第92話『Fighting Soul(不屈の魂)』 A Part
我が元祖国フォルデノ王国と森の都ラファン。そして嘗て暗黒神ヴァイロ・カノン・アルベェリアが生まれた大地カノンの境界線を護る砦の支配人カーヴァリアレ・カルベロッソ。
長年の夢が叶う血戦──自分を負かせた弟子ジェリド・アルベェラータを遂に迎えた。
弟子ジェリドから問われたカーヴァリアレの若返りの術。黒騎士マーダの手の者が成した狂気の延長線上に在った事を堂々応えた。
「禅問答に俺様を巻き込むなって言ってんだろぉッ!」
戦に理屈を持ち出す老兵達へ本気の槍を突き出す若輩者ランチア・ラオ・ポルテガの苛立ち満ちた一撃。戦とは人が人を殺す狂気の生業。例えどんな理由があろうともだ。
カーヴァリアレが軽いと馬鹿にするランチアの槍斧捌きだが、決して弱い訳ではなかった。
槍の握り手を回転させつつ柄で敵が振るう両手剣と打合い、交えた直後に本来の鉾先が在る側を重さ任せに振り下ろす。
尤も基本の型、ジェリドの戦斧と争えるカーヴァリアレには通じなかった。
それでも自分の元彼女にして、ラオの副団長であるプリドールを体力切れに追い込んだ憎き敵相手だ。まさしく理屈不要の攻め込み、ジェリドの戦斧が作った隙を常に窺った。
説明不要の2対1、カーヴァリアレの方が不利なのだが何しろ動きのキレが違い過ぎた。ランチアも騎士としては軽妙な部類だが、カーヴァリアレの素早さは群を抜いていた。
ブンッ!
「その動きもマーダのお陰と云う事か!」
決してただの昔話と、これ迄の経緯を戦闘中に聞いている巫山戯た態度ではないジェリド。敵が力を得られた訳を聞き出す。ランチアの云う無駄口ではない。
然し妻ホーリィーン・アルベェラータの仇が居るマーダの僕ことヴァロウズに対する怒りが如何にも頭をチラつく。冷静に事を成せているとは言えなかった。
キンッ!
「そうだ! 力を得られた! ジェリド、お前と再びやれる力だッ!」
不治の病から生還したのみならず、一度は敗れた弟子と闘える夢を叶えてくれたマーダ様は、カーヴァリアレに取ってまさに己の全精力を注いで構わぬ神に等しき存在なのだ。
──やはり俺独りだけの争いには姿を見せないのだなリィン。
命ひりつく戦いの最中、無駄な思考が一瞬浮かぶジェリド。心中で妻の名を愛称で呼ぶ。
愛娘リイナが命を賭けた『終わりなき旅路』戦の女神エディウスに意識を奪い去られる危機に瀕した際、ジェリドが亡き妻の影を呼ぶ扉の力を拓いた。
お蔭でエディウスから意識を奪われずに済み、命を取り留めたリイナであったが、夫ジェリドが独りで命張った争いには姿を見せてはくれなかった。
されど師匠と決着をつける意味では私闘に過ぎない。依って亡き妻の力を借りる行為はジェリドに取っても遺憾なのだ。
「ウォォォッ!」
槍斧を駆け引き無用で振り上げ、カーヴァリアレ相手に気合の雄叫びと共に振り下ろしたランチアの一閃。
自分より速き者相手に主導権を握ろうとするジェリドのやり方には届かぬ癇癪を爆発させた一撃。
冷静なるカーヴァリアレ、竜之牙をまたしても自分から強かに槍斧へぶつけランチアのよろめきを狙う動き。
シャキィィンッ!
「──ッ!?」
「へッ!」
眼鏡越しの眉を顰めたカーヴァリアレ、ランチアの槍斧を叩き落とす算段を躱され手応えを見失う『馬鹿な?』の気分。
ランチアの槍斧が真ん中から折れた様に分かれた故、竜之牙は、行き場を喪失したのだ。
見た目こそ変わらないが単純に重かった投槍に依る突きがカーヴァリアレの狼狽えを生んだ次なる一手。
元よりランチアの槍斧は上部がハルバードの形状、上に格納された下部は通常の槍に分かれる二刀へ転じる代物であった。
グサッ!
ランチア、迂闊にもよろめいたカーヴァリアレを突いた槍の追撃。漸く敵の腕を捉え貫いた。血飛沫が舞う。
値千金の攻撃を加えたランチアの顔色がいまいち優れぬ──彼はカーヴァリアレの機動を奪うべく脚を狙っていたのだ。まさかこれまで殆ど使っていない片腕を抜くとは思えなかった。
パンッ! パンッ!
「ウグッ!? ば、馬鹿なッ!」
ランチアの武器に潜ませた狙いも不発に思えた直後、火薬の爆ぜた銃声が轟き、今度こそカーヴァリアレの太腿を捉えた。苦痛より驚異に顔を歪めたカーヴァリアレが若僧を本気で睨んだ。
「お、おのれ! 貴様、その槍、銃剣を兼ねていたか!」
一杯喰わされたカーヴァリアレ、若者に出し抜かれた事実より騎士としての品格に対し、異議を唱えずにいられなかった。
「ア"ア"ッ!? だからおっさんだって言ってんだよ俺様はよぉッ! ハルバードなんて16世紀位の骨董品ッ! 騎士の本質なんざ犬にでも喰わせちまえッ!」
ハルバードに隠した銃剣──中世ヨーロッパの歴史にて剣を葬り去った槍斧。
そのハルバードすら歴史から消した火縄銃。さらに剣と銃を兼ねた銃剣に取って代わった。
若き戦士ランチアが吼えた『古めかしさ』と『騎士の成り立ち』彼は己の得物に拘り、魂さえ乗せる感傷主義なぞ持ち合わせていなかった。
ビッシィィッ!
「カーヴァリアレ・カルベロッソォッ! アンタは俺様のハルバードが二刀に変わったのを見て満足したッ! その油断! 闘いの場では怠慢なんだぜぇッ!」
槍斧側の上部は床に捨て、銃の機能を隠し持った槍で指したランチアの怒声が雨音落ちる古臭い石の砦に轟いた。
戦士の魂──?
騙し討ち──?
ランチアの戦闘哲学は、そんな下らぬ処に留まらず前を向いて進み征く。
青い鯱ランチア・ラオ・ポルテガの求める牙は、揺るぎない勝利に対する渇望。彼の戦に於ける鉄の掟──貫く矜持だと身を以て示したのだ。




