第84話『Divine Truth of the Encounter ♪奏で"逢う"ひとの"神誠"✷』 A Part
カーヴァリアレ・カルベロッソ──。
嘗て同じ国を護る担い手であった巨大な斧の使い手ジェリド・アルベェラータの師であった彼。
フォルデノ王国・暗黒神ヴァイロが故郷カノン・護りの女神ファウナ神の故郷ラファンを一手に抑え込む砦の守護者。
黒騎士マーダが奪いカーヴァリアレに護りを依頼したこの地を取り戻すべく、ジェリドは師と志を分かつ舞台へ出向いた中途。
悠久の森人ベランドナと短剣の扱いに長けたファグナレンだけを先行させ、やがてジェリドと同郷の少年ロイドと彼等は合流果たし、敵の本拠地へ向け樹々生い茂る最中、早馬を駆けた。
この戦闘に一切手を出す事罷りならん──。
そんな理不尽を主人マーダから言い渡されたヴァロウズの三者。No3の剣士トレノ、No5の女格闘家ティン・クェン、No7の大気使いザラレノが過ぎた手合わせを望んだ結果。
No4の女魔導士フォウ・クワットロからの壮絶なる折檻を受けた一部始終。
そのさらなる裏方、割と長い時間待ちぼうけを喰らった連中。既にカーヴァリアレが護る砦の背後。但し100mはありそうな崖上から見下ろした先に在る。
ジェリド本隊を待ち受けているラオ守備隊の団長ランチア・ラオ・ポルテガ。危険極めた崖の上を普段地元で操る船の様に騎馬を見事いなして先に辿り着いたが故、暇を持て余していた。
けれども仮にジェリド達が正面から訪れた処でこの崖を如何にかせねば挟撃などとおいそれにも言えぬ現状。
『団長は此処から一体如何するつもりだ?』
自由過ぎる団長の御守り役、副団長プリドールでなくとも自然と沸き立つ疑問符。
渦中の人、ランチアは此処まで道案内をしてくれた勇気ある少年ビアットとすっかり意気投合。
20代前半の未だ子供じみた若さ残る男性と、勇猛さと知恵を併せ持つ少年。
年齢を越える砕けたやり取り、崖下に居る敵に悟られぬよう待ってる間。経った数日の間柄を一挙埋め尽くす会話に華を咲かせていた。
そんな或る日──。
やはり暇を持て余したランチアがいよいよ子供の様に蹴った石ころが谷底へ転がり行くのを見送った。
「ムッ!?」
妙に気になったランチアが幾度も石を同じ場所から蹴り落とす。増々以て少年じみた仕草を繰り返した。
「おぃビアット……さっきから石が同じ場所を転がってゆく様に俺様には見えんだが……」
歳の離れた友達を顧みるランチアの少年心。
ラオの海を思わす青い鎧に込めた団長の意地と矜持。なれどビアットへ語り繋ぐランチアは、そんな偉ぶった肩書きを一切合切捨て去る。
まるで新緑が芽吹いたばかりの純粋無垢を寄越した。
話が逸れるのだがプリドールも、この純情滲むランチアの懐に堕ちて逆に抱き返した昔の経緯があった。
一見切り立った直角の崖。されど現実的には斜度90℃なんてそうそう在りはしないもの。だが極ありふれた大人ならば気にも留めないものだ。
「流石おいらの見込んだランチア兄ちゃんだな。目の付け処が違うぜ」
如何にも満足気な腕組みを以て頷いたビアット少年。
「ア"ンッ!? 一体何言いてえんだビアットぉ?」
確実にランチアを褒めているビアットなのだが、まるで幼なじみから煽られた体で絡み出す。
「いいから耳貸しなって……」
勿体つけるビアット。他の友達には内緒にしたい気分を匂わした。
態々屈んでビアットに耳を傾けたランチア男子の友情。
もしこの場に草葉の陰から覗き見る29歳独身のプリドールお姉さんが居れば、さぞや尊い絵面に身悶えしたに違いなかろう。
それはさておきビアットの耳打ちを聴きながら見る間に顔色が上気してゆくランチアの面白味。心躍る気分を抑え込めなかった。
「へぇ……そいつは滅茶苦茶面白れぇな」
続々と仕上がりみせるランチア捕らぬ狸の皮算用。この漢が決めたからにはそれはもぅ絶対なのだ。
◇◇
一方、形式上とは云え『Master』とベランドナが呼称するジェリド・アルベェラータからの依頼。
樹々や岩などを避けながら馬の速歩で駆け続けることおよそ3日目。目指す敵の本拠地が漸く視界の枠組みに捉えられた。
「──アレか」
実に気に入らぬ態度を隠す気がまるで感じられないファグナレン。
目指す砦の最上階でたなびく赤い竜の紋章。己の鎧に刻み付けたものと同一。
150年程前──黒と白の神竜を従えた戦争。
資金繰り以外の参戦を遠巻きに見つめただけの国が掲げる偽りの御旗。いい加減な歴史年表に並びたてた恥ずべき伝承の印。
やはりと云うべきなのか──敵は間違いなく嘗ての同僚達。守り抜けずに置き去りし、動ける自分達だけ尻尾を巻いてマーダ勢から逃亡した。
つい数日前、自身に潜む正義の在処を悩み抜いた二丁拳銃Leythemendの使い手レイ。
ファグナレンは、ほぼ等しき憂鬱に取り憑かれそうな己を振り払いたき思いに駆られた。
既に散々殺ったとはいえ、決定打を打たれた気分。然も此処からが本命──あの中に居る者共を狩り尽くす迄終わらぬ浄化の煉獄。
──筆舌に尽くし難い……か。こんな刻に使うのか?
