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鍵の夢の話


    1


 大鷲の話を聞いた日の晩、ウサギは奇妙な夢を見た。夢ではウサギが絵描きを目指していた。ウサギはいつも通り作業場に入ろうとするのだが、その日に限って入れなかった。いつの間にか入口のドアに錠が設置されていた。昨日までは存在しなかったものだ。ウサギは気づかずにドアノブに手をかけたが、ドアノブを回そうとしても回らなかった。手元に目をやると、ドアノブの下に鍵穴があった。ウサギはあたりを見回し、鍵の山を発見した。山の高さは二メートルにもなり、うずたかく積まれた大小さまざまな鍵のどれもが、他の全ての鍵と異なっていた。

 ウサギは鍵を一本ずつ試すことにした。それしか方法はない。抜け道を探すことはしなかった。それでは意味がないのだ。ひとまず、ウサギは山から鍵をひとつ取った。鍵穴に当ててみると、太すぎてまったく入らなかった。当たりの鍵ではないのだろう。鍵の山とは反対側に放り投げた。2つ目の鍵も同様に、太すぎて入らなかった。また放り投げた。3つ目の鍵は違った。鍵穴に当ててみると、するする入っていった。期待を込めてまわしてみる。が、何も起きない。抵抗を感じない。鍵を抜いた。鍵と鍵穴をよく見比べてみると、どうやら細すぎるらしい。これも放り投げた。

 鍵山から鍵をとる、当たりの鍵ではないことを確認する、放り投げる。ウサギは一連の作業を黙々と続けた。確認済みの鍵は次第に山のようになっていった。ほとんどの鍵は太すぎるか細すぎて見込みがなかった。たまにそれらしい形と大きさの鍵を見つけると、期待を裏切られた。作業は何日も続いた。ウサギは一日に数え切れない鍵を試したが、確認待ちの鍵が多すぎて、山の高さは前の日からほとんど変わらない様に感じられた。次第にウサギは当たりの鍵の存在に疑いを持ち始めた。しかし途中で止めると、それまでの労力が無駄になってしまう。作業を続けるしかなかった。そして作業が始まって一ヶ月ほど経った頃、ウサギはついに最後の一本を手にした。

 鍵を持ったウサギの手はどうしようもなく震えていた。何せこの鍵にはウサギの費やした一ヶ月がかかっている。ウサギは胸がいっぱいになったが、いつまでも試さないわけにはいかなかったので、鍵穴に鍵を差し込んだ。大きさも形もかなり期待できる鍵だった。終わりが見えてきた頃からわざと見込みのない方から試していったからだった。鍵は良い感じに鍵穴に収まっている。鍵に力をかけてみる。しかし残念なことに、鍵は回らなかった。ウサギは一ヶ月間かけて鍵の山をドアの右側から左側へ3メートルほど動かしただけだった。

 ウサギは困り果てた。疲れ果ててしまった。これまでの作業が完全に徒労に終わってしまったことで、いままで押さえ込まれていた疲労感がどっと来た。ドアのことなどもうどうでも良かった。ウサギはただ休みたかった。そこで自分が作った確認済みの鍵の山を眺めるのをやめて、しばらく眠った。


    2


 ウサギは目が覚めた時には結論を出していた。自分で鍵を作れば良かったのだ。鍵を作る機械は当然のようにそこにあった。その機械には取り出し口があった。ボタンは一切なく、本体からケーブルが伸びていて、先にヘルメットのようなものがついていた。プレートが打ち付けてあり、『一人につき一個』という注意書きがあった。

 ウサギはヘルメットをかぶった。どんな鍵を作ろうかウサギは迷った。結局のところ、あの鍵穴に合う鍵がどんな形をしているのかウサギは知らなかったのだ。ウサギはいままで見てきた惜しかった鍵のことを思い出した。惜しくなかった鍵のことも思い出した。みんな思い思いの頭部と似たり寄ったりなブレード部を持っていた。すると機械が突然ガソリンエンジンのような音を上げ始めた。ウサギは焦って止めようとした。まだちゃんとしたイメージが出来ていなかったのだ。しかし止め方がわからない。ウサギはヘルメットを脱いでみたが、もう手遅れのようだった。

 「おい、止まれ、止まれって言っているだろ、このポンコツ!」

ウサギはそう怒鳴って機械をたたいた。機械の方はおかまいなしで、今度は金属を削るような音を出し始めた。加工が始まったのだ。ウサギは床にへたり込んでしまった。いまやエンジン音と切削音がやかましく部屋中に轟いていた。いまにも爆発しそうだった。ウサギはただ見つめているしかなかった。3分ほど経った頃だろうか、切削音が止み、次いでエンジンが回転数を下げ始めた。カランと音を立てて取り出し口に鍵がでてきた。

 ウサギは素早くそれをつかみ取ってドアの前に立った。いますぐに終わらせたかった。ウサギは鍵穴に鍵を当てた。結果はわかりきっていた。ウサギの鍵は太すぎて鍵穴に入りもしなかった。

「結局これはドアなんかじゃなくて、ただの壁だ。」

ウサギは確認済みの鍵の山に新たな一本の鍵を投げつけた。鍵同士がぶつかるとき軽い金属音がした。ウサギの鍵は思いのほか鍵の山になじんでいた。

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