第84話『Divine Truth of the Encounter ♪奏で"逢う"ひとの"神誠"✷』 B Part
生命召喚──。
嘗てこのベランドナがForteza市にローダ達を招待すべく使った呪文。元来護りの女神ファウナ・デル・フォレスタが考案した術。
それを再び用いた多大なる二番煎じ。されど今回は規模が違い過ぎた。直径約100mの錬成陣から立ち昇る蒼色の輝き。呼び込むべき者共──数人ではないと知れた。
ベランドナの流した血を以て描いた陣は彼女の体力を奪う必然。
さらにこの術式を完遂させるため此処までの道中、魔力の消費も極力抑えた。
然も召喚を成し得た後も彼女の先陣は続くのだ。
疲労したベランドナの脚代わりを引き受けた短剣使いのファグナレン。己が胸内にて詠唱果たした独りの女性──僅かでも力に成れた自分に誇りを見出した。
◇◇
「な……!?」
「なんて美しい輝き……」
此方は敵地カーヴァリアレの砦の裏側──切りたった崖の上でジェリド本隊の到着を待ち続けていた海からの出向者。
ラオ守備隊の団長──青い鯱の異名を持つランチア・ラオ・ポルテガと副団長──赤い鯱を名乗るプリドール・ラオ・ロッソの両名。
此処からでも見えたベランドナの為した輝き。
話には聞き及んでいた生命召喚の煌めき。想像を遥かに超越した風景に言葉を逸したランチア。代わりに継いだプリドールも異名通りの赤に顔を染める。
例え人より進んだ魔法力を秘めた悠久の森人の力と云えど、これが同じ人族の為せる光!? 戦場の最中、人類の正しさ孕んだ高貴に心躍った。
◇◇
敵地の背後から拝めた奇跡の色彩。
敵地そのものからも映える当然──カーヴァリアレ・カルベロッソ等、ジェリド隊の宿敵に転じた連中も同じ光に反転の失望を見出す。
「──一体なんなのですかアレは!?」
たじろぐカーヴァリアレに滲む焦りの色。ラファン山中に敷いた石塁が敵の手に堕ちる以前、たった二人の兵が先行した事実は既に理解していた。
されど精々威力偵察の類だとタカを括っていたのだ。この現象が巻き起こす真実を知りたい処だが誰にも判らぬ正体。さりとて断罪の青に思えた。
◇◇
再び場面をベランドナ達の元へ返す。
生命召喚にて呼び出された者共は散りばめられた一粒の煌めきに分解され、術者が描いた錬成陣の元で再構成される。
再構成されゆく者達──。
すべからく揃いの白を纏う鎧の騎士達。ジェリド・アルベェラータを含むおよそ100名にも及んだ人々を数百kmは離れた己が地へベランドナは召喚したのだ。
「な、なんて無茶な……」
「……」
生命召喚の本質を漸く知り得たファグナレン。味方総勢をたった独りの力で引き出したベランドナの決してブレない他人を頼らぬ精神力。
黒目を白黒させたファグナレンの瞠目に覗き込まれたベランドナが無言で首を横に振る微笑。『最後、貴方が支えてくれたので出来ました』男の優しさが沁みた。
ベランドナ自身、ただ男に支えて貰っただけの力にしか思えなかった。年齢を忘れがちなエルフ族の民草が蒼い星に抱かれた生命の営みを顧みた。
「んっ……ンンッ!?」
あくまでベランドナが召喚したのは元フォルデノ王国の騎士達であるべき。地元出身のロイド少年が異端をそこにみた。
自分と同世代の女の子──杖をついた長髪の少女。朝陽を浴びた樹々の新緑を思わす色合い。白いローブを羽織っていた。
「リタッ!? 何故君が此処に?」
慌てて駆け寄るロイドに愛想を振り撒くリタと呼ばれた少女。密かに好意を寄せた想い人が走って来た心弾む気分を懸命に隠そうとする。
「ふふっ……光に成って失せそうなジェリド様方に思わずしがみついたら辿り着いちゃった」
長い薄緑の髪を掻き上げ片思いの相手を誤魔化すリタの強がり。リタはジェリド隊の助っ人としてラファンの民衆軍に付き添っていた。
そして生命召喚の折、ジェリド達へしがみつく格好で此処までやって来られた次第。
ロイドが騎馬を渡す役目を帯びていたのは知っていた。だから彼女なりの冒険心をかき鳴らして現れたのだ。
想いを寄せるロイドにはブレぬ恋敵リイナ・アルベェラータが居るのは重々承知。ならばこそ地元にその鬼が居ぬ間こそ絶好の機会。自分だけポイントを荒稼ぎするつもり気満々なのだ。
──ロイド! くぅ! やっぱり格好良い!
