第6話『Blonde female soldier holding keys(鍵を抱いた金髪の女戦士)』 A Part
まるで暴走機関車の様なローダ・ファルムーン。
強さ際立つ彼を止めに掛かるルシア・ロットレンの凄まじき御業。
化物じみた男が振るう片手剣を拳1本で張り合う余裕。その後も執拗にローダの剣だけを、華麗なる脚捌きと共に殴り続ける。
──な、ないで武器しかやらんのよ?
尤も過ぎるガロウの疑問符。
相手を本気で妨げる気なら、鳩尾や顎辺りといった気絶を狙える急所を即座に攻めるべき。
「──それが君に判れば三流ではないのだよ」
「ないやとッ!?」
ガロウの心を読心した上、洗い浚い台詞へ置き換えるマーダの愉悦。
驚いてばかりで何も出来ないガロウの苛立ち。よもや震駭し過ぎて驚きを表現する仕方が足らない。
──成程、これが彼の力加減……。
ルシア、剣から伝達する感触でローダの謎めいた部分を精密に計測しているらしい。それが一体何を意味するのかは不明瞭。
「ハァッ!」
一際気合の声量を高めたルシアが今度は正面に立ち、両の拳でローダの剣を挟み込む。平手の白刃取りを超越した絶技。
ガシャンッ!!
「け、剣を折った!?」
「──と、言う訳だよフフッ……」
ガロウにも得心に至れる形で結果と為りて表れる。
マーダはそんな侍風情を一笑に付すのだ。
「さあ、もう武器がないでしょ。それともまたさっきの指鉄砲に頼る気かしら?」
大きな胸を揺らし、腰に手をあて妖艶に焚き付けるルシア。赤い瞳宿したローダを完封し続ける。
「……」
ローダ、折られた剣を覗き込み暫く沈黙。男の子が大好きな玩具を無くした様な仕草。だけどこのまま泣きじゃくりで終わったりしないのだ。
「ガァァァッ!!」
ずっと人語を用いないローダが刃を喪失した柄を握り締め獣の如き咆哮。
一体何を狙っているのか? 答えは即刻現実へ転ずる。
柄から立ち昇る真っ赤な光の進撃。刃代わりの剣と成す。
「赤い輝きッ!」
「……ほぅ」
フォウ・クワットロ、先程自ら具現化させた呪文、切り裂く爪の上位互換を見せ付けられた思い。
隣で流石に少々マーダが瞠目するのだ。
──さてどうするつもりか鍵の女。何しろ実体の無い剣だからな。
ずっと興味深く金髪の女と謎の剣士の奇妙な争いを見守るマーダの赤目。
下界の民同士が戦う様へ探求心を抱く暗黒神なぞフォウは知らない。
兎も角赤い輝きだけの刃がルシアと交錯しようものなら黙って斬られる以外、在り得ない様に思える。
情け容赦無用な赤いだけの剣で早速襲い掛かるローダの狂気。
例え味方でなくとも手助けしたくなる──が手段の見当つかなくては如何にも出来ぬ。
ビュゥゥゥッ!
避けられない危機の瀬戸際であるルシアの背後から旋風舞い踊る。戦闘に見合うと思えぬ天女が如き白い服装がせわしなく揺れ動く流麗。
赤い輝きを収束したローダの刃が風帯びた焚火の様に散り往く。鍵を自称する女性の前にまたもや無力へ堕ちるのだ。
「か、風がっ!」
「ククッ……本気で楽しませてくれる。風の精霊達を極限まで周囲に集め光の刃を散らすとは」
フォウを枕に地面に肘つき呑気にも観覧しているマーダ。実の処、幾分焦りを覚え始める。もしやあの金髪独りで異端な戦士を完封するのか。
ルシアがじりじりと謎の剣士へ無言で迫り重圧を掛ける。
赤い目のローダ、周囲の目には遂に狼狽えたかと思えた。
ビュゥゥゥッ!
「──まさか!」
ローダの背後からもルシアが起こした旋風に負けない程の風が巻き起こる。風に同じ風をぶつける何とも単純なる発想。なれどそれが具現化出来得るのなら効果は絶大。
ガランッ!
「──っ?」
「何……だと」
ルシアを護りし風を打ち消す。そして再び赤一色な光で構成した剣で攻め立てる。
誰もがそう思えた矢先、ローダはただの柄に還りし剣を地面に落とす。
続けてローダ自身の躰から舞い上がる赤一色の輝き。立ち昇る炎如き煌めきが『俺自身が剣だ』無言で語り掛ける。
流石に今度ばかりはルシアが攻勢を躊躇う番、訪れる。ルシアが余りに盤石過ぎて誰にも出番が巡って来ないと思われた矢先の出来事。
──ククッ……。僕は正直安心したよ。
ズサッ……。
「マーダ、貴方一体何を!?」
「君には言わずと知れたであろう。今だけ僕達と共闘しようじゃないか、彼を止めたいのだろ? ──違うかい?」
ルシアの背後へ勝手にもマーダが入る。
驚くルシアを他所にまるで賢者を演ずるのだ。加えて何時の間にやら得物が変化している。柄迄赤い歪なる大剣。一体何処からもたらしたのか。
「私に取っては貴方も止めなきゃならない相手なんですけどぉ?」
「勿論だよ。だけど僕は彼と語らう権利が在る。鍵である君は理解してる筈じゃないか」
赤い歪なる両手剣──通称『紅色の蜃気楼』
古なる大戦の折、マーダが敵毎奪い取った剣を今こそ解き放つ刻来たる。