↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/10

5.ダンス攻防戦

(助かった……)


それが正直な感想。

コイツがいてくれて、本当に助かった。

わたしの隣、わたしの腕を自身の腕に載せて立つ、義兄(あに)。


――ノエル・ストルーエンでございます。


わたしたちの登場を、さも珍しい獣のように、一目見ようと集まってくる人たち。

その人たちに、わたしは最初こそ名乗ったりしたけれど、その後の会話はすべて、この義兄(あに)が請け負ってくれている。

喋るの、苦手ではないんだけど、根掘り葉掘り色々訊かれると、どう答えるのが正解なのかわからなくて戸惑う。

その点、コイツがいてくれて助かった。


――義妹(いもうと)は、体が弱く、長く療養に出ておりまして。


訳)誘拐されて、下町で暮らしてまして。


――丈夫になって、こちらに戻ってきたものの、父が溺愛して、手放さなかったのです。


訳)発見されて戻ってきたものの、教養とかなかったから、家に留め置かれました。


――これからは、仲良くしてやってくださると幸いです。


訳)これからは、わたしの夫候補を見つけさせていただきます。


そんな訳を心の中で呟いてみたり。

緊張してるけど、そんなこと考えるだけの余裕がある。


(まあ、便利っちゃあ便利ね、この男)


にこやかに、良き兄を続ける男。

まあ、病弱とか療養とか。かなり捏造された過去を話してるけど。


――こんなにお可愛らしい令嬢なら、ストルーエン伯爵が手放したがらないのも納得ですな。


そんなふうに褒められたら、「フフン」って気分になる。


――お可愛らしい。

――亡きお母上によく似ていらっしゃる。


お母さまに似てるかどうかは、自分で実感ないけど。お母さまを知ってる人がそういうのなら、わたしはお母さま似なんだろう。

悪い気はしない。


――それで、アナタをエスコート役につけたのですな。


ん?


――兄君がごいっしょなら、令嬢に悪い虫はつきませんからな。


いやいや、待て待て。

悪い虫は勘弁だけど、夫候補には来てほしいんだって。


――いやいや、伯爵の溺愛ぶりがよくわかるようですな。ハッハッハ。


そういう意味で、コイツを呼び寄せたの? お父さまっ!

結婚相手を探すために舞踏会に参加させたのに。やっぱりノエルに男を近づけさせたくない! ってお思いになったの?


「踊るよ。ノエル」


一通りの挨拶というか、お喋りが終わって。

義兄(あに)が、わたしの手を取り直して言った。


「え? ちょっ、ダンスっ!?」


攫われるように、広間の真ん中に躍り出て慌てる。

わたしが? アンタと? ダンスっ!?


「最初の一曲は、同伴者と踊る。それがマナーだ」


あ、そうなんだ。


「まさか、踊れない……わけじゃないよな」


ムギ。


「踊れます!」


失礼な奴だな。

舞踏会のマナー云々は知らなかったけど、ダンスはちゃんと学んでます!


「それなら、問題ないか」


ふへ?


(って、ちょっとアンタ、どこ触ってるのよ!)


ダンスなんだから、それも男女一組になって踊るダンスなんだからっ!

わかっているけど、腰っ! 腰に手を当てないでよ!


「ほら、僕の肩に手を置いて」


ふぎゃああっ!


動けずにいたわたしの左手を、自分の肩に置かせて。右手も、シッカリ持たれてしまった。

自然と体が密着する。

ドレスがあっても、夜会服があっても。

布越しであっても義兄(あに)の熱が、香りがわたしに伝わる。

ダンスの練習はいっぱいした。

ダンス講師と踊ることもあったし、お父さま相手に踊ったこともあった。けど。


「――いくよ」


短い言葉と同時に動き出した義兄(あに)。

奏でられる音楽に合わせて。

同じように踊る人達の間をすり抜けるように。滑るように。軽やかに。

――とっても華麗に。

回る体。

わずかに遅れて、広がりついてくるドレスのスカート。

右へ左へ。

それは大輪の花が咲くようでもあり、周囲から感嘆の声が上がる。


(コイツ、こんなに踊れるんだ)


ダンス教師も真っ青なぐらい、巧みな足さばき。

音楽にもピッタリで。コイツが踊るために音楽が奏でられてるんじゃないかってぐらい。

そして。


「顔、上げて」


俯いたら、短く指摘された。


「足なら、踏んでも構わないから」


いや、ステップが気になってとか、そういうので俯いたわけじゃないの!

身長の差から、義兄(あに)の喉元を見る形になったわたし。

踊るたび、動くたび。

かかる吐息というか。降りてくる眼差しというか。軽く上下する喉骨というか。

そういうのに目が行くのが嫌で、俯いただけですけど!

踊ってるからか、動いてるからか。胸がものすごくドキドキしてくるし!


(いいわよ。こうなったら!)


アンタの望み通り顔、上げてやるわよ!

ギッ!

ほら、視線、アンタに合わせてやるわよ! ――って。


フッ。


睨みつけてやったのに。

視線でケンカをふっかけてやったのに。

なぜか、笑みを浮かべた義兄(あに)。

柔らかく、優しく、温かくて。

動きすぎてドキドキしてる胸が、なぜかキューッと苦しくなった。

……この勝負、わたしの負けかも。


          *


一曲目が終わると、わたしと義兄(あに)は拍手で迎えられた。


――素晴らしい。

――さすが、ストルーエン伯爵家のご子息、ご令嬢ですな。

――かつての伯爵たちのお姿を思い出しましたわ。


よかった。

とりあえず。

わたしのダンスは、お父さまたちの評判を落とすようなものではなかったらしい。ダンスを、家族以外に見せるのは初めてだから、その称賛はとてもうれしかった。

そして。


――次は、私と踊ってくださいませんか、レディ。

――いや、次はこの僕と。


わたしとのダンスを求める紳士たち。

若いのも年よりのもいるけど、とりあえず、そうやって申し込まれて悪い気はしない。


「いいよ、踊っておいで」


二曲目は自由らしく、わたしを紳士たちの輪に送り出した義兄(あに)。

優しい?

いや。


(あれは、自分が令嬢と踊りたいからよね)


わたし以上に、たくさんの取り巻きに囲まれた義兄(あに)。

一曲だけ踊って、義妹(いもうと)への責務は果たした。お父さまへの義理も果たした。

後は自由に。自分も好きに令嬢と踊るから。

だから、厄介な義妹(いもうと)を、「踊っておいで」と送り出した。

そういうことだ。

優しさとか、寛容とか。そういうものとは無縁な魂胆。


(ま、どうでもいいわよ)


わたしも好きにするから、そっちも好きにしたら?

それならそれで、当初の目標、「未来の旦那様探し」をさせてもらうだけですから!

適当に。よさそうな紳士を見つけて。

いざいざゆかん! 見定めワルツ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。