どれだけ偉ぶる言葉を並べた処で全然足りないと感じざるを得ないファグナレンの苦悶が滲み溢れた。
──こんな迷い……俺もジェリド隊長に比べれば未だ精進が足りないのか……。
ファグナレンが心底敬意を示すジェリド・アルベェラータ。
昔フォルデノ王国の聖騎士団を纏め上げる立場に在りながら国民を顧みない王の政策に異を唱える代わりに胸の赤い竜をナイフで削り取り、兜を投げ捨て堂々脱した。
ラファンの山中に出現した同じ色した鎧の連中相手にも全く臆せず、自分の信ずる正義を貫き通した。少なくともファグナレンの赤目にはそう映った。
「既に敵地は目前……今さらブレた処で如何にもならん──んっ?」
現状のファグナレンに取って最も判り易き正義の在り処──ジェリド隊長の命を遂行する建前。
その為にはベランドナとロイド少年を守り抜くのが必須。その辺りなら気の迷いなど微塵もなかった。
そのベランドナへ視線を預けたファグナレン。奇妙かつ何やら危い仕草を悠久の森人にみつけた。
ベランドナがナイフ片手に何やらうろついていた。樹々が少ない場所を幾度も巡っていたのだ。
フラッ……。
「──ッ!」
驚愕したファグナレン。遠目がちで見逃していたのだが、ベランドナはナイフを己の手首にあてがい出血を地面へ垂らしながら同じ場所にて周回を重ねていたのだ。
そのベランドナが倒れそうになるのをみつけ、鎧を鳴らす全力疾走を遂げるファグナレン。
「ベランドナ嬢! 一体何の真似だ!?」
自分の胸元へ落ちたベランドナを赤い目歪め見つめたファグナレンの没入。
美麗極まるハイエルフの女性が息を荒げ、己の顔を見上げる姿に湧き上がる心揺らぐ想いを抱く。彼女を体現した金色の髪がファグナレンへ垂れて風に揺られた。
「じょ……嬢は要らないファグナレン。私がこれからやる事を支えてくれますか?」
息を荒げ胸を上下させるベランドナが珍しく敬称も敬語も捨て去り、自分を支えた人間の男へ手向けた懇願。続いてロイドも駆け寄るが何やら近寄り難い空気を二人から感じた。
何とベランドナ、直径100m程の錬成陣を己の手首から流した血で描いていたのだ。
「ベランドナ!? ──いや判った。魔法や精霊術の助力は出来んが貴女を支え切ってみせる!」
涙目を顰め声を張り如何にか凌ぎ切ったファグナレン。
ベランドナの手を真心込め握り、自分の身体に流れゆく漢気溢れた誠意を注ぎ込む。
やれるのか──?
出来ないのか──?
下らぬ理屈を振り払った漢の凛々しき顔立ち。
琥珀色の瞳を瞠目させたベランドナ。
正直深い意味などなかった。足りぬ血とこれから多量の魔力を消費するが故、ただの支柱になって欲しかった。
されど抱かれ握られた処から理屈通らぬ心地良き力の源泉を感じ取り、迂闊にも緩みきる。
「──『生物召喚』」
ベランドナの口紅要らずな唇から厳かに発せられた護りの女神譲りの魔法。巨大な陣から蒼い光の柱──星々を昼時の空へ帰し天へと伸びた。




