第83話『A Deliciously Dangerous Risk † 心躍るリスク †』 B Part
ヴァロウズNo7、大気と罠の使い手──普段は後方支援に徹するザラレノ・ウィニゲスタが同じヴァロウズの上位2名に嗾けられ抜いた本気の拳銃。
争いの場に持ち込んださも女の子らしい洒落た紅の唇と揃いの爪先。宙を揺らぎながら握り手向けた少女の危険な香り。
青くて長いツインテールを躰の周りに泳がす子供らしからぬ妖艶。
彼女の風が無意識に運んだと思しき血の色した花びらすら舞い散る開花宣言。大人達の気配が真実の目覚めを揺り起こした。
この中で最も上位の剣士トレノ──。
男とは思えぬ濡れた唇で返す大人の魅力。等しく濡れた倭刀を構え、少女の昂ぶりに即時応じる。
異人譲りの碧眼が座り、少女転じた大人の女戦士を睨む戦意を示した。
「──トレノ?」
「ティン……Noも年齢とて関係ない。本気で殺れ……でないとお前が死ぬぞ。判る筈、アレはそうした手合いに化けた」
冷静が信条なトレノがティン・クェンの前に出て制す本腰。殺さずすら転じた。されど声音は女の品性擽る真剣さを帯びた響き。
「グッ!?」
「つ、冷たい!」
水帯びた剣を操るトレノが突然感じた急激な熱風。
逆に燃ゆる魂乗せた拳を振るう格闘が得意なティン・クェンが全身を包み込む寒気を覚えた。
二人共々歯痒くも顔を歪ます。
差し迫る一触即発、大気使いの仕業と知り尽くしてるにも関わらず動きを止めた虚ろに繋がる危うさ。
「アハハッ! 死んじゃぇぇッ!」
ズダダッ! ズダダッ!
何故か堂々鳴らしたザラレノの銃声。高らかに響く自動小銃。普通に迫り征く銃弾の雨霰。
「くッ! 舐めるな!」
音無しの銃弾すらすべからく打ち落としたトレノの冴え渡る剣術。例え戦慄に身体が凍えようとも脊髄反射が剣を動かす。
カキンッ! キンッキンッ!
「ぐはッ!?」
トレノの胸を穿つ銃弾。その痛みより目前で起きた仕掛に蒼い目を見張りゆく。『馬鹿な?』の気分が脳裏に浮かんだ。
銃弾を弾く音は確かに木霊した。だがトレノが仕掛ける半歩手前。銃弾達は得体の知れぬ何かに当たり、生き物思わす様子で勝手に軌道を変えたのだ。
「も、もしや!?」
自分の方へ崩れたトレノを巨躯なる躰で受け留めたティンが代わりに視界を向けた方向。
蒼い少女の回し蹴り二連打。悪戯が過ぎた嘲をティンへ送り届けたザラレノの絶頂迎えた震える恍惚。
大気使いの恥ずべき奥の手──石礫を蹴った真空の刃を堂々扱い自身が撃った弾道を変えたのだ。
「嗚呼ッ! マーダ様ぁ! これからはこのザラレノがあの二人の代わりを果たして御覧に入れます!」
赤い目に映らぬ主人へ届けとばかり、朱に染めた顔を天へ向けたザラレノ人生史上至宝の境地。私が居れば全て無用、全部捧ぐ少女の狂気。
最早、目前の先輩二人は眼中に非ず。
今直ぐ恋の鼓動高鳴るマーダ様の袂──。
元フォルデノ王国の玉座へ勢いそのまま出向き最大の障壁、No4の女魔導士フォウ・クワットロを消しに行きたい衝動に駆られた。
「調子乗ってんじゃァねぇぞこのクソ餓鬼ィッ!」
ザラレノが偽りのかまいたちを扱い反らした銃弾は、No5も射程に捉えていた。
ティン・クェンは、動体視力に全振りした異能を以て弾の軌道が見えていた。
されど銃撃を好きに泳がせられる化物へ昇華遂げたザラレノ相手に拳と脚では荷が重いか。
No3は苦痛に顔を歪めながらも撃たれた胸元へ己の剣を突き刺す。
傷口を凍結させる止血を成した。例え負傷しようとも覚悟決めた本気の登頂を己に貸した。自身の身体から染み出た血を糧に活かせる剣士の矜持。
ズダダダダッ!
