第95話『A world of mirrors reflecting vanity(虚飾を映した鏡の世界)』A Part
レヴァーラ・ガン・イルッゾに似通った容姿の少女ルヴァエル。
ルヴァエルの側近、水色を基調にした旧インド領の伝統を彷彿させるサリーを身に纏ったエルミュラ・フィス・スケイル。
そして肩で切った金髪を垂らし、青い眼を湛えた少女エレーネ。
扉の候補者を執拗に付け狙うAIを搭載した兵器に乗り込み、旧シチリア島を見下ろす衛星軌道上から落下しながら襲撃をかける刹那の時間。
ピッ……。
『え、エルミュラ。今さらだけどありがと……。お前のコネがなければ、大気圏外から落ちるだなんて叶わなかった』
ルヴァエルが無線の回線を開いて己の下僕であるエルミュラへ、面倒そうに言葉を濁しながらも謝意を伝える。心なしか背中の三つ編みも揺れた。
『まあ? ルヴァエル様から御礼だなんて珍しいですね。明日は星の屑が降らなきゃいいんですけど……』
大変珍しき礼を云われたと思ったエルミュラ。手首に巻いた飾りを鳴らして微笑み交えた返事。
大気圏外から落ちる自分達が流星思しき状態の最中、『星の屑が落ちる』などと、洒落にもならない事柄を言ってのけ主人を煽る。
『──ッ!』
ブツンッ!
これにはルヴァエル様──緑目を吊り上げ即時に無線を切った。
主人の怒りを買えたエルミュラは、さも満足げな顔立ち。私の大層可愛いルヴァエル様、期待通りに返してくれた大人の御遊び。
ピピッ──。
エルミュラが居る操縦席内に響いた次の呼び出し音。『SOUND in ”Elene”』の文字表示。
『エルミュラ……楽しそう。──だけど……これってエルドラ様の意思?』
ボソッボソッと台詞の全てが濁った感じのエレーネからの疑問が飛んだ。『エルドラ様』とは一体何者であろう。
『先々代様からは、レヴァーラ様を御守りするよう言伝を受けているじゃない?』
『ルヴァはレヴァーラと……違う。遊べるのは嬉しい……けど』
気軽に応答したエルミュラへ、濁り声だが即答を重ねたエレーネの伝言。声量こそ大気を擦る音に掻き消され、聞き取り辛いが強い不信を感じた。
『細かい事を気にしない気にしなぁぁい。私達に取ってはアレがレヴァーラなのだから』
『……』
ブツンッ!
主人を愛称を用いて呼んだエレーネより酷い応答。
主人ルヴァエルを指し『アレ』と笑って捨てたエルミュラの手軽な嘲笑。今度はエレーネが煽動に、まんまと乗せられ無線を切った。
◇◇
アドノス島……いや、今や世界の中枢であるForteza市──。
外敵共が空から降って来る緊急事態を受け、住民達は地下のシェルターに向かい血相を変えて避難を始めた。
『敵機、迎撃ミサイルの射程圏内へ到達。応戦しますか?』
旧い部品を拾い集め、ただの復元だけでなく、これをベースに同じ物を2機用意し切れたドゥーウェン。
Forteza市の迎撃システムから生じた提案『Will you fight back?』聞かれる迄もないAI特有の質問に立腹しながら赤一色のボタンを、握り拳で叩いた。
バシュッ! バシュッ! バシュッ!
迎撃ミサイルが直角と思える程に天へ歯向かうが如く早速撃たれた。
ズガガァァンッ!
雷雲の中でひしめき合う稲妻の様に、轟く命中の証明を立てた音。雷雲無き空にて響く不思議さを、平凡な民達へ送り届けた。
「チィッ、早い! (ミサイルを)撃つのが速過ぎだ!」
相手は落下の重力を使うチート。のんびり静観する訳には往かないのだ。
感知でなく、Forteza市のカメラが捉えた映像を格納庫のモニタで見つめていたサイガン・ロットレン。
弟子ドゥーウェンこと吉野亮一の早急過ぎた応戦に思わず舌打ち。モニタに映った敵影は確かに黒。
されど以前襲撃してきた体長5m程の『RaviNero』に在らず。黒いカプセルの塊が、大気圏突破時の摩擦熱にて赤へ染まっていた。
「見ろ、大気圏を抜けながら傷ひとつ付いておらん。中身が出てから勝負を賭けねば意味がないぞ」
横目でギロリッとドゥーウェンを睨むサイガンの注意勧告。然し既に手遅れ。
「み、ミサイルは、今の分で全て……です!」
ドゥーウェン、先生の注意を聞きガクリッと黒スーツの肩を落とす。
「フンッ」
鼻を鳴らしたサイガン翁、予想通りの応答。
なお、この初老の男、EL・Galestaの専用格納庫に来る際は常に作業着。機械屋のおやっさん姿を捨てず律儀にも続けていた。
ガシュッ!
ガシュッ!
バシュゥゥンッ!
