第60話 女王の悪巧み
虎たちは宿に着いた。しかしそこにはまさかの光景があった。
「これは一体どういう事でしょうか!?」
「なんだこれ!?」
「どういうこと?」
なんと部屋の前に豹たち3人の荷物が置かれ、【ありがとうございました】という張り紙がされていた。
「おい、これはどういうことだ!おっさん、これなんだよ!」
虎は宿屋の店主に問いかけた。
「何って、どういう事だい?あんた達今日でこの宿出るんだろ?なんか書状を持ったお兄さんが来て、後で取りに来るからここに出しといてくれって話だったからここに出したんだよ?」
豹たちは意味がわからなかった。宿屋の店主に詳しく話を聞き、書状を持ってきた人物が女王から手紙を受け取っていた人物で間違いなさそうだった。
「おい、どういう事だ?宿屋の代金を全部払うって話じゃなかったのか?」
「はい、確かにそう言っていました」
するとその話を聞いていた宿屋の店主が
「宿代なら、十分過ぎるほどもらったよ?あんた達があと20泊はしてもお釣りがくるくらいにね」
と言った。豹たちは余計に混乱した。すると外に馬車が数台止まった音がした。豹たちが表に出ると女王の家臣たちが降りてきた。
「おや皆様、ちょうど良いところに、さあ、荷物を持ってこちらにお乗りください」
「いやいやいやいや、どーゆー事だよ?」
「嫌な予感がしますね」
「豹も?僕も、そんな気が、する」
状況が把握できないまま、荷物を馬車に乗せ、自分たちも馬車に乗り込み、言われるがままに待っていると、馬車が停まった。
「到着いたしました」
家臣が扉を開けると、目の前には王城があった。豹たちは荷物を持って馬車を降りた。
「えっとー、これは?」
虎が家臣に問いかけると、家臣はニコッと笑って答えた。
「はい、こちら本日より皆様にお泊まりいただく宿、王城でございます」
豹たちは思わず荷物を落としてしまった。
「本日より指名依頼が終わるまでの期間、こちらの宿、王城に泊まっていただきます。そうすることによって朝から晩までカイル様につきっきりでご指導していただけるであろうということでございます。なお、宿のみならず、3食しっかりと準備させて頂きますので、ご安心をとこちらの文書に書かれております」
虎は説明が終わった途端に家臣の胸ぐらを掴んだ。
「これはダメだって、ここ、王城だぞ?さっきまですこーし揉めていた場所だぞ?そんな場所で俺らは寝泊まりするのか?」
「はい、虎様からの希望報酬が宿代と食事代ということだったのですが、それだけでは虎様たちの手元に残る物がないという女王様の悩みを、宿代と食事代はしっかりと報酬としてお支払いする。王城に泊まることで宿代と食事代がかからず、その金額がそのまま皆さまの懐に入るだろうというトルネ様の妙案でございます。ちなみにお聞きしたかもしれませんが、先ほどの宿にも同額以上のお金を渡してありますので、双方納得した状態での移動となっている。とこちらの書面に書いております」
「そーゆーことじゃねーだろー」
虎は愕然としていた。
「と、最後に虎様の反応を見てからお伝えしろと言われている部分がございます」
「なんだよ」
家臣はゴホンと咳払いをして読み始めた。
「虎よ、貴様からの願いであった報酬の話はどこの宿でどんな食事かの指定がなかった。つまりこちらが決めても良いということだな?では、私の権限で、城の一室をお前たちが使えるようにしてやろう。それならば宿代がお前たちの報酬とすることができる。そして食事も我々と共に食べるといい。これで食事代もお前たちの報酬だな。なんと良い案を思いついたんだろうな、うちの主人は。はあ、素晴らしい。虎からの希望の報酬であるし、指名依頼はもう受理されておるから拒否権はないぞ。楽しみにしているぞ。虎の希望を叶えることができて満足だ。ははは。エリザ…以上です」
「あんのやろー!」
豹と鷹はくすくす笑っていた。
「これは一本取られましたね」
「やられたねぇ」
呑気な2人に虎が詰め寄った。
「お前ら状況わかってるか?特に鷹、お前が1番たいへんなんじゃねーのか?」
「なんで?」
「お前、王城に宿泊だぞ?24時間、初対面の人間がそこら中にいるってことだぞ?訳もわからず話しかけられるかもしれないんだぞ?大丈夫なのか?」
「………え、無理」
「そーだろ?」
「鷹は大変かもしれませんね」
虎は豹の発言にため息をついた。
「豹、お前も大変だろ」
「なぜです?」
「お前、王城だぞ?全員が女王に賛同している訳じゃないだろ?つまり俺らを反女王派に取り込もうとかする輩もいるだろ。そんでこの3人のリーダーは誰だ?豹だろ?つまりそういう輩が接触してくるとしたら豹だ。24時間所構わずそんな奴らが来てみろ。そういう意図じゃない人たちまで疑いの目で見ちまうだろ?カイルが俺の態度に好感を持ってくれたのも、そういう人間が少なからずいて、気持ち的にしんどかったからだろ?豹はしんどくないのか?」
「吐き気がしますね…」
「つまり、俺よりもお前らの方が大変ってことだ。何呑気なこと言ってるんだよ。今更断れねーしよー。はぁ」
3人の空気は一瞬で暗い雰囲気となった。もう断ることもできないため、行くしかなかったが、気が重かった。
「では、行きましょうか」
家臣の案内で再び女王の前へ。女王はニヤニヤして迎え入れた。
「おやおや、黒豹の3人ではないか。早いお戻りだったな。さて、お前たちの部屋へ案内させよう。そのものに付いて行け」
家臣に渋々付いて行く3人。翌日からカイルの特訓に加え、話を聞きつけた騎士団長アルベルトが騎士団員も参加させ、結局王城内の希望者全員が黒豹の3人が指導を受けることになった。そして豹は予想通り、変な輩が近寄ってきて、その度に女王かトルネに報告するという毎日。鷹は毎日王城内の人たちから挨拶をされ、その度にビクッとなり、自分も相手も驚く始末。徐々に慣れてきた相手もいたが、ごく僅かだった。結局2人は毎日気疲れが酷かった。
話は現在に戻る
「と、まあ大まかにお話しするとそんな感じです」
「虎さん良く生きてましたね」
ミヤは苦笑いしながら虎の方を向いた。虎はしっかりと目を逸らしていた。
「で、そっからカイル様やアルベルトさんたちと訓練をしていたんですね」
「はい、約2ヶ月ほどでしたかね。戦闘訓練に加えて野営についてなど、冒険者として経験してきた事を私に教えてくれました。今の私があるのは皆さんのおかげです」
食事をしながらカイルの話を聞いていたミヤは食事の手が止まるほどのめり込んでいた。
「なので皆さんがワーク王国に戻る日は涙が出そうでした」
「慕われてますねぇ、みなさん」
豹たちは少し照れていた。ミヤは豹たちの昔話を聞けて喜んでいた。
「皆さんのこと聞けてすごく嬉しいです。さ、食べましょ」
明日から2日間カイルたちとの特訓が始まるから、しっかり食べて、たくさん動けるように準備していた。全員で談笑しながら食事を終え、それぞれの部屋へ帰っていった。ミヤは豹たちの昔の話を思い出しながら、いい人達とパーティーを組むことができてよかったと改めて思った。




