……さて、と。君も目覚めたし、良い加減お仕事復帰しないとね」


 背伸びしているルシアから何気ない一言が零れ(こぼれ)、ローダの意識に()()()で触れる。


「──仕事?」


「そう、Resistance(村を守るの)は仕事じゃないのよ。働かざる者何とやらってね」


 ルシアは宮廷(きゅうてい)御飾り(おかざり)騎士より余程立派な戦士だと思い込んでいたローダ驚く。掛け持ち(ダブルワーク)だなんて思いも寄らない。


「そうか……。ルシアの仕事は一体何だ?」


 ローダ、思わず手短な幸せに心流されそうになるのを如何(どう)にか(こら)える。

 彼は兄ルイスを追い留めて此処へ来た尋ね(たずね)人。言わば旅の中途な立場。


 そんな男が『此処へ住む』などと途方もない掌返し(てのひらがえし)は流石に出来ない。


『俺もルシアと共に此処(エドナ村)に腰を()えたい』


 そんな()()()なる台詞が気を抜くと溢れ(あふれ)出そうだ。


「うーん……。じゃあいっそ一緒に来てみる?」


「何ぃ?」


 ルシアから心見透かされた様な職場体験の御提案。

 現時点、無職(ニート)を持て余す自分。手放しで肯定する理由もないが、否定する謂れ(いわれ)もないのだ。


 ルシアが準備してくれたエドナ村民ありがちな服装に着替え、彼女の後ろを着いて往く。村は復興(ふっこう)へ向け少しづつ活気づいてる様子が(うかが)い知れた。


「此処よ」

「え、いや……殆ど(ほとんど)隣じゃないか」


 ルシアとのエドナ村探索(デート)は一瞬で終結。

 教会と似た雰囲気の建物。中からやたら甲高く元気(あふ)れる声が路地まで響き渡る。


「あ、ルシア()()()()だ!!」

せんせえ(せんせい)、ちっこくぅ! ──ってかその人だれぇ?」


 (さく)の玄関開いた途端(とたん)、二人にドッと押し寄せる小さな群衆。

 教会とこの建物がほぼ接する意味、世間知らずなローダにも流石に判る。


 ルシア()()の仕事場、幼い子供を預かる託児所。子供達が神様へ十字を切って祈り捧ぐ(ささぐ)には教会は不可欠なのだ。


「ねぇねぇ、だからその人だれぇぇ??」

ちらない(知らない)の? きょうかいでせんせぇといっちょ(いっしょ)なのよ!」

「え~! じゃあせんせぇは、()()()()だね!」


 男の子も女の子もこの際関係ない。

 若いお兄さんとお姉さんを囲いに囲って容赦(ようしゃ)なき質問攻め。子供は悪気を知らないまま、知り得た知識で一人前を気取る(きどる)生き物。


「──ッ!?!?」

「ちょ、あ、貴方達ぃ! 黙りなさぁぁい!!」


 途方(とほう)もない言葉(恥しさ)が耳に飛び込んだローダ、これは動揺を隠せない。

 つい今しがた迄、勝手に夢見た同棲(同居)生活を子供に見透かされた気分に心のた打つ。


 ルシア()()(まゆ)吊り(つり)上げ利かん坊(きかんぼう)達を叱り(しかり)つける。突然降って湧いた新妻(おくたん)。先生の顔が酒を(あお)った様に最も赤みを帯びた。


 ポンッ!


「ふふふ……。タジタジですねぇルシア()()()


 ルシア、不意に背中を叩かれ子供達へ向けた真っ赤な顔色を叩いた相手へ送る。

 走り回って暴徒(ぼうと)へ転ずる小さき()()

 暗黒神を名乗る男を追い払った女戦士が手を焼くしかない絵面(不思議)


 保育士(社会人)にしては若過ぎるにも程がある可愛い少女。長く極め細かなる銀髪と澄んだ蒼い瞳が若さ(あふ)れる。手を口にあて(ウシシな)笑顔でルシアを煽る。


「り、リイナ! ちゃんと子供達に言ってよ! 貴女も()()でしょ!」


 この少女もルシアと同じ保育士であるらしい。嫌らしい笑顔を絶やさぬ()()をルシアが叱る(しかる)


「やや、これは失礼。()()()おめでとうございます! ふふふっ……」

「「──ッ!?」」


 盛ん過ぎる子供達を諭す(さとす)処か、リイナが発信源(の入れ知恵)だと知り、大層狼狽(うろた)える()()()()

 改めて()()を伝えるべく恭しく(うやうやしく)頭を下げる14歳の少女。

 翻弄(ほんろう)されるより他ない二人の成人男女。


 託児所の先生達は教会のシスターを兼ねている。

 シスター姿のリイナに深々と頭を下げられ、いよいよ婚約が現実味帯びる偽り(いつわり)()()()()


 リイナには地元へ残してきた幼馴染(おさななじみ)の彼氏が居る。

 寄って彼女の方が色恋沙汰(いろこいざた)には一日の長(いちじつのちょう)が在るのだ。


 小さなお腹を抱えひたすら嗤う(わらう)リイナを惑星の様にぐるぐる取り巻く子供達。

 リイナ先生の笑顔が寧ろ(むしろ)火種に転じて子供達の燃え盛りを焚き(たき)付ける。

 ()()()()()の輝きが()せぬ限り、惑星(子供)達の悪ノリ(煌めき)も留まる事を知らぬのだ。


「いや……。ご、ごめんなさい。だって余りに楽しくって……」


 流石に悪ノリが過ぎたと感じたリイナ。

 されど未だ笑い(こら)えて謝罪を入れる心(こも)らぬ様子。


 然し──判る話だ。

 暗黒神マーダがアドノス島を窮地(きゅうち)へ追い込んで以来、当然過ぎる福音(ふくいん)が遠ざかるのを皆が感じた。


 だから今回のエドナ村に於ける戦乱は一筋の光明を島民達に見出(みいだ)した。

 暗がりに差した光を与えた二人の若き男女。


 英雄(ヒーロー)女傑(ヒロイン)、輝ける二つの星々をいっそひとつに重ねたい。

 それはそれは誰しもあやかりたい祝福なのだ。

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