「成程、アレが中身か」
大気圏を抜ける為の専用カプセルがパージされ、サイガンの云う『中身』が遂に姿を現す。
関節部だけ白に塗られた機械が丸くなり、カプセルに収まっていた様子。
緑、水色、赤──。目玉と思しき箇所がそれぞれ異なる色彩を以て光を放つと、実にしなやかな動きで全身を伸ばし切り、姿を露呈した。
試作機RaviNeroによく似た黒猫のような姿。だがよくよく見直せば決定的な違いがある。
鋭い鍵爪を持った腕は2本、前脚部2本と後脚部が1本。計5本脚の歪で装い新たな黒猫を全世界に公開。サイズ的には試作機と、殆ど同じに思えた。
「ほぅ……3本脚にて身体を支え、腕2本は自由に使えるか。中々工夫を凝らしておる」
サイガン翁、ふと二輪車のサイドスタンドを連想に繋げた。タイヤ2本を支える脚は1本。当然、その1本に負担が掛かるものの、三点式は効率が良く揺れにも強いのだ。
ピピッ──!
『やぁ、レヴァーラの創ったFortezaを好きにしている愚民共。遂に本命で御相手をさせて貰うよ』
「「──ッ!」」
緑の輝きを頭部モニタから発した敵機より、流し込まれたと思われる強制通信。
Forteza市の通信回線へ割って入ったルヴァエル当人がモニタ全面に突如映し出され、サイガンとドゥーウェンの緊張を嘲笑った。
Forteza市中にて最も高いビルは既に目と鼻の先。衛星軌道上から溜めに溜め込んだ重力を元手に堂々突貫を仕掛ける3機。
ビッシィィッ!
『な、何だァ!?』
『ルヴァエルとやら。お前さん方も良く知っているであろう護りの女神の防御呪文を研究させて貰った。此方にも使い手がおるのだよ』
搭乗者と同じ緑色の目を煌めかせたルヴァエルの機体がいち早く、Forteza市の上空へ辿り着く。
なれど電気ショックでも浴びたかのような音が駆け抜け、陸に上がった魚の如くもんどり打ったのだ。他の機体──エルミュラとエレーネ達も同様に落ちた。
「せ、先生!?」
サイガン先生のとんでも発言に驚き、瞠目を禁じ得ないドゥーウェンの驚いた視線が老人を貫いた。
サイガンの云う『此方の使い手』とはベランドナしかいない必然。今、この場に不在であるベランドナから、魔道の手解きを受けたとは寝耳に水なのだ。
「馬鹿め、無論ハッタリに決まっておる。超強力な磁場を発生させ、あの機械を騙したに過ぎぬ。然し自動で補正が熟せるものならもう二度目はないぞ。ローダ達はまだか? 最悪空で発進させる!」
ドゥーウェン、サイガンから種を明かされても驚異が隠せない。いつの間にそんな物をこの街に仕掛けたのか、全く以て不明であった。
サイガンは白髪の下に覗く目をギョロリとさせつつ、周囲を見渡す。『空で発進させる』させるとは無論、人型兵器EL・Galesta改の事だ。
この老人、あくまでEL・Galestaをローダ達に託すつもりだと改めて知った。
タッタッタッ……!
タンタンタンッ……!
ダダッダダッダダッ……!
サイガンが待ち焦がれた駆ける足音が格納庫内に木霊する。ローダ・ロットレン、ルシア、ヒビキの三人が地下道から無事到着を果たしたのだ。
「こ、これなの? 全く……信じらんないよ。私達の家庭から、こんな物騒な場所へ地下道が伸びてるだなんて」
ルシア、全高およそ12mある巨大な人型兵器を飽きれた気分で仰ぎ見る。ドゥーウェンが自分達家族の為に用意してくれた最高級HOTELが、戦端に直通していたのだ。
夫ローダと娘ヒビキも同様にEL・Galestaの異形を見上げた。
特にローダとルシアに取っては、ラオの海岸にてこの兵器の外装を着込んだ不死の化物と戦ったのだ。『部品を持ち替えれば直す』と聞いていたが、改めて見せられ舌を巻く気分に及んだ。
「処でさ……この新しい格好なんだけど、少し動き辛いのよ」
ルシアは独り、自分の新たな戦装束に対する文句を告げた。以前から『天女ルシア』と云う異名がある程、彼女の衣装はルーズであった。
「ルシア、お前は女子の癖して晒し過ぎだ。今回の着衣は特殊な糸を用いてある。その形の割に防御力も高いのだ」
ルシアの創り手サイガンが父親面の説教を垂れる。
新しいルシアの着衣は裏地が赤に染まりかつ、胸元を留める赤紐も数多い。晒していた腿の肌色も殆ど消え失せ、天女よりも巫女らしき要素が増えていた。
なお、見た目的には過去と変わらぬローダの装備も、ルシアと同じく特殊繊維を用いたものだと、注釈を付け足した。
「えぇ……。だ、だってさぁ。あの格好なら特に男相手だと効果てき面だったのに……ねぇローダ?」
愛する夫へ気持ち含めた流し目と甘えた声音を送るルシア。何しろ夫との初対決も、その『効果てき面』を魅せつけ堕としたのだ。
「……それよりこの兵器、俺達に動かせるのか?」
ローダ──ルシアからの心のやり場に困った煽動に目を背け、EL・Galestaに注目。『コレに乗って戦えと?』現状最も気になる一点に注力した。