余裕を以て弾倉を変えトドメの二番煎じを総て撃ち尽くすザラレノ。勝ちを確信する甘さが生じる。
相手はいずれも多数の戦場に於いて経験値を稼ぎ出してる猛者共。せめて真空を扱う原点の音消し射撃へ戻すべきであった。
──銃弾を見るな! あの餓鬼の動きを盗め!
動体視力に優れるティン・クェン。
ザラレノが石礫をぶち当て変える弾道は無量大数の変化が在り得る。偽りの刃を打ち出す動作を確認した上でザラレノへ詰め寄る。
──音ならば見える!
一方、トレノはなんと蒼い瞳を完全に閉じた。
目から飛び込む情報に頼らず弾いた音を聴覚で見通す。トレノ程の達人なら造作もないのだ。
キンッ! キンッキンッキンッ!
銃弾が轟かす衝撃波と混ざり合う金属が叩き合う音。
ザラレノの昇り詰めた口角が憤りに歪む。
勝ちに溺れた銃撃の間隙を縫ってザラレノへ直進した重戦車ティン・クェン。味方であるトレノに対しても容赦知らず。
先程よりも遥かに多い銃弾の扱いを全てトレノに託した突貫を敢行したのだ。
負傷した血の昂ぶり、脳内麻薬に変えたトレノの濡れた剣術がザラレノの撃ち出した有りっ丈全てを見事弾き落とした。
形勢逆転──よもやな劣勢に立たされたザラレノ。大気の壁を創造する暇すらないかに思えた破滅の刻。
秒単位もかからずティンの縮地が訪れる。さっきの様に殴られたふりへ堕ちる事すら許容し難い。
「──インフィニット・アルティジオ……暗黒神よ、大海蛇の爪を以って、波壁すら斬り裂く絶望を此処に示せ──『斬り裂く爪達』!」
此処でまさかの介入者。
甲高い大人女性の詠唱術が時合を図った如く終わった。ザラレノのさらに上空から空気も地面も総て斬り裂く本物の刃。
あと一歩でザラレノの身体に密着状態から殺害の拳を放つ直前であったティン・クェンの目前を駆け抜けた大海蛇の爪。
「遊びは終わり! それとも私とも一戦交えるか!」
天上からの凛々しき一喝。長い黒髪靡かせた黒魔導の体現者。
「チィッ! BBA!」
天を見上げたザラレノ最大の屈辱。
マーダ様に恋焦がれた彼女に取って最も倒すべき仇であり救済を与えて欲しくない相手。
ヴァロウズNo4の女魔導士にしてルイス最愛の女、フォウ・クワットロが既に次の詠唱準備を始めながら云う事聞かぬナンバーズ達を嫌悪の眼光で刺した。
魔導士は詠唱時間を稼がねばならない弱点を補うべく、次の動作へ移り往く印を切り始めていた。
倭刀を収めたトレノ。No4が次に狙う術式が知れたのだ。
暗黒神最大火力の爆炎呪文──『紅色の爆炎』に相違なかった。あんなものを炸裂されては、自分達の命だけは済まないのを知っていた。
例え序列4番目でも総てを司るQuattroがこの無駄な争いの火種を吹き消した。
◇◇
マーダ配下最上位のヴァロウズ同士が本気を出し合った闘争劇。
収めたフォウよりさらに上空からコソリッと──されど全て見尽くした裏切り者。
然もその場に居合わせた訳ではない。血の通わぬ矮小なドローンが録画しながら生配信した情報。
「No3……No5……No7。そしてNo4の本気。フフッ、全て録画させていただきます」
Forteza市の格納庫──。
拾った人型兵器、EL・Galestaの改修と新たな復元を試みる傍ら。隣のモニタに映し出した同士討ちの一部始終。
ヴァロウズ元No2のドゥーウェン。金縁眼鏡を磨きながら独り悦に浸る冷笑をモニタへ投影した。