自分の手が届く場所に向こうから寄せて来たリタの幸福。リタの思いが語る通り、ロイド少年は格好可愛い中々の美少年である。
いっそのこと再会の喜びに乗じ抱き付いてしまいたいリタの複雑な乙女心。然しロイドとリイナの間柄は云わば誰もが知る公認の仲。
だから鬼の居ぬ間の何とやらも慎重を喫せねば乙女の常識を問われるのだ。
「べ、ベランドナ! 大丈夫なのか?」
生命召喚を受けたのは二回目のジェリド、依って他の兵達と違いこの術に対する大した驚きは抱かない。
然し手首を切った出血によりファグナレンに身を寄せた姿を即座にみつけ、此方も慌ただしく駆け寄った。
「だ、大丈夫です……Master」
「むぅ……」
全く以て大丈夫には見えないベランドナの強がり。
ジェリドとてベランドナの独りよがりな忠誠心を知り抜いていたとは云え、巨大な錬成陣を血で描く無茶まで想像し切れなかった。
思わず後悔の念を吐いたジェリド、隊を率いる作戦指揮ばかりに感けた己の無力さを呪う。
「──あっ、私にお任せ下さい」
降って湧いたに等しきリタがよもやな割り込み。握ったメイスを天へ突き出す。早速の好機が巡って来たのだ。
「戦の女神よ、この方にどうか貴女様の御慈悲を。湧き出よ──『生命之泉』」
突き出したメイスが放つ輝き。完全とは云えぬがベランドナが自ら切った手首の傷が殆ど癒され顔色も幾分落ち着いた。
「こ、これは細胞分裂活性化の奇跡?」
手首の傷が治癒された事実に驚くベランドナがファグナレンの支えから立ち上がり傷跡の様子や手首を動かし回復の状態を確認する。
そして治してくれた少女の方を見やる一驚。これは紛う事なき戦之女神回復の御業。友人リイナが扱う術と同じもの。
「ま、まだ駆け出し……正式な司祭ではありませんがその程度の傷ならば私でも。あ、傷が塞がっただけで体力は戻りませんからどうか御自愛下さいませ」
初めてお目に掛かったハイエルフに仰々しく頭を下げたリタの思惑。何ともやらしい話、エルフの女性から礼など不要。
大好きなロイドの見守る前にて早速好感触を稼げたのだ。寧ろ自分がこのエルフに感謝を述べたい気分──心の奥底で舌を出した。
「あ、ありがとうリタ……ベランドナさんの傷を癒してくれて」
少し控えめだが地元の友人にロイドが返した御礼の言葉。
ロイドはリイナと公認の間柄にも拘わらず押しの一手が弱い。彼は至極真面目。故にこの感謝も異性に対する恋愛的な意識は皆無。
──良っし!
それでもリタはその膨らみ始めた胸中に於いて喜び勇んだ拳を握る。
リタに取って可愛い過ぎるロイドの仕草は、まるで面と向かって感謝が云えぬ男の子の不器用さに映ったのだ。




